2006年のフロイド・ランディス(アメリカ)に次ぐ2例目として、ツール・ド・フランスの優勝者がそのタイトルを剥奪されるかも知れない。ツール期間中のドーピング検査でクレンブテロールの陽性反応が検出されたアルベルト・コンタドール(スペイン)について、UCI(国際自転車競技連合)はスペイン自転車競技連盟に処分の審議開始を要請した。

アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)と死闘を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)と死闘を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vosスペイン・マドリード近郊、ピント出身のコンタドールは27歳。小銃で撃ち抜くゴールポーズから「エル・ピストレロ(ガンマン)」と呼ばれる気鋭のステージレーサーが窮地に立たされている。

UCIはコンタドールのドーピング使用を裏付けるファイルをスペイン自転車競技連盟(RFEC)に提出。コンタドールの行方は、スペインのアンチドーピング担当検事の手に委ねられた。

今年3度目のツール制覇を達成したアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)今年3度目のツール制覇を達成したアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos焦点になっているクレンブテロールは、呼吸障害の際に気管支拡張剤として処方される薬物。赤身肉を作るために肉牛の飼料に混ぜられることもあるが、人間に毒性があるとして、1996年にEU(欧州連合)が使用を全面的に禁止している。2008年から2009年にかけて83,203頭の家畜に対して検査が行なわれたが、クレンブテロールが検出されたのは僅かに1頭だけ。スペインでは検出されなかった。

7月21日にポーで行なわれたドーピング検査で陽性反応が出たコンタドールは、クレンブテロールに汚染された食肉を摂取したことが原因であると主張。フランス国境にほど近いバスク地方のイルンで、チームが購入した食肉にクレンブテロールが含まれていたというのだ。

サクソバンクのビャルヌ・リース監督サクソバンクのビャルヌ・リース監督 photo:Makoto Ayanoその接種方法や数値に関係なく、WADA(世界アンチドーピング機構)はクレンブテロールを禁止薬物に指定している。WADAは調査員をイルンの肉屋に派遣したが、コンタドールの「汚染された食肉が原因」という主張を擁護するような証拠は見つからなかった。

WADAの規定によると、選手はそれぞれの食べ物に責任を持たなければならない。具体的な例がイタリアにある。アレッサンドロ・コロ(イタリア、ISD・ネーリ)は、コンタドールと同様にクレンブテロール陽性が発覚。検出されたのは200ピコグラム(コンタドールは50ピコグラム)。コロは汚染された食肉が原因であると主張したが、イタリア自転車競技連盟は1年間の出場停止処分を与えた。

6通のメールに分割されてスペイン自転車競技連盟に提出されたUCIのファイルの中には、疑いのある4つの方法が記されているとされる。コンタドールが汚染されたサプリメントを摂取した、汚染された食肉を摂取した、輸血を行なった、クレンブテロールを故意に摂取したという4つの可能性だ。

こうしてコンタドールの運命はスペイン自転車競技連盟の手に委ねられた。しかし同連盟はドーピング違反者に対してしばしば寛大な判決を下す傾向がある。「スペインに汚名を着せようとしているわけじゃない。スペインには厳正なアンチドーピング法がある。ただそれが上手く機能していないだけだ」。9月の世界選手権で会見を開いたパット・マックエイドUCI会長も、スペインの緩い取り締まりに懐疑的なコメントを残している。

一方、スペイン自転車競技連盟のフアンカルロス・カスターニョ会長は、コンタドールの無実が証明されることを望んでいる。カスターニョ会長は「彼が子どもの頃から知っているんだ。コンタドールはマドリードの車連に登録し、長年そこでレース活動を行なった。全てのカテゴリーを経験し、着実に力を伸ばした彼の姿をよく覚えている。だからどうしても彼には感情移入してしまう」とコメント。しかしコンタドールの処分を決めるのは会長ではない。アンチドーピングの担当検事だ。

スペイン自転車競技連盟は3ヶ月かけて審議を行なう。その間、サクソバンクのビャルヌ・リース監督は待ち続ける。「今はスペイン自転車競技連盟に託されている。我々には為す術が無い。彼らの判断を待つ他無い」。リース監督にとっても苦悩の日々が続く。

仮に有罪が言い渡され、コンタドールがCAS(スポーツ仲裁裁判所)に上訴した場合、リース監督は更に長い時間待ち続けなければならない。CASの審議が長引けば、前年度覇者が曖昧な状態のまま2011年ツール・ド・フランスが開幕することも有り得る。

text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji

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