2012年を迎え間もない1月、鹿児島県は鹿屋市にてブリヂストン・アンカーの鹿児島合宿が行われた。選手たちが新しい体制、ウェアで走り出した。その様子を編集部の帯同レポートでお伝えしよう。

温暖な鹿児島で合宿を行ったブリヂストン・アンカー温暖な鹿児島で合宿を行ったブリヂストン・アンカー

早いテンポで丘を越えていく早いテンポで丘を越えていく 今年ブリヂストン・アンカーは大きな変革の年を迎えた。フランス人3名とベルギー人1名、計4名の外国人選手が加入し、国内からは西薗良太と吉田隼人を迎えた。チーム活動もスケジュールの半分を海外に移行させ、積極的にヨーロッパのレースに参戦していくという。チーム体制の発表記事はこちら

今回の合宿に参加していたのは日本人選手5名と、久保信人新監督の6名。海外選手4人はヨーロッパで各々トレーニングを行って、ツアー・オブ・カタールの行われるカタールで合流する予定ということだ。

下りのスピードは60kmほど 決して脚を止めない下りのスピードは60kmほど 決して脚を止めない 編集部が取材にあたった前日、チームは宮崎でのイベントにゲスト参加していたため、取材当日のチームの練習メニューは宮崎県西都市からチームの拠点となる鹿屋まで、約160kmの行程を自走していくというものだった。序盤でチームと合流した後、写真撮影をしつつ選手たちのトレインに車でついていった。

巡航速度は平地で40km/hほど。選手たちは約10分間隔で先頭交代を行い、鹿屋市を目指す。まだ1月初旬とあって、ある程度ゆっくりとしたペースで走り込みを行うというイメージでいたが、選手たちは峠に入っても車列を維持したまま速いテンポで上りをこなしていく。

アンカーのシーズンインは先に報じたとおり。年明けのツアー・オブ・カタールとオマーン。ヨーロッパトップチームがこぞって参加するこの2つのレースでシーズンデビュー戦を飾ることとなる。急遽決まった招待であったため急ピッチで選手たちのコンディションを合わせていく必要があるとのことで、早い時期から強度の高いメニューをこなしているとのことだった。

プロ初年度を迎える吉田隼人プロ初年度を迎える吉田隼人 キャプテンを担う井上和朗キャプテンを担う井上和朗 シマノレーシングから移籍した西薗良太シマノレーシングから移籍した西薗良太


国道10号線を南下し、宮崎県から鹿児島県へと入る。都城市内のコンビニで休憩を済ませると県道に入って志布志湾へ。この付近は西薗良太の生まれ故郷にほど近いということで、道案内は西薗の役目だ。監督の乗るキャラバンと西薗が無線でやり取りをしながら、鹿屋へのルートを速いペースで進んでいく。

井上和朗を先頭に丘越えをこなす井上和朗を先頭に丘越えをこなす この日、距離があるため日没までに鹿屋市に到着できるかどうか、やや焦っている感じだった。残された距離からすると急がなくてはいけない。選手に与えられたトレーニングメニューと照らしあわせながらだが、ややペースは「急ぎ」で。それなりに高強度の踏みが入る。

鹿屋市に入り、立ち寄ったのは吉田隼人と清水都貴の母校である鹿屋体育大学。そこでは育ての親である黒川 剛監督が出迎えた。転車部の部室にお邪魔させていただくと、天井から吊るされた沢山の自転車、機材、整然と並んだローラー台。そして歴史を物語るトロフィー...。そこはまさに「強くなるための部室」といったイメージそのものだった。

黒川剛監督 鹿屋体大自転車部室にて黒川剛監督 鹿屋体大自転車部室にて マッサージベッドを受け取る久保監督マッサージベッドを受け取る久保監督


チームは黒川監督からマッサージベッドや差し入れのドリンク(鹿屋特産の温泉水)などを受取り、大学から数km離れた、今回の合宿の拠点となる大隅青少年自然の家へと向かう。途中ハイペースで進んで来たことが幸いし、いくぶんか日没に余裕をもって合宿の拠点へと到着することができた。

例年、ブリヂストンアンカーはこの時期には沖縄で合宿を行っていた。しかし今年は鹿屋体育大学に近いこの地が合宿場所になるのだという。今年チームが合宿場所を鹿屋に変更したのは、前日に招待されたイベント会場が宮崎だったこと、そして鹿屋体育大学出身の吉田隼人が今年からチームに加入したことなどが大きかったようだ。

練習内容についてミーティングを行う練習内容についてミーティングを行う そして予算の都合というのもある。今年、チームが欧州で活躍することに重きを置いたため、チームカーやメカニックトラックなどの車両をフランス現地で買い揃えた。日本と欧州の往復にも某大な経費がかかる。

今回の合宿拠点である大隅青少年自然の家は宿泊費が基本無料であるのもありがたい。そして「稽古をつけて欲しい」という鹿屋体育大学の後輩たちのリクエストに答えるのも、チームにとって義務のようなものなのだろう。

シーズン初めとあって、ポジションの確認に余念がないシーズン初めとあって、ポジションの確認に余念がない 鹿屋体育大学にほど近い山麓にある青少年の家を中心に、この地域一帯がチーム合宿の舞台となる。腰を落ち着けての合宿2日目は、鹿屋市周辺を走る。

気温は関東よりもずいぶん高く、晴れれば寒さを感じないほど。光が眩しい。ただし、曇ればそれなりに冷え込む。
桜島からはやや距離のある鹿屋市だが、活発な火山活動の影響で、火山灰が漂っている。すっきり晴れ上がらないのは、そういう事情もあるようだ。

鹿児島湾を背景に上りをこなす鹿児島湾を背景に上りをこなす 海沿いを走り、決められた区間でスプリントの反復練習。そして標高200m程度の峠で、上っては下りの練習を繰り返す選手たち。この練習は「SFR」と呼ばれるもので、「ペダルを40回転/分程度でなるべく重いギアを2分間踏むのを2分間×5本、週1回程度行う」というメニューだ。

チームは今年、日本で自転車選手向けに高いレベルでパワートレーニングを指導できるBlue Wych(ブルーウィッチ/柿木克之さん代表)の指導を受けながらトレーニングを行っている。バイクに取り付けたSRMのパワーメーターを見ながら、選手たちは重めのギアで、淡々と坂を登っては降りるを繰り返す。

とても地味な練習だが、与えられたメニューを淡々とこなす選手たち。久保監督も、「メニューはすべてブルーウィッチが組んだものを忠実に消化しています」と話す。時代はパワートレーニングなのだ。

2日間の短い帯同だったが、実際に合宿に同行していると、鹿屋市周辺は非常にトレーニングに最適な環境であると感じさせられる。交通量は少ない上に道幅は広く、一定の緩斜面がずっと続く丘もある。まさに自転車選手が強くなる要素の詰まったフィールドだと実感できた。

斜度10%ほどの坂でFSRトレーニングを行う斜度10%ほどの坂でFSRトレーニングを行う 2月5日から開催されるツアー・オブ・カタールの出場権を得たブリヂストンアンカー。いきなり世界トップレベルの選手たちと走るチャンスに恵まれた。久保信人監督は次のように話す。

「(フランスでの監督の)ルプルー監督の働きかけがあったからこそ可能になった話ですが、チームがカタールに出場できるのは非常に光栄なことです。もっとも、急に決まった話ですので、私達にとってももう少し準備期間が欲しかったところです。」

「一緒に走るのは世界トップクラスの選手ゆっくりと登りをこなしていくゆっくりと登りをこなしていく たちですので、いかに平坦のレースとはいえ、かなりの苦戦を強いられることは間違いないでしょうしかし、チームをアピールするこのチャンスを最大限に生かせるように頑張りたいと思います」。

体制を変えた途端のビッグな招待に、やや戸惑いながらも、そのチャンスを生かさないテはない。ツアー・オブ・カタールに出場するチームはそのまま続く日程のツアー・オブ・オマーンにも出場するのが通例。チームはオマーンの出場内定ももらっている。

チームがずいぶん先の将来の目標とする、ツール・ド・フランス。その主催者からのカタールとオマーンのレースへの招待はすぐに届いた。チームはいきなりの環境の変化に戸惑いつつも、世界へ続く道を歩み始めた。

チームバイク
チームはアンカーのラインナップするRMZとRIS9を使い分ける。脚質に合わせたフレーム剛性選択から可能なRMZと、軽量な新型モデルのRIS9を用意。シマノのDi2コンポ、ステム・ハンドル、ピラーなどにはシマノPROを使用する。Di2コンポはまだ供給が間に合っていないようだった。

チームのメイン機材となるアンカーRMZチームのメイン機材となるアンカーRMZ

ハンドル回りはPROで統一されるハンドル回りはPROで統一される パワーメーターはSRMを使用するパワーメーターはSRMを使用する


新年早々の2月に中東のビッグレースで華々しくデビューを飾る新体制ブリヂストンアンカー・プロサイクリングチーム。2012シーズンの活躍に期待したい。


text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano