2011/04/25(月) - 17:44
ゴール写真を逃す覚悟で、ラスト35km地点のコート・ド・ラ・ルドゥットでスタンバイした。熱狂するジルベールのファンとシュレク兄弟のファン。春のクラシック最終戦は、ジルベールの勝利というこの上ない盛り上がりで幕を下ろした。現地の様子をベルギー・リエージュから。
ラ・ドワイエンヌ(最古参)の重み 際立つ格式の高さ
アルデンヌ・クラシックと呼ばれる3連戦は、簡潔に言うならば、丘陵地帯の起伏を利用したアップダウンレース。とは言っても三者三様で、それぞれ特徴がある。
アムステル・ゴールドレースは短いアップダウンの繰り返し。オランダの南の端っこに位置するリンブルグ地方の丘陵地帯をグルグル駆け回る。登りの長さは1〜2km。最後は登坂距離1200m・平均勾配5.8%・最大勾配12%のカウベルグを駆け上がる。
フレーシュ・ワロンヌの登りはアムステルのそれよりは距離が長いが、数は少ない。何と言っても最後の登場する「ユイの壁」が名物で、登坂距離1300m・平均勾配9.3%・最大勾配26%を駆け上がってゴール。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、登場する登りの距離が長いのが特徴。登坂距離が4.4kmに達する本格的な山岳も登場する。最後は、リエージュを見下ろすアンスの街に向かって、ジワリジワリと登ってゴール。アムステルのカウベルグや、フレーシュのユイの壁のようなパンチのある登りではない。3レースの最後の登りだけを比較すると、リエージュのそれが一番緩い。でもそれまでの行程が実に厳しい。
アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」という印象だ。地理的に言うと、フレーシュの会場よりも内陸のドイツやルクセンブルクより。緩い山岳地帯、もしくは大規模な丘陵地帯を駆けるイメージだ。
レンガ色の建物が並ぶリエージュのサン・ランベール広場がスタート地点。街の中心にある楕円形の広場が観客で埋まる。観客の数だけを見ても他の2レースとは別格だ。
格の違いはプレス関係者や大会スタッフの数にも表れていて、わざわざこのリエージュのためだけにベルギー入りするフォトグラファーもいる。同じASO主催のフレーシュ・ワロンヌの1.5倍増しという印象。直前までイタリアで行なわれていたジロ・デル・トレンティーノを撮影し、クルマを飛ばしてリエージュに到着したルーカ・ベッティーニも「リエージュは特別。今回は本当にこのレースのためだけに来た」と言う。
午前10時、199名の選手たちはムーズ川に面したリエージュをスタートした。プレスカーの車列は一目散に高速に飛び乗って、「ルクセンブルク/バストーニュ」の標識に沿って南下していく。
1週間前にオランダに入国してからというもの、平地ばかり運転していたので、高速道路の巡航中は99%が5速固定だった。だけど今日は勝手が違う。リエージュの街を抜けるとすぐに高速道路は山の稜線に向かっていて、5速を踏んでいたら途端にスローダウン。4速に落としてスピードを保つ。左の追い越し車線を、チームカーの隊列が抜いていく。
45分ほど山間を抜けていくと、最初の登りであるサンロッシュに到着した。麓のウファリーズの街は観客で溢れていて、キャラバン隊が配ったコフィディスの赤い帽子を被った観客が、カフェの路上テーブルでビールを飲んでいる。
左右を建物に挟まれ、直線的に急勾配の斜面を登るサンロッシュは、リエージュのイメージ写真として使われることが多い。でも実際はまだレースが始まって70kmの地点なので、展開には関係しない。サンロッシュをクリアした選手たちは、バストーニュで180度ターンし、リエージュに向かって北上を開始する。こちらも勝負が始まる後半のアップダウンに向かった。
再びベルギーを沸かした王者ジルベール
優勝候補の筆頭は間違いなくジルベール。対して、シュレク兄弟はジルベールのアルデンヌ3連勝を阻止することができるかどうか。フレーシュ・ワロンヌ以後、現地ではそんなジルベールvsシュレク兄弟のバトルがレース前から盛り上がる。
前日に取材したアルノー・ワラールド・メモリアルの会場で、地元チームの監督たちが「明日はやっぱりジルベールだな」と井戸端会議していた。
レースの朝、ジルベールは爽やかな笑顔で出走サインを済ませ、様々なインタビューを受け、ファンが持ってきた写真に快くサインしている。とてもリラックスしているのが見て取れた。対照的に、シュレク兄弟はピリピリした雰囲気で言葉少なめ。ずっと頭の中でイメージトレーニングをしているかのような表情を浮かべる。
ジルベールvsシュレク兄弟のバトルは観客の中でも発生していて、スタート地点でも、サンロッシュでも、コート・ド・ラ・ルドゥットでも、ゴール地点でも、それぞれのファンクラブが自前の旗を振り回している。
どこに行ってもジルベールファンクラブの人を見かけると思ったら、今回のために大型観光バス7台をチャーターして応援ツアーを組んだそうだ。ルクセンブルクが近いこともあり、シュレク兄弟のファンクラブのメンバーも大挙して押し寄せていた。フーリガンのように衝突することはないが、互いがすれ違うと笑いを交えて喧嘩を売っていた。
ラスト35km地点のコート・ド・ラ・ルドゥットには、一面「PHIL」のペイントが並んでいた。登りの中腹には大型スクリーンが用意され、観客たちはビールを片手に観戦している。高速道路の出口が近いこともあり、隣接したバイパスには路上駐車の列が何百メートルに渡って続く。
レース写真をご覧になった方がお気づきかもしれないが、現在ヨーロッパでは黄色い花粉と白い綿が舞っている。場所によっては白い綿が空を覆っていて、まるで吹雪に遭っているよう。ここまで花粉と綿の飛散が激しいのは珍しいとのこと。雨が降らず、気温が上がっている状況が飛散を手助けしているようだ。
オランダ遠征中のシマノレーシングのメンバーも、この花粉と綿のアレルギーに苦しめられている。そして2009年大会覇者のアンディもまた、このアレルギーの被害者の一人だった。
あいにくコート・ド・ラ・ルドゥットでは決定的な動きは見られなかったが、前回のフレーシュ・ワロンヌ同様、ジルベールは余裕の表情でライバルたちに目を光らせている。オメガファーマ・ロットのチームメイトは周りにいなかったが、まだ余力を持ってレオパード・トレックのペースアップに対応している印象。
コート・ド・ラ・ルドゥットでの撮影後、コースと並走する高速道路でゴール地点へ。会場の実況を聞きながら一喜一憂する観客たち。シュレク兄弟とジルベールの完全なる直接対決になるとは誰が想像できただろう?
ラスト200mの最終コーナーを抜け、ジルベールがスプリント体勢に入ったとき、アンスのゴール地点が沸いた。肩を落とすシュレク兄弟の前で、ジルベールが何度も振り返ってゴール。念願のリエージュ制覇、ならびに史上2人目のアルデンヌ・ハットトリックを果たした。
表彰台に、息子アランを抱いて登場したジルベール。続いて登場したフランクは帽子を取り、チャンピオンに敬意を払って握手を求める。シュレク兄弟は2人掛かりでかかってもジルベールの牙城を崩せなかった。ジルベールらのコメントは別ページに任せる。
ジルベールのハットトリックで幕を下ろしたアルデンヌ・クラシック。いよいよ2011年シーズンは、春のクラシックシーズンから、初夏のステージレースに移行する。次のワールドツアーレースは、4月26日にスイスで開幕するツール・ド・ロマンディ。別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー)が出場予定。今からイタリアに飛んで、スイスにクルマで移動し、みっちり6日間取材します。
text&photo:Kei Tsuji in Liege, Belgium
ラ・ドワイエンヌ(最古参)の重み 際立つ格式の高さ
アルデンヌ・クラシックと呼ばれる3連戦は、簡潔に言うならば、丘陵地帯の起伏を利用したアップダウンレース。とは言っても三者三様で、それぞれ特徴がある。
アムステル・ゴールドレースは短いアップダウンの繰り返し。オランダの南の端っこに位置するリンブルグ地方の丘陵地帯をグルグル駆け回る。登りの長さは1〜2km。最後は登坂距離1200m・平均勾配5.8%・最大勾配12%のカウベルグを駆け上がる。
フレーシュ・ワロンヌの登りはアムステルのそれよりは距離が長いが、数は少ない。何と言っても最後の登場する「ユイの壁」が名物で、登坂距離1300m・平均勾配9.3%・最大勾配26%を駆け上がってゴール。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、登場する登りの距離が長いのが特徴。登坂距離が4.4kmに達する本格的な山岳も登場する。最後は、リエージュを見下ろすアンスの街に向かって、ジワリジワリと登ってゴール。アムステルのカウベルグや、フレーシュのユイの壁のようなパンチのある登りではない。3レースの最後の登りだけを比較すると、リエージュのそれが一番緩い。でもそれまでの行程が実に厳しい。
アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」という印象だ。地理的に言うと、フレーシュの会場よりも内陸のドイツやルクセンブルクより。緩い山岳地帯、もしくは大規模な丘陵地帯を駆けるイメージだ。
レンガ色の建物が並ぶリエージュのサン・ランベール広場がスタート地点。街の中心にある楕円形の広場が観客で埋まる。観客の数だけを見ても他の2レースとは別格だ。
格の違いはプレス関係者や大会スタッフの数にも表れていて、わざわざこのリエージュのためだけにベルギー入りするフォトグラファーもいる。同じASO主催のフレーシュ・ワロンヌの1.5倍増しという印象。直前までイタリアで行なわれていたジロ・デル・トレンティーノを撮影し、クルマを飛ばしてリエージュに到着したルーカ・ベッティーニも「リエージュは特別。今回は本当にこのレースのためだけに来た」と言う。
午前10時、199名の選手たちはムーズ川に面したリエージュをスタートした。プレスカーの車列は一目散に高速に飛び乗って、「ルクセンブルク/バストーニュ」の標識に沿って南下していく。
1週間前にオランダに入国してからというもの、平地ばかり運転していたので、高速道路の巡航中は99%が5速固定だった。だけど今日は勝手が違う。リエージュの街を抜けるとすぐに高速道路は山の稜線に向かっていて、5速を踏んでいたら途端にスローダウン。4速に落としてスピードを保つ。左の追い越し車線を、チームカーの隊列が抜いていく。
45分ほど山間を抜けていくと、最初の登りであるサンロッシュに到着した。麓のウファリーズの街は観客で溢れていて、キャラバン隊が配ったコフィディスの赤い帽子を被った観客が、カフェの路上テーブルでビールを飲んでいる。
左右を建物に挟まれ、直線的に急勾配の斜面を登るサンロッシュは、リエージュのイメージ写真として使われることが多い。でも実際はまだレースが始まって70kmの地点なので、展開には関係しない。サンロッシュをクリアした選手たちは、バストーニュで180度ターンし、リエージュに向かって北上を開始する。こちらも勝負が始まる後半のアップダウンに向かった。
再びベルギーを沸かした王者ジルベール
優勝候補の筆頭は間違いなくジルベール。対して、シュレク兄弟はジルベールのアルデンヌ3連勝を阻止することができるかどうか。フレーシュ・ワロンヌ以後、現地ではそんなジルベールvsシュレク兄弟のバトルがレース前から盛り上がる。
前日に取材したアルノー・ワラールド・メモリアルの会場で、地元チームの監督たちが「明日はやっぱりジルベールだな」と井戸端会議していた。
レースの朝、ジルベールは爽やかな笑顔で出走サインを済ませ、様々なインタビューを受け、ファンが持ってきた写真に快くサインしている。とてもリラックスしているのが見て取れた。対照的に、シュレク兄弟はピリピリした雰囲気で言葉少なめ。ずっと頭の中でイメージトレーニングをしているかのような表情を浮かべる。
ジルベールvsシュレク兄弟のバトルは観客の中でも発生していて、スタート地点でも、サンロッシュでも、コート・ド・ラ・ルドゥットでも、ゴール地点でも、それぞれのファンクラブが自前の旗を振り回している。
どこに行ってもジルベールファンクラブの人を見かけると思ったら、今回のために大型観光バス7台をチャーターして応援ツアーを組んだそうだ。ルクセンブルクが近いこともあり、シュレク兄弟のファンクラブのメンバーも大挙して押し寄せていた。フーリガンのように衝突することはないが、互いがすれ違うと笑いを交えて喧嘩を売っていた。
ラスト35km地点のコート・ド・ラ・ルドゥットには、一面「PHIL」のペイントが並んでいた。登りの中腹には大型スクリーンが用意され、観客たちはビールを片手に観戦している。高速道路の出口が近いこともあり、隣接したバイパスには路上駐車の列が何百メートルに渡って続く。
レース写真をご覧になった方がお気づきかもしれないが、現在ヨーロッパでは黄色い花粉と白い綿が舞っている。場所によっては白い綿が空を覆っていて、まるで吹雪に遭っているよう。ここまで花粉と綿の飛散が激しいのは珍しいとのこと。雨が降らず、気温が上がっている状況が飛散を手助けしているようだ。
オランダ遠征中のシマノレーシングのメンバーも、この花粉と綿のアレルギーに苦しめられている。そして2009年大会覇者のアンディもまた、このアレルギーの被害者の一人だった。
あいにくコート・ド・ラ・ルドゥットでは決定的な動きは見られなかったが、前回のフレーシュ・ワロンヌ同様、ジルベールは余裕の表情でライバルたちに目を光らせている。オメガファーマ・ロットのチームメイトは周りにいなかったが、まだ余力を持ってレオパード・トレックのペースアップに対応している印象。
コート・ド・ラ・ルドゥットでの撮影後、コースと並走する高速道路でゴール地点へ。会場の実況を聞きながら一喜一憂する観客たち。シュレク兄弟とジルベールの完全なる直接対決になるとは誰が想像できただろう?
ラスト200mの最終コーナーを抜け、ジルベールがスプリント体勢に入ったとき、アンスのゴール地点が沸いた。肩を落とすシュレク兄弟の前で、ジルベールが何度も振り返ってゴール。念願のリエージュ制覇、ならびに史上2人目のアルデンヌ・ハットトリックを果たした。
表彰台に、息子アランを抱いて登場したジルベール。続いて登場したフランクは帽子を取り、チャンピオンに敬意を払って握手を求める。シュレク兄弟は2人掛かりでかかってもジルベールの牙城を崩せなかった。ジルベールらのコメントは別ページに任せる。
ジルベールのハットトリックで幕を下ろしたアルデンヌ・クラシック。いよいよ2011年シーズンは、春のクラシックシーズンから、初夏のステージレースに移行する。次のワールドツアーレースは、4月26日にスイスで開幕するツール・ド・ロマンディ。別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー)が出場予定。今からイタリアに飛んで、スイスにクルマで移動し、みっちり6日間取材します。
text&photo:Kei Tsuji in Liege, Belgium
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