残り350mに凝縮された「ユイの壁」の激坂決戦。春に開催時期を戻して行われた第85回ラ・フレーシュ・ワロンヌで、先行したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)をタイミングの良い追走で蹴散らしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が自身3度目の優勝を飾った。



プロトンがワロン地域を東に貫くプロトンがワロン地域を東に貫く photo:CorVos
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021 photo:A.S.O.4月21日、ちょうどアムステルゴールドレースとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挟まれた水曜日に開催されたラ・フレーシュ・ワロンヌ。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で9月末に開催されたが、2021年は伝統的な4月開催に戻された。なお、ディフェンディングチャンピオンのマルク・ヒルシ(スイス)と優勝候補の一角タデイ・ポガチャル(スロベニア)を含むUAEチームエミレーツは、レース前検査で選手1名とスタッフ1名の新型コロナウイルス陽性が発覚。再検査で両者ともに陰性が確認されたものの、ベルギー当局の指示で欠場が決まっている。

ツール・ド・フランスやリエージュと同じA.S.O.(アモリー・スポルト・オルガニザシオン)が主催するワンデーレースの舞台となるのはベルギー南東部のワロン地域。ベルギー第4の都市(ワロン地域最大都市)であるシャルルロワをスタートした一行は、「ワロンを貫く矢」という名前が示す通り、小高い丘が延々と続くワロン地域を東へとズバッと横断する。初出場した中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)も加わったアタック合戦は、アレックス・ハウズ(アメリカ、EFエデュケーション・NIPPO)やマウリス・ラメルティンク(オランダ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)を含む8名の逃げグループを生むに至った。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021 photo:A.S.O.
スタート地点は毎年変更されるものの、ラ・フレーシュ・ワロンヌの優勝者を導き出すのは今年も決まってユイの街を起点にした32kmの周回コースだ。コート・デレッフ(全長2,100m/平均5%)とコート・ド・シュマン・デ・ギーズ(全長1,800m/平均6.5%)という2つの登りをこなし、最大勾配が26%に達する激坂「ユイの壁」ことミュール・ド・ユイ(全長1,300m/平均9.6%)を駆け上がる周回コースを2周半する(獲得標高差は2,900m)。

ドゥクーニンク・クイックステップやユンボ・ヴィスマ、モビスター、そしてイネオス・グレナディアーズが牽引するメイン集団は、逃げグループから5分遅れで1回目の「ユイの壁」をクリアした。「ユイの周回に入る前の吹きっさらし区間が危険」とレース前に語っていた中根は序盤に落車に巻き込まれながらも集団内で走行し、落車したセルジオ・イギータ(コロンビア)やローソン・クラドック(アメリカ)をメイン集団に引き上げる仕事をこなしてから脱落している(結果は110位/12分01秒遅れ)。

合計3回登場する「ユイの壁」の2回目登坂中、つまり最終周回突入の鐘が鳴るタイミングでメイン集団からはシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)やテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)、ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)らが動くシーンも見られたが、追走グループを形成する動きには繋がらない。最終周回に入って神経質になったメイン集団では、直前のアムステル・ゴールド・レースを僅差の2位で終えたトム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)を含む落車が発生する。シューズを破損したピドコックは走りながらチームカーから受け取ったスペアシューズに履き替えている。

アレックス・ハウズ(アメリカ、EFエデュケーション・NIPPO)を含む8名の逃げアレックス・ハウズ(アメリカ、EFエデュケーション・NIPPO)を含む8名の逃げ photo:CorVos
「ユイの壁」名物のシケイン区間を走るプロトン「ユイの壁」名物のシケイン区間を走るプロトン photo:CorVos
残り28km地点で落車したトム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)残り28km地点で落車したトム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
最大勾配が26%に達する「ユイの壁」最大勾配が26%に達する「ユイの壁」 photo:A.S.O.残り19km地点のコート・デレッフ(全長2,100m/平均5%)で逃げグループは人数とそのリードを減らし、残り10km地点のコート・ド・シュマン・デ・ギーズ(全長1,800m/平均6.5%)ではウェレンスの再加速をきっかけにメイン集団が活性化。リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)やサム・オーメン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)らがアタックを封じ込め、約50名に絞られた状態でメイン集団は最終「ユイの壁」に挑むことに。先頭で逃げ続けていた単独ラメルティンクが吸収されると、時間にして3分強の高強度激坂バトルが始まった。

ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)を先頭に急勾配のシケイン区間を過ぎ、残り400mを切ったところでプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)が真っ先に仕掛けた。直前のイツリア・バスクカントリーで総合優勝を飾った昨年のリエージュ覇者が、力強いダンシングで一気に先行する。すると、アラフィリップとアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がタイミングを遅らせて追撃を開始。ピドコックはこれらの加速に対応できずに沈んでしまう。

急勾配区間でリードを広げた初出場のログリッチだったが、過去に2度優勝しているアラフィリップと、過去に5度優勝しているバルベルデが黙っていなかった。つまり「ユイの壁」の勝ち方(踏み始めるべきタイミング)を心得ている2人がログリッチの背後に迫り、アラフィリップがついにログリッチに並ぶ。その姿を確認したログリッチが踏み直したものの、アラフィリップはそのままの勢いを保ってフィニッシュラインまで踏み切った。

ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)を先頭に最後の「ユイの壁」を登るミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)を先頭に最後の「ユイの壁」を登る photo:CorVos
残り350mで最初に仕掛けたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)残り350mで最初に仕掛けたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
ログリッチを振り切ってフィニッシュしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ログリッチを振り切ってフィニッシュしたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
アルカンシェルを着て手にした3度目のタイトル。「今シーズンはまだ多くの勝利を残せていなかった(ティレーノ〜アドリアティコ第2ステージに続く2勝目)ので、このハードなレースで結果を残したかった。100%のコンディションではなかったものの、完全に自分向きのコースなのでモチベーションは高かった。チームメイトの素晴らしい走りに支えられて、最後はこの脚が勝利へと導いてくれた。このジャージを身に纏っての勝利は誇らしい」と世界チャンピオンは語る。

アラフィリップが見据えるのはアルデンヌ・クラシック連勝。昨年アラフィリップが早めのガッツポーズで2着&斜行によって降格処分を受けたリエージュは4日後に迫っている。リエージュではもちろん、この日2位のログリッチが大会連覇を、3位のバルベルデが41歳のバースデーウィンを狙う。

ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)の勝利を称えるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)の勝利を称えるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:CorVos
2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)、優勝ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)、優勝ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:CorVos
ラ・フレーシュ・ワロンヌ2021結果
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 4:36:25
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 0:00:06
4位 マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・スタートアップネイション) 0:00:08
5位 ワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック) 0:00:11
6位 トム・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)
7位 ダヴィ・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)
8位 エステバン・チャベス(コロンビア、バイクエクスチェンジ)
9位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)
10位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 0:00:16
110位 中根英登(日本、EFエデュケーション・NIPPO) 0:12:01
text:Kei Tsuji
photo:CorVos

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