今から109年前の1892年に第1回大会が開催されたリエージュ~バストーニュ~リエージュは、「Doyenne(ドワイエンヌ=最古参)」と呼ばれる伝統の一戦だ。「モニュメント」と呼ばれる5大クラシック(ミラノ~サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベ、リエージュ、ジロ・ディ・ロンバルディア)の一つとして数えられている。

春のクラシックの締めくくりであり、かつアルデンヌ地方で繰り広げられた3つのクラシック(アムステルゴールドレース、フレーシュ・ワロンヌ、そしてこのリエージュ)の最後の「大トリ」をつとめるレース。
アムステルとフレーシュを圧倒的な力で制し、優勝候補筆頭に挙げられていたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) は、レース終盤3人の逃げに持ち込み、フランクとアンディのシュレク兄弟(ともにルクセンブルグ、レオパード・トレック)をスプリントで下して前評判通りの強さを見せて勝利。アルデンヌクラシック3連覇を達成した。

シュレク兄弟をスプリントで下しアルデンヌクラシック3連覇を達成したフィリップ・ジルベール(オメガファーマ・ロット)シュレク兄弟をスプリントで下しアルデンヌクラシック3連覇を達成したフィリップ・ジルベール(オメガファーマ・ロット) photo:Kei.TSUJI

リエージュのサン・ランベール広場をスタートするリエージュのサン・ランベール広場をスタートする photo:Kei Tsujiそのコースからベルギーはアルデンヌ地方で開催されるクラシックのなかで、もっともタフなレースとして知られるリエージュ。距離255.8km、越える主な登りは10。そのほかに無数の名もなき登りが断続的に続く常にアップダウンを強いられるコースは「ジェットコースター」に例えられる。
注目は地元出身にして現在無敵の好調を誇るジルベール。果たしてアムステル、フレーシュに続くアルデンヌ・クラシック3連覇を達成して偉業を成し遂げることができるのかに注目が集まった。

レースは好天のもと定刻通り9時15分にリエージュをスタート。このなかには過去に優勝経験のあるアレクサンドル・胸で十字を切るアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)胸で十字を切るアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsujiヴィノクロフ(アスタナ/2005年と2010年の2度優勝)とアンディ・シュレク、ダニーロ・ディルーカ(イタリア、カチューシャ)と、表彰台に登った経験を持つ7人=アレクサンドル・コロブネフ(カチューシャ)、フランク・シュレク(レオパード・トレック)、フィリップ・ジルベール。そして、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)、イェンス・フォイクト(レオパード・トレック)、ダミアーノ・クネゴ(ランプレ)、イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)らも含まれる。

レースは序盤、ジルベール擁するオメガファーマ・ロットを弱らせるべく早めのアタックが繰り広げられた。まず次の10人が逃げ、集団に約4分の差をつけて先行する。

逃げたメンバー:フレデリック・ケシアコフ(アスタナ)、エドゥアルド・ヴォルガノフ(カチューシャ)、トーマス・デ逃げグループを形成する10名逃げグループを形成する10名 photo:Kei Tsujiヘント(ヴァカンスレイユ)、トニー・ギャロパン(コフィディス)、ミカエル・ドラージュ(FDJ)、ヤニック・タラバルドン(ソウル・ソジャサン)、マティアス・フランク(BMCレーシング)、ダヴィ・ルレイ(アージェードゥーゼル)、ヘスス・エラダ・ロペス(モビスター)、セバスチャン・デルフォス(ランドバウクレジット)

オメガファーマ・ロットはこの差が開き過ぎないように常にメイン集団の先頭付近に固まってコントロール。レース開始後2時間はこの差を維持した落ち着いた展開になる。

レースが活性化したのは残り90kmを切ってから。フランク&アンディのシュレク兄弟擁するレオパード・トレックが先頭牽引に加わり、10人とのタイム差を一気に縮める。そしてメイン集団からもアタックをかける選手が続々と続いて飛び出していく。前を行く10人は崩壊して5人に人数を減らし、追走する第2集団に追いつかれ、残り50kmを切って逃げグループのメンバーを入れ替えた。

大勢の観客が詰めかけたサンロッシュの登り大勢の観客が詰めかけたサンロッシュの登り photo:Kei Tsujiゴールまで残り45kmで逃げグループを形成した13人:エンリーコ・ガスパロット(アスタナ)、ファンマヌエル・ガラーテ(ラボバンク)、フレフ・ファンアーヴェルマート(BMC)、ジェローム・ピノー(クイックステップ)、ブレル・カドリ(アージェードゥーゼル)、ダリオ・カタルド(クイックステップ)、ダミアーノ・カルーゾ(リクイガス)、ローレンス・テンダム(ラボバンク)、ヤニック・タラバルドン(ソウル・ソジャサン)、ミカエル・ドラージュ(FDJ)、カンスタンティン・シウトソウ(HTCハイロード)、ローレンス・テンダム(ラボバンク)

残り37km地点、8つめの上り、長さ2.0km・平均勾配8.8%の勝負どころのコート・ド・ラ・ルドゥットへ突入するが、逃げ集団との差は1分10秒。例年ここで有力選手たちのアタック合戦によりグループは崩壊するが、今年はジルベールをマークするメイン集団は一団となってルドゥット頂上をパス。有力選手たちは軒並みジルベール集団に残った。

逃げグループは7人に人数を減らし、メイン集団の差は28秒。残る坂は2つとなった。9つめの坂コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンでは逃げグループでガスパロット(アスタナ)がアタックし、これにファンアーヴェルマートが追走。2人が抜け出る。
そしてメイン集団ではアンディ&フランクの兄弟アタックが炸裂し、これにジルベールがついて3人で抜けだして行く。しかし他の有力選手たちはこれにまったく付いていけなかった。

メイン集団を率いてコート・ド・ラ・ルドゥットを登るレオパード・トレックメイン集団を率いてコート・ド・ラ・ルドゥットを登るレオパード・トレック photo:Kei Tsuji運の悪すぎるタイミングでメカトラブルに見舞われたのはアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)。スピードが上がる大事な局面で路上に停車し、 チームメイトのイグリンスキーの自転車を受け取って乗り換えるが、大きく遅れてしまう。過去2度の優勝経験を持つディフェンディングチャンピオンは、この時点でリエージュ3勝目の夢を絶たれてしまう。

残り16kmを切ってピノー(クイックステップ)とガスパロット(アスタナ)を振り切ったシュレク兄弟とジルベール、そしてファンアーヴェルマートの4人が先頭集団を形成、最後の上りコート・ド・サンニコラへと突入する。後方集団は有力選手を多く抱えながらも、追走のタイミングを逸してしまった。

スプリントでシュレク兄弟を引き離すフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)スプリントでシュレク兄弟を引き離すフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsuji先頭4人のなかですでに脚の売り切れ気味のファンアーヴェルマートを尻目に、シュレク兄弟とジルベールがお互いを警戒しながら上りに入る。アンディが先行し、フランクが後ろにつけてジルベールをサンドイッチする。ジルベールにはスプリントがあるため、そのまま3人で行っても勝てる公算が高い。警戒するのはシュレク兄弟の交互のアタックだが、シュレク兄弟はジルベールに睨まれたまま坂の終わるラスト500mまで動くことができなかった。

ラスト500mですでに勝ちパターンを確信したジルベールは得意のスプリント力を爆発させ、2人を一蹴。振り返って後方でうなだれるシュレク兄弟を確認すると、キッスしたその手を高々と挙げてフィニッシュ。下馬評通り、もっとも目標と表彰台、左から3位アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、2位フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)表彰台、左から3位アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、2位フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Kei Tsujiしてきたリエージュを制し、アルデンヌ・クラシック3連覇という歴史に残る偉業を達成した。これでジルベールはブラバンツ・ペイルからのレースで4連勝を飾ったことになる。

ジルベールの過去のメジャークラシック勝利はこれで、アムステルゴールドレース(2010、2011)、フレーシュ・ワロンヌ(2011)、パリ~ツール(2008、2009)、ジロ・ディ・ロンバルディア(2009、2010)に加えて8つめの勝利となる。


ジルベールの勝利コメント

僕にとってすごい一日になった。リエージュ~バストーニュ~リエージュは僕の夢のレースだった。
コート・ド・ラ・オートルヴェ(4番目の坂 166.0km地点)ではチームメイトが周りに居なくなって少し自分に疑問を持った。ライバルたちはそれを見てアタックをかけてきた。幸運なことにレオパード・トレック勢が追ったことが僕を助けてくれることになり、差を詰めることができた。
シュレク兄弟がアタックしたとき、2年前にアンディと僕が2人でアタックしたことが脳裏に浮かんだ。またしても早すぎたかと思ったが、他のすべての選手が苦しんでいた。彼らについていき、僕は僕の担当すべき仕事を果たした。

シュレク兄弟と一緒に逃げるのは奇妙な状況だった。彼ら二人は一緒にいるとき、単なるチームメイト以上の存在だ。サンニコラの登りで自分の運にかけてみようと思った。丘のあとの2、3kmは彼らがアタックできるポイントだ。ひとりひとりを相手にしなければならない。アンディが遅れて、彼は必死になって戻ってきた。しかし僕はそのとき自分に有利な展開になるだろうということに気がついた。ラストの直線は向かい風だから。

(アルデンヌクラシック3連覇を成し遂げて、次の目標は?)

まだまだ成し遂げなければならないことがたくさんある。世界選手権制覇は僕のもうひとつの夢だ。2012年と2013年のコースは僕に向いている。ツール・ド・フランスでマイヨジョーヌも着たい。何年か前、僕はすぐそこのところまで来たけど届かなかった。今年のツールではぜひ着たいと思っている。

もちろんリエージュ~バストーニュ~リエージュに勝つことも。来年もう一度勝つことを目指したい。


リエージュ~バストーニュ~リエージュ2011結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 6h'13"18
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルグ、レオパード・トレック)
3位 アンディ・シュレク(ルクセンブルグ、レオパード・トレック)
4位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)  +"24
5位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)
6位 クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)
7位 フレフ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)+"27
8位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+"29
9位 ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ) +"39
10位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)

text:Makoto.AYANO
photo:Kei.TSUJI,CorVos

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