2022/06/26(日) - 20:47
新城幸也と、新城雄大によるマッチスプリント。全日本タイトルを掴み取ったのは、全選手からのマークを単騎で打ち破った新城幸也だった。37歳のベテランが2007年、2013年に続く自身3度目のチャンピオンに輝いた。
スタートライン最前列で大きく深呼吸する草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) photo:Satoru Kato
最後列に並んだ新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Satoru Kato
午前11時 男子エリートスタート photo:Satoru Kato
広島空港の周りをぐるりと巡る、広島中央森林公園サイクリングコースの上空は曇りのち晴れ。気象条件が急変動しやすく、風向きが変わりやすい当地においても最終的に雨粒が降り注ぐことはなかった。3日間続いた全日本選手権ロードのトリを飾る男子エリートは、1周12.3kmを15周回する184.5km。梅雨明け間近の蒸し暑さの中、総獲得標高3,300m超、4時間半に及ぶサバイバルレースが午前11時に幕開けた。
「逃げるのは大変だけど、一度ちぎれたら追いつくのも難しい」。今回唯一のUCIワールドチーム所属選手として参加し、2日前の個人タイムトライアルで3位に入った新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は上下左右に曲がりくねったワインディングコースをそのように表現する。展開次第で単独逃げ切りも、小集団スプリントにもなり得るコースでは過去名勝負が繰り広げられ、昨年は草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)がスプリントで全日本タイトルを勝ち取った。
アジア選手権個人/チームパシュートで勝利したばかりの松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)が飛び出す photo:Satoru Kato
チーム右京が集団をコントロールしてフェンストンネルを抜けていく photo: Yuichiro Hosoda
序盤からキナンレーシングチームがコントロール photo:Satoru Kato
この日、一番最初に動いたのは松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)だった。一人で抜け出し、一時的に40秒リードを稼いだ松田だったが、2周目に入って集団に戻ることを選択。そこから「去年のような楽な展開にしたくなかった」という使命を携えたチーム右京がコントロールを開始した。
門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)らが散発的なアタックを繰り返す中、メイン集団のコントロールはチーム右京からキナンレーシングチームにスイッチした。組織的に隊列を率い、登りでペースを上げるキナンの目標もまたスプリンターの排除。狙い通りスピードマン揃いのブリヂストン勢などスプリンター勢が遅れを喫することとなる。
8周目に阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、小森亮平(マトリックスパワータグ)河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)の逃げが出来る photo: Yuichiro Hosoda
10周目、白川幸希(シエルブルー鹿屋)が合流して4名となった先頭集団 photo:Satoru Kato
11周目、河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)が遅れて再び3名となった先頭集団 photo:Satoru Kato
広島空港の誘導灯を背に進む集団 photo:Satoru Kato
15周回中の8周目。ちょうど半分を消化したタイミングで小森亮平(マトリックスパワータグ)と河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)、そして阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)が集団を飛び出した。独走力のあるメンバーは徐々にタイム差を上積みしていったものの、落ち着いてコントロールを続けるキナンはタイム差1分半でストップをかける。やがて白川幸希(シエルブルー鹿屋)が単独ブリッジを掛け、一方で河野は脱落。30秒から1分差で追いかけるメイン集団では、事前に「緩い展開にはしない」と話していた新城幸也が後半戦に入っていよいよ動きを見せた。
ライバル勢の顔色を伺いつつ、じわりじわりとペースアップして集団を絞り込む新城。残り4周目の登り返しコーナーでは岡篤志(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)が落車し、その時点で脚が攣っていたと言う小林海(マトリックスパワータグ)も影響を受け、やがてドロップ。優勝候補に挙げられていた2人はここで脱落を喫した。
12周目、逃げ集団を吸収後に小石祐馬(チーム右京)が展望所への上りで仕掛ける photo: Yuichiro Hosoda
後続に20秒から30秒差をつけて逃げ続ける小石祐馬(チーム右京) photo:Satoru Kato
逃げ続けていた阿部と小森、白川だったが、新城幸也を中心に活性化するメイン集団を抑えられず12周目で引き戻される。するとその周の登坂区間で「独走になれば一番速い自信はあった。意外と全員苦しそうだったし、メンバーが絞られていたので後ろが牽制になるのを願った」と言う小石祐馬(チーム右京)が独走に持ち込んだ。
小石が逃げる後ろでも当然アタック合戦は継続され、15名程度まで絞られた集団内にキナンレーシングチームは4名(山本元喜・大喜、畑中勇介、新城雄大)を残し、EFも門田と石上優大を、宇都宮ブリッツェンは増田成幸を送り込む。ここには唯一ホビーレーサーとして永山貴浩も食らいついた一方、予定外の小林脱落を受けたマトリックスパワータグはメンバーを残すことができなかった。
増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、石上優大(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)らが、単独先頭を行く小石祐馬を追う photo: Yuichiro Hosoda
13周目、小石祐馬(チーム右京)を追ってペースアップする新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Satoru Kato
14周目、逃げる小石祐馬(チーム右京)の後方に追走集団が迫る photo:Satoru Kato
新城幸也のアタックによって一時的に集団が2つに割れたものの、TT王者の金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)らの追走によって次々とメンバーが合流。逃げ続けていた小石も「暑くてペースを落としてしまった」と残り1周半を残して飲み込まれ、勝負所の「三段坂」で新城幸也が再度アタック。ここからメンバーを残していたキナン勢が総攻撃に打って出た。
新城のペースアップに耐えた山本大喜が下り区間でアタックし、チームメイトである新城雄大は新城幸也に追わせる形で2人追走グループを形成する。2対1という形成不利な状況となったものの、一時15秒ついた差を新城幸也が自ら詰め、残り4kmから始まる「3連トンネル」の登りで山本を引き戻し、そのまま続く最終登坂「展望所の登り」でアタック。しかしここまで動かず、脚を貯めていた新城雄大は千切れなかった。
最終周回残り4km付近で単独先行する山本大喜(キナンレーシングチーム)が捉えられる photo:Satoru Kato
残り3kmを前に3名での勝負へ photo:Satoru Kato
残り3km、展望所への登りでアタックする新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Satoru Kato
脚を使った山本は遅れ、展望所からのダウンヒル、そしてホームストレート突入前のヘアピンカーブと登坂を一緒にこなした新城幸也vs新城雄大のゴールスプリントに勝負が持ち込まれる。登り基調で向かい風。バーレーン・ヴィクトリアスの赤いジャージを先頭に観客が詰めかけたホームストレートに入り、背後についた新城雄大がいち早くスプリントを開始した。
勢いよく加速した新城雄大だったが、それを確認した新城幸也は冷静にスリップストリームにつき、残り100mを切ってからスプリントを開始して並び、残り50m地点を過ぎてからパス。11歳離れた一騎討ちスプリントで37歳の新城幸也が勝利した。
残り50m。新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が新城雄大(キナンレーシングチーム)を追い抜く photo:So Isobe
新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が3回目の全日本制覇 photo:Satoru Kato
悔しい表情でゴールした山本大喜(キナンレーシングチーム) photo: Yuichiro Hosoda
4位の中井唯晶(シマノレーシング)を野寺監督が出迎え photo:Satoru Kato
「最後のスプリントは向かい風だったのでの残り150mからと決めていた」と振り返る新城幸也が、第90代全日本ロード王者に輝いた。2007年、2013年に続く自身3度目の全日本タイトル獲得。日本ナショナルチームのメンバーとしては2018年のツール・ド・台湾第5ステージでは勝っているものの、バーレーン・ヴィクトリアス所属としては2017年のチーム加入後初勝利となる。
「いつも走るレースと違って自分が勝つために走らなければいけないから、力と力の勝負がしたかった。できることは全部やったと思います。どこかのチームが荒らしてくれるのを待っていましたがそうならず、かといって僕がペース上げても後が続かないから、動きを待っていました」と、改めてその実力を知らしめた新城幸也。今後1年間は全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走ることとなる。インタビューの最後には「暑い国で3週間走るらしい」と、今後のグランツール参戦を匂わせるコメントも飛び出した。
男子エリート 表彰式 photo:Satoru Kato
新城幸也「大きな牛がいる3週間のレースでナショナルチャンピオンジャージを着て走りたい」 photo: Yuichiro Hosoda
完璧なチーム戦に持ち込みつつ、ワールドツアー選手の力の前に敗れたキナンが2位と3位。そこから45秒遅れた追走集団の頭を獲ったのは中井唯晶(シマノレーシング)で、前王者草場は6位。注目されていた金子は8位。116人が出走し、フルラップ完走したのは僅か29人だった。
各選手のコメントは別記事で紹介します。
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広島空港の周りをぐるりと巡る、広島中央森林公園サイクリングコースの上空は曇りのち晴れ。気象条件が急変動しやすく、風向きが変わりやすい当地においても最終的に雨粒が降り注ぐことはなかった。3日間続いた全日本選手権ロードのトリを飾る男子エリートは、1周12.3kmを15周回する184.5km。梅雨明け間近の蒸し暑さの中、総獲得標高3,300m超、4時間半に及ぶサバイバルレースが午前11時に幕開けた。
「逃げるのは大変だけど、一度ちぎれたら追いつくのも難しい」。今回唯一のUCIワールドチーム所属選手として参加し、2日前の個人タイムトライアルで3位に入った新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は上下左右に曲がりくねったワインディングコースをそのように表現する。展開次第で単独逃げ切りも、小集団スプリントにもなり得るコースでは過去名勝負が繰り広げられ、昨年は草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)がスプリントで全日本タイトルを勝ち取った。
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この日、一番最初に動いたのは松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)だった。一人で抜け出し、一時的に40秒リードを稼いだ松田だったが、2周目に入って集団に戻ることを選択。そこから「去年のような楽な展開にしたくなかった」という使命を携えたチーム右京がコントロールを開始した。
門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)らが散発的なアタックを繰り返す中、メイン集団のコントロールはチーム右京からキナンレーシングチームにスイッチした。組織的に隊列を率い、登りでペースを上げるキナンの目標もまたスプリンターの排除。狙い通りスピードマン揃いのブリヂストン勢などスプリンター勢が遅れを喫することとなる。
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15周回中の8周目。ちょうど半分を消化したタイミングで小森亮平(マトリックスパワータグ)と河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)、そして阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)が集団を飛び出した。独走力のあるメンバーは徐々にタイム差を上積みしていったものの、落ち着いてコントロールを続けるキナンはタイム差1分半でストップをかける。やがて白川幸希(シエルブルー鹿屋)が単独ブリッジを掛け、一方で河野は脱落。30秒から1分差で追いかけるメイン集団では、事前に「緩い展開にはしない」と話していた新城幸也が後半戦に入っていよいよ動きを見せた。
ライバル勢の顔色を伺いつつ、じわりじわりとペースアップして集団を絞り込む新城。残り4周目の登り返しコーナーでは岡篤志(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)が落車し、その時点で脚が攣っていたと言う小林海(マトリックスパワータグ)も影響を受け、やがてドロップ。優勝候補に挙げられていた2人はここで脱落を喫した。
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逃げ続けていた阿部と小森、白川だったが、新城幸也を中心に活性化するメイン集団を抑えられず12周目で引き戻される。するとその周の登坂区間で「独走になれば一番速い自信はあった。意外と全員苦しそうだったし、メンバーが絞られていたので後ろが牽制になるのを願った」と言う小石祐馬(チーム右京)が独走に持ち込んだ。
小石が逃げる後ろでも当然アタック合戦は継続され、15名程度まで絞られた集団内にキナンレーシングチームは4名(山本元喜・大喜、畑中勇介、新城雄大)を残し、EFも門田と石上優大を、宇都宮ブリッツェンは増田成幸を送り込む。ここには唯一ホビーレーサーとして永山貴浩も食らいついた一方、予定外の小林脱落を受けたマトリックスパワータグはメンバーを残すことができなかった。
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新城幸也のアタックによって一時的に集団が2つに割れたものの、TT王者の金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)らの追走によって次々とメンバーが合流。逃げ続けていた小石も「暑くてペースを落としてしまった」と残り1周半を残して飲み込まれ、勝負所の「三段坂」で新城幸也が再度アタック。ここからメンバーを残していたキナン勢が総攻撃に打って出た。
新城のペースアップに耐えた山本大喜が下り区間でアタックし、チームメイトである新城雄大は新城幸也に追わせる形で2人追走グループを形成する。2対1という形成不利な状況となったものの、一時15秒ついた差を新城幸也が自ら詰め、残り4kmから始まる「3連トンネル」の登りで山本を引き戻し、そのまま続く最終登坂「展望所の登り」でアタック。しかしここまで動かず、脚を貯めていた新城雄大は千切れなかった。
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脚を使った山本は遅れ、展望所からのダウンヒル、そしてホームストレート突入前のヘアピンカーブと登坂を一緒にこなした新城幸也vs新城雄大のゴールスプリントに勝負が持ち込まれる。登り基調で向かい風。バーレーン・ヴィクトリアスの赤いジャージを先頭に観客が詰めかけたホームストレートに入り、背後についた新城雄大がいち早くスプリントを開始した。
勢いよく加速した新城雄大だったが、それを確認した新城幸也は冷静にスリップストリームにつき、残り100mを切ってからスプリントを開始して並び、残り50m地点を過ぎてからパス。11歳離れた一騎討ちスプリントで37歳の新城幸也が勝利した。
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「最後のスプリントは向かい風だったのでの残り150mからと決めていた」と振り返る新城幸也が、第90代全日本ロード王者に輝いた。2007年、2013年に続く自身3度目の全日本タイトル獲得。日本ナショナルチームのメンバーとしては2018年のツール・ド・台湾第5ステージでは勝っているものの、バーレーン・ヴィクトリアス所属としては2017年のチーム加入後初勝利となる。
「いつも走るレースと違って自分が勝つために走らなければいけないから、力と力の勝負がしたかった。できることは全部やったと思います。どこかのチームが荒らしてくれるのを待っていましたがそうならず、かといって僕がペース上げても後が続かないから、動きを待っていました」と、改めてその実力を知らしめた新城幸也。今後1年間は全日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパを走ることとなる。インタビューの最後には「暑い国で3週間走るらしい」と、今後のグランツール参戦を匂わせるコメントも飛び出した。
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完璧なチーム戦に持ち込みつつ、ワールドツアー選手の力の前に敗れたキナンが2位と3位。そこから45秒遅れた追走集団の頭を獲ったのは中井唯晶(シマノレーシング)で、前王者草場は6位。注目されていた金子は8位。116人が出走し、フルラップ完走したのは僅か29人だった。
各選手のコメントは別記事で紹介します。
全日本選手権ロードレース2022 男子エリート結果
1位 | 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) | 4時間36分28秒 |
2位 | 新城雄大(キナンレーシングチーム) | |
3位 | 山本大喜(キナンレーシングチーム) | +15秒 |
4位 | 中井唯晶(シマノレーシング) | +45秒 |
5位 | 岡本隼(愛三工業レーシングチーム) | +49秒 |
6位 | 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) | +50秒 |
7位 | 畑中勇介(キナンレーシングチーム) | |
8位 | 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) | |
9位 | 石上優大(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム) | +51秒 |
10位 | 門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム) |
text:So Isobe
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