2023/05/28(日) - 08:15
1級山岳を駆け上る18.6km個人タイムトライアルで争われたジロ・デ・イタリア第20ステージ。チェーン落ちを冷静に対処したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が区間優勝を飾り、総合でトーマスを逆転。ローマでの大会最終日を前に事実上のマリアローザ獲得を決めた。
第106回ジロ・デ・イタリアのマリアローザ争いを締めくくるのは、18.6kmに及ぶ大会3度目の個人タイムトライアル。だがその実は、1級山岳モンテ・ルッサーリを登る”山頂フィニッシュ”だ。
タイムトライアルでスタートを切る平坦路はコース前半11.1kmで終わり、第1計測地点(10.8km)の直前に定められた「バイク交換区間(25m)」で選手たちはノーマルバイクにチェンジ。そしてジロ初登場の1級山岳モンテ・ルッサーリ(距離7.3km/平均12.1%)を駆け上がる。鍵を握るのは序盤とフィニッシュ手前1km地点に登場する最大勾配22%で、道幅が狭いためチームカーが帯同できるのは登りの麓まで。その後はスペアバイクやホイールを携え、モトバイクに乗ったチームスタッフが選手の後ろからサポートする。
総合1位ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)から29秒差で総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)、39秒差で総合3位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)という僅差で迎えたマリアローザ最終決戦。スロベニアの国境が近いこともあり山岳の沿道に多くのスロベニア人ファンが集うなか、総合最下位のニコラス・ダッラヴァッレ(イタリア、チーム・コラテック)が11時30分にスタート。その後1分間隔で選手たちが続々とコースに飛び出していった。
54分前後でフィニッシュする選手たちが多い中、最初に50分の壁を破る48分35秒をマークしたのはティボー・ゲルナレック(フランス、アルケア・サムシック)だった。しかしこのタイムを同じフランス出身のトマ・シャンピオン(コフィディス)が上回り、更にこれがジロ初出場の21歳マシュー・リッチテッロ(アメリカ、イスラエル・プレミアテック)が46分19秒と大幅に更新する。
これを有力クライマーかつオーストラリアTT王者のジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)と、そのチームメイトであるブランドン・マクナルティ(アメリカ)がトップタイムを塗り替え、スタート間隔が3分になる総合15位のセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)が45分28秒でフィニッシュ。ログリッチの山岳アシストであるクスが暫定トップタイムを叩き出し、いよいよ総合トップ10の選手たちがスタートしていった。
その中でも最初に暫定トップに立ったのはマリアアッズーラ(山岳賞ジャージ)を着るティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)。ピノは前半の平坦区間を好タイムでまとめると、得意の登坂区間を軽快に飛ばして45分22秒をマークして総合7位から5位にジャンプアップ。しかし、すぐさま地元イタリアの声援を受けるダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が僅か4秒上回った。
カルーゾの3分後にマリアビアンカ(ヤングライダー賞ジャージ)を着用するジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)がスタートを切る。山岳の中腹にある第2計測地点(14.3km)をカルーゾと同タイムで通過したアルメイダは、レース後「終盤に向けて調子が上がっていった」と言う通り登坂を駆け上がり、暫定1位の45分5秒でフィニッシュ。区間2勝目も十分考えられる好タイムを叩き出した。
そしてトーマスと握手を交わしたログリッチが、東京五輪TT王者の証である金色のヘルメットをつけてスタート。待ち受ける2人のチームスタッフによりスムーズなバイク交換を行い、直後の第1計測地点(10.8km)をトップタイムで通過したログリッチは登坂区間に突入する。沿道に掲げられたスロベニア国旗と声援を力に変えたログリッチは、第2計測地点トップであったクスのタイムを32秒更新する驚異的な登坂スピードを披露した。
その3分後に出走したマリアローザのトーマスはバイクと共にエアロヘルメットからノーマルヘルメットに変え、ログリッチから2秒遅れで第1計測地点を通過する。しかし登坂に入るとログリッチとのスピードに差が生まれ、第2計測地点でその差は16秒まで拡大。そのため総合首位逆転の可能性が徐々に大きくなっていたログリッチだったが、登坂途中の段差でフロントギアのチェーンが落ちるトラブルに見舞われる。
誰しもが2020年ツール・ド・フランスで逆転負けした悲劇を思い出すなか、落ち着いて自らチェーンをはめ直し、モトバイクから降りたチームスタッフと沿道のファンに背中を押されて再スタート。ログリッチはその後リズムを取り戻し、約20秒のタイムロスしてもなお第3計測地点(17.8km)でもトップタイムを更新。そしてアルメイダのタイムを42秒上回る、44分23秒でフィニッシュラインを駆け抜けた。
一方のトーマスは暫定2位のタイムで第3計測を通過したものの、ログリッチとの差は29秒まで拡大。フィニッシュする頃にその差は40秒となり、トーマスは45分3秒でフィニッシュ。本人が「1秒や2秒差で敗れるよりも清々しい」と語るように、ログリッチがステージ優勝と共に総合逆転に成功した。
トーマスのフィニッシュ後ステージ優勝と総合逆転を伝えられ、雄叫びをあげ涙を流したログリッチ。「ただただ素晴らしい。この言葉は僕の勝利だけではなく、沿道から応援してくれた人々のことでもある。エネルギーに満ち溢れたこの場所での素晴らしい瞬間を、僕は決して忘れないだろう」とコメント。「途中でチェーンが外れてしまったが、これもレースでは起こりうること。脚の調子が良く、沿道の応援が自分が出せる以上のワット(出力)を出させてくれた。本当に楽しんで走ることができたよ」と、翌日ローマでの最終ステージを前に、事実上マリアローザを手中に収めたログリッチはそう語った。
選手たちのコメントは別記事にて掲載します。
第106回ジロ・デ・イタリアのマリアローザ争いを締めくくるのは、18.6kmに及ぶ大会3度目の個人タイムトライアル。だがその実は、1級山岳モンテ・ルッサーリを登る”山頂フィニッシュ”だ。
タイムトライアルでスタートを切る平坦路はコース前半11.1kmで終わり、第1計測地点(10.8km)の直前に定められた「バイク交換区間(25m)」で選手たちはノーマルバイクにチェンジ。そしてジロ初登場の1級山岳モンテ・ルッサーリ(距離7.3km/平均12.1%)を駆け上がる。鍵を握るのは序盤とフィニッシュ手前1km地点に登場する最大勾配22%で、道幅が狭いためチームカーが帯同できるのは登りの麓まで。その後はスペアバイクやホイールを携え、モトバイクに乗ったチームスタッフが選手の後ろからサポートする。
総合1位ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)から29秒差で総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)、39秒差で総合3位のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)という僅差で迎えたマリアローザ最終決戦。スロベニアの国境が近いこともあり山岳の沿道に多くのスロベニア人ファンが集うなか、総合最下位のニコラス・ダッラヴァッレ(イタリア、チーム・コラテック)が11時30分にスタート。その後1分間隔で選手たちが続々とコースに飛び出していった。
54分前後でフィニッシュする選手たちが多い中、最初に50分の壁を破る48分35秒をマークしたのはティボー・ゲルナレック(フランス、アルケア・サムシック)だった。しかしこのタイムを同じフランス出身のトマ・シャンピオン(コフィディス)が上回り、更にこれがジロ初出場の21歳マシュー・リッチテッロ(アメリカ、イスラエル・プレミアテック)が46分19秒と大幅に更新する。
これを有力クライマーかつオーストラリアTT王者のジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)と、そのチームメイトであるブランドン・マクナルティ(アメリカ)がトップタイムを塗り替え、スタート間隔が3分になる総合15位のセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)が45分28秒でフィニッシュ。ログリッチの山岳アシストであるクスが暫定トップタイムを叩き出し、いよいよ総合トップ10の選手たちがスタートしていった。
その中でも最初に暫定トップに立ったのはマリアアッズーラ(山岳賞ジャージ)を着るティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)。ピノは前半の平坦区間を好タイムでまとめると、得意の登坂区間を軽快に飛ばして45分22秒をマークして総合7位から5位にジャンプアップ。しかし、すぐさま地元イタリアの声援を受けるダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が僅か4秒上回った。
カルーゾの3分後にマリアビアンカ(ヤングライダー賞ジャージ)を着用するジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)がスタートを切る。山岳の中腹にある第2計測地点(14.3km)をカルーゾと同タイムで通過したアルメイダは、レース後「終盤に向けて調子が上がっていった」と言う通り登坂を駆け上がり、暫定1位の45分5秒でフィニッシュ。区間2勝目も十分考えられる好タイムを叩き出した。
そしてトーマスと握手を交わしたログリッチが、東京五輪TT王者の証である金色のヘルメットをつけてスタート。待ち受ける2人のチームスタッフによりスムーズなバイク交換を行い、直後の第1計測地点(10.8km)をトップタイムで通過したログリッチは登坂区間に突入する。沿道に掲げられたスロベニア国旗と声援を力に変えたログリッチは、第2計測地点トップであったクスのタイムを32秒更新する驚異的な登坂スピードを披露した。
その3分後に出走したマリアローザのトーマスはバイクと共にエアロヘルメットからノーマルヘルメットに変え、ログリッチから2秒遅れで第1計測地点を通過する。しかし登坂に入るとログリッチとのスピードに差が生まれ、第2計測地点でその差は16秒まで拡大。そのため総合首位逆転の可能性が徐々に大きくなっていたログリッチだったが、登坂途中の段差でフロントギアのチェーンが落ちるトラブルに見舞われる。
誰しもが2020年ツール・ド・フランスで逆転負けした悲劇を思い出すなか、落ち着いて自らチェーンをはめ直し、モトバイクから降りたチームスタッフと沿道のファンに背中を押されて再スタート。ログリッチはその後リズムを取り戻し、約20秒のタイムロスしてもなお第3計測地点(17.8km)でもトップタイムを更新。そしてアルメイダのタイムを42秒上回る、44分23秒でフィニッシュラインを駆け抜けた。
一方のトーマスは暫定2位のタイムで第3計測を通過したものの、ログリッチとの差は29秒まで拡大。フィニッシュする頃にその差は40秒となり、トーマスは45分3秒でフィニッシュ。本人が「1秒や2秒差で敗れるよりも清々しい」と語るように、ログリッチがステージ優勝と共に総合逆転に成功した。
トーマスのフィニッシュ後ステージ優勝と総合逆転を伝えられ、雄叫びをあげ涙を流したログリッチ。「ただただ素晴らしい。この言葉は僕の勝利だけではなく、沿道から応援してくれた人々のことでもある。エネルギーに満ち溢れたこの場所での素晴らしい瞬間を、僕は決して忘れないだろう」とコメント。「途中でチェーンが外れてしまったが、これもレースでは起こりうること。脚の調子が良く、沿道の応援が自分が出せる以上のワット(出力)を出させてくれた。本当に楽しんで走ることができたよ」と、翌日ローマでの最終ステージを前に、事実上マリアローザを手中に収めたログリッチはそう語った。
選手たちのコメントは別記事にて掲載します。
ジロ・デ・イタリア2023第20ステージ結果
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 44:23 |
2位 | ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:40 |
3位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | +0:42 |
4位 | ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | +0:55 |
5位 | ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) | +0:59 |
6位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | +1:05 |
7位 | ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツ) | +1:07 |
8位 | テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) | +1:18 |
9位 | アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) | +1:49 |
10位 | ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツ) | +1:53 |
116位 | 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) | +10:55 |
マリアローザ 個人総合成績
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 82:40:36 |
2位 | ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:14 |
3位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | +1:15 |
4位 | ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | +4:40 |
5位 | ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) | +5:43 |
6位 | テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) | +6:05 |
7位 | エディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー) | +7:30 |
8位 | アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) | +7:31 |
9位 | レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) | +7:46 |
10位 | ローレンス・デプルス(ベルギー、イネオス・グレナディアーズ) | +9:08 |
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 | ジョナサン・ミラン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 215pts |
2位 | デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) | 160pts |
3位 | パスカル・アッカーマン(ドイツ、UAEチームエミレーツ) | 95pts |
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 | ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) | 237pts |
2位 | デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) | 200pts |
3位 | ベン・ヒーリー(アイルランド、EFエデュケーション・イージーポスト) | 164pts |
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) | 82:41:51 |
2位 | テイメン・アレンスマン(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) | +4:50 |
3位 | アンドレアス・レックネスン(ノルウェー、チームDSM) | +6:16 |
チーム総合成績
1位 | バーレーン・ヴィクトリアス | 247:56:00 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +16:22 |
3位 | ユンボ・ヴィスマ | +30:40 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos
photo:CorVos
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