アタックの応酬となったブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージ。ラスト600mで飛び出したエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー)が逃げ切り勝利を飾り、最終山岳で仕掛けたログリッチは総合首位オコーナーから37秒を取り戻した。



8月28日(水) 第11ステージ
カンプス・テクノロジコ・コルティソ(パドロン)〜カンプス・テクノロジコ・コルティソ(パドロン) 166.4km(山岳)


4賞ジャージを先頭にスタートしたブエルタ第11ステージ photo:Unipublic

ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第11ステージ コースプロフィール image:A.S.O.

カンプス・テクノロジコ・コルティソ(パドロン)を発着地点とするブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージは、等間隔に配置された4つのカテゴリー山岳を越える山岳ステージ。3つの輪状のコースを巡りながら3級、2級、2級、そして3級山岳を越えていく。

前日に続き逃げに向いたレイアウトで、勝負所となるのは頂上が残り48.5km地点に設定された2度目の2級山岳プエルト・アグアサンタス(距離5.7km/平均6.1%)。その後は中間スプリントを経て、ラストに駆け上がる3級山岳プエルト・クルシェイラス(距離2.9km/平均8.9%)の勾配は厳しい。

マーティン・トゥスフェルト(オランダ、DSMフィルメニッヒ・ポストNL)のファーストアタックから始まったレースは、ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)やヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)などが積極的に逃げを目指す。ヴィスマ・リースアバイクへの移籍は発表されたカンペナールツは単独先頭に立ち、約30秒差で30名弱の選手たちが追いかけた。

序盤に単独先頭に立ったヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー) photo:Unipublic

デカトロンAG2Rラモンディアルがプロトンを先導し、距離を進めていく photo:CorVos

リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)が単独落車するシーン(怪我なく集団に復帰)のあったメイン集団は、デカトロンAG2Rラモンディアルがコントロールする。レース序盤67kmの平均速度が49km/hに迫るハイスピードで進むなか、2つ目の2級山岳でカンペナールツは後続集団に吸収される。最終的に38名の大所帯となった逃げグループから、今度はクサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が飛び出した。

逃げの中で最も総合タイムが良い(9分50秒遅れ)ジョージ・ベネット(ニュージーランド、イスラエル・プレミアテック)のため、イスラエルは逃げ集団を先導。単独先頭のムーリッセを1分差で追いかける。ムーリッセは2つ目と3つ目の登りである2級山岳プエルト・アグアサンタス(距離5.7km/平均6.1%)をトップ通過し、中間スプリント直後の残り32km地点でようやく追走集団に捕まった。

単独先頭でカテゴリー山岳を越えていくクサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)を含む30名を超える大人数の逃げが形成された photo:CorVos

プロトンで走るプリモシュ・ログリッチ(スロベニア) photo:CorVos

この時点でプロトンとの差は5分。そのため勝利が絞られた逃げ集団からシャビエル・イササ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)のアタックは決まらず、3級山岳プエルト・クルシェイラス(距離2.9km/平均8.9%)を前に再びカンペナールツが仕掛ける。この動きにより先頭はナルバエスなど8名に絞られ、最終3級山岳でウルコ・ベラーデ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ)が速度を上げた。

先頭集団から積極的な動きを見せたカンペナールツが遅れ、ベラーデとフィリッポ・ザナ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)、カルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック)の3名が頂上を通過する。一方のプロトンでは登りでレッドブルが一気にペースを上げ、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)がエンリク・マス(スペイン、モビスター)以外を振り落とすことに成功。アシストのいないベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル)は単独追走を強いられることとなった。

最終3級山岳でアタックするカルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック) photo:CorVos

下りをクリアした先頭集団には平坦路で後続が追いつき、残り1kmバナー手前で14名の集団から仕掛けたベローナのアタックは決まらない。選手たちは今年のツール・ド・フランスで小集団スプリントを制したナルバエスのスピードを警戒するなか、フィニッシュ手前600mでエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー)がアタック。今年6月に自身初のアイルランドTT王者に輝いたダンバーは得意の独走で差を拡げ、後続は牽制に入ったためスピードが上がらない。

「勝つにはギャンブルをしなければならないと思った」とレース後に語ったダンバーはそのままフィニッシュラインに到達。総合上位を狙いながらも山岳ステージでタイムを失い、目標をステージ優勝に切り替えたクライマーが、自身初となるブエルタ区間優勝を手に入れた。

残り600mで仕掛け、勝利を手に入れたエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos

「600mのスプリントは長かったが、勝つにはそれしかないと思った」とレースを振り返ったダンバー。「今年のジロ・デ・イタリアでLCL(膝の外側副靭帯)を損傷した時、自分の選手キャリアは終わったと思った。だがガールフレンドや友人、家族が素晴らしいサポートをしてくれた。ここまで来るのに長い時間がかかったが、ようやくその恩を返すことができた」と語り、涙を拭った。

2位にはクインテン・ヘルマンス(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が入り、3位はマックス・プール(イギリス、DSMフィルメニッヒ・ポストNL)。ログリッチは3分31秒遅れでマスやミケル・ランダ(スペイン、Tレックス・クイックステップ)と共にフィニッシュ。それから37秒遅れでレースを終えたオコーナーからタイムを稼ぎ、その差を3分16秒まで縮めた。

ザナと勝利を喜ぶエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) photo:Unipublic
ログリッチなどから31秒遅れでフィニッシュしたベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) photo:Unipublic


怪我を乗り越え、ブエルタ初勝利を手に入れたエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos

ブエルタ・ア・エスパーニャ2024第11ステージ
1位 エディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) 3:44:52
2位 クインテン・ヘルマンス(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) +0:02
3位 マックス・プール(イギリス、DSMフィルメニッヒ・ポストNL)
4位 ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) +0:04
5位 ウルコ・ベラーデ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ)
6位 フィリッポ・ザナ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)
7位 ヨン・イサギレ(スペイン、コフィディス)
8位 カルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック)
9位 ジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア、アスタナ・カザクスタン)
10位 ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツ)
35位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:31
42位 ベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) +4:08
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 ベン・オコーナー(オーストラリア、デカトロンAG2Rラモンディアル) 43:54:54
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +3:16
3位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) +3:58
4位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) +4:10
5位 ミケル・ランダ(スペイン、Tレックス・クイックステップ) +4:40
6位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +5:23
7位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +5:29
8位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) +5:30
9位 フェリックス・ガル(オーストリア、デカトロンAG2Rラモンディアル)
10位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、イスラエル・プレミアテック) +5:46
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) 243pts
2位 カーデン・グローブス(オーストラリア、アルペシン・ドゥクーニンク) 162pts
3位 パヴェル・ビットネル(チェコ、DSMフィルメニッヒ・ポストNL) 81pts
マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) 22pts
2位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) 22pts
3位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) 18pts
マイヨブランコ(ヤングライダー賞)
1位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) 44:00:17
2位 フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +0:06
3位 マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) +1:18
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 131:51:14
2位 デカトロンAG2Rラモンディアル +13:10
3位 レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ +13:11
text:Sotaro.Arakawa
photo:Unipublic, CorVos