2010/05/17(月) - 06:49
今年のジロ・デ・イタリアにはどうやら強力な雨男が出場している(or取材に来ている)ようだ。オランダで開幕してからはや10日が経つが、雨が降らない日は無い。小雨がパラつく、霧の立ちこめたテルミニッロ頂上ゴールに、新型バイクに乗った新城幸也(Bboxブイグテレコム)が18分遅れでやってきた。
朝、ガゼッタ紙を見てエスプレッソを噴きそうになる
前日はモンタルチーノのゴール後、写真だけアップしてプレスセンターを出発。第8ステージのスタート地点であるキアンチャーノ・テルメに移動した。「テルメ」の名前が示すように、同地は観光客が集まる温泉地。多くのホテルが乱立しているため、比較的簡単に寝所を見つけることができた。
さて、今大会最初の頂上ゴール、テルミニッロが設定された第8ステージ。天気予報は「曇り時々雨」。朝カーテンを開けると眩しい太陽が部屋に飛び込んで来たが、すぐに分厚い雲に遮られてしまった。
スタート地点に行ってビックリ。ガゼッタ紙をめくると自分が撮った泥だらけの選手の写真が大きく使われていた。
現地レポートをご覧の方はお気づきかも知れないが、昨日からモト(バイク)に乗るイタリア人カメラマンのリカルド・スカンフェルラとデータを交換している。どうしてもダート区間で撮影したい自分と、ゴール写真を外せないリカルドの意見が一致したのだ。
現状、カメラマンたちは自分の写真がどれか分からなくなるほどデータを共有している。確かに一人で動き回るより、何人かで手分けすればより多くの撮影チャンスが生まれる。最初は自分の写真に他人のクレジットが入ることに疑問を感じていたが、今回はそんなこと言ってられなかった。
結果、リカルドのゴール写真がシクロワイアードに掲載され、自分が撮った写真がガゼッタ紙に2枚使われた(はい、自慢です)。急勾配の上りが設定された第2未舗装区間に注目が集まっていたため、泥だらけの第1区間で撮影したカメラマンは少なかったようだ。
もちろんクレジットはリカルドで、自分のポケットには1ユーロも入ってこない。しかしこんなに名誉で嬉しいことは無い。ガゼッタ紙に、ガゼッタ紙に写真が掲載されたのだ。いつの日か、自分のクレジット入りの写真が堂々と使ってもらえるようになりたいと改めて思った。
なお、気を良くしたリカルドは、第8ステージから山のようにデータをくれるようになる・・・。
スペシャルバイクに乗って登場したユキヤ
スタート地点の近くに宿泊していたユキヤは、組み上がったばかりのコルナゴの新作、C59に跨がってやってきた。チェーンステーには「新城幸也」、フォークとシートチューブには「必勝」の文字。日の丸があしらわれているので、日本人だとすぐに分かる。
C59が与えられるのはユキヤが世界で3人目。チームメイトのトマ・ヴォクレール(フランス)と、サーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)に続く栄誉だ。チームとスポンサーのユキヤに懸ける想いが伺い知れる。
このC59の投入でますますユキヤの注目度が高まったことは間違いない。今日も朝からサインに握手に忙しそう。出走サイン後にはMCに熱く紹介され、歓声に手を振って応えていた。
マリアヴェルデを着たマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)が、不敵な笑みを浮かべてやってきた。2006年ツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージの覇者に、TOJが開幕したことを告げてみる。「おお、もうツアー・オブ・ジャパンの時期なのか!とてもよく覚えている。当時、かなり狙っていたレースだったんだ。ジロと同じぐらい厳しいステージレースだった(笑)」と、次から次に言葉が溢れ出てくる。
AIS(オーストラリア・インスティテュートオブスポーツ)の後輩、マイケル・マシューが初日にステージ優勝したことを告げる。「マイケルは平坦ステージで圧倒的な力を見せるかもね。日本人選手へのアドバイス?ん〜、とにかくマイケルを徹底マークせよ!かな(笑)」
本題に戻って・・・今日の目標は山岳賞キープ?「そう、このジャージを守ることが今日のチームのミッションなんだ。今僕は13ポイントで、頂上ゴールを制した選手は15ポイント獲得。つまり、序盤の山岳でポイントを稼がないとジャージを失ってしまう。当然チームとして狙っていくよ」。
その言葉通り、オメガファーマ・ロットは序盤から徹底的に集団をコントロールした。アタックを完全に封じ込める走りで、ロイドの3級山岳(46km地点)先頭通過をお膳立てした。ロイドはステージ争いに加わること無く、ステージ49位でひっそりとゴールしている。
濃霧・残雪・気温5度のテルミニッロ
今大会最初の頂上ゴールが設定されたモンテ・テルミニッロは、アペニン山脈の西側、ローマの東に佇む標高2216mの山岳だ。ローマからアクセスが良く、冬期はスキー場、夏期はトレッキングのメッカとして知られている。ゴール地点はその中腹、ホテルが建ち並ぶ標高1668mに置かれた。
上りを進むにつれて霧が濃くなり、ラスト3kmを過ぎた辺りから真っ白な世界に包まれた。気温は5度。太陽の当たらない木陰にはまだ雪が残る。しかし風が無いため寒さは感じない。
当初の予定では、ゴールから16km下った麓の街にチームバスの駐車場が設けられるはずだった。しかし天候の悪さと気温の低さを考慮して、主催者は頂上付近に駐車スペースを確保。選手たちはゴール後すぐにチームバスに向かい、暖かい車内で下山することとなった。
ステージ優勝者クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)のゴールから遅れること17分55秒、ユキヤは40名ほどのグルペットでゴールにやってきた。他の選手が顔を歪ませている中、ユキヤは平然とした表情でチームスタッフの姿を探す。後でリザルトを確認すると、ユキヤの後ろでゴールした選手は45名もいた。
「今日は前半からスピードが速かった。でもジロはツールほどガツガツとアタックが掛からないですね。最後の上り始めでグルペットが形成されたので、無理することなく上り切ることが出来ました。予想以上に観客が自分の名前を知っていて、大きな声援を受けましたよ」。
休息日のインタビューで「第9・10・14ステージで逃げにチャンスがあるかも」と語っていたユキヤ。翌日はその第9ステージだ!
「スタート直後にアタックが決まるか、なかなか決まらずに長時間アタックが掛かり続けるか、そのどちらかでしょうね。レース展開に依りますが、タイミングが合えば逃げに乗りますよ。とにかく今からホテルまで150km移動です」。
そう言ってユキヤは暖かいチームバスに乗り込んだ。こっちはラスト1km地点のプレスセンターまでコフィディスのチームカーをヒッチハイクして下山。山小屋のようなプレスセンターで写真をアップし、今、麓の街のホテルでこのレポートを書いている。明日は早起きしてスタート地点まで150kmのドライブだ。
text&photo:Kei Tsuji
朝、ガゼッタ紙を見てエスプレッソを噴きそうになる
前日はモンタルチーノのゴール後、写真だけアップしてプレスセンターを出発。第8ステージのスタート地点であるキアンチャーノ・テルメに移動した。「テルメ」の名前が示すように、同地は観光客が集まる温泉地。多くのホテルが乱立しているため、比較的簡単に寝所を見つけることができた。
さて、今大会最初の頂上ゴール、テルミニッロが設定された第8ステージ。天気予報は「曇り時々雨」。朝カーテンを開けると眩しい太陽が部屋に飛び込んで来たが、すぐに分厚い雲に遮られてしまった。
スタート地点に行ってビックリ。ガゼッタ紙をめくると自分が撮った泥だらけの選手の写真が大きく使われていた。
現地レポートをご覧の方はお気づきかも知れないが、昨日からモト(バイク)に乗るイタリア人カメラマンのリカルド・スカンフェルラとデータを交換している。どうしてもダート区間で撮影したい自分と、ゴール写真を外せないリカルドの意見が一致したのだ。
現状、カメラマンたちは自分の写真がどれか分からなくなるほどデータを共有している。確かに一人で動き回るより、何人かで手分けすればより多くの撮影チャンスが生まれる。最初は自分の写真に他人のクレジットが入ることに疑問を感じていたが、今回はそんなこと言ってられなかった。
結果、リカルドのゴール写真がシクロワイアードに掲載され、自分が撮った写真がガゼッタ紙に2枚使われた(はい、自慢です)。急勾配の上りが設定された第2未舗装区間に注目が集まっていたため、泥だらけの第1区間で撮影したカメラマンは少なかったようだ。
もちろんクレジットはリカルドで、自分のポケットには1ユーロも入ってこない。しかしこんなに名誉で嬉しいことは無い。ガゼッタ紙に、ガゼッタ紙に写真が掲載されたのだ。いつの日か、自分のクレジット入りの写真が堂々と使ってもらえるようになりたいと改めて思った。
なお、気を良くしたリカルドは、第8ステージから山のようにデータをくれるようになる・・・。
スペシャルバイクに乗って登場したユキヤ
スタート地点の近くに宿泊していたユキヤは、組み上がったばかりのコルナゴの新作、C59に跨がってやってきた。チェーンステーには「新城幸也」、フォークとシートチューブには「必勝」の文字。日の丸があしらわれているので、日本人だとすぐに分かる。
C59が与えられるのはユキヤが世界で3人目。チームメイトのトマ・ヴォクレール(フランス)と、サーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)に続く栄誉だ。チームとスポンサーのユキヤに懸ける想いが伺い知れる。
このC59の投入でますますユキヤの注目度が高まったことは間違いない。今日も朝からサインに握手に忙しそう。出走サイン後にはMCに熱く紹介され、歓声に手を振って応えていた。
マリアヴェルデを着たマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)が、不敵な笑みを浮かべてやってきた。2006年ツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージの覇者に、TOJが開幕したことを告げてみる。「おお、もうツアー・オブ・ジャパンの時期なのか!とてもよく覚えている。当時、かなり狙っていたレースだったんだ。ジロと同じぐらい厳しいステージレースだった(笑)」と、次から次に言葉が溢れ出てくる。
AIS(オーストラリア・インスティテュートオブスポーツ)の後輩、マイケル・マシューが初日にステージ優勝したことを告げる。「マイケルは平坦ステージで圧倒的な力を見せるかもね。日本人選手へのアドバイス?ん〜、とにかくマイケルを徹底マークせよ!かな(笑)」
本題に戻って・・・今日の目標は山岳賞キープ?「そう、このジャージを守ることが今日のチームのミッションなんだ。今僕は13ポイントで、頂上ゴールを制した選手は15ポイント獲得。つまり、序盤の山岳でポイントを稼がないとジャージを失ってしまう。当然チームとして狙っていくよ」。
その言葉通り、オメガファーマ・ロットは序盤から徹底的に集団をコントロールした。アタックを完全に封じ込める走りで、ロイドの3級山岳(46km地点)先頭通過をお膳立てした。ロイドはステージ争いに加わること無く、ステージ49位でひっそりとゴールしている。
濃霧・残雪・気温5度のテルミニッロ
今大会最初の頂上ゴールが設定されたモンテ・テルミニッロは、アペニン山脈の西側、ローマの東に佇む標高2216mの山岳だ。ローマからアクセスが良く、冬期はスキー場、夏期はトレッキングのメッカとして知られている。ゴール地点はその中腹、ホテルが建ち並ぶ標高1668mに置かれた。
上りを進むにつれて霧が濃くなり、ラスト3kmを過ぎた辺りから真っ白な世界に包まれた。気温は5度。太陽の当たらない木陰にはまだ雪が残る。しかし風が無いため寒さは感じない。
当初の予定では、ゴールから16km下った麓の街にチームバスの駐車場が設けられるはずだった。しかし天候の悪さと気温の低さを考慮して、主催者は頂上付近に駐車スペースを確保。選手たちはゴール後すぐにチームバスに向かい、暖かい車内で下山することとなった。
ステージ優勝者クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク)のゴールから遅れること17分55秒、ユキヤは40名ほどのグルペットでゴールにやってきた。他の選手が顔を歪ませている中、ユキヤは平然とした表情でチームスタッフの姿を探す。後でリザルトを確認すると、ユキヤの後ろでゴールした選手は45名もいた。
「今日は前半からスピードが速かった。でもジロはツールほどガツガツとアタックが掛からないですね。最後の上り始めでグルペットが形成されたので、無理することなく上り切ることが出来ました。予想以上に観客が自分の名前を知っていて、大きな声援を受けましたよ」。
休息日のインタビューで「第9・10・14ステージで逃げにチャンスがあるかも」と語っていたユキヤ。翌日はその第9ステージだ!
「スタート直後にアタックが決まるか、なかなか決まらずに長時間アタックが掛かり続けるか、そのどちらかでしょうね。レース展開に依りますが、タイミングが合えば逃げに乗りますよ。とにかく今からホテルまで150km移動です」。
そう言ってユキヤは暖かいチームバスに乗り込んだ。こっちはラスト1km地点のプレスセンターまでコフィディスのチームカーをヒッチハイクして下山。山小屋のようなプレスセンターで写真をアップし、今、麓の街のホテルでこのレポートを書いている。明日は早起きしてスタート地点まで150kmのドライブだ。
text&photo:Kei Tsuji
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