無事に閉幕した1年目のツアー・オブ・北京。大気汚染の問題が大きくはだかるものの、選手たちの満足度は高く、UCIのパット・マックエイド会長も「大成功だった!」と振り返る。アジアの可能性を世界に大きくアピールした大会だった。

「有害」レベルのスモッグに覆われた天安門「有害」レベルのスモッグに覆われた天安門 (c)Sonoko.TANAKAイギリス人ドライバーと話をする中国人カメラマン。彼らにとってドライバーがヨーロッパ人というのは予想外のことだったイギリス人ドライバーと話をする中国人カメラマン。彼らにとってドライバーがヨーロッパ人というのは予想外のことだった (c)Sonoko.TANAKA


“有害”なスモッグ下で開催された最終ステージ

北京市内に戻ってきたツアー・オブ・北京。第5ステージは、北京のシンボルである天安門広場をスタートし、オリンピック公園内に設置された8kmの周回コースを12周回するコース設定。
毎日穏やかなな雰囲気に包まれていたスタート地点だったが、この日は少し雰囲気が違う。というのも、連日問題となっていた「大気汚染」が見るからに酷い状態だったのだ。

選手たちがレースの準備をする天安門広場から、天安門までの距離は数百メートルほど。しかし縦6メートルの巨大な毛沢東の肖像画が激しく霞んで見える。濃い霧に包まれたような感覚だが、これは自然発生する「霧」ではなく、人工的な大気汚染による「スモッグ」によるものだから恐ろしい。

1時間ごとの大気汚染情報を発信するサイトでは、スタート時間近く14時の数値で、6段階のうち最悪レベルである「Hazardous(有害、危険)」をマーク。レース中も同様の数値が続いた。この値は夜になると規定数値を超える「規定外」を記録した。

ドクターカーから身を乗り出し、選手の手当をするアイルランド人デビッド医師ドクターカーから身を乗り出し、選手の手当をするアイルランド人デビッド医師 (c)Sonoko.TANAKAドクターカーは運転手もプロフェッショナルなヨーロッパ人ドクターカーは運転手もプロフェッショナルなヨーロッパ人 (c)Sonoko.TANAKA

レースに帯同するアイルランド人ドクターは「たしかに酷いし、健康にいいものでは決してないが、1日走ったからといって、すぐに健康被害が出るという深刻すぎるものでもない。自転車選手は砂ホコリが舞う悪路を走ることも多いからね。しかし、改善すべき問題には違いないよ」と話す。

北京オリンピック時のように国を挙げての規制をかけないかぎり、解決できる問題ではないことは理解できるが、レースに帯同していて、もっとも強烈に感じたのが、この大気汚染の問題だろう。「北京市内でのレース日数を1日以内と可能なだけ減らし、あとは郊外でレースを開催するべきだ」と多くのジャーナリストが口を揃えている。来年以降、何かしらの対策が講じられることを期待したい。

ドライバーには特例として一時的な中国の運転免許が発行されたドライバーには特例として一時的な中国の運転免許が発行された (c)Sonoko.TANAKAフランスから持ち込まれたテレビ中継用の機材フランスから持ち込まれたテレビ中継用の機材 (c)Sonoko.TANAKA急激な経済発展が深刻な大気汚染を招いている急激な経済発展が深刻な大気汚染を招いている (c)Sonoko.TANAKA

GCPと中国オーガナイザーによる完璧なレース運営

一方、心配されていたレース運営は、非常にスムースに進んでいった印象だ。それは、GCP(グローバル・サイクリング・プロモーション)のレース運営が、完璧だったことを意味するのだろう。
ツアー・オブ・北京は、決してツアー・オブ・チンハイレイクやジャパンカップといったアジアツアーの延長線にあるものではなかった。完全に独立したレースであって、「外国人が中国の土地を借りてヨーロッパのレースを開催している」という感覚だ。地元中国のオーガナイザーも存在しているが、キーとなる役職やポジションは必ず外国人のスペシャリストが担当している。今回は1年目ということで、よりその色が強く出たと考えられる。

UCIパット・マックエイド会長やASO、GCPの主要メンバーたちUCIパット・マックエイド会長やASO、GCPの主要メンバーたち (c)Sonoko.TANAKA高速道路の合流地点。一般車は止められてしまっている高速道路の合流地点。一般車は止められてしまっている (c)Sonoko.TANAKA

しかし、中国のオーガナイザーの仕事も素晴らしいものだった。たとえば、食事の問題(クレンブテロールへの対応や、欧米食の用意)をホテルと交渉したり、レース後のホテルまでの移動では、一般車を完全に止めて、高速道路を貸し切り状態にした。また日々100人を超えるボランティアスタッフをレースに派遣した。その結果、選手からの満足度が非常に高いものとなった。

スモッグの中に浮かんだ夕陽スモッグの中に浮かんだ夕陽 (c)Sonoko.TANAKAツアー・オブ・北京はすでに4年間の開催契約がなされ、中国でアジア初となるワールドツアーチーム設立をめざそうとするUCIは、より中国のオーガナイザーや自転車競技連盟との関係を濃くしていくことだろう。日本人の自分としては、悔しさを感じてしまうが、同じアジア人として、ツアー・オブ・北京や中国をはじめとするアジアの自転車競技の発展を楽しみにしたい。そして無事に大会の全日程が終了したことに感謝の気持ちと敬意を述べたいと思う。


photo&text:Sonoko.TANAKA

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