2022/04/04(月) - 10:58
タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)の登坂スピードに耐えきった時点で、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)の優勝は決まったようなものだった。完全復調した3世選手が最高の舞台でその実力を輝かせた。
世界五大ワンデークラシック「モニュメント」の中でも格別の存在感を誇るロンド・ファン・フラーンデレン(UCI1.ワールドツアー)が開催。コロナ禍以降初めて戻った観客に見守られながら、世界屈指のトップレーサーたちがアントワープ中心街からスタートを切った。
アントワープからレース博物館のあるオウデナールデを目指す272.5kmのレースコースに詰め込まれたのは合計18区間の登坂区間。晴天によって心配された雪は溶け、寒いながらも絶好のレース日和の中でレースが封切られた。
スヘルデ川に沿ったパレードランを経て、積極的にスタートアタックを仕掛けたマヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)を含む9名がエスケープ。逃げの名手タコ・ファンデルホールン(オランダ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)も加わった逃げがリードを稼ぐべくスピードを上げる一方、マイペースに切り替えたメイン集団内では交差点通過時にロンド初出場のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が落車するシーンも。幸い低速でのアクシデントだったため、ツール・ド・フランス覇者は何事もなく集団に戻ることに。
メイン集団の牽引役を担ったのは、優勝候補を据えるアルペシン・フェニックスやUAEチームエミレーツを筆頭に、ワウト・ファンアールト(ベルギー)のコロナ感染で作戦変更を強いられたユンボ・ヴィスマ、そしてクイックステップ・アルファヴィニル。復活した"トラクター"ティム・デクレルク(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)によるペースコントロールも行われ、逃げとのタイム差が5分を上回ることはなかった。
121km地点の名物石畳登坂「オウデ・クワレモント(登坂距離2200m/平均4%/最大11.6%)」を皮切りにフランドルの丘陵地帯を縦横無尽に進む。徐々にスピードと緊張感を高める集団内では、第5登坂区間「モーレンベルグ(距離463m/平均7%/最大14.2%)」でユンボ・ヴィスマが先手を打った。
ネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の攻撃に対してはヨナス・コッホ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)が合流し、続く160km地点の「ベレンドリース(940m/7%/12.3%)」ではイバン・ガルシア(スペイン、モビスター)のアタックに元世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)や2019年覇者アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)、ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップ・アルファヴィニル)、ジャンニ・フェルメルシュ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)といった各チームのエース/サブエース級選手11名が追従し、メイン集団を飛び立った。
ガルシアたちはすぐにファンホーイドンクとコッホを捕まえ、これでトレック・セガフレードとユンボ・ヴィスマが2名ずつ乗せた追走グループが形成される。ただしかし、トタルエネルジーの牽引に切り替わったメイン集団内ではユンボ・ヴィスマのエースを担うはずのクリストフ・ラポルト(フランス)が路面に投げ出される場面も。「落車はいつだってまずい場面で起きる」と言うラポルトはバイク交換を経て復帰したものの、スピードを上げるメイン集団への追走で力を削られてしまった。
当初からの逃げグループと、ピーダスン率いる追走グループは互いにスピードを維持していたが、残り55km地点にある2度目の「オウデ・クワレモント」で勢いを増すメイン集団が2グループをまとめて視界に捉える。すると「昨日の下見で攻撃する案を思いついた。最も長く厳しい登坂は、僕の全力をぶつけるのにピッタリだと思っていた」と言うポガチャルが自らアタック。そのフィジカルを見せつけるかのように、それまで逃げていた2グループを全て抜き去った。
ポガチャルには昨年覇者カスパー・アスグリーン(デンマーク、クイックステップ・アルファヴィニル)やピーダスンが食らいつき、頂上通過後の舗装区間で一時遅れたファンデルプールたちも合流。30名ほどに絞られた精鋭グループが続く「パテルベルグ(360m/12.9%/20.3%)をクリアすると、今度はヤン・トラトニク(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)とディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)が飛び出した。
2人の飛び出しを見送り、集団は一時的に静けさを取り戻したものの、続く「コッペンベルグ(600/11.6%/22%)」で再びポガチャルがアタックした。追従できたのはファンデルプールとヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ)の2人だけで、このアタックに出遅れ、さらにチェーン落ちによってアスグリーンは完全に脱落。崩壊したウルフパックを尻目に先頭のトラトニクとファンバーレ、後続グループのポガチャル、ファンデルプールそしてマデュアスが15番目の登坂「ターインベルグ(530m/6.6%/15.8%)」で合流を果たした。
意志を統一して逃げる先頭グループに対し、後続グループは人数の多さゆえローテーションが回らず、アタックと吸収によって相対的にペースを落としてしまう。最後から2番目にしてこの日3回目のオウデ・クワレモントでは再びポガチャルがペースを上げ、ファンデルプールだけが従って最後の登坂であるパテルベルグへ。
20%を超える石畳登坂でポガチャルが踏み、ファンデルプールもペダリングを崩しながらも離れずに頂上通過。マデュアスとファンバーレに30秒差をつけた2人が、残り3kmを切ってからボトルを捨て、バイクを軽くしてゴールスプリント態勢に入った。
20秒リードでフラムルージュ(残り1km)をくぐり、2人は牽制状態に入って互いの出方を窺い続ける。先行ファンデルプール、追い込みポガチャル。停止寸前までペースを落とした2人に対し、スピードを維持し続けたマデュアスとファンバーレが残り250mで追いついた。それと同時にファンデルプールがスプリントを開始し、その背後でもがくポガチャルをマデュアスとファンバーレがパス。行き場をなくしたツール覇者が苛立ちを発奮させるのを尻目に、混沌のマッチスプリントでファンデルプールがリードを維持しきった。
ファンデルプールが、2020年に続く2度目のロンド制覇を遂げると共に、昨年アスグリーンに負けて2位に甘んじたリベンジを達成。父アドリの持つロンド優勝記録(1回:1986年)を36年後に息子が上塗りしてみせた。
「このために厳しいトレーニングを重ねてきた。そもそもクラシックシーズンまでにコンディションが間に合うかどうかも分からなかった。そんな中で勝てたことが信じられない」。背中と膝の怪我でシーズンインが遅れ、2週間前のミラノ〜サンレモで遅いシーズンインを果たすと共に3位に入ったファンデルプールは打ち明ける。
「追走グループがすごい勢いで迫ってきていたので早めにスプリントを仕掛けたんだ。ポガチャルは僕を見続けたあまり彼らを注意せず表彰台を逃した。こういう結果になったのには少し衝撃を受けたよ。何せ彼は今日最強で、彼の登坂スピードに何度も遅れかけた。痛みを感じながらも脚を少し回復させたんだ。このために途方もない努力をし、100%の力で走った。うまくいって本当によかった」と、ファンデルプールはライバルを讃えると共に、そのフィジカルと勝負強さを今一度世界にアピールした。
シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)とディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス)が2秒遅れの5位と6位。ユンボ・ヴィスマはラポルトを9位に、クイックステップはアスグリーンを23位に送り込むのが精一杯だった。
選手コメントは別記事で紹介します。
世界五大ワンデークラシック「モニュメント」の中でも格別の存在感を誇るロンド・ファン・フラーンデレン(UCI1.ワールドツアー)が開催。コロナ禍以降初めて戻った観客に見守られながら、世界屈指のトップレーサーたちがアントワープ中心街からスタートを切った。
アントワープからレース博物館のあるオウデナールデを目指す272.5kmのレースコースに詰め込まれたのは合計18区間の登坂区間。晴天によって心配された雪は溶け、寒いながらも絶好のレース日和の中でレースが封切られた。
スヘルデ川に沿ったパレードランを経て、積極的にスタートアタックを仕掛けたマヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)を含む9名がエスケープ。逃げの名手タコ・ファンデルホールン(オランダ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)も加わった逃げがリードを稼ぐべくスピードを上げる一方、マイペースに切り替えたメイン集団内では交差点通過時にロンド初出場のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が落車するシーンも。幸い低速でのアクシデントだったため、ツール・ド・フランス覇者は何事もなく集団に戻ることに。
メイン集団の牽引役を担ったのは、優勝候補を据えるアルペシン・フェニックスやUAEチームエミレーツを筆頭に、ワウト・ファンアールト(ベルギー)のコロナ感染で作戦変更を強いられたユンボ・ヴィスマ、そしてクイックステップ・アルファヴィニル。復活した"トラクター"ティム・デクレルク(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)によるペースコントロールも行われ、逃げとのタイム差が5分を上回ることはなかった。
121km地点の名物石畳登坂「オウデ・クワレモント(登坂距離2200m/平均4%/最大11.6%)」を皮切りにフランドルの丘陵地帯を縦横無尽に進む。徐々にスピードと緊張感を高める集団内では、第5登坂区間「モーレンベルグ(距離463m/平均7%/最大14.2%)」でユンボ・ヴィスマが先手を打った。
ネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の攻撃に対してはヨナス・コッホ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)が合流し、続く160km地点の「ベレンドリース(940m/7%/12.3%)」ではイバン・ガルシア(スペイン、モビスター)のアタックに元世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)や2019年覇者アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)、ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップ・アルファヴィニル)、ジャンニ・フェルメルシュ(ベルギー、アルペシン・フェニックス)といった各チームのエース/サブエース級選手11名が追従し、メイン集団を飛び立った。
ガルシアたちはすぐにファンホーイドンクとコッホを捕まえ、これでトレック・セガフレードとユンボ・ヴィスマが2名ずつ乗せた追走グループが形成される。ただしかし、トタルエネルジーの牽引に切り替わったメイン集団内ではユンボ・ヴィスマのエースを担うはずのクリストフ・ラポルト(フランス)が路面に投げ出される場面も。「落車はいつだってまずい場面で起きる」と言うラポルトはバイク交換を経て復帰したものの、スピードを上げるメイン集団への追走で力を削られてしまった。
当初からの逃げグループと、ピーダスン率いる追走グループは互いにスピードを維持していたが、残り55km地点にある2度目の「オウデ・クワレモント」で勢いを増すメイン集団が2グループをまとめて視界に捉える。すると「昨日の下見で攻撃する案を思いついた。最も長く厳しい登坂は、僕の全力をぶつけるのにピッタリだと思っていた」と言うポガチャルが自らアタック。そのフィジカルを見せつけるかのように、それまで逃げていた2グループを全て抜き去った。
ポガチャルには昨年覇者カスパー・アスグリーン(デンマーク、クイックステップ・アルファヴィニル)やピーダスンが食らいつき、頂上通過後の舗装区間で一時遅れたファンデルプールたちも合流。30名ほどに絞られた精鋭グループが続く「パテルベルグ(360m/12.9%/20.3%)をクリアすると、今度はヤン・トラトニク(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)とディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ)が飛び出した。
2人の飛び出しを見送り、集団は一時的に静けさを取り戻したものの、続く「コッペンベルグ(600/11.6%/22%)」で再びポガチャルがアタックした。追従できたのはファンデルプールとヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ)の2人だけで、このアタックに出遅れ、さらにチェーン落ちによってアスグリーンは完全に脱落。崩壊したウルフパックを尻目に先頭のトラトニクとファンバーレ、後続グループのポガチャル、ファンデルプールそしてマデュアスが15番目の登坂「ターインベルグ(530m/6.6%/15.8%)」で合流を果たした。
意志を統一して逃げる先頭グループに対し、後続グループは人数の多さゆえローテーションが回らず、アタックと吸収によって相対的にペースを落としてしまう。最後から2番目にしてこの日3回目のオウデ・クワレモントでは再びポガチャルがペースを上げ、ファンデルプールだけが従って最後の登坂であるパテルベルグへ。
20%を超える石畳登坂でポガチャルが踏み、ファンデルプールもペダリングを崩しながらも離れずに頂上通過。マデュアスとファンバーレに30秒差をつけた2人が、残り3kmを切ってからボトルを捨て、バイクを軽くしてゴールスプリント態勢に入った。
20秒リードでフラムルージュ(残り1km)をくぐり、2人は牽制状態に入って互いの出方を窺い続ける。先行ファンデルプール、追い込みポガチャル。停止寸前までペースを落とした2人に対し、スピードを維持し続けたマデュアスとファンバーレが残り250mで追いついた。それと同時にファンデルプールがスプリントを開始し、その背後でもがくポガチャルをマデュアスとファンバーレがパス。行き場をなくしたツール覇者が苛立ちを発奮させるのを尻目に、混沌のマッチスプリントでファンデルプールがリードを維持しきった。
ファンデルプールが、2020年に続く2度目のロンド制覇を遂げると共に、昨年アスグリーンに負けて2位に甘んじたリベンジを達成。父アドリの持つロンド優勝記録(1回:1986年)を36年後に息子が上塗りしてみせた。
「このために厳しいトレーニングを重ねてきた。そもそもクラシックシーズンまでにコンディションが間に合うかどうかも分からなかった。そんな中で勝てたことが信じられない」。背中と膝の怪我でシーズンインが遅れ、2週間前のミラノ〜サンレモで遅いシーズンインを果たすと共に3位に入ったファンデルプールは打ち明ける。
「追走グループがすごい勢いで迫ってきていたので早めにスプリントを仕掛けたんだ。ポガチャルは僕を見続けたあまり彼らを注意せず表彰台を逃した。こういう結果になったのには少し衝撃を受けたよ。何せ彼は今日最強で、彼の登坂スピードに何度も遅れかけた。痛みを感じながらも脚を少し回復させたんだ。このために途方もない努力をし、100%の力で走った。うまくいって本当によかった」と、ファンデルプールはライバルを讃えると共に、そのフィジカルと勝負強さを今一度世界にアピールした。
シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)とディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス)が2秒遅れの5位と6位。ユンボ・ヴィスマはラポルトを9位に、クイックステップはアスグリーンを23位に送り込むのが精一杯だった。
選手コメントは別記事で紹介します。
ロンド・ファン・フラーンデレン2022結果
1位 | マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) | 6:18:30 |
2位 | ディラン・ファンバーレ(オランダ、イネオス・グレナディアーズ) | |
3位 | ヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ) | |
4位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
5位 | シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) | +0:02 |
6位 | ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス) | |
7位 | フレッド・ライト(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス) | +0:11 |
8位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) | +0:48 |
9位 | クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) | |
10位 | アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) |
text:So Isobe
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