2012/03/10(土) - 14:08
パリ〜ニース開幕から6日が経ち、ようやく現地取材をスタートさせた。前日に逃げた新城幸也(ユーロップカー)の元気な表情に安堵し、ブドウ畑を抜け、モンヴァントゥーを横目に進み、シストロンに到着。予想に反して日中は上着の必要がないほど暖かい。終着地コートダジュールはもう近い。
「今日はこのステージ」 photo:Kei Tsuji飛行機乗り継ぎのために降り立ったオランダ・アムステルダムのスキポール空港にあるスポーツカフェで、逃げている新城幸也(ユーロップカー)の姿を見た。
逃げ切ってほしいという強い気持ちの中に「明日からのステージに力を残しておいてね」というイヤらしい思いも混ざる。まったく、自分が取材するレースをテレビで観るのは些か違和感がある。
スタート地点シューズ・ラ・ルッスはワインの産地 photo:Kei Tsujiテレビの中ではオランダチームのオランダ人(ヴェストラ)がアタックし、そして勝った。というのに、旅行客は全く興味を示さない。というより、そもそも旅行客はパリ〜ニースを見ていない。立ち止まって「お、自転車レースをやっているのか」という反応を見せる人もいるが、多くの人はみなCNNのフクシマ特集に見入っていた。
3月9日の夜遅く、地中海に面したニースのコートダジュール空港に降り立ち、3ステージ分を逆走して(つまりパリに向かって北上して)第6ステージのスタート地点に向かう。
ワイン作りの邪魔はしないように photo:Kei Tsujiスタート地点のシューズ・ラ・ルッスは、観光地アヴィニョンの北方、ローヌ=アルプ地域圏の南端に位置する。人口が2000人に満たない田舎町だが、ローヌワインの産地として有名。シャトーの中には「ワイン大学(l'Universite du vin)」まであるそうだ。
第5ステージで力強い逃げを見せたユキヤの表情は晴れやか。第6ステージと第7ステージでチャンスがあると勝手に踏んでいただけに、第5ステージで動いたことに驚いたと告げると「予想より早めに動くことになりました」と笑う。「チームは2日連続で逃げに選手を送り込めていなかったので、とにかく誰かが逃げに乗ることが作戦でした。するとアタックが一発で決まって」。
メイン集団内で最初の3級山岳をこなす新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji逃げで疲労したユキヤを待っていたのは、レース後の250km移動。「こればかりはどの選手も一緒だから(文句は言えない)」と、ユキヤ。
現地の最高気温は15度ほど。レースの南下とともに気温が上がっているため、レースが開幕した頃とは空気が全然違うと、アクレディテーションを処理してくれたプレス担当者は話す。
ペダルを回す毎に地中海に近づき、気温が上がり、着るものが身軽になって行く。もし「パリ〜ニース」ではなくて「ニース〜パリ」だったら、本能的にペダルに込める力が数パーセント弱まりそうだ。
ブドウ畑が広がる丘陵地帯を進む photo:Kei Tsuji
ガーミン・バラクーダやチームスカイがコントロールするメイン集団 photo:Kei Tsuji
北側からモンヴァントゥーを眺める photo:Kei Tsuji
ボトルを運ぶためチームカーまで下がる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiブドウ畑が一面に広がるスタート直後の平坦区間には、季節風ミストラルが吹き付けた。エシュロンが形成され、集団が分断され、マイヨジョーヌを含む総合上位の選手たちが先行し、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が後方に取り残されるという展開のおかげで、スタート直後から超ハイスピード。
序盤ステージで落車し、ここまで精彩を欠いたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は早々に集団から脱落。結局バッソは90km地点でバイクを降りている。
逃げグループを追い上げるメイン集団がシストロンの街を駆け抜ける photo:Kei Tsuji第6ステージはあの「魔の山」モンヴァントゥーの北側を舐めるように東に向かう。その堂々とした“はげた頂”は、かなり遠方からも視認出来ることで有名。頂上を覆う白い雪が、その標高の高さを物語っている。
でも山が連なる北側から見ると、あまり高さを感じない。富士山の中腹に沿うドライブウェイに入って、山頂がどこなのか、そしてどれぐらい高いのか分からなくなる感覚に似ている。
ハンドルを投げ込んでゴールするルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン) photo:Kei Tsujiローヌ=アルプ地域圏を離れ、レースはいよいよプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏へ。何層にも重ねた粘土を両手で横からギュッと押しつぶし、それを殴ったり踏んづけたり、ナイフで切り落としたような山が連なっている。この白っぽい石灰岩の山々が地中海にせり出した部分がコートダジュールだ。
ゴール地点シストロンは「プロヴァンスの門」と呼ばれる歴史ある街で、岩山の上に築かれたシタデル(要塞)の周りに旧市街が広がる。横を流れるデュランス川に架かる橋と、対岸にあるボーム岩の“ディズニーランドもびっくり”の光景をツール・ド・フランスで見たことがある人もいるはず。今回はこのシストロンを起点とした19kmの周回コースをぐるっと回ってゴールを迎える。
14秒遅れのメイン集団の中でゴールする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji大集団を背にしたルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)の一騎打ちを、暖かな西日が照らす。2009年大会の覇者LLサンチェスが大会通算ステージ4勝目を飾った。
ちなみに、今回とほぼ同じシストロン周回コースが設定された2008年大会の第5ステージで、チームメイトのカルロス・バレード(スペイン)が逃げ切り勝利を飾っている。
疲労感の中に笑顔を見せる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji14秒遅れの集団でゴールしたユキヤは、チームスタッフから受け取った清涼飲料水を一口で飲み干す。「逃げた次の日にこんなハイスピードなレースは辛いですよ。補給ポイントを過ぎた辺り(100km地点)で雪も降っていました」。そう言って、手首にまくり上げられたアームウォーマーで顔を拭う。
「スプリンター(セバスティアン・シャヴァネル)を前に連れて行く予定だったのに、ゴール前の登りで番手を下げてしまって、ゴールまでの直線路で前に出れなかった」。
パリ〜ニースは残り2ステージ。最終日は個人タイムトライアルなので、実質的に逃げるチャンスがあるのは第7ステージのみ。「残り1日になっちゃいましたね」。ため息混じりの、少し悲しげな声でそう言って、ユキヤはチームバスに戻って行った。
text&photo:Kei Tsuji in Sisteron, France
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逃げ切ってほしいという強い気持ちの中に「明日からのステージに力を残しておいてね」というイヤらしい思いも混ざる。まったく、自分が取材するレースをテレビで観るのは些か違和感がある。
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3月9日の夜遅く、地中海に面したニースのコートダジュール空港に降り立ち、3ステージ分を逆走して(つまりパリに向かって北上して)第6ステージのスタート地点に向かう。
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第5ステージで力強い逃げを見せたユキヤの表情は晴れやか。第6ステージと第7ステージでチャンスがあると勝手に踏んでいただけに、第5ステージで動いたことに驚いたと告げると「予想より早めに動くことになりました」と笑う。「チームは2日連続で逃げに選手を送り込めていなかったので、とにかく誰かが逃げに乗ることが作戦でした。するとアタックが一発で決まって」。
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現地の最高気温は15度ほど。レースの南下とともに気温が上がっているため、レースが開幕した頃とは空気が全然違うと、アクレディテーションを処理してくれたプレス担当者は話す。
ペダルを回す毎に地中海に近づき、気温が上がり、着るものが身軽になって行く。もし「パリ〜ニース」ではなくて「ニース〜パリ」だったら、本能的にペダルに込める力が数パーセント弱まりそうだ。
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序盤ステージで落車し、ここまで精彩を欠いたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は早々に集団から脱落。結局バッソは90km地点でバイクを降りている。
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ゴール地点シストロンは「プロヴァンスの門」と呼ばれる歴史ある街で、岩山の上に築かれたシタデル(要塞)の周りに旧市街が広がる。横を流れるデュランス川に架かる橋と、対岸にあるボーム岩の“ディズニーランドもびっくり”の光景をツール・ド・フランスで見たことがある人もいるはず。今回はこのシストロンを起点とした19kmの周回コースをぐるっと回ってゴールを迎える。
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ちなみに、今回とほぼ同じシストロン周回コースが設定された2008年大会の第5ステージで、チームメイトのカルロス・バレード(スペイン)が逃げ切り勝利を飾っている。
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「スプリンター(セバスティアン・シャヴァネル)を前に連れて行く予定だったのに、ゴール前の登りで番手を下げてしまって、ゴールまでの直線路で前に出れなかった」。
パリ〜ニースは残り2ステージ。最終日は個人タイムトライアルなので、実質的に逃げるチャンスがあるのは第7ステージのみ。「残り1日になっちゃいましたね」。ため息混じりの、少し悲しげな声でそう言って、ユキヤはチームバスに戻って行った。
text&photo:Kei Tsuji in Sisteron, France
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