2011/09/23(金) - 07:27
デンマーク・コペンハーゲンで開催中のロード世界選手権。タイムトライアル3日間を終え、いよいよ9月23日からロードレースが始まる。行なわれるのはジュニア男女、U23、そしてエリート男女の合計5カテゴリー。ここではコースの特徴や有力選手などをチェックしておこう。
累積標高1785mのフラットコース
「自転車に開かれた街」を謳うコペンハーゲンで世界選手権が開催されるのは今年で5回目。しかし前回の開催は1956年であり、実に55年間ものブランクがあった。今年からジュニアカテゴリーが併催となり、開催期間は1週間に伸ばされている。
ロードレースの会場となるのは、コペンハーゲン中心部から北に20kmほど行ったルダースダル。緑豊かな田園風景と住宅街を抜ける14kmの周回コースが用意された。
ジュニア男子はここを9周する126km。ジュニア女子は5周・70km、U23は12周・168km、エリート女子は10周・140km、そして最終日のエリート男子はコペンハーゲン中心部からの移動区間28kmプラス17周で合計266km。
ユラン半島と443の島々から成るデンマークは、その国土全域が平坦である。デンマークには山岳と呼べるような山がなく、国土の最高地点は標高173m。
首都コペンハーゲンがあるシェラン島ももちろん例外ではなく、街中はもちろん、一帯にはほぼ真っ平らな平野が広がっている。そんな平らな国土の中で、比較的アップダウンがある場所として選ばれたのが今回のルダースダル。とは言っても、周回コースの最高地点は標高59mしかない。
コース1周の累積標高(獲得標高差)は105m。単純計算でエリート男子の累積標高は合計1785m。2009年のスイス・メンドリシオ大会が4655m、2010年のオーストラリア・メルボルン大会が3076mだったことを考えると、明らかに「登らないコース」。スプリンター向きだと言われてきたのも頷ける。長年日本代表として世界選手権に出場している別府史之(レディオシャック)曰く「マリオ・チポッリーニが勝った(2002年・ベルギー)ゾルダー大会に次ぐ平坦さ」だ。
しかし一概に登りが少ない=難易度が低いとは言えない。平坦コースだけにレーススピードは上がる。鋭く曲がるテクニカルなコーナーやロータリーが点在しており、終盤にかけて集団は一列棒状になるだろう。
現地の最高気温は18度前後で、風は常に吹いている。新城幸也(ユーロップカー)は「ベルギーのような風ではないので大丈夫」と言うが、風の強さはタフな展開に繋がる。雨が降ればなお一層過酷なレースになる。
最後は登り基調のストレートを駆け上がってフィニッシュ。大集団によるスプリントが大方の見解だが、イタリアやスペイン、ベルギーと言った強豪国が複数の選手を送り込むような逃げが生まれれば、そのまま集団が追いつけずに逃げ切りが決まる可能性も。
決定的なアタックが決まるような登りがない。明確な勝負どころがないだけに、複雑なレース戦略が交錯することになりそうだ。
ロード世界選手権ロードレース日程
9月23日(金)エリート女子ロードレース 70km(5 x 14km)
9月23日(金)U23ロードレース 168km(12 x 14km)
9月24日(土)ジュニア男子ロードレース 126km(9 x 14km)
9月24日(土)エリート女子ロードレース 140km(10 x 14km)
9月25日(日)エリート男子ロードレース 266km(17 x 14km + 28km)
スプリンターを中心にしたアルカンシェル争奪戦
今年も虹色の世界チャンピオンジャージ「アルカンシェル」を懸け、世界中のビッグネームが世界選手権の舞台に立つ。どの国もスプリンターを中心に据えたチーム編成であり、アシストとして大柄な平坦系の選手を揃えている。
昨年世界チャンピオンに輝いたトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)は、ゼッケン1を付けての出場。近年は純粋なスプリント力に陰りを見せるが、タフな展開に持ち込まれた場合の強さは抜群だ。
アシストとして出場するエドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)も同様にスプリント力があり、両者はともに逃げも打てる万能選手。今年のツール・ド・フランスでは、このノルウェー人2人だけでステージ合計4勝。ノルウェー旋風はデンマークでも巻き起こるのか。
最大出場枠9名という数の利を活かし、総力戦でスプリントに挑むのが、イタリア、スペイン、ベルギー、オーストラリア、ドイツ、アメリカ、そしてイギリス(出場は8名)だ。
中でも毎年のようにイタリアとスペインが二大巨頭として神経戦を繰り広げる。「アッズーリ(青色)」と呼ばれるイタリアチームを指揮するのは、元世界チャンピオンのパオロ・ベッティーニ監督。チームはダニエーレ・ベンナーティ(レオパード・トレック)を軸に作戦を練る。
イタリアにはジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)やフランチェスコ・ガヴァッツィ(ランプレ・ISD)と言った「逃げで勝てる選手」を多数揃えており、積極的にレースを動かしてくるに違いない。
史上最多タイの世界選手権3勝を飾っているオスカル・フレイレ(ラボバンク)は、スペインチームのキャプテンとして前人未到の偉業に挑む。今年は目立った成績を残せていないが、登りでのパンチ力あるスプリントはフレイレ向き。不調の場合はホセホアキン・ロハス(モビスター)にスイッチするだろう。
ツールでステージ5勝を飾り、マイヨヴェールも手にしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)は「世界最速のスプリンター」だ。チャンスのある平坦コースだけに、モチベーション高くレースに備えているはず。スピード感のあるアシスト勢にリードされて、大集団でのスプリントに挑む。
ドイツはアンドレ・グライペル(オメガファーマ・ロット)がエースだが、今年ブレイクしたマルセル・キッテル(スキル・シマノ)とジョン・デゲンコルブ(HTC・ハイロード)の若手コンビも見逃せない。タイムトライアルで世界チャンピオンに輝いたトニ・マルティン(HTC・ハイロード)はスプリンターの良きアシストになる。
オーストラリアは今年ミラノ〜サンレモを制したマシュー・ゴス(HTC・ハイロード)のスプリント狙い。展開によってはハインリッヒ・ハウッスラー(ガーミン・サーヴェロ)の逃げで突破口を開く。
アメリカはタイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)、ロシアはデニス・ガリムジャノフ(カチューシャ)がエースという位置づけ。
今年絶好調のフィリップ・ジルベール(オメガファーマ・ロット)は、ブエルタでの手首骨折で戦線を離脱したトム・ボーネン(クイックステップ)に代わってベルギーのエースを務める。ジルベールの登りでのパンチ力は切れ味鋭く、現在最強クラシックレーサーとしての呼び声が高い。アタックでもスプリントでも勝利を狙えるが、今年のコースはジルベールが100%力を発揮する難易度ではない。
初出場のブエルタでステージ3勝を飾ってみせた怪物ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)にも要注意。プロ2年目の21歳が見せる底知れない強さが、再び世界を驚かす瞬間が来るかもしれない。
タイムトライアルで辛酸を嘗めたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)は、ロードレースでリベンジを狙う。調子は決して悪くなく、持ち前の独走力は他チームの作戦を狂わすだろう。
なお、ここまで名前を挙げた選手の中で、世界選手権の優勝経験者はフースホフトとフレイレだけ。その他の選手は表彰台にも登ったことがない。昨年の2位のマッティ・ブレシェル(デンマーク)と3位アラン・デーヴィス(オーストラリア)は欠場する。
日本代表は新城幸也(ユーロップカー)、別府史之(レディオシャック)、宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)の3名。昨年の世界選手権で9位に入った新城幸也の活躍に期待が集まるが、今年は別府史之と宮澤崇史も好調。宮澤崇史は「3人全員がエースとしてそれぞれスプリントできる国は他にない」と自信を見せる。
日本からはエリート男子3名の他に、エリート女子に全日本チャンピオンの萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)がエントリー。ジュニア男子には清水太己(ブリヂストン・エスポワール)、内野直也(湘南ベルマーレ)、西村大輝(昭和第一学園高校)の3名が出場する。
エリート男子に出場する日本人3選手のコメントは別記事にてお伝えします。
text:Kei Tsuji in Copenhagen, Denmark
累積標高1785mのフラットコース
「自転車に開かれた街」を謳うコペンハーゲンで世界選手権が開催されるのは今年で5回目。しかし前回の開催は1956年であり、実に55年間ものブランクがあった。今年からジュニアカテゴリーが併催となり、開催期間は1週間に伸ばされている。
ロードレースの会場となるのは、コペンハーゲン中心部から北に20kmほど行ったルダースダル。緑豊かな田園風景と住宅街を抜ける14kmの周回コースが用意された。
ジュニア男子はここを9周する126km。ジュニア女子は5周・70km、U23は12周・168km、エリート女子は10周・140km、そして最終日のエリート男子はコペンハーゲン中心部からの移動区間28kmプラス17周で合計266km。
ユラン半島と443の島々から成るデンマークは、その国土全域が平坦である。デンマークには山岳と呼べるような山がなく、国土の最高地点は標高173m。
首都コペンハーゲンがあるシェラン島ももちろん例外ではなく、街中はもちろん、一帯にはほぼ真っ平らな平野が広がっている。そんな平らな国土の中で、比較的アップダウンがある場所として選ばれたのが今回のルダースダル。とは言っても、周回コースの最高地点は標高59mしかない。
コース1周の累積標高(獲得標高差)は105m。単純計算でエリート男子の累積標高は合計1785m。2009年のスイス・メンドリシオ大会が4655m、2010年のオーストラリア・メルボルン大会が3076mだったことを考えると、明らかに「登らないコース」。スプリンター向きだと言われてきたのも頷ける。長年日本代表として世界選手権に出場している別府史之(レディオシャック)曰く「マリオ・チポッリーニが勝った(2002年・ベルギー)ゾルダー大会に次ぐ平坦さ」だ。
しかし一概に登りが少ない=難易度が低いとは言えない。平坦コースだけにレーススピードは上がる。鋭く曲がるテクニカルなコーナーやロータリーが点在しており、終盤にかけて集団は一列棒状になるだろう。
現地の最高気温は18度前後で、風は常に吹いている。新城幸也(ユーロップカー)は「ベルギーのような風ではないので大丈夫」と言うが、風の強さはタフな展開に繋がる。雨が降ればなお一層過酷なレースになる。
最後は登り基調のストレートを駆け上がってフィニッシュ。大集団によるスプリントが大方の見解だが、イタリアやスペイン、ベルギーと言った強豪国が複数の選手を送り込むような逃げが生まれれば、そのまま集団が追いつけずに逃げ切りが決まる可能性も。
決定的なアタックが決まるような登りがない。明確な勝負どころがないだけに、複雑なレース戦略が交錯することになりそうだ。
ロード世界選手権ロードレース日程
9月23日(金)エリート女子ロードレース 70km(5 x 14km)
9月23日(金)U23ロードレース 168km(12 x 14km)
9月24日(土)ジュニア男子ロードレース 126km(9 x 14km)
9月24日(土)エリート女子ロードレース 140km(10 x 14km)
9月25日(日)エリート男子ロードレース 266km(17 x 14km + 28km)
スプリンターを中心にしたアルカンシェル争奪戦
今年も虹色の世界チャンピオンジャージ「アルカンシェル」を懸け、世界中のビッグネームが世界選手権の舞台に立つ。どの国もスプリンターを中心に据えたチーム編成であり、アシストとして大柄な平坦系の選手を揃えている。
昨年世界チャンピオンに輝いたトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)は、ゼッケン1を付けての出場。近年は純粋なスプリント力に陰りを見せるが、タフな展開に持ち込まれた場合の強さは抜群だ。
アシストとして出場するエドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)も同様にスプリント力があり、両者はともに逃げも打てる万能選手。今年のツール・ド・フランスでは、このノルウェー人2人だけでステージ合計4勝。ノルウェー旋風はデンマークでも巻き起こるのか。
最大出場枠9名という数の利を活かし、総力戦でスプリントに挑むのが、イタリア、スペイン、ベルギー、オーストラリア、ドイツ、アメリカ、そしてイギリス(出場は8名)だ。
中でも毎年のようにイタリアとスペインが二大巨頭として神経戦を繰り広げる。「アッズーリ(青色)」と呼ばれるイタリアチームを指揮するのは、元世界チャンピオンのパオロ・ベッティーニ監督。チームはダニエーレ・ベンナーティ(レオパード・トレック)を軸に作戦を練る。
イタリアにはジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)やフランチェスコ・ガヴァッツィ(ランプレ・ISD)と言った「逃げで勝てる選手」を多数揃えており、積極的にレースを動かしてくるに違いない。
史上最多タイの世界選手権3勝を飾っているオスカル・フレイレ(ラボバンク)は、スペインチームのキャプテンとして前人未到の偉業に挑む。今年は目立った成績を残せていないが、登りでのパンチ力あるスプリントはフレイレ向き。不調の場合はホセホアキン・ロハス(モビスター)にスイッチするだろう。
ツールでステージ5勝を飾り、マイヨヴェールも手にしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)は「世界最速のスプリンター」だ。チャンスのある平坦コースだけに、モチベーション高くレースに備えているはず。スピード感のあるアシスト勢にリードされて、大集団でのスプリントに挑む。
ドイツはアンドレ・グライペル(オメガファーマ・ロット)がエースだが、今年ブレイクしたマルセル・キッテル(スキル・シマノ)とジョン・デゲンコルブ(HTC・ハイロード)の若手コンビも見逃せない。タイムトライアルで世界チャンピオンに輝いたトニ・マルティン(HTC・ハイロード)はスプリンターの良きアシストになる。
オーストラリアは今年ミラノ〜サンレモを制したマシュー・ゴス(HTC・ハイロード)のスプリント狙い。展開によってはハインリッヒ・ハウッスラー(ガーミン・サーヴェロ)の逃げで突破口を開く。
アメリカはタイラー・ファラー(ガーミン・サーヴェロ)、ロシアはデニス・ガリムジャノフ(カチューシャ)がエースという位置づけ。
今年絶好調のフィリップ・ジルベール(オメガファーマ・ロット)は、ブエルタでの手首骨折で戦線を離脱したトム・ボーネン(クイックステップ)に代わってベルギーのエースを務める。ジルベールの登りでのパンチ力は切れ味鋭く、現在最強クラシックレーサーとしての呼び声が高い。アタックでもスプリントでも勝利を狙えるが、今年のコースはジルベールが100%力を発揮する難易度ではない。
初出場のブエルタでステージ3勝を飾ってみせた怪物ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)にも要注意。プロ2年目の21歳が見せる底知れない強さが、再び世界を驚かす瞬間が来るかもしれない。
タイムトライアルで辛酸を嘗めたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)は、ロードレースでリベンジを狙う。調子は決して悪くなく、持ち前の独走力は他チームの作戦を狂わすだろう。
なお、ここまで名前を挙げた選手の中で、世界選手権の優勝経験者はフースホフトとフレイレだけ。その他の選手は表彰台にも登ったことがない。昨年の2位のマッティ・ブレシェル(デンマーク)と3位アラン・デーヴィス(オーストラリア)は欠場する。
日本代表は新城幸也(ユーロップカー)、別府史之(レディオシャック)、宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)の3名。昨年の世界選手権で9位に入った新城幸也の活躍に期待が集まるが、今年は別府史之と宮澤崇史も好調。宮澤崇史は「3人全員がエースとしてそれぞれスプリントできる国は他にない」と自信を見せる。
日本からはエリート男子3名の他に、エリート女子に全日本チャンピオンの萩原麻由子(サイクルベースあさひレーシング)がエントリー。ジュニア男子には清水太己(ブリヂストン・エスポワール)、内野直也(湘南ベルマーレ)、西村大輝(昭和第一学園高校)の3名が出場する。
エリート男子に出場する日本人3選手のコメントは別記事にてお伝えします。
text:Kei Tsuji in Copenhagen, Denmark
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