2012/04/09(月) - 13:34
2012年4月8日、パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)に王者が君臨した。過去に3度優勝し、今年E3プライス、ヘント〜ウェベルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレンを制しているトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)が、53kmを独走。王者の風格溢れる走りで、4度目の優勝を果たした。
「このレースで勝つことや、記録を作ることを考えながら走っていたわけじゃない。1ペダリング、1セクター、1kmを闘いながら走った。50kmという距離を逃げようなんて、不可能に思うかも知れない。確かに少しクレイジーだったし、実際、生半可なことじゃなかった」。クラシックの女王で、史上最多タイの4勝目をマークしたボーネンは話す。
絶好調ボーネンの大会制覇に注目が集まる中、10時18分、第110回パリ〜ルーベはコンピエーニュをスタートした。レース最初の1時間の平均スピードが48.4km/hをマークするハイペースな展開の中、67km地点でようやく逃げが決まる。
過去にパリ〜ルーベのU23レースで優勝しているヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック・ニッサン)を含む12名による逃げ。しかし、257kmという長丁場にもかかわらず、タイム差は5分以内に抑え込まれた。
レースが本格的に動き始めたのは、ゴールまで85kmを残した難易度5つ星アランベールの石畳。森を一直線に貫くこの悪路で、落車によって逃げグループは8名に絞られ、一方のメイン集団もオメガファーマ・クイックステップのペースアップによって人数を減らす。
アランベールを抜けると、優勝候補の一角であるフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)やアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)がメイン集団を抜け出して追走グループを形成する。
オメガファーマ・クイックステップが率いるメイン集団は迅速にこの危険な動きを封じ込め、そのままの勢いで先頭の逃げグループも吸収する。ゴールまで65kmを残してレースが一旦リセットされると、続けざまにシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)がアタックを仕掛けて揺さぶりをかける。
不安定な状態が続く中、ゴールまで57kmを残してついに本命が動く。難易度3つ星のオルシでメイン集団からボーネンとフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)が飛び出し、先に飛び出していたセバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)をキャッチ。これにニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)が加わる。
この強力な5人の中から、ボーネンとテルプストラの2人がアタックを仕掛けて先行。続く難易度3つ星のオシー・レ・オルシで、前を献身的に牽いていたテルプストラが脱落すると、ゴールまで53〜54kmを残して、ボーネンの独走が始まった。
この時の状況をボーネンは「自分らしい勝ち方ではないけど、今日はリスクを負うべき一日だった。作戦通りではなく、ニキ(テルプストラ)と先行したとき、すでにロンドで勝っているし、このルーベを特別な方法で勝ってみたいと思った」と振り返る。
難易度5つ星モンサン・ぺヴェルを先頭で駆け抜け、すぐさま後続のメイン集団を30秒引き離したボーネン。「風がずっと強かったけど、タイム差が30秒まで広がった時、後ろのみんなも同様に苦しんでいるんだと分かった」。
ボーネンの後方では、約15名がメイン集団を形成。メンバーを揃えるチームスカイ(フレチャ、ボアッソンハーゲン、スタナード、ヘイマン)が積極的にメイン集団を牽くが、先頭ボーネンとのタイム差は広がるばかり。ポッツァートは落車によってメイン集団からも遅れてしまう。
最後の難所である難易度5つ星のカルフール・ド・ラルブルで、メイン集団からラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)が飛び出し、バッランとフレチャが合流する。
ボーム、バッラン、フレチャの3名はローテーションを回すも、ボーネンのリードを崩せない。ボーネンは「タイム差が1分まで広がったとき、ルーベまで逃げ切れるという思いは確信に変わった」と話す。
時折苦しい表情を見せながらも、力強いペダリングでパヴェを突き進んだボーネン。フランスレースにもかかわらず、フランドルの旗が占拠するコースで、ボーネンが最後まで踏み続けた。
最終的に後続を1分30秒引き離し、ボーネンがルーベのヴェロドロームに登場。4度目の優勝を示す4本指を立てて、ヴェロドロームのゴールラインに飛び込んだ。
今年UCIワールドツアーに昇格したE3プライス・フラーンデレンで自身5度目の優勝を飾り、ヘント〜ウェベルヘムで3度目の優勝、ロンド・ファン・フラーンデレンで3度目の優勝を果たしたボーネンが、2005年、2008年、2009年に続くパリ〜ルーベ4勝目。
ボーネンはロジェ・デフラミンク(ベルギー)がもつ史上最多4勝目に並んだ。なお、E3、ヘント〜ウェベルヘム、ロンド、ルーベの4タテ(4連勝)は史上初の快挙。
歴史にその名を刻んだボーネンは「記録更新を狙っていたわけじゃない。このクラシック週間にトップコンディションで挑めるよう、調整に集中していただけ。終わってみて初めて、ロンドとルーベ連勝を2度果たした史上初めての選手であることに気がついたんだ。石畳のレースでは、自分が最強であると感じる」と打ち明ける。
「でもまだキャリアは終わっていない。あと数シーズンはトップレベルで闘えると思う。プロ11年間は浮き沈みの連続だったけど、今はロードバイクを愛して止まない。年を重ねる毎に、その気持ちは大きくなっている」。数年のブランクを経て、フランドルの獅子が完全復活を遂げた。
一方、ボーネンから約1分30秒遅れてバッラン、フレチャ、ボームがヴェロドロームに到着。ゴールスプリントに向けて牽制に入る3人にテルプストラとテュルゴーが合流する。激しい2位争いのゴールスプリントは、僅差でテュルゴーの手に落ちた。
地元フランス人選手の表彰台獲得は実に15年ぶり。テュルゴーは「トラックレースの経験が、ゴール勝負で役に立った。いつでも勝ちたいと夢見ているけど、今日のボーネンはただただ強かった。為す術が無かった」と振り返る。
また、1997年大会の覇者で、最後のフランス人優勝者であるフレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)は、1月のツアー・ダウンアンダーで左股関節を負いながら、現役引退レースとしてルーベに出場。ゴールに辿り着いたものの、タイムオーバーで完走を逃している。
選手コメントはレース公式サイトより。
パリ〜ルーベ2012
1位 トム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ) 5h55'19"
2位 セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー) +1'39"
3位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)
4位 フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)
5位 ニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)
6位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) +1'43"
7位 マッテーオ・トザット(イタリア、チームサクソバンク) +3'31"
8位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
9位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・バラクーダ)
10位 マールテン・ワイナンツ(ベルギー、ラボバンク)
text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Riccardo Scanferla
「このレースで勝つことや、記録を作ることを考えながら走っていたわけじゃない。1ペダリング、1セクター、1kmを闘いながら走った。50kmという距離を逃げようなんて、不可能に思うかも知れない。確かに少しクレイジーだったし、実際、生半可なことじゃなかった」。クラシックの女王で、史上最多タイの4勝目をマークしたボーネンは話す。
絶好調ボーネンの大会制覇に注目が集まる中、10時18分、第110回パリ〜ルーベはコンピエーニュをスタートした。レース最初の1時間の平均スピードが48.4km/hをマークするハイペースな展開の中、67km地点でようやく逃げが決まる。
過去にパリ〜ルーベのU23レースで優勝しているヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック・ニッサン)を含む12名による逃げ。しかし、257kmという長丁場にもかかわらず、タイム差は5分以内に抑え込まれた。
レースが本格的に動き始めたのは、ゴールまで85kmを残した難易度5つ星アランベールの石畳。森を一直線に貫くこの悪路で、落車によって逃げグループは8名に絞られ、一方のメイン集団もオメガファーマ・クイックステップのペースアップによって人数を減らす。
アランベールを抜けると、優勝候補の一角であるフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)やアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)がメイン集団を抜け出して追走グループを形成する。
オメガファーマ・クイックステップが率いるメイン集団は迅速にこの危険な動きを封じ込め、そのままの勢いで先頭の逃げグループも吸収する。ゴールまで65kmを残してレースが一旦リセットされると、続けざまにシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)がアタックを仕掛けて揺さぶりをかける。
不安定な状態が続く中、ゴールまで57kmを残してついに本命が動く。難易度3つ星のオルシでメイン集団からボーネンとフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)が飛び出し、先に飛び出していたセバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー)をキャッチ。これにニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)が加わる。
この強力な5人の中から、ボーネンとテルプストラの2人がアタックを仕掛けて先行。続く難易度3つ星のオシー・レ・オルシで、前を献身的に牽いていたテルプストラが脱落すると、ゴールまで53〜54kmを残して、ボーネンの独走が始まった。
この時の状況をボーネンは「自分らしい勝ち方ではないけど、今日はリスクを負うべき一日だった。作戦通りではなく、ニキ(テルプストラ)と先行したとき、すでにロンドで勝っているし、このルーベを特別な方法で勝ってみたいと思った」と振り返る。
難易度5つ星モンサン・ぺヴェルを先頭で駆け抜け、すぐさま後続のメイン集団を30秒引き離したボーネン。「風がずっと強かったけど、タイム差が30秒まで広がった時、後ろのみんなも同様に苦しんでいるんだと分かった」。
ボーネンの後方では、約15名がメイン集団を形成。メンバーを揃えるチームスカイ(フレチャ、ボアッソンハーゲン、スタナード、ヘイマン)が積極的にメイン集団を牽くが、先頭ボーネンとのタイム差は広がるばかり。ポッツァートは落車によってメイン集団からも遅れてしまう。
最後の難所である難易度5つ星のカルフール・ド・ラルブルで、メイン集団からラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)が飛び出し、バッランとフレチャが合流する。
ボーム、バッラン、フレチャの3名はローテーションを回すも、ボーネンのリードを崩せない。ボーネンは「タイム差が1分まで広がったとき、ルーベまで逃げ切れるという思いは確信に変わった」と話す。
時折苦しい表情を見せながらも、力強いペダリングでパヴェを突き進んだボーネン。フランスレースにもかかわらず、フランドルの旗が占拠するコースで、ボーネンが最後まで踏み続けた。
最終的に後続を1分30秒引き離し、ボーネンがルーベのヴェロドロームに登場。4度目の優勝を示す4本指を立てて、ヴェロドロームのゴールラインに飛び込んだ。
今年UCIワールドツアーに昇格したE3プライス・フラーンデレンで自身5度目の優勝を飾り、ヘント〜ウェベルヘムで3度目の優勝、ロンド・ファン・フラーンデレンで3度目の優勝を果たしたボーネンが、2005年、2008年、2009年に続くパリ〜ルーベ4勝目。
ボーネンはロジェ・デフラミンク(ベルギー)がもつ史上最多4勝目に並んだ。なお、E3、ヘント〜ウェベルヘム、ロンド、ルーベの4タテ(4連勝)は史上初の快挙。
歴史にその名を刻んだボーネンは「記録更新を狙っていたわけじゃない。このクラシック週間にトップコンディションで挑めるよう、調整に集中していただけ。終わってみて初めて、ロンドとルーベ連勝を2度果たした史上初めての選手であることに気がついたんだ。石畳のレースでは、自分が最強であると感じる」と打ち明ける。
「でもまだキャリアは終わっていない。あと数シーズンはトップレベルで闘えると思う。プロ11年間は浮き沈みの連続だったけど、今はロードバイクを愛して止まない。年を重ねる毎に、その気持ちは大きくなっている」。数年のブランクを経て、フランドルの獅子が完全復活を遂げた。
一方、ボーネンから約1分30秒遅れてバッラン、フレチャ、ボームがヴェロドロームに到着。ゴールスプリントに向けて牽制に入る3人にテルプストラとテュルゴーが合流する。激しい2位争いのゴールスプリントは、僅差でテュルゴーの手に落ちた。
地元フランス人選手の表彰台獲得は実に15年ぶり。テュルゴーは「トラックレースの経験が、ゴール勝負で役に立った。いつでも勝ちたいと夢見ているけど、今日のボーネンはただただ強かった。為す術が無かった」と振り返る。
また、1997年大会の覇者で、最後のフランス人優勝者であるフレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)は、1月のツアー・ダウンアンダーで左股関節を負いながら、現役引退レースとしてルーベに出場。ゴールに辿り着いたものの、タイムオーバーで完走を逃している。
選手コメントはレース公式サイトより。
パリ〜ルーベ2012
1位 トム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ) 5h55'19"
2位 セバスティアン・テュルゴー(フランス、ユーロップカー) +1'39"
3位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)
4位 フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)
5位 ニキ・テルプストラ(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)
6位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) +1'43"
7位 マッテーオ・トザット(イタリア、チームサクソバンク) +3'31"
8位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
9位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・バラクーダ)
10位 マールテン・ワイナンツ(ベルギー、ラボバンク)
text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Riccardo Scanferla
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