2023/07/22(土) - 17:06
今大会唯一のタイムトライアル、しかも登りフィニッシュが用意された第16ステージには多くの興味深いタイムトライアルバイクが投入された。リドレーとBMCのプロトモデル、ヴィンゲゴーの優勝バイク、山岳ポイントだけを狙ったニールソン・パウレスの登坂TTセッティング、60Tシングルギアを選んだマッズ・ピーダスンのバイクをレポートします。
3,399.5kmのうち、タイムトライアルはたったの22.4km。今年のツール・ド・フランスが例年以上にクライマー向きと言われる理由がここにある。しかも2級山岳を登ってフィニッシュするというこの日、タイムトライアルバイクで走り切るチーム、登坂でノーマルバイクに交換するチーム、さらには山岳ポイント狙いの特殊セッティングまで、機材面でも大きな差が現れるステージとなった。
未発表のタイムトライアルバイクを走らせたのはAG2Rシトロエン(BMC)とロット・デスティニー(リドレー)の2チーム。BMCとリドレーはともにロードバイクでも未発表のプロトモデルを投入しており、積極的な開発姿勢が見てとれる。
BMCのプロトTTバイクは、ロードのプロトモデルと同じくレッドブル・アドバンスドテクノロジーズとの共同開発によるもの。昨年のアイアンマン世界選手権前に発表され、今年のツール・ド・ロマンディでチューダーの選手が使用するなど、常に話題を提供してきた。
従来モデルのtimemachine TM01と比べるとかなり直線的なデザインになり、その一方でタイヤ/ホイールとのクリアランスを広くとったフロントフォークなど先進的な思想を取り込んでいる。
興味深いのが専用ボトルをフレームのエアロデザインに組み込んでいることだ。五角形のボトルはダウンチューブとシートチューブの隙間に完全にフィットし、全く風の影響を受けないように配慮されている。今まで専用ボトルを組み込んだフレームは数あるが、ここまでの「インテグレーション」を達成したバイクは過去にないと言えるだろう。
リドレーのプロトバイクは前哨戦クリテリウム・デュ・ドーフィネで実戦投入され、そしてツールに持ち込まれたもの。塗装はもちろんリドレーのロゴすら無い"プロト感"満点のモデルだが、Noah Fastにも通ずる緩やかにS字を描くトップチューブ、フロントフォークとダウンチューブの接合部、さらに細い溝をつけて小さな乱気流を生み、結果的に全体的な整流効果を狙う「F-Surface Plus」の存在など、極めてリドレーらしいデザインを維持している。
元アワーレコードホルダーのヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)はフルTT仕様だが、元オランダ王者のパスカル・エインコールンは登坂を考慮して前後ノーマルホイール(DTスイスのARC1100)をセットしていた。
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)を1分38秒突き放し、ステージ優勝を挙げるとともに大きな総合リードを築いたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)、そして2位に入ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は真っ黒のサーヴェロP5で平坦、そして山岳を駆け上がった。
普段使用するP5は黒と黄色のチームカラーだが、2人のマシンはおそらく軽量化を狙い、塗装を極限まで排除したもの。タイヤはヴィットリアのCORSA PROかと思いきや、まだ発表されておらず、ここまでどのステージでも見かけなかったタイムトライアル用のCORSA PRO SPEED(26c)だ。今ツールでは多くの選手が現行モデルのSPEEDを使っているが、新型CORSA PRO SPEEDを使ったのはこの2人だけ。
なおこの日、多くの選手がバイク交換作戦を実施したが、ユンボ・ヴィスマはサーヴェロとのシュミレーションによってバイク交換をしない方が早いという結論に至ったため、全員がTTバイクをフィニッシュまで乗り続けた。
16ステージ時点で山岳ポイント2位につけていたニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)は、マイヨアポワ逆転獲得のために平坦のスピードを捨て登坂勝負だけにフォーカス。パドックでは特殊なセッティングが施されたバイクが準備されていた。
タイムトライアルバイク(SuperSlice)ではなくノーマルバイク(SuperSix EVO)を選び、TTバー無し、後輪はディスクホイールに、そして前輪はヴィジョンがチーム供給用として特別に製作したという軽量ホイールを装着。さらに軽量化を図るべくディスクローターはシマノではなくガルファーに換装するという徹底ぶりだ。
また、このタイムトライアルステージでの最大歯数チェーンリングはマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)の60T(トップギア比6.0)。ロードステージでも最大56Tシングルギアを運用する元世界王者は、このバイクでヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)から3分半遅れのステージ9位という好結果を残している。
text&photo:So Isobe
3,399.5kmのうち、タイムトライアルはたったの22.4km。今年のツール・ド・フランスが例年以上にクライマー向きと言われる理由がここにある。しかも2級山岳を登ってフィニッシュするというこの日、タイムトライアルバイクで走り切るチーム、登坂でノーマルバイクに交換するチーム、さらには山岳ポイント狙いの特殊セッティングまで、機材面でも大きな差が現れるステージとなった。
未発表のタイムトライアルバイクを走らせたのはAG2Rシトロエン(BMC)とロット・デスティニー(リドレー)の2チーム。BMCとリドレーはともにロードバイクでも未発表のプロトモデルを投入しており、積極的な開発姿勢が見てとれる。
BMCのプロトTTバイクは、ロードのプロトモデルと同じくレッドブル・アドバンスドテクノロジーズとの共同開発によるもの。昨年のアイアンマン世界選手権前に発表され、今年のツール・ド・ロマンディでチューダーの選手が使用するなど、常に話題を提供してきた。
従来モデルのtimemachine TM01と比べるとかなり直線的なデザインになり、その一方でタイヤ/ホイールとのクリアランスを広くとったフロントフォークなど先進的な思想を取り込んでいる。
興味深いのが専用ボトルをフレームのエアロデザインに組み込んでいることだ。五角形のボトルはダウンチューブとシートチューブの隙間に完全にフィットし、全く風の影響を受けないように配慮されている。今まで専用ボトルを組み込んだフレームは数あるが、ここまでの「インテグレーション」を達成したバイクは過去にないと言えるだろう。
リドレーのプロトバイクは前哨戦クリテリウム・デュ・ドーフィネで実戦投入され、そしてツールに持ち込まれたもの。塗装はもちろんリドレーのロゴすら無い"プロト感"満点のモデルだが、Noah Fastにも通ずる緩やかにS字を描くトップチューブ、フロントフォークとダウンチューブの接合部、さらに細い溝をつけて小さな乱気流を生み、結果的に全体的な整流効果を狙う「F-Surface Plus」の存在など、極めてリドレーらしいデザインを維持している。
元アワーレコードホルダーのヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)はフルTT仕様だが、元オランダ王者のパスカル・エインコールンは登坂を考慮して前後ノーマルホイール(DTスイスのARC1100)をセットしていた。
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)を1分38秒突き放し、ステージ優勝を挙げるとともに大きな総合リードを築いたヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)、そして2位に入ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)は真っ黒のサーヴェロP5で平坦、そして山岳を駆け上がった。
普段使用するP5は黒と黄色のチームカラーだが、2人のマシンはおそらく軽量化を狙い、塗装を極限まで排除したもの。タイヤはヴィットリアのCORSA PROかと思いきや、まだ発表されておらず、ここまでどのステージでも見かけなかったタイムトライアル用のCORSA PRO SPEED(26c)だ。今ツールでは多くの選手が現行モデルのSPEEDを使っているが、新型CORSA PRO SPEEDを使ったのはこの2人だけ。
なおこの日、多くの選手がバイク交換作戦を実施したが、ユンボ・ヴィスマはサーヴェロとのシュミレーションによってバイク交換をしない方が早いという結論に至ったため、全員がTTバイクをフィニッシュまで乗り続けた。
16ステージ時点で山岳ポイント2位につけていたニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)は、マイヨアポワ逆転獲得のために平坦のスピードを捨て登坂勝負だけにフォーカス。パドックでは特殊なセッティングが施されたバイクが準備されていた。
タイムトライアルバイク(SuperSlice)ではなくノーマルバイク(SuperSix EVO)を選び、TTバー無し、後輪はディスクホイールに、そして前輪はヴィジョンがチーム供給用として特別に製作したという軽量ホイールを装着。さらに軽量化を図るべくディスクローターはシマノではなくガルファーに換装するという徹底ぶりだ。
また、このタイムトライアルステージでの最大歯数チェーンリングはマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)の60T(トップギア比6.0)。ロードステージでも最大56Tシングルギアを運用する元世界王者は、このバイクでヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)から3分半遅れのステージ9位という好結果を残している。
text&photo:So Isobe
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