2011/07/15(金) - 20:04
ピレネー山岳初日、グランツールの王者コンタドールがシュレク兄弟のダブルアタックを受けて初めて見せた弱い姿。ヴォクレールは2004年のサプライズに続いてマイヨジョーヌを山岳でキープして再び驚かせた。
フランス人に期待が集まる"キャトーズ・ジュイエ"
7月14日はキャトーズ・ジュイエ=フランス革命記念日だ。このフランスのとって特別な日にいよいよ山岳初日を迎えたツール。プロトンは一路ピレネーを目指す。
フランスナショナルチャンピオンのシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)はこの日のためにスペシャル仕様のトリコロールカラーのエディメルクスの自転車を用意した。青・白・赤に彩られたバイクにまたがったシャバネルがひときわ輝く。しかし2010年ツールで輝かしい走りを披露したシャヴァネルも、第5ステージの落車で身体を痛めていて、まだ魅力的な走りができる状態ではない。
ロワ、ドラージュほかフランス人たちのアタックが目立つものの、まだここまででフランス人のステージ勝利がない。朝の選手紹介ではアナウンサーのダニエル・マンジャスさんからフランス人選手が現われるたびに激が飛ぶ。チーム総合では連日果敢な走りを披露するFDJが表彰される。
しかし、マイヨジョーヌはフランスいち人気者のトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)がキープしている。前日、今日のステージでマイヨジョーヌを失うことを宣言しているヴォクレール。しかし、「マイヨを守るために死力を尽くす走りはする」とも確かに言っていた。
ピレネーの冷気が吹くひまわり畑
フランスの誕生を祝う日。ピレネーへと向かう序盤の一帯は、なだらかな丘陵地帯が広がる向日葵の名所だ。
フランス語でも「トルネ・ソル」=太陽に向くという名前のつく向日葵の黄色い広大な畑は、例年この時期にちょうど最高の咲き具合となるのだ。プロトンが黄色い海を行く光景は、ツールを象徴する絵だ。
その絵を撮ろうとコースを先行。道傍でワイン片手に応援する陽気な人達に手を振りながら進むが、どうも向日葵に元気がない。天気は6分晴れ。日差しがあれば眩しいが、この日は晴れていても寒かった。気温は20度を下回っている。太陽が弱いと向日葵もうつむきがち。それでも海のように広がる薄黄色の丘を走るプロトンは十分美しい。
先頭に立つのは黄色と反対色の深緑で目立つユーロップカーだ。そして最後尾にマイヨジョーヌに身を包んだヴォクレールが走る。「今日で見納め」「バスチーユの置き土産」のはずだった...。
リュザルディダンで初めて苦しむ姿を見せたコンタドール
最初の山頂ゴール「リュザルディダン」は2003年の「百周年」ツールで訪れて以来の再訪だ。8年前のその日は、ツール・ド・フランスは史上もっとも感情的なステージのひとつになった。
ランス・アームストロングが道端で観客のもつミュゼット(サコッシュ)にハンドルを絡ませて落車、バスク人クライマーのイバン・マヨ(エウスカルテル)も落車。先頭に共にいたヤン・ウルリッヒやタイラー・ハミルトンらがアームストロングを待った。
しかしアームストロングは再びペダルから足をスリップさせ、落車しかけた。その後、立ち直ったアームストロングはアタックし、すべてのライバルを置き去りにして、マイヨジョーヌを着てのステージ優勝を遂げている。
その名勝負の峠で苦しんだのは他ならぬコンタドールだった。残り4kmからのフランク、そしてアンディのシュレク兄弟の交互のアタックに反応を見せていたが、最後にはアンディ、エヴァンス、バッソに遅れをとってしまった。フォームはぎこちなく、リズムが刻めない。力強いペダリングは見られず、遅れを喫して歯を食いしばる苦しい表情でゴールした。アンディ、エヴァンス、バッソらに遅れたタイム差は13秒。
狙って出場したグランツールをすべてものにしてきたコンタドールが、山岳で苦しむ姿を見せるのはこれが初めてのこと。現在最強のはずの山岳王の体調が、十分でないことが証明された。2度の落車で打った右膝の痛み? それともハードなジロ・デ・イタリアを走った疲労からの回復が遅れている?
昨年のツールでもコンタドールは最初の山岳ステージでアンディとサムエル・サンチェスのアタックを「見送り」、10秒のタイム差をつけられている。しかし、今回はそのときのポーカーゲームとは違う。
コンタドールは自分の弱さと、やはり落車の影響があることを認めた。しかしまだ希望を捨てていない発言だ。
コンタドールは言う「シュレク兄弟が二人で話し合うのをみて、注意はしていたんだ。だからあの動きがあるのは分かっていた。最後はあれが精一杯だった。ペダリングはいつものようにうまくはいかなかった。でも今の調子には満足しているよ。大丈夫、僕はこれから日に日に良くなる。今日は特別。僕はまだあの落車から回復中なんだ。
兄弟はふたりとも脅威だ。でも、フランクは今までで一番強くなっていると思う」。
シュレッキーズのサンドイッチ攻撃
アンディとフランクが繰り出した交互のアタックに、フランステレビジョンの解説者は、コンタドールがシュレク兄弟にサンドイッチにされていると命名した。それは兄弟の本来もっとも効果的な闘い方だ。
2010年ツールではフランクが序盤の石畳ステージで落車してリタイヤ。山岳をアンディひとりでコンタドールと闘ったが、兄弟2人が揃って攻撃できるのが本来の兄弟の最大の強みだ。まして今年はフランクの調子がいいことが明らかになった。力が揃った2人を前に、コンタドールはさらにタイム差というハンデを負っている。
そして崩れないエヴァンスに加え、バッソも浮上しきた。「コンタドールは今年いよいよ負けるな」という声がしきりに聞こえるようになってきた。
2度目のマイヨジョーヌ・マジック! ヴォクレールのフランス革命
今から7年前の2004年ツール・ド・フランス。マイヨジョーヌを着た25歳の若きヴォクレールは第13ステージのプラトー・ド・ベイユ山頂ゴールに向けてひとりでもがいていた。先頭のはるか先ではアームストロングとバッソのふたりが死闘を繰り広げていたが、ヴォクレールはジャージを全開にして胸をはだけ、崩れたフォームでひとりペダルを踏みしめていた。
「マイヨジョーヌを失う」と思われていたその山岳ステージで、ヴォクレールはふらふらになりながらもアームストロングに対して22秒差でマイヨ・ジョーヌを守りきった。
今日のヴォクレールの走りはその「イエローマジック」の再現。しかも、もっとスマートで、驚くべき走りだった。フランス革命の日にフランス人の勝利は「予想通り」実現しなかったが、「ヴォクレールは今日マイヨを失う」という予想を大きく裏切った嬉しい誤算だ。
ヴォクレール自身の頑張りと、ゴールまでアシストしたピエール・ロランをはじめとするチームメイトの働きがあった。この走りにはヴォクレール自身も驚く。
「僕にとってサプライズだ。ナイスなサプライズだね。このステージでこんな結果を期待していなかった。でも最大限の頑張りができた。僕は昨日『マイヨジョーヌを失うだろう』と言ったけど、『マイヨジョーヌを守るために必死に走る』とも言ったよ。
総合狙いの選手たちがアタックしたとき、僕がそこにいることが驚きだった。いつもなら彼らに着いていくことなどできない。残り8人になったチームの皆がよく頑張ってくれた。とくに最後の上りでとてつもない働きをしてくれたピエール・ロランはね!」。
ヴォクレールがこれほどまでに登れるのは誤算? いや、昨年の山岳が厳しい第15ステージでも、ヴォクレールは独走勝利を挙げている。ヴォクレールはジロでの走りを例に挙げて、グランツールの山岳ステージでも走れる力があることを示した。
「ときどき僕は自分の実力を低く評価するけど、僕はグランツール初心者じゃないんだ。2004年には『マイヨジョーヌが翼をくれる』と言われたけど、それは本当だった。もし20位でフィニッシュしてたら同じ苦しみの領域には達しなかっただろう。でも2009年と2010年のジロ・デ・イタリアでは、39x27Tみたいな大きなギアを使ういくつかのステージでもトップ10からそう遠くないところでフィニッシュしているんだ」。
ヴォクレールにとってはオービスク峠を越える明日のステージもマイヨジョーヌを守るチャンスがある。しかし、そこでの苦労も今日と同等のものになりそうだ。
ヘーシンク遅れる クレーデンに落車再び
総合成績を大きく落としたのはマイヨブランのロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)と、落車で遅れたアンドレアス・クレーデン(レディオシャック)だ。
ヘーシンクは最初の上りが始まるやいなや遅れだし、サポートしようとしたチームメイトのカルロス・バレドに「構わないでいい」と手を振った。ゴールに着いたときには18分を失い、マイヨブランとともに総合成績への期待も消え失せた。
第5ステージの落車で背中を痛めていたクレーデンは、傷が癒える間もなく再び落車して肩と脚から血を流しながらフィニッシュ。8分以上遅れ、総合成績への希望は完全に消えた。レディオシャックのもともと4人いたリーダーにあった総合への希望は、これですべて消えてしまった(ブライコヴィッチ=落車リタイア、ホーナー=落車リタイア、ライプハイマー=落車とパンクで遅れる、そしてクレーデン)。なんという不運のチーム!
怪我のためかやはり精彩を欠いたジョニー・フーガーランド(ヴァカンソレイユ)もマイヨ・ア・ポアを手放す結果になった。ツールは残酷だ。
タイムアウトになったガリムジャノフ
カチューシャのロシア人スプリンター、デニス・ガリムジャノフはこの日、プロトンで最初に遅れだし、ちょうど60分遅れでリュザルディダンにひとりでフィニッシュした。ロシア期待の若きスプリンターは、まだグランツールの山岳に対応できる身体ではなかった。
長い1日をあえぎながら終えてゴールし、ゴール後はハンドルに突っ伏し、言葉が出なかったガリムジャノフ。
チームはまだ若いガリムジャノフに対してもともとツール半ばでリタイアさせる予定だったという。
2010年ジャパンカップクリテリウムで2位になったガリムジャノフは、宇都宮での前夜祭で披露した「すっとぼけトーク」でちょっとした人気が出た選手。そして春のベルギーのステージレース KBCデパンヌ3日間レース第2ステージでプロ初勝利を挙げた際、日本滞在中に受けたホスピタリティーをもとに東北関東大震災で被災した日本へのメッセージを勝利者記者会見で表明し、共感を呼んだ。
日本のファンのためにリタイアの様子をお伝えしておこうと思う。
第13ステージは超級山岳オービスク峠を超え、フランスの聖地ルルドへとゴールする。この街に沸く「ルルドの泉」は病気や怪我を治癒する力があるとしてフランスじゅう、世界じゅうに有名だ。膝が痛いコンタドールや落車で負傷した選手たちも、ゴール後にぜひ泉のご利益に預かって欲しい。
photo&text:Makoto.AYANO
フランス人に期待が集まる"キャトーズ・ジュイエ"
7月14日はキャトーズ・ジュイエ=フランス革命記念日だ。このフランスのとって特別な日にいよいよ山岳初日を迎えたツール。プロトンは一路ピレネーを目指す。
フランスナショナルチャンピオンのシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)はこの日のためにスペシャル仕様のトリコロールカラーのエディメルクスの自転車を用意した。青・白・赤に彩られたバイクにまたがったシャバネルがひときわ輝く。しかし2010年ツールで輝かしい走りを披露したシャヴァネルも、第5ステージの落車で身体を痛めていて、まだ魅力的な走りができる状態ではない。
ロワ、ドラージュほかフランス人たちのアタックが目立つものの、まだここまででフランス人のステージ勝利がない。朝の選手紹介ではアナウンサーのダニエル・マンジャスさんからフランス人選手が現われるたびに激が飛ぶ。チーム総合では連日果敢な走りを披露するFDJが表彰される。
しかし、マイヨジョーヌはフランスいち人気者のトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)がキープしている。前日、今日のステージでマイヨジョーヌを失うことを宣言しているヴォクレール。しかし、「マイヨを守るために死力を尽くす走りはする」とも確かに言っていた。
ピレネーの冷気が吹くひまわり畑
フランスの誕生を祝う日。ピレネーへと向かう序盤の一帯は、なだらかな丘陵地帯が広がる向日葵の名所だ。
フランス語でも「トルネ・ソル」=太陽に向くという名前のつく向日葵の黄色い広大な畑は、例年この時期にちょうど最高の咲き具合となるのだ。プロトンが黄色い海を行く光景は、ツールを象徴する絵だ。
その絵を撮ろうとコースを先行。道傍でワイン片手に応援する陽気な人達に手を振りながら進むが、どうも向日葵に元気がない。天気は6分晴れ。日差しがあれば眩しいが、この日は晴れていても寒かった。気温は20度を下回っている。太陽が弱いと向日葵もうつむきがち。それでも海のように広がる薄黄色の丘を走るプロトンは十分美しい。
先頭に立つのは黄色と反対色の深緑で目立つユーロップカーだ。そして最後尾にマイヨジョーヌに身を包んだヴォクレールが走る。「今日で見納め」「バスチーユの置き土産」のはずだった...。
リュザルディダンで初めて苦しむ姿を見せたコンタドール
最初の山頂ゴール「リュザルディダン」は2003年の「百周年」ツールで訪れて以来の再訪だ。8年前のその日は、ツール・ド・フランスは史上もっとも感情的なステージのひとつになった。
ランス・アームストロングが道端で観客のもつミュゼット(サコッシュ)にハンドルを絡ませて落車、バスク人クライマーのイバン・マヨ(エウスカルテル)も落車。先頭に共にいたヤン・ウルリッヒやタイラー・ハミルトンらがアームストロングを待った。
しかしアームストロングは再びペダルから足をスリップさせ、落車しかけた。その後、立ち直ったアームストロングはアタックし、すべてのライバルを置き去りにして、マイヨジョーヌを着てのステージ優勝を遂げている。
その名勝負の峠で苦しんだのは他ならぬコンタドールだった。残り4kmからのフランク、そしてアンディのシュレク兄弟の交互のアタックに反応を見せていたが、最後にはアンディ、エヴァンス、バッソに遅れをとってしまった。フォームはぎこちなく、リズムが刻めない。力強いペダリングは見られず、遅れを喫して歯を食いしばる苦しい表情でゴールした。アンディ、エヴァンス、バッソらに遅れたタイム差は13秒。
狙って出場したグランツールをすべてものにしてきたコンタドールが、山岳で苦しむ姿を見せるのはこれが初めてのこと。現在最強のはずの山岳王の体調が、十分でないことが証明された。2度の落車で打った右膝の痛み? それともハードなジロ・デ・イタリアを走った疲労からの回復が遅れている?
昨年のツールでもコンタドールは最初の山岳ステージでアンディとサムエル・サンチェスのアタックを「見送り」、10秒のタイム差をつけられている。しかし、今回はそのときのポーカーゲームとは違う。
コンタドールは自分の弱さと、やはり落車の影響があることを認めた。しかしまだ希望を捨てていない発言だ。
コンタドールは言う「シュレク兄弟が二人で話し合うのをみて、注意はしていたんだ。だからあの動きがあるのは分かっていた。最後はあれが精一杯だった。ペダリングはいつものようにうまくはいかなかった。でも今の調子には満足しているよ。大丈夫、僕はこれから日に日に良くなる。今日は特別。僕はまだあの落車から回復中なんだ。
兄弟はふたりとも脅威だ。でも、フランクは今までで一番強くなっていると思う」。
シュレッキーズのサンドイッチ攻撃
アンディとフランクが繰り出した交互のアタックに、フランステレビジョンの解説者は、コンタドールがシュレク兄弟にサンドイッチにされていると命名した。それは兄弟の本来もっとも効果的な闘い方だ。
2010年ツールではフランクが序盤の石畳ステージで落車してリタイヤ。山岳をアンディひとりでコンタドールと闘ったが、兄弟2人が揃って攻撃できるのが本来の兄弟の最大の強みだ。まして今年はフランクの調子がいいことが明らかになった。力が揃った2人を前に、コンタドールはさらにタイム差というハンデを負っている。
そして崩れないエヴァンスに加え、バッソも浮上しきた。「コンタドールは今年いよいよ負けるな」という声がしきりに聞こえるようになってきた。
2度目のマイヨジョーヌ・マジック! ヴォクレールのフランス革命
今から7年前の2004年ツール・ド・フランス。マイヨジョーヌを着た25歳の若きヴォクレールは第13ステージのプラトー・ド・ベイユ山頂ゴールに向けてひとりでもがいていた。先頭のはるか先ではアームストロングとバッソのふたりが死闘を繰り広げていたが、ヴォクレールはジャージを全開にして胸をはだけ、崩れたフォームでひとりペダルを踏みしめていた。
「マイヨジョーヌを失う」と思われていたその山岳ステージで、ヴォクレールはふらふらになりながらもアームストロングに対して22秒差でマイヨ・ジョーヌを守りきった。
今日のヴォクレールの走りはその「イエローマジック」の再現。しかも、もっとスマートで、驚くべき走りだった。フランス革命の日にフランス人の勝利は「予想通り」実現しなかったが、「ヴォクレールは今日マイヨを失う」という予想を大きく裏切った嬉しい誤算だ。
ヴォクレール自身の頑張りと、ゴールまでアシストしたピエール・ロランをはじめとするチームメイトの働きがあった。この走りにはヴォクレール自身も驚く。
「僕にとってサプライズだ。ナイスなサプライズだね。このステージでこんな結果を期待していなかった。でも最大限の頑張りができた。僕は昨日『マイヨジョーヌを失うだろう』と言ったけど、『マイヨジョーヌを守るために必死に走る』とも言ったよ。
総合狙いの選手たちがアタックしたとき、僕がそこにいることが驚きだった。いつもなら彼らに着いていくことなどできない。残り8人になったチームの皆がよく頑張ってくれた。とくに最後の上りでとてつもない働きをしてくれたピエール・ロランはね!」。
ヴォクレールがこれほどまでに登れるのは誤算? いや、昨年の山岳が厳しい第15ステージでも、ヴォクレールは独走勝利を挙げている。ヴォクレールはジロでの走りを例に挙げて、グランツールの山岳ステージでも走れる力があることを示した。
「ときどき僕は自分の実力を低く評価するけど、僕はグランツール初心者じゃないんだ。2004年には『マイヨジョーヌが翼をくれる』と言われたけど、それは本当だった。もし20位でフィニッシュしてたら同じ苦しみの領域には達しなかっただろう。でも2009年と2010年のジロ・デ・イタリアでは、39x27Tみたいな大きなギアを使ういくつかのステージでもトップ10からそう遠くないところでフィニッシュしているんだ」。
ヴォクレールにとってはオービスク峠を越える明日のステージもマイヨジョーヌを守るチャンスがある。しかし、そこでの苦労も今日と同等のものになりそうだ。
ヘーシンク遅れる クレーデンに落車再び
総合成績を大きく落としたのはマイヨブランのロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)と、落車で遅れたアンドレアス・クレーデン(レディオシャック)だ。
ヘーシンクは最初の上りが始まるやいなや遅れだし、サポートしようとしたチームメイトのカルロス・バレドに「構わないでいい」と手を振った。ゴールに着いたときには18分を失い、マイヨブランとともに総合成績への期待も消え失せた。
第5ステージの落車で背中を痛めていたクレーデンは、傷が癒える間もなく再び落車して肩と脚から血を流しながらフィニッシュ。8分以上遅れ、総合成績への希望は完全に消えた。レディオシャックのもともと4人いたリーダーにあった総合への希望は、これですべて消えてしまった(ブライコヴィッチ=落車リタイア、ホーナー=落車リタイア、ライプハイマー=落車とパンクで遅れる、そしてクレーデン)。なんという不運のチーム!
怪我のためかやはり精彩を欠いたジョニー・フーガーランド(ヴァカンソレイユ)もマイヨ・ア・ポアを手放す結果になった。ツールは残酷だ。
タイムアウトになったガリムジャノフ
カチューシャのロシア人スプリンター、デニス・ガリムジャノフはこの日、プロトンで最初に遅れだし、ちょうど60分遅れでリュザルディダンにひとりでフィニッシュした。ロシア期待の若きスプリンターは、まだグランツールの山岳に対応できる身体ではなかった。
長い1日をあえぎながら終えてゴールし、ゴール後はハンドルに突っ伏し、言葉が出なかったガリムジャノフ。
チームはまだ若いガリムジャノフに対してもともとツール半ばでリタイアさせる予定だったという。
2010年ジャパンカップクリテリウムで2位になったガリムジャノフは、宇都宮での前夜祭で披露した「すっとぼけトーク」でちょっとした人気が出た選手。そして春のベルギーのステージレース KBCデパンヌ3日間レース第2ステージでプロ初勝利を挙げた際、日本滞在中に受けたホスピタリティーをもとに東北関東大震災で被災した日本へのメッセージを勝利者記者会見で表明し、共感を呼んだ。
日本のファンのためにリタイアの様子をお伝えしておこうと思う。
第13ステージは超級山岳オービスク峠を超え、フランスの聖地ルルドへとゴールする。この街に沸く「ルルドの泉」は病気や怪我を治癒する力があるとしてフランスじゅう、世界じゅうに有名だ。膝が痛いコンタドールや落車で負傷した選手たちも、ゴール後にぜひ泉のご利益に預かって欲しい。
photo&text:Makoto.AYANO
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