「泥だらけになりたい」と、「ヤマケン」の愛称で知られるトレラン界の第一人者 山本健一さんが2度目のアンバウンド・グラベルに挑戦。今年も最長距離350マイル=580kmのXLクラスに出場、ピーナツバター泥と格闘しつつ完走した。自身の手記でレースを振り返る。



山本健一(プロマウンテンアスリート) photo:Sho Fujimaki
山本健一(プロマウンテンアスリート)

1979年生まれ。モーグルスキーを経てトレイルランニングを始め、山岳耐久レースのハセツネCUPでは2008年に当時の日本記録で優勝を果たす。2009年のUTMB=ウルトラトレイル・デュ・モンブランで8位に。100マイルレースを主戦場とし、2012年にグランレイド・デ・ピレネーで優勝、国外のメジャーレースにおける日本人初優勝を達成。2019年3月に高校教員の職を辞しプロマウンテンアスリートに転向。クロスカントリースキーの指導者・選手としても活動する。フルマークス所属。


泥だらけになりたい!

昨年のアンバウンドでやり残したことがありました。それは順位やタイムではなく、「泥だらけになること」。

2025年は2日前に雨が降ったのにもかかわらず、意外にも路面がドライで、本来の目的だった「泥だらけで完走すること」が果たせなかったわけです。天候のことなので仕方ないのですが、グラベルライドには、泥だらけで走っている姿に魅力を感じます。

今年はどうだろう? 天気予報をチェックしていると...「曇り時々雷雨」。これは来るかもしれない、どろんこ祭り。しかもスタート前日も昼まで雨。もしかしたら最初から泥まみれ?!
ワクワクと共に、泥すぎてメカトラブルにならないかという不安もありつつ、スタートを待ちました。

地元韮崎の歯科医、福本さんと一緒に参戦だ
福本先生という猛者と

今回は韮崎市の歯医者さんである福本晃祐さんと二人旅です。福本歯科は昔から通っている、私が全信頼をおける歯医者さん。北欧デザインのきれいな建物で、歯科衛生士さんたちもみんなとても気さく。いつでも行きたくなる歯医者さんです。

昨年、私がアンバウンドを完走した話をしたら興味を持ってくれ、迷いなくXLにエントリーするという猛者です(笑)。もともと一緒にトレランやサイクリングをしたこともあり、お互いのことはわかっている仲なので、特に心配はしていませんでした。

ウィチタの家を借りて滞在

現地で拠点としたのはアンバウンドの会場であるエンポリアから120㎞ほど離れたウィチタ郊外の畑の中の一軒家でした。エンポリアまでは1時間半。少し遠いけど、すぐに気に入りました。

ウィチタで借りた家。田舎での生活は快適だった

家の周りはトウモロコシ、小麦、大豆の畑。庭にはロバ2頭と羊4頭、子羊14頭、鶏もたくさん。敷地を出るとすぐに極上のグラベル。「カンザスの田舎に来たな~」という感じです。一番近い店までは20分ほどかかります。ここで自炊生活をしていました。

家の庭に居たロバには癒された
田舎の風景を楽しみながらのテラスでの食事



食料品は現地のスーパーで購入し、米を炊き、たまにうどん、蕎麦、日本から持っていた食材で充実の食事をしていました。福本さんが焼くズッキーニがうまいこと! カンザスといえばBBQですが、それはレース後にとっておこうという話に。

サバの缶詰は欠かせなかった
毎日自炊して美味しいものをいっぱい食べる



最高の天気のなか麦畑で

眠れぬ夜

しかしひとつ不安なことがありました。睡眠です。今回はなかなか睡眠のリズムが戻りませんでした。寝れない時間が3~4時間続いたり、朝方まで寝れなくて、そこから10時頃まで眠ったり。いつも22時前にはベッドに入りますが、まともに寝れた日は一日もありませんでした。

しかし時計は見ずにひたすら目をつむってじっとしてることを心掛けました。そうすることによって休めていると自分言い聞かせて。でもそういう時に限っていろんな音が聞こえますね。遥か遠くで電車が踏切を通る際の警笛の音が耳に入ってきたりします。スマホの電源を切るのを忘れていて、夜中に着信があったりしましたが、途中からは電源を切るようにしました。

やっぱり主食はおにぎり。塩昆布を入れて塩分補給も完璧
地元の野菜をおかずに、和の味付けでいただく



5月29日、レース当日。相変わらず寝つきが悪かったけれど、朝は9時頃まで眠れて、とてもいい感じ。装備は前日までに完璧に揃えていたので、朝食を食べて出かけるだけです。メニューは鯖御飯です。

グラベルの街・エンポリア

福本さんとエンポリアのモニュメントで

エンポリアへ到着すると街は混雑。駐車場が心配でしたが、公共駐車場が2台ぶん空いていました。エンポリアはグラベル発祥の地であるためか、グラベルライダーのためのパーキングなど、無料で停められるところがほとんど。イベント期間中ということもあり、本当に多くのサイクリストが集まっていました。

エキスポのトラクターで福本さんと記念写真
レース前日、永田さん、綾野さんともエンポリアで再会できた



いい感じの木陰でおにぎりを食べて、ニューハレを体のあちこちに貼り、空気圧やチェーンオイルなど最後の確認をしてスタートラインへ向かいました。

山本健一とコナ LIBRE CR コンポはメカニカルのシマノGRX 12S仕様 photo:Makoto AYANO

装備など昨年からのアップデートした点がいくつかあります。
・カーボンホイールにアップグレード
・エアロバーを装着
・途中のショップでの休憩時間を15分以内に(昨年はもたもたしてタイムロスが多かった)
・ショップでの買い物は水のみ(他はすべて持参する)
・最初からある程度のペースで走る(昨年は心配でスロースタートで発進した)
・ヘッドランプは初めからヘルメットにつけておく

小型のTTバーを装着。直線路でリラックスするため photo:Makoto AYANO
マヴィックALLROAD Carbon+パナレーサーGRAVELKING X145C photo:Makoto AYANO



これらの対策で、昨年と同じコンディションであれば1時間半~2時間は短縮できると考えていました。

食糧計画

POCのバイクバッグは大容量だ photo:Makoto AYANO

食糧計画は昨年の経験を参考に多めに持ちました。POCのフレームバッグとトップチューブバッグの容量が大きく、たくさん入ります。経験上、1時間に220kcalで十分に動けます(トレイルランの場合は300kcal)。しかしこれは人それぞれで違います。それをもとに立ち寄る予定のショップまでの時間を出して、小分けにしました。

XLクラス350マイル=580kmのルート

今回は第1エイド:175㎞、第2エイド:257㎞、第3エイド:437㎞で補給する計画。つまり4つのセクションに分けてプランします。第2と第3の間が180㎞もあるので不安ですが、山での行動を考えれば何とかなるという結論に。

エネルギー源はハニーアクションの「飲んDECO」(1パック300kcal)をフラスクに必要量溶かします。あとは軽くて高カロリーで美味しいカロリーメイトを、パサパサになること覚悟で。非常食としてハニーアクション(1パック80kcal)を5本、アンサー600(1パック600kcal)、飴で1000kcalぶん持ち、これで10時間近くは動ける計算になります。

今回は泥祭りになる予想があったため、この非常食がかなり重要です。アミノ酸は2時間おきにベスパハイパー、電解質は塩熱サプリを1時間おきに一粒摂取。これを切らさなければ必ず動き続けられます。

砂利のフラットダートへ 高速走行がたまらない

昨年よりぐっと増えた310人がXLのスタートに並ぶ photo:Makoto AYANO

スタートは金曜の15:00。福田暢彦さんがDNSとなり、日本人は私たち2人だけ。スタートリストをみると昨年より100人多い310人ほどがエントリーしています。隣にいた選手が話かけてきました。いきなり楽しそう。昨年はスタートしてすぐにフィリピンのライダーと仲良くなりましたが、今年は私たちの周りにはアジア系の選手は見当たらなかったです。

福本晃祐(左)と山本健一(右)。XLの日本からの参加者は2人きりだ photo:Makoto AYANO

福本さんと、「またゴールで!」と握手を交わし、スタート。

金曜日の午後3時、XLの310人がスタートする photo:Makoto AYANO

数分走るとすぐにグラベルに入ります。すごい砂埃。私は集団の中間くらいに位置取りました。路面が乾いている…。そしてカンザスの高速グラベルが始まりました。時速35~40㎞は軽く出ます。砂を飲み込みながらの走りは気持ち良すぎです。日本では味わえません。

第1セクションは集団走行でクリア

グループを組んで走るXLの上位集団 ©️Lifetime

レースはどんどん距離が進み、順調に南下します。向かい風が吹いています。20㎞近く直線という場所もあります。路面はずっとドライ。あれ?まったく汚れていません。途中いきなり深い川が現れ、前を行く選手は歩いて渡っていたのですが、昨年の経験から全速力で突っ込みましたら、頭からすべてずぶ濡れになりました。

サングラスの内側に水がかかり、停まって拭きます。今回サングラスはPOCエリシットの調光レンズです。調光なので昼間・夜間関わらず装着したままで走れます。軽量でストレスフリーなサングラスで気持ちよかったですが、水が茶色で微妙な感じ。この調子でまた川渡りがあるかと思ったら出てこずで、シューズも乾き始めます。

南ルートは緑に溢れているのが魅力だ ©️Lifetime

フランスのモンペリエ出身の選手と話をしながら進みます。「UTMBに3度出場した」と話したら、「そしたらXLは簡単だね」と返されました。そんなことはないです。これはこれで違う難しさと面白さがあります。 

92㎞地点のMadisonという街にショップがあり、多くのライダーは補給をしていますが、私はスルー。狭い店に30人以上は入っていたはず。レジは大混雑だったでしょうね。

暗くなりはじめて1時間ほどすると175㎞地点のEurekaという小さな街に到着。Casey’sという店で水を2Lとスプライト1本を素早く購入。どうしてもスプライトを飲みたかったのです。

新しい飲んDECOに水を入れてスタート。その時間8分。レジが空いていたのもラッキーでしたが、昨年はここで25分間もストップしてしまったので、かなりの時短です。次の区間は85㎞しかないので補給については安心です。

第2セクション 少人数での隊列走行

夜中に道に迷いました。コースを少し戻り、後ろからくる集団を待ちます。5人組が来て、その最後尾につきました。このグループはチームワークよくローテーションをしながら進んでいて、私もその一員となりました。先頭を長く頑張る人、あっという間に終わる人、ゆっくりな人、速い人。楽しくてあっという間に時がたちました。

前の選手にできるだけ近く着くことに集中していると、自分の外側に意識が持っていかれて、苦しいと感じなくなります。結局私は少し頑張りすぎてしまったようで、疲労がたまり始めました。

あっという間に275㎞地点の主催者が用意しているエイドに到着。ここはスルーするライダーも多数いますが、私は次をスルーするためにここで満タンに補給する作戦です。

次のショップはコースから400mほど外れるのです。この先の180㎞のライドに備え、すべてのボトルを満タン(3.5L)にして、バナナを2本食べて、出発。予定では8時間半。

第3セクション ひとり夜中の雷雨

嵐のなかこんな落雷があちこちで発生。恐怖だ

エイドを出発する際「雷雨はきそうですか?」とスタッフに尋ねると、「そろそろあるかも」と。エイドを出発後5分、いきなりやってきました。すぐにHOUDINIのORANGE JACKETを着用。オレンジのように小さくなるコンパクトなレインウエアです。ウインドシェルの役目も果たしますし、防水性にも優れています。

雨がどんどん激しくなっていきます。稲妻があちこちでピカピカ、雷がゴロゴロ。少し離れていたので大丈夫だと判断して突き進みます。靴の中は、タイヤが巻きあげた土が堆積していき、どんどんキツくなっていきます。

エンポリア近郊を襲った嵐。このなかを走り続けた

2時間ほど雷雨を浴びて、やっと雨がやみました。泥だらけですが、オレンジジャケットのおかげで体のコンディションはとてもいいです。一人っきりでしたが集中していました。

憧れのピーナッツバター登場!

日暮と共に雷雨が近づきつつあった ©️Lifetime

午前4時、ある曲がり角を曲がると、いきなり現れました「ピーナッツバター泥」。出会いは突然やってきます。これはすごいです。少しでもタイヤが泥に触れようようものなら、くっつくくっつく。乗るどころか、押すこともできない。ピーナッツバター泥は昨年経験できず、憧れていましたが、まさかこんなに激しいのか!と、びっくりです。

すぐにエキスポでいただいた木のヘラを出し、いよいよ使う時がきました。無我夢中であらゆるところに詰まった泥をかき出します。しかも短い区間かと思いきや、いきなり3㎞ほどと結構長い(笑)。そして十字路で曲がってまた2㎞みたいな感じで、いつ泥が終わるのかわからない。でも楽しいからいいんだけど。

夜が更けるなか走り続けるXLのライダー ©️Lifetime

Florence(330㎞地点)の街は近いのに、なかなか進みません。なにせ普通に歩くより遅いわけですから。ある坂を上り切ると、急な下りで少し乗れました。でもすぐにタイヤが止まります。いよいよ街に出ました。私はここのショップには寄らずに次のCouncil Grove(437㎞地点)のショップを目指します。その距離107㎞。ピーナッツバター泥で時間がかなりかかっているので補給が若干不安でしたが、食料に関しては非常用として取ってある1200kcalも使えばいいと判断し、思い切ってスキップです。

水たまりでバイクを洗って泥を落とす photo:Makoto AYANO

幸運にも街の中にあった、雨水がたまった窪地で自転車と靴をきれいに洗いました。最高の洗車場です。この時は何の疑いもなく、根拠もないけどピーナッツバター泥はここで終わったものと思い込んでいました。

グラベルライドは助け合いの精神で

泥が深く「マッドマラソン」と言える状況に photo:Makoto AYANO

洗車後10分、まさか‥‥さっきより激しいピーナッツバター泥とご対面!「ワオっ」て叫びました。他のライダーも苦戦しています。坂の途中で、あるライダーから「木のヘラ余分にありませんか?」と。私は折れたときのために2本持っていたので、一つあげました。もう予備はないので自分のは折らないように慎重に使います。けれど折れたら誰かにもらえばいいか、とも思いました。

このXLカテゴリーは外部サポート禁止だけど、ライダー同志は助け合いながら進む、というのがルールです。誰か止まっていたら必ず声を掛けます。そんなところも好きです。

馬鹿になって泥を楽しむ

泥は、機材が壊れない程度に気合と楽しみで乗り切ろうと考えていました。それでもチェーンは何回か落ちましたし、ペダルが回らなくなることもありました。周りに草があるところはデコボコしていますが、少しは乗れます。けれど溝一本みたいな感じなのですぐ転けます。一度フラッとして左側の有刺鉄線に触ってしまい、パンツの太ももとウエアの肩のあたりが裂けました。危ない危ない。

草むらが全くない場所ではバイクを担ぎます。フレームバッグを頭に当てて運びます。これはネパールのシェルパが荷物を運ぶときにそうしているのを見て真似しました。足元は田んぼ状態で、靴がどんどん大きくなります。泥の付いた自転車はとても重いです。ここで足が止まってしまっているライダーもいました。こういう時はいい意味で馬鹿になって、すべてを受け入れて何も気にせずに進むことですね!いろいろ考えず、動くだけです。

あっという間に消えた5時間

午前9時。5時間満喫しましたが、どうやらピーナッツバター泥とはお別れのようです。10㎞~15㎞は歩いたでしょう。前のCPでは計画していた時間を1時間ほどオーバーしていましたが、結局このセクションに12時間かかりました。非常食のジェル(ハニーアクション)に手をつけました。

左足の内側広筋が少し痛くなってきています。それによって膝の腱が引っ張られている感じがします。あまり踏みすぎないように引くことを意識してペダルを回しました。途中ベネズエラ出身のアントニオさんとしばらくライド。眠そうです。私はハイドレーションの水が終わりかけていたのでボトルの水を移し替えました。

最終セクションでは出し切って

午後13時半、最後の補給地点のCouncil Grove(437㎞)のショップに到着。ここまで注油を完璧にやっていたおかげでチェーンはすこぶる調子いいです。身体のほうは、この時点で珍しくけっこう疲れています。ここでは非常用のアンサー600(600kcal)を摂取して、いよいよラストの区間137㎞へ突入。つくづくあっという間だなぁ、と思いながらも、内側広筋の痛みに耐えながらペダルを回します。

アントニオとペースが似ていて、気持ち良い河川敷みたいなところを時速30㎞で頑張ります。さらに追い込まれました。その先は100マイル&200マイルの選手たちと合流します。ここからがまたキツかった。向かい風の連続。他のカテゴリーの選手と一緒に行こうとするも、ペースが違いすぎて置いていかれる。昨年はここから上げたような感じでしたが、今年は落ちました...。

泥ゾーンで一緒にいた選手にパスされていきます。「おつかれ~」みたいな感じで声をかけてもらいます。もう泥に満足していた私はペースは上がりません。でも、それでもいいかなと思い、淡々と回し続けました。昨年の景色を思い出しました。アンバウンドが終わってしまう。

エンポリアに帰還

山本健一は28時間45分43秒、総合19位でフィニッシュへ向かう photo:Makoto.AYANO

17時半、いよいよエンポリアのフィニッシュ地点に戻ってきました。まだ明るい時間です。写真が撮れるし、それだけで嬉しいですね。あっという間の28時間45分。ゴールでは泥だらけの自転車と共に写真を撮りました。地元の方がいろいろと話しかけてくれる、いい時間です。この時間が大好きです。

200マイルをフィニッシュした田村繁樹さんと握手! photo:Makoto AYANO

まったりしていると200マイルを走った日本の永田隼也さんや島田真琴さん、メディアの綾野真さんとも合流して、お互いのレースの話をします。日本でいつも自転車メンテナンスとトレーニングを一緒にやってくれたユーキャン山梨の高野店長や家族にも電話をかけて完走を報告。実にいい時間です。

明るいうちにフィニッシュしてお互いの健闘を称え合う時間は素晴らしい photo:Makoto AYANO

しかし、今年はゴール後の様子がおかしいことに気づきます。フードブースでジャンクフード祭りをしようと決めていたのに、食べ物が何も喉を通らない!逆に気持ち悪くなり、吐きそう。しばらく座って横になり、様子をみます。胃が完全にやられている。着替えて自転車を洗ってもらって5時間たってもまだ気持ち悪い...。

少し横になって6時間経過。やっとスポーツドリンクが喉を通る。こりゃ内臓も疲れている。なんとか参加賞の特大ピザをもらいにいって、福本先生を待ちます。

走り終えたバイクは泥ですごい状態に。よく頑張ってくれた photo:Makoto AYANO

福本先生の挑戦

暗くなって23時頃、かなり激しい3回目の雷雨がやってきました。エンポリアも水浸しです。キッチンカーはすべて撤収、洗車サービスも終了しました。福本先生からメッセンジャーが入ります。
「ラスト40㎞程のところでまたピーナッツバター泥になっている」とのこと。そして「これではゴールに間に合わないのでリタイアする」と。途中44位まで順位を上げていただけに、本当に惜しい。でも淡々と進んできた福本さん、すごいです。

530km地点まで走ったところでリタイアした福本晃祐

カンザスの余韻

今回のフィニッシャーは50人ほど。完走率は20%にも満たない状況です。ピーナッツバター泥は破壊力あるな...。

機械式のGRXディレイラーは最後まで壊れなかった
背中のハイドレーションも泥まみれだった



2026年のXLは「泥だらけになる」という目標を十分に達成できました。本当に楽しかったです。けれど過去にないくらいの疲労度です。カンザスの大自然を身を持って体験できました。そしてその中でいろいろと判断してレースを楽しむことができて本当に良かったです。機材トラブルもなく、ウエアは破れたけど怪我もなく、最高の時間を過ごすことができました。やはり私は困難な旅のほうが好きかもしれない。朝4時半、ウィチタの家に戻るころにはニワトリが鳴いていました。

肉や野菜をグリルで焼いてBBQで打ち上げだ

3時間ほど眠り、洗濯と洗車です。その後、買い物に出かけ、家の庭にあったグリルで肉とソーセージとじゃがいもを焼きました。2人のジャンク祭りです。疲労いっぱいのBBQは忘れられない味となりました。結局滞在中は一度も外食もカフェも立ち寄らずでしたが、好きなものばかり食べて胃袋は最高に満足です。

帰国後も疲労が続いた

家の庭からカンザスの夕焼けを楽しむ

帰国しても身体が本当に疲れています。昨年同様、相変わらず右の小指と薬指もしびれています。おまけに今年は左足の小指と薬指も。トレイルランニングレースでは追い込むことのできない領域までやってしまった感じがします。

関節は痛くありません。筋肉は芯から痛いです。よって気持ち良い疲労感です。ランとバイクとスキー、上手に組み合わせて取り組むことができたら、それぞれの競技によい影響をあたえ、生涯スポーツとして楽しむことができるのではないかと感じました。

XLを走り終えた山本健一 photo:Makoto AYANO

次はスペインのBADLANDS(バッドランズ)へ

次は8月末にスペイン南部グラナダ地方の800㎞グラベルレース、BADLANDS(バッドランズ)への挑戦です。ルートには山岳地帯や砂漠を含みます。気温は0度~40度、標高は0m~3,300m。今までのこのレースの歴史の中で日本人は初参加とのことで、すでにオーガナイザーから連絡をもらっています。最高の冒険が始まる予感がしています。次回も「未知の領域」にチャレンジさせていただけることに感謝します。

福本先生のブログ、Unbound Gravel XL 2026挑戦記は壮絶な記録です。ぜひ読んでください。

text:山本健一
photo:綾野真、山本健一、福本晃祐