2012/04/29(日) - 06:51
山に囲まれたローヌ谷を、ビュンビュンと強い風が吹き抜ける。標高1400mオーバーの1級山岳を3つ含むツール・ド・ロマンディの正真正銘クイーンステージは、風によってさらにその難易度を上げた。全日本チャンピオンジャージ着用最終日の別府史之(グリーンエッジ)は調子を掴んだ様子だ。
3つの難関山岳と、強風が駆け抜ける渓谷
ツール・ド・ロマンディ最終日前日、4月28日、第4ステージ。
この日はビュルをスタートし、標高1452mの1級山岳モス峠を越えてローヌ谷に抜ける。切り立った山々に両サイドを囲まれた渓谷を一路南下し、標高1473mの1級山岳ヴェゾナと標高1423mの1級山岳サンマルタンを越えてシオンにゴールする。
この日の獲得標高差は2400mオーバー。全長184kmのコースはまさに山あり谷ありで、しかもその「谷」には真向かいから風が吹き付ける。気温25度を超える大会一番の陽気に包まれたものの、全く休み所のないタフなステージとなった。
レース序盤、頂上にたっぷりと雪を残す1級山岳モス峠に向かって、地元出身のヨハン・チョップ(スイス、BMCレーシングチーム)を含む6人が飛び出す。Bboxブイグテレコム時代の2010年ジロ・デ・イタリアで、ガヴィア峠を含むクイーンステージを制しているチョップが積極的に逃げを率いた。
この日も集団コントロールを受け持ったのはチームスカイのアシストたち。前半から集団先頭に立ってウィギンズをサポートしたジェレイント・トーマス(イギリス)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は、予定通り、後半の山場を前にバイクを降りている。
時折突風のような強風が吹き抜けるローヌ谷を駆け抜け、選手たちは後半の山岳地帯へと入っていく。1級山岳ヴェゾナと1級山岳サンマルタンは、いずれも氷河が削り取ったローヌ谷を見下ろす切り立った山肌にある。
谷底から標高差1000mを駆け上がる急勾配の登りで、逃げグループのリードは見る見る削り取られていく。
メイン集団からは単発的にアタックが繰り返されるが、チームスカイの番人マイケル・ロジャース(オーストラリア)とリッチー・ポルト(オーストラリア)が落ち着いてペースを刻み、ウィギンズを援護。決定的なアタックが生まれないまま、最後の1級山岳サンマルタンに差し掛かった。
最終日までもつれる混沌とした総合争い
1級山岳サンマルタンの登りでチョップらの逃げはついに吸収。総合逆転を狙うロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)やサイモン・スピラック(スロベニア、カチューシャ)のアタックも吸収され、ゴール地点シオンに向かうテクニカルなダウンヒルに突入する。
一時的にリーダージャージのウィギンズを含むグループが先行するも、ゴールの街に差し掛かる頃には、先頭集団は37人に。登り勾配のゴールスプリントバトルで、他を置き去りにするほどの加速を見せたルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)が先着した。
ウィギンズはロジャースやポルトとともに先頭集団でゴール。しかし、ステージ2連勝を飾り、ボーナスタイム10秒を獲得したLLサンチェスにリーダージャージは移った。
第4ステージまでを終え、総合首位LLサンチェスと総合2位ウィギンズのタイム差は9秒。しかも、30秒以内に総合24位までの選手がひしめいている。混沌とした総合争いは、最終第5ステージの山岳個人タイムトライアルで決する。
最終個人タイムトライアルは、本格的な山岳を含む起伏に富んだ16.24kmで行なわれる。レース中盤に登場する1級山岳アミノナは、登坂距離4.4kmで標高差410m。単純計算で平均勾配は9.3%に達する。
総合を守る立場となったLLサンチェスは、レース後の会見で「明日コースをチェックしてみるけど、登りは急勾配だと聞いている。ロードバイクで走ることも考えている。とにかく、かなり難題だ。現状、間違いなくウィギンズが総合優勝候補。でも総合を守ることが不可能だとは思っていない」とコメントする。
ラボバンクはLLサンチェスの他にもバウク・モレマ(オランダ)、スタフ・クレメント(オランダ)、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)を総合トップ10に送り込んでいる。最終走者のゴールまで総合優勝の行方が分からないような、手に汗握る僅差の闘いに持ち込まれそうだ。
全日本チャンピオンジャージ最終日を迎えた別府史之
最後から2つ目の1級山岳ヴェゾナでメイン集団から遅れた別府史之は、14分46秒遅れの第2集団内でシオンにゴールした。
ゴール後、別府は晴れやかな笑顔を浮かべる。難関山岳ステージを走り終えた達成感ではなく、ジロ・デ・イタリアを前に調子が上向きであることを確認出来た安堵感から出る笑顔。「先頭集団からは遅れてしまったけど、良い感触でレースを終えることが出来た。疲労もなく、フレッシュな状態でジロに望めそうです」。
最終日の個人タイムトライアルで、別府は全日本TTチャンピオンジャージを着る。しかし全日本チャンピオンジャージを着てロードレースに出場するのは、この第4ステージが最後となる。
「全日本チャンピオンジャージを着て走った10ヶ月間には満足しています。でもやっぱり、このジャージを着てステージ優勝したかった。ジロではチームジャージを着ることになるけど、引き続きステージ優勝を目指していきます」。
最後に、日曜日に開催される全日本選手権ロードレースについて。「例年より距離の長い全日本選手権。コンディションの良い選手が勝つと思うし、そうあって欲しいと願っています」。
レースの模様はフォトギャラリーにて!
ツール・ド・ロマンディ2012第4ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) 4h56'13"
2位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、アージェードゥーゼル)
3位 ブラニスラウ・サモイラウ(ベラルーシ、モビスター)
4位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)
5位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)
6位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
7位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)
8位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
9位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)
10位 ファブリス・ジャンデボス(フランス、ソール・ソジャサン)
75位 別府史之(日本、グリーンエッジ) +14'46"
個人総合成績
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) 17h36'35"
2位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) +09"
3位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ) +16"
4位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +18"
5位 スタフ・クレメント(オランダ、ラボバンク)
6位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ) +20"
7位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)
8位 サイモン・スピラック(スロベニア、カチューシャ) +21"
9位 ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) +22"
10位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック・ニッサン)
98位 別府史之(日本、グリーンエッジ) +25'10"
スプリント賞
ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)
山岳賞
ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)
新人賞
アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)
チーム総合成績
チームスカイ
text&photo:Kei Tsuji in Sion, Switzerland
3つの難関山岳と、強風が駆け抜ける渓谷
ツール・ド・ロマンディ最終日前日、4月28日、第4ステージ。
この日はビュルをスタートし、標高1452mの1級山岳モス峠を越えてローヌ谷に抜ける。切り立った山々に両サイドを囲まれた渓谷を一路南下し、標高1473mの1級山岳ヴェゾナと標高1423mの1級山岳サンマルタンを越えてシオンにゴールする。
この日の獲得標高差は2400mオーバー。全長184kmのコースはまさに山あり谷ありで、しかもその「谷」には真向かいから風が吹き付ける。気温25度を超える大会一番の陽気に包まれたものの、全く休み所のないタフなステージとなった。
レース序盤、頂上にたっぷりと雪を残す1級山岳モス峠に向かって、地元出身のヨハン・チョップ(スイス、BMCレーシングチーム)を含む6人が飛び出す。Bboxブイグテレコム時代の2010年ジロ・デ・イタリアで、ガヴィア峠を含むクイーンステージを制しているチョップが積極的に逃げを率いた。
この日も集団コントロールを受け持ったのはチームスカイのアシストたち。前半から集団先頭に立ってウィギンズをサポートしたジェレイント・トーマス(イギリス)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は、予定通り、後半の山場を前にバイクを降りている。
時折突風のような強風が吹き抜けるローヌ谷を駆け抜け、選手たちは後半の山岳地帯へと入っていく。1級山岳ヴェゾナと1級山岳サンマルタンは、いずれも氷河が削り取ったローヌ谷を見下ろす切り立った山肌にある。
谷底から標高差1000mを駆け上がる急勾配の登りで、逃げグループのリードは見る見る削り取られていく。
メイン集団からは単発的にアタックが繰り返されるが、チームスカイの番人マイケル・ロジャース(オーストラリア)とリッチー・ポルト(オーストラリア)が落ち着いてペースを刻み、ウィギンズを援護。決定的なアタックが生まれないまま、最後の1級山岳サンマルタンに差し掛かった。
最終日までもつれる混沌とした総合争い
1級山岳サンマルタンの登りでチョップらの逃げはついに吸収。総合逆転を狙うロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)やサイモン・スピラック(スロベニア、カチューシャ)のアタックも吸収され、ゴール地点シオンに向かうテクニカルなダウンヒルに突入する。
一時的にリーダージャージのウィギンズを含むグループが先行するも、ゴールの街に差し掛かる頃には、先頭集団は37人に。登り勾配のゴールスプリントバトルで、他を置き去りにするほどの加速を見せたルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)が先着した。
ウィギンズはロジャースやポルトとともに先頭集団でゴール。しかし、ステージ2連勝を飾り、ボーナスタイム10秒を獲得したLLサンチェスにリーダージャージは移った。
第4ステージまでを終え、総合首位LLサンチェスと総合2位ウィギンズのタイム差は9秒。しかも、30秒以内に総合24位までの選手がひしめいている。混沌とした総合争いは、最終第5ステージの山岳個人タイムトライアルで決する。
最終個人タイムトライアルは、本格的な山岳を含む起伏に富んだ16.24kmで行なわれる。レース中盤に登場する1級山岳アミノナは、登坂距離4.4kmで標高差410m。単純計算で平均勾配は9.3%に達する。
総合を守る立場となったLLサンチェスは、レース後の会見で「明日コースをチェックしてみるけど、登りは急勾配だと聞いている。ロードバイクで走ることも考えている。とにかく、かなり難題だ。現状、間違いなくウィギンズが総合優勝候補。でも総合を守ることが不可能だとは思っていない」とコメントする。
ラボバンクはLLサンチェスの他にもバウク・モレマ(オランダ)、スタフ・クレメント(オランダ)、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)を総合トップ10に送り込んでいる。最終走者のゴールまで総合優勝の行方が分からないような、手に汗握る僅差の闘いに持ち込まれそうだ。
全日本チャンピオンジャージ最終日を迎えた別府史之
最後から2つ目の1級山岳ヴェゾナでメイン集団から遅れた別府史之は、14分46秒遅れの第2集団内でシオンにゴールした。
ゴール後、別府は晴れやかな笑顔を浮かべる。難関山岳ステージを走り終えた達成感ではなく、ジロ・デ・イタリアを前に調子が上向きであることを確認出来た安堵感から出る笑顔。「先頭集団からは遅れてしまったけど、良い感触でレースを終えることが出来た。疲労もなく、フレッシュな状態でジロに望めそうです」。
最終日の個人タイムトライアルで、別府は全日本TTチャンピオンジャージを着る。しかし全日本チャンピオンジャージを着てロードレースに出場するのは、この第4ステージが最後となる。
「全日本チャンピオンジャージを着て走った10ヶ月間には満足しています。でもやっぱり、このジャージを着てステージ優勝したかった。ジロではチームジャージを着ることになるけど、引き続きステージ優勝を目指していきます」。
最後に、日曜日に開催される全日本選手権ロードレースについて。「例年より距離の長い全日本選手権。コンディションの良い選手が勝つと思うし、そうあって欲しいと願っています」。
レースの模様はフォトギャラリーにて!
ツール・ド・ロマンディ2012第4ステージ結果
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) 4h56'13"
2位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、アージェードゥーゼル)
3位 ブラニスラウ・サモイラウ(ベラルーシ、モビスター)
4位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)
5位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)
6位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
7位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)
8位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
9位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)
10位 ファブリス・ジャンデボス(フランス、ソール・ソジャサン)
75位 別府史之(日本、グリーンエッジ) +14'46"
個人総合成績
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク) 17h36'35"
2位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) +09"
3位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ) +16"
4位 バウク・モレマ(オランダ、ラボバンク) +18"
5位 スタフ・クレメント(オランダ、ラボバンク)
6位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ) +20"
7位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ラボバンク)
8位 サイモン・スピラック(スロベニア、カチューシャ) +21"
9位 ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) +22"
10位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック・ニッサン)
98位 別府史之(日本、グリーンエッジ) +25'10"
スプリント賞
ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)
山岳賞
ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)
新人賞
アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)
チーム総合成績
チームスカイ
text&photo:Kei Tsuji in Sion, Switzerland
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