2022/07/04(月) - 07:20
4者がハンドルを投げ込む僅差のスプリント。デンマークステージの最終日となるツール3日目、サガンとファンアールト、そしてフィリプセンを下したのはディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)だった。
3日間に及んだデンマークでの争いも最終日。国内の最高標高地点ですら170.86m(自治領を除く)という山のない地形を表現するかのように、バイレからセナボーまで海岸沿いに182km南下する第3ステージのコースはほぼ真っ平ら。前半から後半にかけて4級山岳が3ヶ所用意されているが、その全ては「丘」と言える難易度。フィニッシュ予想はほぼ100%集団スプリントだ。
クリスティアン・プリュドム氏が乗ったディレクターカーを先頭にユトランド半島東岸に位置するバイレの街をスタート。連日同様、あるいは(晴れの日曜日ということもあって)それ以上に大観衆が詰めかける中、0km地点周辺のアップダウンコースでマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が勢いよく飛び出した。
マイヨアポワ(山岳賞)が山岳ポイント積算を狙ってのアタック。前日に4名のエスケープに乗り、母国ファンの目前でヒーローになったコルトをプロトンはあっさりと見送った。その後追走を企てる動きは起こらず、こうしてコルトが150kmに及ぶ単独エスケープを開始することとなった。
スプリンターチームにとってみれば、逃げメンバーがたった一人という、最もレース状況をコントロールしやすい展開。ファビオ・ヤコブセン(オランダ)の2連勝を狙うクイックステップ・アルファヴィニルが人数を揃え、アルペシン・ドゥクーニンクやロット・スーダル、さらにはバイクエクスチェンジ・ジェイコといったスプリンターチームもそれぞれアシストを出してゴールスプリントに加わる意志をアピール。今年で引退するフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)の姿もその中にあった。
「僕のキャリアにおいて最高の日の一つになった。一生忘れられない日だ。たくさんのファンや、デンマーク国旗が振られる前をたった一人で走るだなんて本当にスペシャル。本当に楽しかった」と、フィニッシュ後に振り返ったコルト。ライバル不在の中27.3km地点の第1山岳、82.8km地点の第2山岳、そして123.3km地点の第3山岳を先頭通過し、合計3ポイントを積算。第3山岳では山頂ラインに向けてスプリントし、ガッツポーズを見せるファンサービスも飛び出した。
このツール・ド・フランスが始まって以降全ての山岳ポイントを1位通過したコルトは、「沿道のファン全員が応援してくれたから飽きることなんてなかったよ。あんなふうに単独逃げをしたのは今回が初めて。すごい日になった。たくさん風が吹いていて厳しい条件だったけれど、観衆が僕にパワーを与えてくれた。デンマークの3日間は信じられないものになったよ」と喜びを語っている。
風を警戒してところどころ緊張度が増しつつも、メイン集団はイージーモードでフィニッシュまでの距離を減らしていった。コルトを追う中で、最もスピードが高まったのは90.5km地点に用意された中間スプリントポイント。ここではヤコブセンやペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)を退け、クリストフ・ラポルト(フランス)のリードアウトを受けたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)がプロトン内の先頭通過(コルトに次ぐ2位通過)を果たし17ポイントを上積みする。今大会の最終的な目標としているマイヨヴェール獲得に向けて着実に歩みを進めている。
スプリント勝負に向けて意気込むプロトンは、フィニッシュまで50km以上を残して「2日間にわたって逃げ、マイヨアポワにも袖を通しただなんて夢のようだ」と言うコルトを引き戻した。そこからは横風や危険な道路構造物に警戒しつつもアタックが生まれることはなく、依然としてクイックステップ主導(150km地点までのチーム別メイン集団牽引率は47%)のまま距離を減らしていく。残り20km地点あたりからはイネオス・グレナディアーズやボーラ・ハンスグローエといった総合系チームもリスク回避のために集団先頭に居場所を確保した。
そのリスク回避作戦が功を奏す自体が残り10km地点で起きてしまう。路面がアスファルトから石畳に切り替わり、コース幅がやや狭まったタイミング。内側に寄った両サイドの動きに挟まれ、集団中央で行き場を無くした選手たちがドミノ倒しのように落車。減速しながらのアクシデントだったため怪我を負う選手こそ現れなかったものの、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト)など、多くの選手がここで足止めを喰らうこととなった。
それに構わずスプリント勝負に向けて突き進むプロトンでは、やはりクイックステップとイネオス・グレナディアーズが60km/hに迫るスピードでコントロール。残り3km地点からはヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)のためにマチュー・ファンデルプール(オランダ)も高速牽引を行なったが、イヴ・ランパールト(ベルギー)→カスパー・アスグリーン(デンマーク)→フロリアン・セネシャル(フランス)とリレーするウルフパックトレインを崩すことはできなかった。
セネシャル先頭で残り750m地点の左コーナーを通過したが、肝心のヤコブセンは外側に膨らみ13番手前後までポジションを失ってしまう。ヤコブセンの最終発射台を務めるはずだったミケル・モルコフ(デンマーク)が早めに踏みやめ、それをリードアウトに使ったファンアールトが加速する。右側から並びかけるサガンをフェンス側に押しやりながら、マイヨジョーヌがフィニッシュラインを目指して踏み続けた。
ファンアールトとサガンが肩をぶつけながらフェンス際でもがき、その後ろからスプリントを企てたカレブ・ユアン(ベルギー、ロット・スーダル)は行き場をなくして失速。ポジションを失ったヤコブセンが同じく踏み止めるのを尻目に、ぽっかりと空いた隙間を見つけたディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が追い上げる。サガンとファンアールト、フルーネウェーヘン、そして左側から追い上げたフィリプセン。4者が横並びでハンドルを投げ込む僅差のスプリント勝負を制したのはフルーネウェーヘンだった。
前日8位に甘んじていたフルーネウェーヘンが、実に2019年以来となるツール・ド・フランスでのステージ優勝。2020年のツール・ド・ポローニュで落車事故を起こして以降グランツール(2021年はジロ・デ・イタリア出場)でのステージ優勝に恵まれていなかったが、新天地バイクエクスチェンジに移籍して、事故以降初めて掴んだツール出場を結果に結びつけた。
「チームや家族、そして友人のおかげで良い状態のままツールに戻ることができた。彼らに感謝しなければならない。本当に美しいことだ。もちろん肉体的ではなく精神的に大変な時期だった。僕の家族にとっても苦しい時期だったが、(今回の勝利は)僕の妻と息子にとって大きな意味がある」と、通算5度目のツールステージ優勝を飾ったフルーネウェーヘンは話している。
フィニッシュ直後、サガンから抗議のジェスチャーを受けたファンアールトは3日連続の2位。「もうこれ以上の2位は全く嬉しくない。3回連続の2位はおそらく記録になるだろう。クリストフ(ラポルト)は完璧だったが、スプリントを始めるタイミングが早すぎた。もう少しスリップストリームについていれば勝てていたと思う」と悔しさを滲ませている。
3日間に及んだデンマークでの争いも最終日。国内の最高標高地点ですら170.86m(自治領を除く)という山のない地形を表現するかのように、バイレからセナボーまで海岸沿いに182km南下する第3ステージのコースはほぼ真っ平ら。前半から後半にかけて4級山岳が3ヶ所用意されているが、その全ては「丘」と言える難易度。フィニッシュ予想はほぼ100%集団スプリントだ。
クリスティアン・プリュドム氏が乗ったディレクターカーを先頭にユトランド半島東岸に位置するバイレの街をスタート。連日同様、あるいは(晴れの日曜日ということもあって)それ以上に大観衆が詰めかける中、0km地点周辺のアップダウンコースでマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)が勢いよく飛び出した。
マイヨアポワ(山岳賞)が山岳ポイント積算を狙ってのアタック。前日に4名のエスケープに乗り、母国ファンの目前でヒーローになったコルトをプロトンはあっさりと見送った。その後追走を企てる動きは起こらず、こうしてコルトが150kmに及ぶ単独エスケープを開始することとなった。
スプリンターチームにとってみれば、逃げメンバーがたった一人という、最もレース状況をコントロールしやすい展開。ファビオ・ヤコブセン(オランダ)の2連勝を狙うクイックステップ・アルファヴィニルが人数を揃え、アルペシン・ドゥクーニンクやロット・スーダル、さらにはバイクエクスチェンジ・ジェイコといったスプリンターチームもそれぞれアシストを出してゴールスプリントに加わる意志をアピール。今年で引退するフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)の姿もその中にあった。
「僕のキャリアにおいて最高の日の一つになった。一生忘れられない日だ。たくさんのファンや、デンマーク国旗が振られる前をたった一人で走るだなんて本当にスペシャル。本当に楽しかった」と、フィニッシュ後に振り返ったコルト。ライバル不在の中27.3km地点の第1山岳、82.8km地点の第2山岳、そして123.3km地点の第3山岳を先頭通過し、合計3ポイントを積算。第3山岳では山頂ラインに向けてスプリントし、ガッツポーズを見せるファンサービスも飛び出した。
このツール・ド・フランスが始まって以降全ての山岳ポイントを1位通過したコルトは、「沿道のファン全員が応援してくれたから飽きることなんてなかったよ。あんなふうに単独逃げをしたのは今回が初めて。すごい日になった。たくさん風が吹いていて厳しい条件だったけれど、観衆が僕にパワーを与えてくれた。デンマークの3日間は信じられないものになったよ」と喜びを語っている。
風を警戒してところどころ緊張度が増しつつも、メイン集団はイージーモードでフィニッシュまでの距離を減らしていった。コルトを追う中で、最もスピードが高まったのは90.5km地点に用意された中間スプリントポイント。ここではヤコブセンやペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)を退け、クリストフ・ラポルト(フランス)のリードアウトを受けたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)がプロトン内の先頭通過(コルトに次ぐ2位通過)を果たし17ポイントを上積みする。今大会の最終的な目標としているマイヨヴェール獲得に向けて着実に歩みを進めている。
スプリント勝負に向けて意気込むプロトンは、フィニッシュまで50km以上を残して「2日間にわたって逃げ、マイヨアポワにも袖を通しただなんて夢のようだ」と言うコルトを引き戻した。そこからは横風や危険な道路構造物に警戒しつつもアタックが生まれることはなく、依然としてクイックステップ主導(150km地点までのチーム別メイン集団牽引率は47%)のまま距離を減らしていく。残り20km地点あたりからはイネオス・グレナディアーズやボーラ・ハンスグローエといった総合系チームもリスク回避のために集団先頭に居場所を確保した。
そのリスク回避作戦が功を奏す自体が残り10km地点で起きてしまう。路面がアスファルトから石畳に切り替わり、コース幅がやや狭まったタイミング。内側に寄った両サイドの動きに挟まれ、集団中央で行き場を無くした選手たちがドミノ倒しのように落車。減速しながらのアクシデントだったため怪我を負う選手こそ現れなかったものの、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・イージーポスト)など、多くの選手がここで足止めを喰らうこととなった。
それに構わずスプリント勝負に向けて突き進むプロトンでは、やはりクイックステップとイネオス・グレナディアーズが60km/hに迫るスピードでコントロール。残り3km地点からはヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)のためにマチュー・ファンデルプール(オランダ)も高速牽引を行なったが、イヴ・ランパールト(ベルギー)→カスパー・アスグリーン(デンマーク)→フロリアン・セネシャル(フランス)とリレーするウルフパックトレインを崩すことはできなかった。
セネシャル先頭で残り750m地点の左コーナーを通過したが、肝心のヤコブセンは外側に膨らみ13番手前後までポジションを失ってしまう。ヤコブセンの最終発射台を務めるはずだったミケル・モルコフ(デンマーク)が早めに踏みやめ、それをリードアウトに使ったファンアールトが加速する。右側から並びかけるサガンをフェンス側に押しやりながら、マイヨジョーヌがフィニッシュラインを目指して踏み続けた。
ファンアールトとサガンが肩をぶつけながらフェンス際でもがき、その後ろからスプリントを企てたカレブ・ユアン(ベルギー、ロット・スーダル)は行き場をなくして失速。ポジションを失ったヤコブセンが同じく踏み止めるのを尻目に、ぽっかりと空いた隙間を見つけたディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が追い上げる。サガンとファンアールト、フルーネウェーヘン、そして左側から追い上げたフィリプセン。4者が横並びでハンドルを投げ込む僅差のスプリント勝負を制したのはフルーネウェーヘンだった。
前日8位に甘んじていたフルーネウェーヘンが、実に2019年以来となるツール・ド・フランスでのステージ優勝。2020年のツール・ド・ポローニュで落車事故を起こして以降グランツール(2021年はジロ・デ・イタリア出場)でのステージ優勝に恵まれていなかったが、新天地バイクエクスチェンジに移籍して、事故以降初めて掴んだツール出場を結果に結びつけた。
「チームや家族、そして友人のおかげで良い状態のままツールに戻ることができた。彼らに感謝しなければならない。本当に美しいことだ。もちろん肉体的ではなく精神的に大変な時期だった。僕の家族にとっても苦しい時期だったが、(今回の勝利は)僕の妻と息子にとって大きな意味がある」と、通算5度目のツールステージ優勝を飾ったフルーネウェーヘンは話している。
フィニッシュ直後、サガンから抗議のジェスチャーを受けたファンアールトは3日連続の2位。「もうこれ以上の2位は全く嬉しくない。3回連続の2位はおそらく記録になるだろう。クリストフ(ラポルト)は完璧だったが、スプリントを始めるタイミングが早すぎた。もう少しスリップストリームについていれば勝てていたと思う」と悔しさを滲ませている。
ツール・ド・フランス2022第3ステージ結果
1位 | ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、バイクエクスチェンジ・ジェイコ) | 4:11:33 |
2位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | |
3位 | ヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | |
4位 | ペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー) | |
5位 | ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル) | |
6位 | クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) | |
7位 | アルベルト・ダイネーゼ(イタリア、チームDSM) | |
8位 | ユーゴ・オフステテール(フランス、アルケア・サムシック) | |
9位 | カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) | |
10位 | ダニー・ファンポッペル(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | 9:01:17 |
2位 | イヴ・ランパールト(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) | +0:07 |
3位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +0:14 |
4位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) | +0:18 |
5位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) | +0:20 |
6位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | +0:22 |
7位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | +0:23 |
8位 | アダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:30 |
9位 | シュテファン・キュング(スイス、グルパマ・エフデジ) | |
10位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:31 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) | 107pts |
2位 | ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル) | 90pts |
3位 | ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、バイクエクスチェンジ・ジェイコ) | 60pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) | 6pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 9:01:31 |
2位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +0:17 |
3位 | フロリアン・フェルメルシュ(ベルギー、ロット・スーダル) | +0:26 |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 27:04:48 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +0:21 |
3位 | トレック・セガフレード | +0:37 |
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO,CorVos
photo:Makoto AYANO,CorVos
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