巨大リゾート、ゲンティンハイランドにゴールする第6ステージは南米勢の圧勝となり、日本人選手は世界トップのクライマーとの差を痛感する結果だった。この悔しさをバネに、明日からもステージ優勝をめざして走り続ける。

ホテルを出発する中島康晴(愛三工業レーシング)ホテルを出発する中島康晴(愛三工業レーシング) photo:Sonoko Tanaka第6ステージは、1996年の初開催時から毎年必ずコースに組み込まれている超級山岳・ゲンティンハイランドをめざす108km、獲得標高1,600mの山岳ステージ。大会全日程を通して唯一の山頂ゴールのため、ゲンティンハイランドでのタイム差がそのまま総合順位に直結しやすく、ゲンティンハイランドを制した選手が総合優勝に輝くケースが多い。

ゲンティンハイランドの立地はマレーシアの首都・クアラルンプールから約1時間ほど東に向かったところにある。

リーダージャージを着てスタート地点を歩くダレン・ラプソーン(オーストラリア、ドラパック)リーダージャージを着てスタート地点を歩くダレン・ラプソーン(オーストラリア、ドラパック) photo:Sonoko Tanakaレースはクアラルンプール郊外にあるポイント賞のスポンサー、カーメーカーのプロトン本社からスタートし、高速道路を経由して、ゲンティンハイランドへ向かう山道を進んだ。朝から湿気を含んだ生ぬるい空気に覆われていたが、やはり山に入ると雨が降ったり止んだりと不安定な天候となった。

リーダーチームであるドラパックのコントロール下にあったレースだが、中盤、上りが始まる狭い森で総合リーダーのダレン・ラプソーン(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ) が落車。これをきっかけにステージ優勝候補最有力であるホセ・ルハノ(ベネズエラ)やホセ・セルパ(コロンビア)らを擁するアンドローニ・ジョカトリが主導権を握り、その直後からレーススピードが急に上がったという。

シースルージャージを着るヴァレンティン・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)シースルージャージを着るヴァレンティン・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ) photo:Sonoko Tanakaクアラルンプールで人気のピストバイク。決まって蛍光色だクアラルンプールで人気のピストバイク。決まって蛍光色だ photo:Sonoko Tanaka


トップとの差を痛感した愛三工業レーシング

登坂区間を走る伊藤雅和(愛三工業レーシング)登坂区間を走る伊藤雅和(愛三工業レーシング) photo:Sonoko Tanaka例年に比べ早い段階で集団が大きくバラけることとなり、世界トップクラスのヒルクライマーたちは軽々とゲンティンハイランドに続く九十九折りを駆け抜けていく。日本人最高位だったのは愛三工業レーシングの鈴木謙一。10分55秒差の39位でゴールした。

日本人最高位39位でゴールした鈴木謙一(愛三工業レーシング)日本人最高位39位でゴールした鈴木謙一(愛三工業レーシング) photo:Sonoko Tanaka鈴木謙一は「当初は森のなかで激しい位置取りがあると思われ、いい位置をキープしながら走ったが、アンドローニがコントロールを始めると、すぐに先頭が見えなくなってしまったため、ゲンティンハイランドまでの上りでは、自分のペースに切り替えて走った。自分にとって3回目のゲンティンハイランドで、これまでで一番いいペース、コンディションで上ることができた。トップは世界で活躍するクライマー、やはり彼らとの差を感じるレースだった。

明日からはまた新しいレースが始まる、というくらい気持ちを切り替えて、タイム差ができてしまっているので、積極的に走ってチームで勝利をめざしたいと思う」。

一方、活躍が期待された伊藤雅和は13分47秒差の51位でフィニッシュ。20位以内を目標としていたが、目標には届かなかった。

「めちゃくちゃ悔しい気持ちでいっぱいです。全然ダメでした。圧倒的な力の差が明らかになった。途中までいいペースできていたので、それを最後まで続けられたらと思う。今日の悔しさを今後の課題にしたい」と振り返る。別府監督も「ゲンティンハイランドの山岳ステージがやはり別ものだな、と思う。厳しい結果になったが、選手それぞれに気がついたことも多いはずなので、それを次に繋げていきたいと思う」とコメント。


巨大リゾート施設・ゲンティンハイランド

何とも言えない色合いのファーストワールドホテル何とも言えない色合いのファーストワールドホテル photo:Sonoko Tanaka余談になるが「ゲンティンハイランド」という言葉を聞いて、どのような場所を思い浮かべるのだろう?

ランカウイのレースには必ず出てくる超級山岳であり、私はスキーリゾートのような場所を想像していたが(マレーシアに雪が降るはずはないんだけど…)、ゴールまで300mを切ると、目の前に日本のバブル時代を彷彿させるカラフルな(センスが悪いほどにカラフルな…)ホテルが出現した。そしてフィニッシュラインの横にはイモムシ風のコースターが走っている。

副賞に贈られたトラのぬいぐるみを観察中副賞に贈られたトラのぬいぐるみを観察中 photo:Sonoko Tanakaそう、ここは山の中腹に作られた巨大テーマパークで、マレーシアで唯一政府公認カジノもあるという。

その中心にあるのがメディアや関係者が宿泊するファーストワールドホテル。客室数6,118という想像を絶する規模であり、駐車場からプレスセンターに行くまでに建物内で迷ってしまうほど(実話)。室内も遊園地のような造りで、3階から下は飲食、ショッピング施設だけでなく、室内コースターやメリーゴーランドなどのアトラクションもある。

マレーシアのラスベガスとも称されるとのことで、クアラルンプール在住のジャーナリストたちに聞くと2年に1回くらい遊びに来ると言う。

ティーンエイジャーやファミリー、観光客に人気のある場所なんだとか。でも仕事に追われるメディアにとっては、スターバックスのコーヒーが飲める以外、とにかく施設内の移動が長く、施設で遊ぶ余裕もないため、はっきり言って嬉しくない場所でもある…。

ゲンティンハイランドからキャラクターたちが祝福にやってきたゲンティンハイランドからキャラクターたちが祝福にやってきた photo:Sonoko Tanakaイモムシ風コースターがコース横を走るイモムシ風コースターがコース横を走る photo:Sonoko Tanaka


明日からはステージ狙いの平坦ステージに

福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)は42位でフィニッシュ福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)は42位でフィニッシュ photo:Sonoko Tanakaはてさて、明日は第7ステージ、大会最長距離となる205.8kmの平坦ステージだ。ゲンティンハイランドで総合順位がほぼ確定したため、明日からはステージ優勝争いが激化するだろう。

明後日からのトレンガヌ州でのステージに向けて、地元開催となるトレンガヌ・プロアジアの活躍にも期待したい。そう、29日早朝に3人目のお子さんが生まれた40歳の走れるパパ、福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)もまた見せ場を作ってくれるだろう。

text&photo:Sonoko Tanaka
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