「最後に賭けに出てみようと思った。一か八かのアタックだった」。ジャージのジッパーを閉める余裕も無いまま、2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズにゴールしたユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。昨年ツール・ド・フランスで総合5位に入った28歳がプロ初勝利を掴んだ。

フランス南東部のサヴォワ県の山岳地帯フランス南東部のサヴォワ県の山岳地帯 photo:Cor Vos2001年にジュニアの世界TTチャンピオンに輝いたファンデンブロックは、身長186cm・体重69kgのスラリとしたオールラウンダー。2004年にアメリカのUSポスタル(後のディスカバリーチャンネル)でプロの道を歩み始めた。

2007年に地元ベルギーのプレディクトール・ロット(現オメガファーマ・ロット)に移籍すると、オールラウンダーとしての素質を発揮。2008年のジロ・デ・イタリアで総合7位に入り、更に昨年のツール・ド・フランスで総合5位という成績を残している。グランツールで総合上位を狙える貴重なベルギー人だ。

サヴォワ県の山岳地帯を進むサヴォワ県の山岳地帯を進む photo:Cor Vosこの日はファンデンブロックのチームメイト、プロ1年目のスヴェン・ファンダウセラール(ベルギー)が110kmに渡って逃げ続けた。ファンダウセラールとエスケープを共にしたのはレオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)とヴァンサン・ジェローム(フランス、ユーロップカー)。

レース前半にある難易度の低い3つのカテゴリー山岳では、ドゥケが山岳ポイントを連取する。しかし難易度の低さゆえ、ドゥケが獲得できたのは合計10ポイントのみ。

チームメイトに守られて走るマイヨジョーヌのラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)チームメイトに守られて走るマイヨジョーヌのラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vosプロローグを制したラース・ボーム(オランダ)が所属するラボバンクは、一日中マイヨジョーヌチームとしての責務を果たした。ラボバンクが集団のペースを調整し、逃げグループとのタイム差を詰めていく。最大5分35秒まで広がったタイム差は、ラスト10km地点でゼロに戻った。

2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズは、平均勾配4.8%で登坂距離7.4km。中盤にかけて平坦区間があるため、実質的な勾配は7%近い。

2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズで飛び出すユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズで飛び出すユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Cor VosBMCレーシングチームが積極的にペースを上げた集団から、HTC・ハイロードのジャージが真っ先に飛び出した。しかし初日のプロローグで精彩を欠いたトニ・マルティン(ドイツ)ではなく、エースの不調を悟ったカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ)。これにファンデンブロックが反応した。

遅れてフランスチャンピオンのトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)が合流。この先頭3名はラスト4kmで一旦メイン集団に捉えられたが、諦めずにアタックしたファンデンブロックが独走に持ち込む。ジロを不本意な成績で終えたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が追撃したが届かない。後続を振り切ったファンデンブロックが勝利した。

集団の追撃を振り切るユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)集団の追撃を振り切るユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosグランツールを始め、多くのステージレースで総合成績を残すファンデンブロックだが、レース後のインタビューで意外な告白をする。「プロ選手としてこれが初勝利なんだ」。

「ドーフィネの山岳ステージでプロ初勝利を飾ることは大きな意味がある。この5週間ほど山岳トレーニングをしていなかったので、脚がスーパーな状態ではなかった。でも最後に賭けに出てみようと思ったんだ。HTCの選手(シウトソウ)がアタックしたとき、監督から無線越しに『行け!』という指示が飛んできた。だからそこで飛び出した。一か八かのアタックだった」。

2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズを登るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ら2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズを登るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ら photo:Cor Vosファンデンブロックはツールに向けて順調な仕上がり。1ヶ月後のツールではオメガファーマ・ロットのエースとして総合表彰台を目指す。

カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は順当にステージ上位に絡む走りを見せた。初日のプロローグ2位のヴィノクロフがマイヨジョーヌを手にしている。

何度もガッツポーズを繰り出すユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)何度もガッツポーズを繰り出すユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vos今年をキャリア最後の年と決め、最後のツールでの活躍を誓うヴィノクロフは「このマイヨジョーヌは、ツールに向けての着実な一歩だ」と喜ぶ。マイヨジョーヌに奢ることなく、ステージ優勝を狙い続ける姿勢を崩していない。

この日のサプライズは、スプリンターやTTスペシャリストとして名を馳せるエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)が、ステージ6位に入り、マイヨブラン(新人賞ジャージ)を手にしたことだろう。ボアッソンは天候の悪化によりプロローグでのチャンスを失っていた。「最後の登りで調子の良さを感じ、ステージ優勝を狙っていた。マイヨブランは昨日のバッドラックの埋め合わせになるよ」。ボアッソンはブラドレー・ウィギンズ(イギリス)をアシストすることがドーフィネの最大の目標だと語る。

マイヨジョーヌはアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)の手にマイヨジョーヌはアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)の手に photo:Cor Vosその一方で、ツールに向けて不安を残したのが、2級山岳サン・ピエール・ド・シャルトルーズで総合にメイン集団から脱落したイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)だ。バッソは5月のトレーニング中の落車の影響で、ツールに向けてのコンディショニングが遅れている。この日はロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)やサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)らの姿もメイン集団の中から消えていた。

新城幸也(ユーロップカー)は、マイヨジョーヌを着るボームらと一緒に2分27秒遅れでゴールしている。翌第2ステージは、4級山岳に設定されたリヨンのクロワ・ルースにゴールするアップダウンコース。ユキヤのように、スプリント力のあるパンチャー向きのコースレイアウトだ。

選手コメントはレース公式サイトより。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2011第1ステージ結果
1位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)  3h36'42"
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)             +06"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)       +07"
4位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
6位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)
7位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ)                    +13"
8位 ロブ・ルーグ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
9位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)             +15"
10位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)
11位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
38位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)           +58"
48位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)            +1'31"
82位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)               +2'27"
84位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
93位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)            +2'40"
117位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)     +3'09"

個人総合成績
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)      3h43'09"
2位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)    +05"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)       +07"
4位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            +11"
5位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)          +13"
6位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)        +17"
7位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)        +20"
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)             +23"
9位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ)                    +24"
10位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)            +27"
90位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                  +2'53"

ポイント賞
アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)

山岳賞
ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

新人賞
エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)

チーム総合成績
ラボバンク

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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