5月20~21日にかけて、長野県の木祖村において"2days race in 木祖村”が開催された。国内では珍しい、アマチュアレーサーに開かれたステージレースとして開催される貴重なイベントだ。今年は弱虫ペダルサイクリングチームや全日本TT王者である金子宗平(群馬グリフィン)も参戦。高レベルな争いが繰り広げられた2日間のレポートが届いた。



「小さな村の小さなステージレース?  いや、これは偉大な村の偉大なステージレースだ!」 

レースを走っていると、コースのキツさに「主催者は何を考えているんだ~!」とブツブツ言ってしまうことがある。レースにもいろいろな種類がある。全日本チャンピオンを決める選手権大会から、まちおこしのローカルレース、みんなでワイワイ走るエンデューロレースなどなど、格式や走行距離、コースプロフィール、参加資格、参加人数などさまざまだ。

数あるレースのなかで、どんな特徴を持たせたいか、選手に何を見せたいか、観客に何を見せたいのか……主催者の想いはコースデザインに現れる。
さらに大会特別規則などで、レースの全体像が形作られていくのだろう。

2023年5月20日-21日に長野県木曽郡木祖村、味噌川ダム、奥木曾湖周回コースでステージレース、「2days Race in 木祖村 2023」が開催された。

ステージレースは、前のステージまでの総合タイム差があっても、毎回同時出走となる。それぞれのタイム差意識しながらのレースが続く。そして集団ゴールすると、同一集団=同一タイムとなる。ライバルとタイム差をつけるには、登りコースで果敢なアタックをして後続を振り払うか、テクニカルガイドに示された、ボーナスタイムの設定を利用するか、頭脳と脚力とチーム力を使うことになる。

今回大会のトピックとして、以下の3点があげられる。

1)敢闘賞の導入、移動審判の視点で選手の頑張りを評価して選定。
2)前年導入の団体総合トップにイエローゼッケンを今年も授与。どのチームも目指してほしい。
3)「個人タイムトライアルにチームカーを追走させます。6月の全日本選手権に向けて、
  選手もチームスタッフも審判も経験を積んでもらいたい」、と主催者、藤森信行さんの声。

5/20日(土)1日目午前、ステージ1-A、個人タイムトライアルからスタート
1日目、ステージ1-A、個人タイムトライアル。明治大学はジャージと同じスクールカラーのストライプが入ったチームカー photo:Itsushi Kanbe

レッドカーペットのスタート台から1分間隔で発車する本格的なスタイル。アップダウンもあり、テクニカルなコースをどう走るか、また選手のトラブル発生時や、前の選手に追いつくときなど、狭い路上でチームカーがどう動くかも貴重な経験になる。

各チーム5巡目まで進み、残り8名の結果待ちの時点での成績は暫定1位、釜田 佳典(中央大学)、暫定2位、渡邉 和貴(Avenir Cycling Yamanashi)、暫定3位、五十嵐 洸太(弱虫ペダルサイクリングチーム)となっている。

最後に2022全日本タイムトライアルチャンピオン、金子 宗平(群馬グリフィンレーシングチームP)と前年の優勝者 神村 泰輝(Avenir Cycling Yamanashi)が走り、結果が確定。

1位、金子 宗平(群馬グリフィンレーシングチームP)
2位、内田宇海(弱虫ペダルサイクリングチーム)
3位、釜田 佳典(中央大学)となった。

ホットシートでインタビューの優勝 金子。タイムトライアル全日本チャンピオンジャージが王者の証 photo:Itsushi Kanbe

優勝した金子は「木祖村のコースの試走動画を見て研究した。このタイム差を守りたい」と語り、個人タイムトライアル全日本選手権を優勝した時のように冷静に分析しての勝利を収めた。

ステージ1-A表彰 photo:Itsushi Kanbe


総合イエロージャージは金子(群馬グリフィンP)。また、U23ホワイトジャージは釜田(中央大学)、O40ピンクジャージは高岡 亮寛(Roppongi Express)が着用となった。

午後はステージ1-B、9kmのコースを9周する81kmの個人ロードレース、130名が出走。

ステージ1-Bスタート、リーダージャージと団体総合トップのAvenirYAMANASHI が最前列 photo:Itsushi Kanbe

ローリングスタートの後、ファーストアタック、藤井 涼介(Avenir Cycling Yamanashi)と水野 恭兵(水野ファーム)の2名が飛び出す。

移動審判が逃げ選手の成績をすかさずチェック。ステージ1-Aでのタイム差は1分50秒遅れとの情報で逃げは容認され集団は追わない。後続との差が10秒から35秒差に広がるが、やがて集団に吸収される。代わって8人の逃げグループが形成され、後続に60秒差をつける。この逃げグループにはイエロージャージのリーダーが自ら入っている。

リーダージャージを含む8人の逃げ photo:Itsushi Kanbe

逃げ8人のレースが続くが、残り2周、鎌田 晃輝(世田谷日大)がパンク。共通機材車からスペアホイールを受け取るも、ディスクローター径が合わず、無念のリタイア。だが、その積極的な走りに、敢闘賞が与えられた。残る7人の逃げは分裂し、4人のゴール勝負を中里 仁(Wednesday racing)が制して、ステージ1-B優勝。すぐに表彰式が始まる。
ステージ1-B表彰 photo:Itsushi Kanbe


そして総合成績はステージ3位に入った金子 宗平(群馬グリフィンレーシングチームP)が同一集団でのゴールとなり、タイム差を失わず、リーダージャージを守った。
ステージ1-B後、個人総合は金子が引き続きイエロージャージ photo:Itsushi Kanbe


5/21日(日) 2日目 午前 コンソレーションレース&ジュニア高校生

スタートラインの高校生 photo:Itsushi Kanbe

午前中は前日完走できなかった選手たちの「コンソレーション(残念)レース」とジュニア高校生の混走レース。高校自転車部の新入部員もデビュー戦。緊張の中、先生や先輩からのアドバイスでスタート準備をしていく。

名誉スターターとして奥原秀一木祖村村長が号砲を鳴らし、レースがスタート。
コンソレーションレーススタート、前日の敢闘賞の鎌田、奥原村長と photo:Itsushi Kanbe


鎌田 晃輝を含む3人の逃げがメイン集団を50秒~1分離してレースが進む。前日の無念のリタイアの悔しさをぶつけて、周回賞もすべて奪っての優勝となった。
コンソレーションレース表彰 photo:Itsushi Kanbe


5/21日(日) 2日目 午後 ステージ2 9km×14周の126kmに87人が出走
チームプレゼンテーション、無傷の5人編成、多摩学連 photo:Itsushi Kanbe

4人エントリーのうち、1人が残った信州大学 photo:Itsushi Kanbe

そしていよいよ2日目午後の最終レース。ステージ2は、9km×14周の126kmに87人が出走。

3時間超えが予想されるレース。良すぎる天候、急な暑さに身体が慣れていない心配もあり、急遽補給機会が増やされることに。
ここでも、エントリーシートの選手の役割分担を意識してサコッシュでチーム全員分のボトルを受取って、集団に戻ってメンバーに配る、といった仕事ができる選手がチームメイトから信頼されることになるだろう。

ステージ2 スタート、4賞ジャージが最前列に並ぶ photo:Itsushi Kanbe

ステージ2 スタート、団体総合トップのイエローゼッケンは弱虫ペダル photo:Itsushi Kanbe

レースは序盤に9人の逃げが形成される。逆転したい弱虫ペダルが複数入っている。リーダージャージ金子は後方の集団で待機。タイム差が広がっていく。Day1終了時点で、逃げグループ9人の中の総合成績トップは内田 宇海(弱虫ペダルサイクリングチーム)で、スタート前のタイム差で
リーダー金子から1分49秒遅れ。

メイン集団との差が2分を超えたところで、内田がバーチャルリーダーとなる。モトから集団にもタイム差が伝えられる。リーダーのチームはどう動く?

レースは7周、半分が経過した時点で逃げは7人に減るが、内田のバーチャルリーダーは変わらない。残り5周、5人に減った逃げを集団が追い始める。逃げの内田を守りたい弱虫ペダルは追い上げには協調しないが、リーダージャージの金子が自ら集団を強力に引き続ける。

ステージ2表彰 photo:Itsushi Kanbe

タイム差は1分30秒、1分15秒、1分00秒、と着実に縮まり、内田はバーチャルリーダーの座を失い、金子がリーダーに返り咲く。最終周の最終区間でついに集団が逃げグループを吸収、ゴール勝負へ。

ゴールは寺﨑 武郎(バルバサイクルレーシングチーム)が抜け出し、3時間06分49秒でステージ優勝。リーダージャージの金子 宗平(群馬グリフィンレーシングチームP)は21秒遅れで15番手ゴール。スタート前のタイム差を守り、総合優勝を果たした。

個人総合表彰、表彰時の2位と3位は後日逆であった旨、訂正のコミュニケが出された photo:Itsushi Kanbe

このレース半ばでは、集団内でステージ1-Bを優勝し、総合3位の中里にパンクが発生し大きく遅れてしまう。ホイール交換を済ませて集団に復帰するためにチームメイトが必死の引き上げ。その後は集団でレースを進め、トップ集団で4番手ゴールし、総合は2位に上がった。エースの総合成績を守ったチームメイトの献身的な走りに惜しみない拍手を送りたい。

最後尾の回収車より撮影、中里を集団に復帰させ、仕事を終えたWednesdayRacingの2人。お疲れさまでした photo:Itsushi Kanbe

最初の個人タイムトライアルでついたタイム差をどう守るか?そのためにチームはどう動くか?2日間の小さなステージレースと言うが、ステージレースの基本中の基本の動きを、選手とチームスタッフは、この「2days Race in 木祖村 2023」で経験できただろう。

そして審判団もゴール後すぐに表彰式をするために、レース中に総合成績の行方を確認し、移動審判と本部とで連絡を取り合っていた。今年から計測チップも導入されたが、目視と手計算での上位表彰者の確定など、審判のスキルアップの経験も積めた大会となった。

スプリント賞総合表彰、1位内田(弱虫ペダル)、2位金子(群馬グリフィンP)、3位高岡(RoppongiExpress) photo:Itsushi Kanbe
U23総合表彰、五十嵐 洸太(弱虫ペダルサイクリングチーム photo:Itsushi Kanbe


O40総合表彰、逆転で井上和郎(バルバサイクルレーシングチーム photo:Itsushi Kanbe
完走は3人になってしまったが、団体総合を守った弱虫ペダルサイクリングチーム photo:Itsushi Kanbe



また地元木祖村のバックアップも忘れてはならない。道路使用許可、コース整備にご尽力され、さらにふもとの道の駅で使える商品券を賞品として提供いただいた。

来月6月10-11日には、同じコースを使って大学生のレース、「第38回 全日本学生選手権個人ロードレース大会」が開催される。今回参加した学生チームはコース攻略のヒントをつかんだはず。みなさんも多数参戦、観戦いただき、お土産をたくさん買って帰ると良いだろう。

Text&Photo:Itsushi Kanbe

最新ニュース(全ジャンル)