2011/07/15(金) - 11:29
ピレネー山岳シリーズの初日となった第12ステージは、最後のリュザルディダンでメイン集団から飛び出したサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)が先行する選手をすべてかわし勝利した。総合争いではコンタドールが遅れる波乱も。
ここまで総合でタイム差がつくような山岳ステージはわずかひとつ。しかし第8ステージのシュペル・ベッスの登りゴールは、総合を狙う選手にとってそう難易度の高いものではなかった。今ツール初の超級山岳が2つお目見えするこの第12ステージで、ついに総合上位陣の闘いが始まった。
クニョーからリュザルディダンまでの211kmには、ツール初登場の1級山岳ウルケット・ダンシザン、お馴染み超級のツールマレ峠、そしてリュザルディダン山頂ゴールが含まれる。この日、ヒザを痛めていたスプリンターのロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM)はスタートせず。177名がピレネー山脈を目指す。
スタート直後に決まった逃げは6名のグループを形成。メンバーは、ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)、ローラン・マンジェル(フランス、ソール・ソジャサン)、ルーベン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)、ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、モビスター)。
メイン集団のコントロールはマイヨ・ジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス)を擁するユーロップカー。全ての選手が総出で集団を牽引する。レース後半にカテゴリー山岳が集中するため、集団は逃げる6人との差を積極的に詰めることはなく、レース半分の地点でタイム差は9分まで開く。
119km地点の中間スプリントポイントは、マンジェルが先頭で通過。今日からマイヨ・ヴェールを着るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)がチームメイトのアシストを受けて7番手通過となるメイン集団の先頭を獲る。カヴェンディッシュはさらにポイントのリードを広げることに成功した。
141km地点の1級山岳ウルケット・ダンシザンへの登りで、先頭グループからはグティエレスが遅れる。ユーロップカーのコントロールする集団から最初に動いたのは、山岳賞ジャージを着るジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)。これにフランスチャンピオンジャージを着るシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、少し遅れてロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)が合流し、3名の追走グループが形成される。
だが第9ステージの落車で30針以上を縫ったフーガーランドが、クロイツィゲルのペースについていけない。こころなしかペダリングも足をかばうようでぎこちない。先頭では、マンジェルがトップで山頂を通過。下りに入る。
この下りの砂利の浮いたコーナーで、先頭の5人からトーマスが後輪を滑らせて落車。なんとか復帰したトーマスは次のコーナーでも曲がりきれず、スリッピーな下りに苦しむ。3分54秒遅れで先頭を追うシャヴァネルとクロイツィゲルにはトラブルは無かったものの、5分49秒遅れのメイン集団も下りのコーナーで落車。マイヨ・ジョーヌのヴォクレール、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)、ピーター・ベリトス(スロバキア、HTC・ハイロード)といった総合上位の選手が巻き込まれる事態に。
下りを終えると次に待つのは超級山岳ツールマレ峠。この登り口で追い上げてきたトーマスが、グティエレスを伴い先頭に合流。再び先頭グループは6名に。このツールマレ峠に入ったところで、メイン集団のコントロール権はレオパード・トレックに移る。総合狙いの選手も軒並み前へと出て、緊張が高まる。
ツールマレの麓では、第2グループのシャヴァネルがクロイツィゲルから遅れ出す。フランス革命記念日であるこの日、フランスチャンピオンジャージを着るシャヴァネル入魂の走りだったが、クロイツィゲルの登坂力が勝る。メイン集団では早くも新人賞ジャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が遅れ始める。
レオパード・トレックが引く集団のスピードの餌食になったのは他にもトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)、クリスチャン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)、落車に苦しむクレーデンら。
先頭はトーマスとロワが2人に。ツールマレ山頂をトップ通過したのはロワ。クロイツィゲルは一時1分を切るまで先頭に迫ったが、山頂を待たずしてペースが落ちはじめる。結局ツールマレ山頂を2分12秒差での通過となった。集団ではローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)がアタックで飛び出して山頂を通過。レオパード・トレックのコントロールのもと、集団も下りへ入る。
この下りで集団から飛び出したのがフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。チームメイトのイェーレ・ファネンデルト(ベルギー)、機を伺っていた下りのスペシャリストサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)を伴ってクロイツィゲルに合流する。ツールマレで抜け出した選手たちと6名ほどの第2グループを形成する。
残り13kmでリュザルディダンの登りに入る時もユーロップカーのアシスト選手がヴォクレールを集団の前で走らせる。すでに40人ほどまでに人数が絞られたメイン集団にあって、ヴォクレールは余裕を持って他の選手の動きに目を光らせる。
残り10kmでサンチェスが追走グループからアタック。これについていけたのは、ファネンデルトのみ。2人で、先頭のトーマスとロワを追い込む。メイン集団では山岳仕事人シルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス・キャノンデール)がエースのイヴァン・バッソ(イタリア)と話をしたのちに、集団を牽引。速いテンポで集団にセレクションをかける。
残り7.7kmでサンチェスとファネンデルトは先頭に追いつき、そして抜きさっていく。快調にペースを刻む2人はシュミットの引く集団に対してさえタイム差を少しずつ開いていく。残り5kmでその差は1分12秒。
そしていよいよ総合狙いの選手が動く。残り4kmで口火を切るアタックをしたのはアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)。すかさずアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク)がチェックに入るが、そこからカウンターで兄フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がアタックをかぶせる。
この動きはバッソが対処。そのままペースを上げて、逆に集団に揺さぶりをかける。メイン集団の総攻撃に遭うコンタドールは自分からは動かない。マイヨ・ジョーヌのヴォクレールはこの総合上位陣10人ほどの集団にアシストのピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)と共に位置する。
ペースアップとダウンを繰り返すメイン集団から、残り2.5kmでフランクが再度アタック。これまでの様子見ではなく、スピードにのった渾身の攻撃だ。これには誰もついていけない。残り1.8kmでバッソが再びペースアップを図るが、この動きはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)がチェック。残り1.5kmではエヴァンスがアタックするが、バッソやアンディ、コンタドール、ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)を放すには至らない。
残り500mで先頭の2人の後ろにはフランクが迫る。残り300mで、サンチェスがアタックすると、ファネンデルトはついていけない。スピードにのったサンチェスはそのまま単独でリュザルディダン山頂にゴール。天を指差し、力強いガッツポーズで自身のツール初勝利を喜んだ。
7秒遅れの2位にファネンデルト。スペシャリストに伍して闘う走りでエース不在のチームに好材料をもたらした。追い込んだフランクは10秒差の3位に入った。そして最後のコーナーを抜けやってきたメイングループには、なんとコンタドールの姿がない。30秒遅れでゴールしたのはバッソ、エヴァンス、アンディのみ。クネゴが35秒遅れで続き、コンタドールは43秒遅れでゴールした。
マイヨ・ジョーヌのヴォクレールはコンタドールからわずか7秒、サンチェスから50秒遅れでゴールに飛び込んだ。最後までアシストとして付き添ったロランとゴール後にお互いの健闘を讃え合う。大方の予想に反してヴォクレールが見事なマイヨ・ジョーヌ堅守を果たした。
この日を終えて、フランクが総合2位にジャンプアップ。この日上位でゴールした選手が軒並み総合トップ10に顔を揃えた。コンタドール、サンチェスもそれぞれ総合7、8位まで順位を上げている。
翌第13ステージもピレネーを走る山岳ステージ。レース中盤過ぎに超級のオービスク峠があるが、そこから40kmをダウンヒルでゴールするため、総合狙いの選手が積極的に動くとは考えにくい。タイムを失い続けるコンタドールにとっては奇襲をかける恰好の機会とも言える。
優勝したサミュエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
「ツールマレの下りでジルベールがアシスト選手と差を開いた時に、自分も行った。僕もルーベン・ペレスというチームメイトが前にいたから、いいタイミングだった。シュレク兄弟にもコンタドールにもアシスト選手が残ってなかったから、僕が行っても追いかけて来ないとはわかっていたんだ。感動で胸がいっぱいの一日だ。だって僕らの同郷人たちによる「オレンジの海」の中を走ったのだから。それに今日はロベルト・ライセカの勝利を僕らでここで祝うことができた(ライセカは10年前にリュザルディダンでステージ優勝している)。だからスペシャルな勝利なんだ、これは。」
マイヨ・ジョーヌを守ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)
「チームメイトは一日中働いてくれたけど、とりわけリュザルディダンの登りをずっと助けてくれたピエール・ロランの働きは特筆すべきだ。僕がこの位置でゴールしたことを、僕自身はそこまで驚いてはいない。でも登りながら残り10km、残り5km…と標識を見るたびにびくびくしていたよ!昨日、マイヨ・ジョーヌを失うつもりだよ、と言ったのは本心だったんだ。だけど、守るために全力を尽くすとも言った。マイヨが僕を強くはしてくれないけど、苦しみのその先へと向かわせる、より高次のモチベーションを与えてくれた。いつもなら20位前後でゴールするのにも苦労するけれど、マイヨジョーヌを着るとそれは可能になる。」
ツール・ド・フランス2011第12ステージ結果
1位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 6h01'15"
2位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +07"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) +30"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +35"
8位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +43"
9位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) +50"
10位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) 51h54'44"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'49"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +2'06"
4位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'17"
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +3'16"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +3'22"
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +4'00"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'11"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +4'35"
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +4'57"
17位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) +7'51"
24位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック) +10'19"
26位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) +10'51"
39位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +20'55"
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) 260pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター) 242pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 234pts
山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 22pts
2位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 17pts
3位 ジェレミー・ロワ(フランス、フランセーズデジュー) 5pts
新人賞 マイヨ・ブラン
1位 アルノー・ジャネソン(フランス、FDJ) 52h00'34"
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス) +1'37"
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) +2'05"
チーム総合成績
1位 レオパード・トレック 155h09'18"
2位 ユーロップカー +1'05"
3位 アージェードゥーゼル +2'21"
敢闘賞
ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
text:Yufta Omata
photo:Makoto Ayano, Cor Vos
ここまで総合でタイム差がつくような山岳ステージはわずかひとつ。しかし第8ステージのシュペル・ベッスの登りゴールは、総合を狙う選手にとってそう難易度の高いものではなかった。今ツール初の超級山岳が2つお目見えするこの第12ステージで、ついに総合上位陣の闘いが始まった。
クニョーからリュザルディダンまでの211kmには、ツール初登場の1級山岳ウルケット・ダンシザン、お馴染み超級のツールマレ峠、そしてリュザルディダン山頂ゴールが含まれる。この日、ヒザを痛めていたスプリンターのロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM)はスタートせず。177名がピレネー山脈を目指す。
スタート直後に決まった逃げは6名のグループを形成。メンバーは、ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)、ローラン・マンジェル(フランス、ソール・ソジャサン)、ルーベン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)、ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、モビスター)。
メイン集団のコントロールはマイヨ・ジョーヌのトマ・ヴォクレール(フランス)を擁するユーロップカー。全ての選手が総出で集団を牽引する。レース後半にカテゴリー山岳が集中するため、集団は逃げる6人との差を積極的に詰めることはなく、レース半分の地点でタイム差は9分まで開く。
119km地点の中間スプリントポイントは、マンジェルが先頭で通過。今日からマイヨ・ヴェールを着るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)がチームメイトのアシストを受けて7番手通過となるメイン集団の先頭を獲る。カヴェンディッシュはさらにポイントのリードを広げることに成功した。
141km地点の1級山岳ウルケット・ダンシザンへの登りで、先頭グループからはグティエレスが遅れる。ユーロップカーのコントロールする集団から最初に動いたのは、山岳賞ジャージを着るジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)。これにフランスチャンピオンジャージを着るシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、少し遅れてロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)が合流し、3名の追走グループが形成される。
だが第9ステージの落車で30針以上を縫ったフーガーランドが、クロイツィゲルのペースについていけない。こころなしかペダリングも足をかばうようでぎこちない。先頭では、マンジェルがトップで山頂を通過。下りに入る。
この下りの砂利の浮いたコーナーで、先頭の5人からトーマスが後輪を滑らせて落車。なんとか復帰したトーマスは次のコーナーでも曲がりきれず、スリッピーな下りに苦しむ。3分54秒遅れで先頭を追うシャヴァネルとクロイツィゲルにはトラブルは無かったものの、5分49秒遅れのメイン集団も下りのコーナーで落車。マイヨ・ジョーヌのヴォクレール、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)、ピーター・ベリトス(スロバキア、HTC・ハイロード)といった総合上位の選手が巻き込まれる事態に。
下りを終えると次に待つのは超級山岳ツールマレ峠。この登り口で追い上げてきたトーマスが、グティエレスを伴い先頭に合流。再び先頭グループは6名に。このツールマレ峠に入ったところで、メイン集団のコントロール権はレオパード・トレックに移る。総合狙いの選手も軒並み前へと出て、緊張が高まる。
ツールマレの麓では、第2グループのシャヴァネルがクロイツィゲルから遅れ出す。フランス革命記念日であるこの日、フランスチャンピオンジャージを着るシャヴァネル入魂の走りだったが、クロイツィゲルの登坂力が勝る。メイン集団では早くも新人賞ジャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が遅れ始める。
レオパード・トレックが引く集団のスピードの餌食になったのは他にもトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)、クリスチャン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)、落車に苦しむクレーデンら。
先頭はトーマスとロワが2人に。ツールマレ山頂をトップ通過したのはロワ。クロイツィゲルは一時1分を切るまで先頭に迫ったが、山頂を待たずしてペースが落ちはじめる。結局ツールマレ山頂を2分12秒差での通過となった。集団ではローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)がアタックで飛び出して山頂を通過。レオパード・トレックのコントロールのもと、集団も下りへ入る。
この下りで集団から飛び出したのがフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。チームメイトのイェーレ・ファネンデルト(ベルギー)、機を伺っていた下りのスペシャリストサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)を伴ってクロイツィゲルに合流する。ツールマレで抜け出した選手たちと6名ほどの第2グループを形成する。
残り13kmでリュザルディダンの登りに入る時もユーロップカーのアシスト選手がヴォクレールを集団の前で走らせる。すでに40人ほどまでに人数が絞られたメイン集団にあって、ヴォクレールは余裕を持って他の選手の動きに目を光らせる。
残り10kmでサンチェスが追走グループからアタック。これについていけたのは、ファネンデルトのみ。2人で、先頭のトーマスとロワを追い込む。メイン集団では山岳仕事人シルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス・キャノンデール)がエースのイヴァン・バッソ(イタリア)と話をしたのちに、集団を牽引。速いテンポで集団にセレクションをかける。
残り7.7kmでサンチェスとファネンデルトは先頭に追いつき、そして抜きさっていく。快調にペースを刻む2人はシュミットの引く集団に対してさえタイム差を少しずつ開いていく。残り5kmでその差は1分12秒。
そしていよいよ総合狙いの選手が動く。残り4kmで口火を切るアタックをしたのはアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)。すかさずアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク)がチェックに入るが、そこからカウンターで兄フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がアタックをかぶせる。
この動きはバッソが対処。そのままペースを上げて、逆に集団に揺さぶりをかける。メイン集団の総攻撃に遭うコンタドールは自分からは動かない。マイヨ・ジョーヌのヴォクレールはこの総合上位陣10人ほどの集団にアシストのピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)と共に位置する。
ペースアップとダウンを繰り返すメイン集団から、残り2.5kmでフランクが再度アタック。これまでの様子見ではなく、スピードにのった渾身の攻撃だ。これには誰もついていけない。残り1.8kmでバッソが再びペースアップを図るが、この動きはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)がチェック。残り1.5kmではエヴァンスがアタックするが、バッソやアンディ、コンタドール、ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)を放すには至らない。
残り500mで先頭の2人の後ろにはフランクが迫る。残り300mで、サンチェスがアタックすると、ファネンデルトはついていけない。スピードにのったサンチェスはそのまま単独でリュザルディダン山頂にゴール。天を指差し、力強いガッツポーズで自身のツール初勝利を喜んだ。
7秒遅れの2位にファネンデルト。スペシャリストに伍して闘う走りでエース不在のチームに好材料をもたらした。追い込んだフランクは10秒差の3位に入った。そして最後のコーナーを抜けやってきたメイングループには、なんとコンタドールの姿がない。30秒遅れでゴールしたのはバッソ、エヴァンス、アンディのみ。クネゴが35秒遅れで続き、コンタドールは43秒遅れでゴールした。
マイヨ・ジョーヌのヴォクレールはコンタドールからわずか7秒、サンチェスから50秒遅れでゴールに飛び込んだ。最後までアシストとして付き添ったロランとゴール後にお互いの健闘を讃え合う。大方の予想に反してヴォクレールが見事なマイヨ・ジョーヌ堅守を果たした。
この日を終えて、フランクが総合2位にジャンプアップ。この日上位でゴールした選手が軒並み総合トップ10に顔を揃えた。コンタドール、サンチェスもそれぞれ総合7、8位まで順位を上げている。
翌第13ステージもピレネーを走る山岳ステージ。レース中盤過ぎに超級のオービスク峠があるが、そこから40kmをダウンヒルでゴールするため、総合狙いの選手が積極的に動くとは考えにくい。タイムを失い続けるコンタドールにとっては奇襲をかける恰好の機会とも言える。
優勝したサミュエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
「ツールマレの下りでジルベールがアシスト選手と差を開いた時に、自分も行った。僕もルーベン・ペレスというチームメイトが前にいたから、いいタイミングだった。シュレク兄弟にもコンタドールにもアシスト選手が残ってなかったから、僕が行っても追いかけて来ないとはわかっていたんだ。感動で胸がいっぱいの一日だ。だって僕らの同郷人たちによる「オレンジの海」の中を走ったのだから。それに今日はロベルト・ライセカの勝利を僕らでここで祝うことができた(ライセカは10年前にリュザルディダンでステージ優勝している)。だからスペシャルな勝利なんだ、これは。」
マイヨ・ジョーヌを守ったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)
「チームメイトは一日中働いてくれたけど、とりわけリュザルディダンの登りをずっと助けてくれたピエール・ロランの働きは特筆すべきだ。僕がこの位置でゴールしたことを、僕自身はそこまで驚いてはいない。でも登りながら残り10km、残り5km…と標識を見るたびにびくびくしていたよ!昨日、マイヨ・ジョーヌを失うつもりだよ、と言ったのは本心だったんだ。だけど、守るために全力を尽くすとも言った。マイヨが僕を強くはしてくれないけど、苦しみのその先へと向かわせる、より高次のモチベーションを与えてくれた。いつもなら20位前後でゴールするのにも苦労するけれど、マイヨジョーヌを着るとそれは可能になる。」
ツール・ド・フランス2011第12ステージ結果
1位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 6h01'15"
2位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +07"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) +30"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +35"
8位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +43"
9位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) +50"
10位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) 51h54'44"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'49"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +2'06"
4位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'17"
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +3'16"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +3'22"
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +4'00"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'11"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) +4'35"
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) +4'57"
17位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) +7'51"
24位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック) +10'19"
26位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) +10'51"
39位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) +20'55"
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) 260pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター) 242pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 234pts
山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 22pts
2位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 17pts
3位 ジェレミー・ロワ(フランス、フランセーズデジュー) 5pts
新人賞 マイヨ・ブラン
1位 アルノー・ジャネソン(フランス、FDJ) 52h00'34"
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス) +1'37"
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) +2'05"
チーム総合成績
1位 レオパード・トレック 155h09'18"
2位 ユーロップカー +1'05"
3位 アージェードゥーゼル +2'21"
敢闘賞
ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
text:Yufta Omata
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