2012/03/16(金) - 16:29
イタリアの春の風物詩、今年で開催103回目を迎える伝統のミラノ〜サンレモが、3月17日(土)に開催される。現存するワンデーレース最長の全長298kmのレースで、「ミラノ〜サンレモがシーズン前半の目標レース」と意気込む名立たるスプリンターやアタッカーが激突する。
全長298kmの世界最長ワンデークラシック
ミラノ〜サンレモ2012コースマップ image:RCS SportUCIワールドツアー第4戦ミラノ〜サンレモは、他のRCS Sport開催ワンデーレースと同様に、日曜日ではなく土曜日に開催される。
今年で開催103回目の伝統あるワンデークラシックであり、通称「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」と呼ばれる。春を告げる名物レースであるため、単に「ラ・プリマヴェーラ(春)」とも。
コースはその名の通りミラノからサンレモまで。フランスの所謂「パリ〜○○○」と呼ばれるレースとは異なり、正真正銘ミラノをスタートする。300kmの大台目前の298km。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
ミラノ〜サンレモ2012ラスト30kmコースプロフィール image:RCS Sport内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。
トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、トレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。
テクニカルなポッジオの下りの向こうにサンレモの町が見える photo:Cor Vosリグーリア海沿いの平坦路をしばらく走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。
トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの3つの岬の先、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの登り。高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
このチプレッサとポッジオでは毎年激しいアタック合戦が繰り広げられる。ここで飛び出した選手は、何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、登りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。ゴール地点はサンレモの町の海側に位置するルンゴマーレ・カルヴィーノだ。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルや、ゴール直前の牽制の中から平坦区間で飛び出す選手も出てくる。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
ミラノ〜サンレモ2012コースプロフィール image:RCS Sport
スプリントバトルか?それとも?
昨年優勝を飾ったマシュー・ゴス(オーストラリア、当時HTC・ハイロード) photo:Riccardo Scanferla伝統的に、スプリンターに有利な展開に持ち込まれることの多いミラノ〜サンレモ。過去の優勝者リストを見ても、スプリンターの名前が並んでいる。ピュアスプリンターが優勝を狙うことの出来る数少ないメジャークラシックだけに、出場リストは豪華だ。
昨年は小集団によるゴールスプリントに持ち込まれ、チプレッサとポッジオを集団に残ったマシュー・ゴス(オーストラリア、当時HTC・ハイロード)が勝利。ビッグタイトルを手にしたゴスは今年、母国オーストラリアのグリーンエッジのエーススプリンターとして連覇に挑む。
2009年大会でハウッスラーを僅差で破ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、当時チームコロンビア) photo:Cor Vosゴスは軽い風邪の症状により直前のティレーノ〜アドリアティコを途中リタイアしているが、その後たっぷり休んで回復していると言う。すでにツアー・ダウンアンダーを制し、ティレーノ〜アドリアティコのチームTTを制したグリーンエッジは、怒濤の活躍を見せることが出来るだろうか。
昨年ロード世界選手権で、HTC・ハイロードのチームメイトであるゴスを下して世界チャンピオンに輝いたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は、チームスカイの鉄壁の守りを得る。
オスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji2009年大会で初優勝を飾ったカヴは、チプレッサとポッジオの関門さえクリアすることが出来れば、2勝目との距離がグッと近くなる。世界チャンピオンは「この時期にしては、ここ数年で最もコンディションが良い」と語っている。
チームスカイは、登坂力に長けたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)も擁しており、「カヴ=ボアッソンハーゲン」の二枚看板で様々な展開に対応する。
トム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Cor Vos史上4人目となる4勝目を目指す(最多勝記録はエディ・メルクスの7勝)オスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ)は、今シーズンすでにツアー・ダウンアンダーとブエルタ・ア・アンダルシアでステージ優勝。36歳の大ベテランは、キャリア最後のシーズンを良いカタチでスタートさせている。
5年連続で海外選手にタイトルを奪われているイタリアの望みは、2005年大会の覇者アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)や、直前のティレーノ〜アドリアティコ最終TTで驚きの2位に入ったダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、レディオシャック・ニッサン)に託される。
ペーター(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:RCS Sport今シーズン、チームとして最多勝(17勝)を飾っている好調オメガファーマ・クイックステップはトム・ボーネン(ベルギー)を中心にしたチーム編成。ボーネンは、パリ〜ニースでステージ優勝し、さらに山岳ステージでアシストするなど好調ぶりをアピール。「北のクラシック」に向けて、このミラノ〜サンレモで更に勢いをつけたいところだ。
まだミラノ〜サンレモの表彰台に登ったことがないアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)も、虎視眈々とビッグタイトルを狙う。グライペルは今シーズン5勝。ボーネンと並んで最も勝っているスプリンターだ。
2009年大会でカヴに僅差で敗れたハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)は、今シーズンいまいち調子の上がらないタイラー・ファラー(アメリカ)とともにガーミン・バラクーダのエースを担う。
生粋のスプリンターではないが、爆発力を秘めたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)を優勝候補に推す声も強い。昨年初出場したサガンは、勝負どころで前に残れずに17位という成績を残しているが、その登坂力とスプリント力の好バランスはミラノ〜サンレモ向きだ。
チプレッサとポッジオで見せ場を作るのは誰か
フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos終盤に登場するチプレッサとポッジオの上りで攻撃を仕掛け、スプリンターに挑戦状を叩き付けるのがアタッカーたちだ。「逃げ切り成功率」は低いが、それでも僅かな可能性を信じて攻撃に出る。
フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)はこれまで幾度となくポッジオでアタックを繰り返してきた。表彰台にも2度登っており、ゴールスプリントでも上位に食い込む実力の持ち主。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei Tsujiしかし「世界最高峰のワンデーレーサー」に讃えられるジルベールは、今シーズン調整が遅れ、まだ存在感ある走りを見せていない。ティレーノ〜アドリアティコも微熱により途中リタイア。「自分がだめならバッランやファンアフェルマートが前に出る」と弱気な発言も出ている。
対して好調ぶりを見せているのが、ティレーノ〜アドリアティコの覇者ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)だ。ニーバリは「登りでアタックするのが宿命だ」と強気なコメントを残す。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン) photo:Riccardo Scanferlaニーバリと同じ目論みを持つのが、ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)やジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)ら。いずれも母国のビッグタイトル目がけて積極的に動いてくるだろう。
2008年、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)は、ストラーデ・ビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、そしてミラノ〜サンレモを制した。今年カンチェラーラはストラーデ・ビアンケを制し、ティレーノ〜アドリアティコの最終TTで優勝。「調子の良さは、ここまでのレースの結果が証明している。2008年と同様に、勝ち続けたい」と語るなど、4年前の再現を目論む。チプレッサとポッジオのみならず、ゴール直前の平坦路での動きにも注目したい。
text:Kei Tsuji
全長298kmの世界最長ワンデークラシック
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コースはその名の通りミラノからサンレモまで。フランスの所謂「パリ〜○○○」と呼ばれるレースとは異なり、正真正銘ミラノをスタートする。300kmの大台目前の298km。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
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トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの3つの岬の先、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの登り。高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
このチプレッサとポッジオでは毎年激しいアタック合戦が繰り広げられる。ここで飛び出した選手は、何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、登りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。ゴール地点はサンレモの町の海側に位置するルンゴマーレ・カルヴィーノだ。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルや、ゴール直前の牽制の中から平坦区間で飛び出す選手も出てくる。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
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スプリントバトルか?それとも?
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昨年は小集団によるゴールスプリントに持ち込まれ、チプレッサとポッジオを集団に残ったマシュー・ゴス(オーストラリア、当時HTC・ハイロード)が勝利。ビッグタイトルを手にしたゴスは今年、母国オーストラリアのグリーンエッジのエーススプリンターとして連覇に挑む。
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まだミラノ〜サンレモの表彰台に登ったことがないアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)も、虎視眈々とビッグタイトルを狙う。グライペルは今シーズン5勝。ボーネンと並んで最も勝っているスプリンターだ。
2009年大会でカヴに僅差で敗れたハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)は、今シーズンいまいち調子の上がらないタイラー・ファラー(アメリカ)とともにガーミン・バラクーダのエースを担う。
生粋のスプリンターではないが、爆発力を秘めたペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)を優勝候補に推す声も強い。昨年初出場したサガンは、勝負どころで前に残れずに17位という成績を残しているが、その登坂力とスプリント力の好バランスはミラノ〜サンレモ向きだ。
チプレッサとポッジオで見せ場を作るのは誰か
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2008年、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)は、ストラーデ・ビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、そしてミラノ〜サンレモを制した。今年カンチェラーラはストラーデ・ビアンケを制し、ティレーノ〜アドリアティコの最終TTで優勝。「調子の良さは、ここまでのレースの結果が証明している。2008年と同様に、勝ち続けたい」と語るなど、4年前の再現を目論む。チプレッサとポッジオのみならず、ゴール直前の平坦路での動きにも注目したい。
text:Kei Tsuji
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