福島県を舞台に2日間にわたり行われる市民ステージレース「ツール・ド・ふくしま」が開幕。第1ステージは85kmのレースが行われ、終盤に抜け出した市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド)が優勝。集団内でフィニッシュした木下友梨菜(Bellmare Racing Team)が女子トップとなった。



健闘と福島の復興を願うシュプレヒコールを起こした選手たち photo:Makoto AYANO

「ツール・ド・ふくしま」は、2011年に起きた東日本大震災と福島第一原発事故による被害からの復興が進む福島県浜通り(福島県の海側)を舞台に開催されるロードレース。昨年、初開催に向けて準備が進められていたが、悪天候により中止となってしまったため、今年ようやく初開催されることになった。

海岸沿いに並ぶ風力発電のプロペラ photo:Satoru Kato
津波にさらわれた地に残る松 photo:Satoru Kato


第1ステージは、楢葉町のJヴィレッジをスタートして海岸沿いを北上。宮城県との境にある新地町にフィニッシュする85km。第2ステージは新地町をスタートし、内陸の山岳地帯を南下してJヴィレッジにフィニッシュする160km。2日間で計245km、15の市町村を駆け抜ける市民レースとしては国内最大規模のレースとなる。加えて国内UCIレースでも数少ない公道でのラインレースだ。

沿道からの声援を受けて走る集団 photo:Satoru Kato

個人参加が可能な点もこの大会の特徴。ステージレースはチーム単位での参加が通例ではあるが、ツール・ド・ふくしまではレース中の荷物の運搬など個人参加者のためのサポートを充実させ、輪行+自走でも参加出来るステージレースとしている。

設定されるカテゴリーは、ステージレースの「ふくしま240」を筆頭に、1日のみ走るカテゴリーや短距離を走るカテゴリー、さらには2日間を3名でリレーする「駅伝240」など、6つのカテゴリーが用意される。他にロングライドイベントも設定され、ファンライド派にも門戸が開く大会となった。



ふくしま240 第1ステージ 市村直生が僅差の逃げ切り勝ち

グランフォンド世界選手権で優勝した高岡亮寛(Roppongi Express)がチャンピオンジャージを着て出場 photo:Satoru Kato
招待選手の鈴なり妖怪・鈴こと木下友梨菜 のゼッケンは「鈴」 photo:Makoto AYANO


第1ステージ、Jヴィレッジのスタートラインにはおよそ150名が揃った。先日デンマークで開催されたグランフォンド世界選手権で優勝した高岡亮寛(Roppongi Express)をはじめ、森本誠(GOKISO)、小林亮(soleil de lest)、サンドゥ・ヨノツ(LT United Cycling Team)、下島将輝(MAS X SAURUS)ら、国内トップ市民レーサーが最前列に並ぶ。さらに全日本選手権女子エリート2位の木下友梨菜(Bellmare Racing Team)も出場。男子の集団に混じってスタートした。

午後2時半、Jヴィレッジをスタートするツール・ド・ふくしま第1ステージ photo:Makoto AYANO

ツール・ド・ふくしま第1ステージ スタート前のパレード photo:Satoru Kato

前日までは晴れて夏の暑さが残っていた福島県浜通りだが、初日の天気は曇り。直前まで雨が降っていたが、14時30分のスタートに合わせるかのように止んだ。気温計は25℃以下を表示していたが、湿度の高さが相殺して涼しさを感じない中でのレースとなった。

国道6号のアップダウンでアタック合戦が始まる photo:Satoru Kato

アタックと吸収の繰り返しで集団は伸縮 photo:Satoru Kato

リアルスタートが切られると、散発的なアタックと吸収が繰り返される。「リスクが少ない平坦レースなので、行けるだけ行って秒差を稼ごうと序盤から動きまくりました。3、4回飛び出してタイム差をつけたんですが、結果的には吸収されてしまった」と北野普識(イナーメ信濃山形)が言うように、飛び出しに同調する者がいないためか、あるいはアップダウンが控えめなコース設定のためか、長く続く逃げが発生しないまま距離を消費していく。

29km過ぎに設定されたスプリントポイント(伝承館SPRINT)は高山恭彰(MAX SPEED 97)が先頭通過 photo:Satoru Kato

東日本大震災・原子力災害伝承館前で小学生らが声援を送る photo:Satoru Kato

山岳賞ポイント(磯部小KOM)は南広樹(TeamZenko、写真右)が先頭通過 photo:Satoru Kato

コース後半に入っても集団はバラけることなく進行。終盤が近くなると高岡亮寛(Roppongi Express)が先頭でペースを上げて集団を引き伸ばすなど、有力選手が集団前方に集まり始める。

コース後半に入り、高岡亮寛(Roppongi Express)が集団を引き伸ばす photo:Satoru Kato

松川浦(右)と太平洋に挟まれた1本道を長く伸びた集団が行く photo:Satoru Kato

残り10km、松川浦大橋を集団が渡る photo:Satoru Kato

最終盤まで集団に残ったのは50名ほど。このまま集団でのスプリント勝負かと思われた残り3km、市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド)が単独で飛び出す。「昨日コースの下見をしていて、最後がテクニカルになることがわかっていたので、もしかして最後まで逃げ切れるかと思っていた」と市村が振り返るように、残り2kmからホームストレートの残り500mまではコーナーが連続するため集団のペースが上がらなくなる。

フィニッシュ目前、市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド)の直後に集団が迫る photo:Satoru Kato

市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド)がわずかに逃げ切って優勝 photo:Satoru Kato

一方、「落車にだけは巻き込まれたくなかったので前々に居たんですが、ラスト3kmぐらいのときに市村選手飛び出したときに集団がお見合いしてしまった」と小林亮(soleil de lest)が言うように、集団の反応が遅れたこともあって先行した市村を追いきれないままホームストレートへ。

最後は集団が直後まで迫ったが、わずか数メートル足りず。僅差で逃げ切った市村がツール・ド・ふくしま第1ステージを制した。

第1ステージふくしま240 1位市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド) 2位小林亮(soleil de lest) 3位北野普識(イナーメ信濃山形) photo:Makoto AYANO

福島復興大臣賞を受賞した市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド) photo:Makoto AYANO

市村は総合首位のリーダージャージに加え、「ふくしま240」「ふくしま80」の選手(女子含む)を対象に初日ステージ1の1位の選手(1名)に授与される復興大臣賞も受賞した。「本当は明日の厳しい第2ステージのために温存するつもりでいたんですが、飛び出したからにはステージ優勝さえできれば明日のことなんてどうでもいい!と力を出し切りました。明日の第2ステージは登りがかなり厳しいので、遅れないようにだましだまし走ります」と、翌日に向け控えめなコメントを残した。

集団内で走る木下友梨菜(Bellmare Racing Team) photo:Satoru Kato

女子トップ3 木下友梨菜(Bellmare Racing Team)、市村愛(セマスR新松戸)、幸城はるか(フィッツ) photo:Makoto AYANO

女子は、最後まで男子のメイン集団に混じって走りフィニッシュした木下友梨菜(Bellmare Racing Team)が首位。

「男性と一緒のレースということで普段できない初めての経験でした。前のほうに出て先頭を引いてみたり、逃げが出来そうならその動きに乗ってみたりと、坂がなくて自分が見せ場をつくれるコースではないなかでも、自分の走りたい位置で走ったり、動いたりできたのは良かった。最後の方は集団の後ろに居たせいで落車の影響を受けてしまいました。明日は山のコースで得意なので、ガンバリマス!」と語った。

ふくしま30  吉岡勝彦(東京都)が優勝 photo:Satoru Kato
駅伝240 1区表彰 1位チームタキオン、2位イナーメ信濃山形、3位BICI CERCATORE photo:Makoto AYANO


ふくしま80 1位小林柊友(岐阜第一)、2位菅田有記(Promotion x Athlete cycling) 3位堀口誠(宮野木自転車漕走会) photo:Makoto AYANO
各賞を受賞し、リーダージャージを着用した選手たち photo:Makoto AYANO




第2ステージは160kmの厳しい山岳コース

明日の第2ステージは160kmの山岳コース。前半はほぼ登りっぱなしで、途中には勾配10%の標識が立つ。部分的にはそれ以上の斜度を含む長い登り区間で集団が粉砕されるのは必至だ。

「アルカンシェルジャージを着て走るのは気持ち良かった」と高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto AYANO
「アルカンシェルジャージを着て走るのは気持ちよかった」と話す高岡は、「明日の第2ステージはうっかり逃げが行ってしまうようなコースではないので、強い人がペースを作って集団を絞り込んでいくでしょう」と、第2ステージの展開を予想する。

「余裕があれば、調子が良ければ独走に持ち込みたいと思います。厳しい登りが何度も何度も出てくるので、登りに強い選手じゃないと残れない。でも難しいのは終盤30kmぐらい下ってからの最後は平坦であること。難しいですが自分の得意なコースなので、最後の山岳で5人未満にはしたいですね。脚の無い選手は残れないので安心して自分の走りができます」と、総合優勝への自信を見せた。

第2ステージは午前6時にスタートする。

ツール・ド・ふくしま2024 DAY1 結果
ふくしま240第1ステージ
1位 市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド) 1:58:08
2位 小林亮(soleil de lest)
3位 北野普識(イナーメ信濃山形) +0:01
4位 金子大介(7ELEVEN CLIQQ RPB) +0:01
5位 岩間来空(Team Aniki) +0:01
6位 西尾勇人(7ELEVEN CLIQQ RPB) +0:01
7位 鳴海颯(Vini Monzon Savini Due OMZ) +0:01
8位 石井雄悟(MASxSAURUS) +0:01
9位 サンドゥ・ヨノツ(LT United Cycling Team) +0:01
10位 山田和弘(名岐ベンド) +0:01
山岳賞 南広樹(TeamZenko)
スプリント賞 高山恭彰(MAX SPEED 97)
駅伝240 1区
1位 チームタキオン 1:58:27
2位 イナーメ信濃山形 +0:06
3位 BICI CERCATORE +13:43
ふくしま80
1位 小林柊友(岐阜第一) 1:58:08
2位 菅田有記(Promotion x Athlete cycling) +0:01
3位 堀口誠(宮野木自転車漕走会) +0:08
ふくしま30
1位 吉岡勝彦(東京都) 0:53:03
2位 手塚健太(山形県)
3位 弓田快(宮城県)+0:04
ふくしま240 女子
1位 木下友梨菜(Bellmare Racing Team) 1:58:30
2位 市村愛(セマスR新松戸) +14:11
3位 幸城はるか(フィッツ) +22:46

text&photo:Satoru Kato,Makoto AYANO

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