2011/07/03(日) - 06:59
現在全日本選手権3連覇中、日本のエースXCライダー山本幸平。彼のフィードバックにより、前作のカーボンXCバイクXHM9をブラッシュアップし、現在のサーキット仕様に進化を遂げたのがアンカーXIS9だ。
アンカー XIS9 レーシングレッド (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
この数年のクロスカントリーシーンの変化には目を見張るものがある。フロントサスペンションのストローク量は増大し、ライザーバーの使用が主流に。29erやフルサス化など、ロードレースシーン以上に機材面での対応がメーカーには要求されると言っても過言ではない。
ワールドレベルのサーキットで走る全日本チャンピオン山本幸平が、今世界で戦うバイクとして生まれたのがこのXIS9だ。先日行われたアジア選手権ではこのバイクによって大会3連覇を果たし、ロンドン五輪枠を獲得している。早くも結果を残したXIS9。前作XHM9からの進化に注目しながらそのディテールに迫ってみよう。
ヘッド周りの剛性強化のためにトップチューブ・ダウンチューブともに形状の変更がなされた
ヘッドは下ワン・ワンポイントファイブを採用し、剛性を高める。選手にもっとも要望の多かった箇所だという
現在のXCシーンで標準の100mmトラベルのサスペンションに対応するためにヘッドが前作よりも立っている
「イノベート・スティフネス」を開発テーマに掲げるXIS9。“剛性を革新する”の言葉は、これまでのXCフレームの常識であったBB部の高剛性化ではなく、ハンドリングなど操作面に関わる剛性の向上を意味する。ワールドクラスのレースにおいて、ハンドリング剛性の欠如がダウンヒルでのタイムロスにつながることを痛感した山本の要望が、このテーマを生んだのだ。
シートステーの形状は2本タイプに。トップチューブと合わせてフレーム上部の剛性を高める
三角断面形状になったトップチューブ。フレーム上部の剛性を求めた結果だ
前作XHM9では菱形の断面であったトップチューブを、三角断面に変更。合わせてシートステー上部がモノステーから2本タイプに変更された。これによってフレーム上部の横剛性を強化。さらに選手からの「絶対の要望」であったヘッド下ワンのワンポイントファイブ化は、ヘッド周りの剛性を効果的に向上させた。
ヘッドの下部が大径化したことを受けて、続くダウンチューブの形状もリファインされた。とりわけボックス化されたボリューム感満点の接合部は、前モデルの「ドラゴンクローヘッド」と見た目を比べても、剛性感に富んでいるのが瞭然としてる。ハンドリング性能を高めるための高剛性化は、トップチューブ、ダウンチューブともに設計を見直すことで実現した。
三角断面になったトップチューブとボックス化されたダウンチューブの接合するヘッド周り。独特の形状で剛性を高めた
ヘッド下部の形状変更に伴い、ダウンチューブも前方がボックス化され、強度が高まった
さらにヘッドは前作よりも起きた角度が採用された。これは前作の発売時期には80mmストロークのフロントサスペンションが主流だったが、現在は100mmが主流であることを受けたもの。ロングストロークのフォークをあてがった時に、機敏なハンドリングができるようアップデートされている。
BB部の剛性は前モデルXHM9と同様のコンセプトで適度なところに留められている。これはレース後半のライダーの脚を温存するため
リア三角の剛性も前三角とのバランスをとるために高められた。曲線的なステーに注目
一方でBBの剛性はほぼ据え置き。これはアンカーの設計思想である「脚力を温存できるBBの剛性感」を重視してのもの。XHM9でほぼ完成の域に達した横剛性は、若干のダウンチューブ形状の見直しを経てそのまま受け継がれた。前作がすでに高いレベルのXCマシンであったことを物語る。
フロントの剛性強化に重点が置かれたが、バイク全体のバランスを無視してはレーシングバイクたりえない。前三角の剛性が高すぎると、コーナーリングで後三角がねじれ、バイクの前後で違ったラインを走らざるをえなくなる。前後輪共にライダーが思い描くライン取りのコーナーリングのために、前後で同調するねじれ剛性がフレームにもたらされた。
前三角に負けない剛性を確保した後三角は、同時に泥詰まりに強い日本のサーキットも見据えた設計
フロントディレーラーは泥詰まりに強いダウンスイングタイプを採用している
マッディな日本の環境にも対応するタイヤクリアランスを確保している
剛性が高まったフロントに合わせて、リアの剛性も調整された。フレーム全体のバランスをとるために、カーボンの配合や積層方法まで見直しを図った。
アンカーらしいリアの艶かしい曲線はそのままに、コントロール性能に優れるニューフラッグシップXCマシンが完成した。
フレームサイズはあらゆるライダーの要求に応える380mm、440mm、500mm(センター~トップ)の3サイズ展開だ。女性や小柄なレーサーにとっても最適なライディングポジションを約束する。カラーは写真のレーシングレッドとレーシングブラックの2色。さらにシングルカラーでは実に36色の中から選べる。XIS9は、レースというライダーの個性を主張する場において最高の相棒になることだろう。重量は完成車ペダル無しで9.3kg(500mm)となっている。
サドルにはフィジーク・ツンドラ2
ハンドルは580mm幅のリッチー
サスペンションはロックショックスSID RLT(100mm)タイヤはもちろんブリヂストンEXTENZA
これからご登場願う2人の店長ライダーはかつて日本を代表するマウンテンバイクレーサーとして活躍した経歴の持ち主。当然のことながらXCバイクには一家言ある。どんなインプレッションが飛び出すのだろうかーーー。
ーインプレッション
「フレーム・サス・ホイールが一体となる絶妙なバランスのレースバイク」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
「フレーム・サス・ホイールが一体となる絶妙なバランスのレースバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 試乗車のサイズが自分にドンピシャで、しっかり乗ることができました。前作XHM9はヘッドがすごく寝ていて、比べるとハンドリングがもたつく印象があったのですが、BBの位置を下げたことも関係してか、XIS9は「安定している」という実感です。
ギアをかけて登ったり、走りたいバイクですね。フレームだけの設計というよりは、サスペンションとホイール、タイヤの全体でパッケージングされているというか…このバランスは絶妙ですね。
剛性の高いホイールではタテの突き上げがキツく感じることがあるのですが、そのカドがうまくとれている。タイヤもクッション性が高く、倒し込んでも平らになっている感じ。路面にくっついて重くなるのではなく、どんな角度でも軽さを維持できます。
タテの振動収束性能は高いですが、これはやはりレースバイク。路面が比較的スムーズなところでスピードを出した時に安定感が生まれます。「デイパックを背負って一日里山ライド」という用途にはレーシーすぎるきらいがあるかもしれません。
重量も軽く、操作性はクイックではないけれど思い通りのラインを走れる素直さがある。クセの無いバイクです。前モデルにも乗ったことがあるけれど、そのときはちょっとクセを感じました。低速の登りでハンドルが振れるような感じがあったのですが、このバイクではそれがない。ピュアレーサーに向けて作りこんだという意気込みが伺えます。
前後のバランスがすごく良く、重心が安定してロードインフォメーションが掴みやすいです。リヤがどこに接地しているかが走りながらわかる。シングルトラックの切り返しなどで威力を発揮するはずです。
これって、手前味噌ですが僕が現役時代に目指していたバイクに近いと思います(※)。リヤのタテの振動吸収性はチタンバイクに近いものを感じる。踏んだ時に戻るバネ感が強く推進力に活きてくる、すごく楽しいバイクですね。クロモリには出せない瞬発力と、登りでの軽さ。小気味よい反応性があるので、ハードパックでスピードを出して砂利道を飛んで行くように走るイメージをするだけで楽しいです。
※戸津井さんは選手時代にスポンサーブランドのパナソニックの開発ライダーとしても製品開発に関わった経験がある。
「世界で走るバイクでありながら、日本のサーキットにもしっかり対応している」
鈴木祐一(Rise Ride)
「世界で走るバイクでありながら、日本のサーキットにもしっかり対応している」 鈴木祐一(Rise Ride) マウンテンバイクのレースは荒れたところを走るので、推進力につなげるために剛性アップしたのでは、振動を全部拾ってしまいます。衝撃をどこかで逃がしてあげないと身体に疲労が溜まったり、バイクが暴れてライダーとケンカしてしまうことになる。この振動吸収性と推進力のいいバランスが、マウンテンバイクには求められると思います。
その部分に関して、前作のXHM9よりも必要なところの剛性を上げて、必要ないところは適度に逃がすためのしなりが生まれている印象を受けました。
一番わかりやすいのはヘッド周りの剛性ですね。過剰なほど剛性があるわけではなくて、ちょうどいいところで収まっている。
今までのバイクが80mmストロークのフォークのための設計だったことや、ホイールの剛性が最近また上がってきていること、タイヤの性能向上をふまえると、フレームのヘッド周りにバランスをとるための剛性が要求されるのは自然な流れです。
ヘッドも下側が最近流行のワンポイントファイブを採用して、フォークとともに剛性を上げている。15mmアクスルのホイールとのバランス感も良く取れています。ただ硬くしたのではなくて、バランスを重視した剛性向上ができている感じですね。
ショックの吸収性とペダリング時の推進力との兼ね合いも、いいバランスになっていると感じました。下からの突き上げをマイルドに吸収してくれる一方で、加速に関してはしっかりと後輪が回ってくれて進む感覚がある。これは荒れた路面をきっちり捉えて前へと進んで行く能力につながっています。
クロスカントリーのレースモデルなので、ハンドルのクイックさ、バイク全体におけるクイックさはトレイルバイクよりもややもたつくところがある。それは2時間という長い時間を走るレースで、後半ライダーが疲労したときのバイク自身の直進安定性を確保しているからです。
過敏なクイックさでないということは、ライダーが力を抜いて走ることができるということです。XCレースの場合、上半身にもかなりダメージがくるものですが、この疲労を受けづらいハンドリング特性や車体のコントロールの安定感がありますね。
山本選手が世界で走るための設計と同時に、日本のメーカーとしてJシリーズのレースを走るための設計がなされていますよね。リヤのシートステーのクリアランスは泥詰まり対策ですし、フロントディレーラーがダウンスイングタイプを採用していることで、やはりトップスイングタイプのフレームよりも泥に強くなっています。日本のマウンテンバイク環境にしっかり対応しているフレームデザインだと思います。これは細かいホコリに気をつけるアメリカ系のブランドと比べても、アンカーらしい配慮ですね。
アンカーらしさといえば、リアのケーブル回しも特長です。フルアウターではないけれど、リアを全部一体でケーブルを伸ばしているところなども泥対策で評価の高い部分です。多少変速時の抵抗は大きくても、走り込んでからトラブルの少ない変速性能は、レーサーのためのアイデアだと思いますね。
アンカー XIS9 レーシングレッド (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アンカー XIS9
フレームサイズ/380-440-500mm
フレーム/3Pieces HM-Carbon インテグラルヘッドスーパーオーバーサイズ(上1-1/8 下1-1/2)
リヤカンチブレーキ台座なし
フロントフォーク/ROCKSHOX SID RLT ストローク量100mm リモートロック アルミコラム スーパーオーバーサイズ
ヘッド小物/TANGE IS245L ダイレクトインタイプ
シートピン/φ34.9 バンド式
ハンドルバー/RITCHEY PRO Aluminium φ31.8 580W
ハンドルステム/RITCHEY WCS Aluminium 380mm:80L 440-500mm:100L
グリップ/VELO VLG-884-AD2 クランプ式
サドル/FIZIK-TUNDRA2 K:ium
シートポスト/RITCHEY WCS Aluminium 1BOLTφ31.6×400L
タイヤ/BRIDGESTONE EXTENZA TUBELESS 26×2.1
ホイール/MAVIC CROSSMAX SLR DISK UST
フロントディレーラー/SHIMANO XTR FD-M986 φ34.9 バンド式
リアディレーラー/SHIMANO XTR RD-M980-SGS シャドウ
シフトレバー/SHIMANO XTR SL-M980 I-SPEC ラピッドファイヤー
スプロケット/SHIMANO XTR CS-M980 11-36T 10S
ギアクランク/SHIMANO XTR FC-M985 42-30T 170L
BBシャフト一体構造
ボトムブラケット/SHIMANO XTR FC-M980 68W
チェーン/SHIMANO CN-M980
ペダル/SHIMANO PD-M980 SPD
ブレーキ/SHIMANO XTR BR-M985 油圧式
ブレーキローター/SHIMANO XTR SM-RT98S φ160
ブレーキレバー/SHIMANO XTR BL-M985
付属品/LEDランプ、ベル、リフレクター、アーレンキー、バルブアダプター
フレーム重量/フレーム単体 1,200g(500mm)
完成車重量/9.6kg(500mm)ペダル付き 9.3kg(500mm)ペダルなし
カラー/レーシングレッド、レーシングブラック、シングルカラー全36色
価格/665,000円(税込)190,000円(フレーム単体、税込)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:SUGOi
text:Yufta.OMATA
photo:Makoto.AYANO
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この数年のクロスカントリーシーンの変化には目を見張るものがある。フロントサスペンションのストローク量は増大し、ライザーバーの使用が主流に。29erやフルサス化など、ロードレースシーン以上に機材面での対応がメーカーには要求されると言っても過言ではない。
ワールドレベルのサーキットで走る全日本チャンピオン山本幸平が、今世界で戦うバイクとして生まれたのがこのXIS9だ。先日行われたアジア選手権ではこのバイクによって大会3連覇を果たし、ロンドン五輪枠を獲得している。早くも結果を残したXIS9。前作XHM9からの進化に注目しながらそのディテールに迫ってみよう。
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「イノベート・スティフネス」を開発テーマに掲げるXIS9。“剛性を革新する”の言葉は、これまでのXCフレームの常識であったBB部の高剛性化ではなく、ハンドリングなど操作面に関わる剛性の向上を意味する。ワールドクラスのレースにおいて、ハンドリング剛性の欠如がダウンヒルでのタイムロスにつながることを痛感した山本の要望が、このテーマを生んだのだ。
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前作XHM9では菱形の断面であったトップチューブを、三角断面に変更。合わせてシートステー上部がモノステーから2本タイプに変更された。これによってフレーム上部の横剛性を強化。さらに選手からの「絶対の要望」であったヘッド下ワンのワンポイントファイブ化は、ヘッド周りの剛性を効果的に向上させた。
ヘッドの下部が大径化したことを受けて、続くダウンチューブの形状もリファインされた。とりわけボックス化されたボリューム感満点の接合部は、前モデルの「ドラゴンクローヘッド」と見た目を比べても、剛性感に富んでいるのが瞭然としてる。ハンドリング性能を高めるための高剛性化は、トップチューブ、ダウンチューブともに設計を見直すことで実現した。
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さらにヘッドは前作よりも起きた角度が採用された。これは前作の発売時期には80mmストロークのフロントサスペンションが主流だったが、現在は100mmが主流であることを受けたもの。ロングストロークのフォークをあてがった時に、機敏なハンドリングができるようアップデートされている。
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一方でBBの剛性はほぼ据え置き。これはアンカーの設計思想である「脚力を温存できるBBの剛性感」を重視してのもの。XHM9でほぼ完成の域に達した横剛性は、若干のダウンチューブ形状の見直しを経てそのまま受け継がれた。前作がすでに高いレベルのXCマシンであったことを物語る。
フロントの剛性強化に重点が置かれたが、バイク全体のバランスを無視してはレーシングバイクたりえない。前三角の剛性が高すぎると、コーナーリングで後三角がねじれ、バイクの前後で違ったラインを走らざるをえなくなる。前後輪共にライダーが思い描くライン取りのコーナーリングのために、前後で同調するねじれ剛性がフレームにもたらされた。
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剛性が高まったフロントに合わせて、リアの剛性も調整された。フレーム全体のバランスをとるために、カーボンの配合や積層方法まで見直しを図った。
アンカーらしいリアの艶かしい曲線はそのままに、コントロール性能に優れるニューフラッグシップXCマシンが完成した。
フレームサイズはあらゆるライダーの要求に応える380mm、440mm、500mm(センター~トップ)の3サイズ展開だ。女性や小柄なレーサーにとっても最適なライディングポジションを約束する。カラーは写真のレーシングレッドとレーシングブラックの2色。さらにシングルカラーでは実に36色の中から選べる。XIS9は、レースというライダーの個性を主張する場において最高の相棒になることだろう。重量は完成車ペダル無しで9.3kg(500mm)となっている。
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これからご登場願う2人の店長ライダーはかつて日本を代表するマウンテンバイクレーサーとして活躍した経歴の持ち主。当然のことながらXCバイクには一家言ある。どんなインプレッションが飛び出すのだろうかーーー。
ーインプレッション
「フレーム・サス・ホイールが一体となる絶妙なバランスのレースバイク」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
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ギアをかけて登ったり、走りたいバイクですね。フレームだけの設計というよりは、サスペンションとホイール、タイヤの全体でパッケージングされているというか…このバランスは絶妙ですね。
剛性の高いホイールではタテの突き上げがキツく感じることがあるのですが、そのカドがうまくとれている。タイヤもクッション性が高く、倒し込んでも平らになっている感じ。路面にくっついて重くなるのではなく、どんな角度でも軽さを維持できます。
タテの振動収束性能は高いですが、これはやはりレースバイク。路面が比較的スムーズなところでスピードを出した時に安定感が生まれます。「デイパックを背負って一日里山ライド」という用途にはレーシーすぎるきらいがあるかもしれません。
重量も軽く、操作性はクイックではないけれど思い通りのラインを走れる素直さがある。クセの無いバイクです。前モデルにも乗ったことがあるけれど、そのときはちょっとクセを感じました。低速の登りでハンドルが振れるような感じがあったのですが、このバイクではそれがない。ピュアレーサーに向けて作りこんだという意気込みが伺えます。
前後のバランスがすごく良く、重心が安定してロードインフォメーションが掴みやすいです。リヤがどこに接地しているかが走りながらわかる。シングルトラックの切り返しなどで威力を発揮するはずです。
これって、手前味噌ですが僕が現役時代に目指していたバイクに近いと思います(※)。リヤのタテの振動吸収性はチタンバイクに近いものを感じる。踏んだ時に戻るバネ感が強く推進力に活きてくる、すごく楽しいバイクですね。クロモリには出せない瞬発力と、登りでの軽さ。小気味よい反応性があるので、ハードパックでスピードを出して砂利道を飛んで行くように走るイメージをするだけで楽しいです。
※戸津井さんは選手時代にスポンサーブランドのパナソニックの開発ライダーとしても製品開発に関わった経験がある。
「世界で走るバイクでありながら、日本のサーキットにもしっかり対応している」
鈴木祐一(Rise Ride)
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その部分に関して、前作のXHM9よりも必要なところの剛性を上げて、必要ないところは適度に逃がすためのしなりが生まれている印象を受けました。
一番わかりやすいのはヘッド周りの剛性ですね。過剰なほど剛性があるわけではなくて、ちょうどいいところで収まっている。
今までのバイクが80mmストロークのフォークのための設計だったことや、ホイールの剛性が最近また上がってきていること、タイヤの性能向上をふまえると、フレームのヘッド周りにバランスをとるための剛性が要求されるのは自然な流れです。
ヘッドも下側が最近流行のワンポイントファイブを採用して、フォークとともに剛性を上げている。15mmアクスルのホイールとのバランス感も良く取れています。ただ硬くしたのではなくて、バランスを重視した剛性向上ができている感じですね。
ショックの吸収性とペダリング時の推進力との兼ね合いも、いいバランスになっていると感じました。下からの突き上げをマイルドに吸収してくれる一方で、加速に関してはしっかりと後輪が回ってくれて進む感覚がある。これは荒れた路面をきっちり捉えて前へと進んで行く能力につながっています。
クロスカントリーのレースモデルなので、ハンドルのクイックさ、バイク全体におけるクイックさはトレイルバイクよりもややもたつくところがある。それは2時間という長い時間を走るレースで、後半ライダーが疲労したときのバイク自身の直進安定性を確保しているからです。
過敏なクイックさでないということは、ライダーが力を抜いて走ることができるということです。XCレースの場合、上半身にもかなりダメージがくるものですが、この疲労を受けづらいハンドリング特性や車体のコントロールの安定感がありますね。
山本選手が世界で走るための設計と同時に、日本のメーカーとしてJシリーズのレースを走るための設計がなされていますよね。リヤのシートステーのクリアランスは泥詰まり対策ですし、フロントディレーラーがダウンスイングタイプを採用していることで、やはりトップスイングタイプのフレームよりも泥に強くなっています。日本のマウンテンバイク環境にしっかり対応しているフレームデザインだと思います。これは細かいホコリに気をつけるアメリカ系のブランドと比べても、アンカーらしい配慮ですね。
アンカーらしさといえば、リアのケーブル回しも特長です。フルアウターではないけれど、リアを全部一体でケーブルを伸ばしているところなども泥対策で評価の高い部分です。多少変速時の抵抗は大きくても、走り込んでからトラブルの少ない変速性能は、レーサーのためのアイデアだと思いますね。
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アンカー XIS9
フレームサイズ/380-440-500mm
フレーム/3Pieces HM-Carbon インテグラルヘッドスーパーオーバーサイズ(上1-1/8 下1-1/2)
リヤカンチブレーキ台座なし
フロントフォーク/ROCKSHOX SID RLT ストローク量100mm リモートロック アルミコラム スーパーオーバーサイズ
ヘッド小物/TANGE IS245L ダイレクトインタイプ
シートピン/φ34.9 バンド式
ハンドルバー/RITCHEY PRO Aluminium φ31.8 580W
ハンドルステム/RITCHEY WCS Aluminium 380mm:80L 440-500mm:100L
グリップ/VELO VLG-884-AD2 クランプ式
サドル/FIZIK-TUNDRA2 K:ium
シートポスト/RITCHEY WCS Aluminium 1BOLTφ31.6×400L
タイヤ/BRIDGESTONE EXTENZA TUBELESS 26×2.1
ホイール/MAVIC CROSSMAX SLR DISK UST
フロントディレーラー/SHIMANO XTR FD-M986 φ34.9 バンド式
リアディレーラー/SHIMANO XTR RD-M980-SGS シャドウ
シフトレバー/SHIMANO XTR SL-M980 I-SPEC ラピッドファイヤー
スプロケット/SHIMANO XTR CS-M980 11-36T 10S
ギアクランク/SHIMANO XTR FC-M985 42-30T 170L
BBシャフト一体構造
ボトムブラケット/SHIMANO XTR FC-M980 68W
チェーン/SHIMANO CN-M980
ペダル/SHIMANO PD-M980 SPD
ブレーキ/SHIMANO XTR BR-M985 油圧式
ブレーキローター/SHIMANO XTR SM-RT98S φ160
ブレーキレバー/SHIMANO XTR BL-M985
付属品/LEDランプ、ベル、リフレクター、アーレンキー、バルブアダプター
フレーム重量/フレーム単体 1,200g(500mm)
完成車重量/9.6kg(500mm)ペダル付き 9.3kg(500mm)ペダルなし
カラー/レーシングレッド、レーシングブラック、シングルカラー全36色
価格/665,000円(税込)190,000円(フレーム単体、税込)
インプレライダーのプロフィール
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1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:SUGOi
text:Yufta.OMATA
photo:Makoto.AYANO
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