2019/09/20(金) - 16:56
長野県王滝村を舞台に開催される国内長距離MTB耐久レースの最高峰、セルフディスカバリーアドベンチャー・イン王滝。今年はグラベルクラスが新設され、65人が挑戦。国内グラベルイベントの初挑戦でもある同クラスは過酷なコースを前に完走率55%となった。検証しつつレポートしよう。
毎年5月と9月の2回に渡って開催されるSDA王滝。全行程にわたって続く厳しい林道のアップダウンとガレたダブルトラックは非常に難易度が高い。その同じコースを舞台に、この秋大会で初めてグラベルクラスが新設された。走るコースはMTBクラスと同じ。グラベルクラスの参加者数は100㎞が38名、42㎞が27名で合計65名。
グラベルクラス初開催に至った経緯を、パワースポーツ代表の滝川次郎さんは次のように話す。
「アメリカでグラベルレースが盛り上がっているというのを聞いていて、気にはなっていたんですが、春大会の後に山中真選手(GT)から「ぜひグラベルクラスの新設を」と提案がありました。そこでアメリカのグラベル事情に詳しい北澤肯さん(オルタナティブバイク)に相談し、各方面にアドバイスを受けつつ開催にこぎつけました。『面白そうだ。じゃぁやってみよう』というノリで始まりました。で、初めてなのに65人もエントリーがあった。『まぁまぁ反響があるんだな』と驚きましたよ。先のユーロバイクでのバイクやグッズの流行をみてきた人の話でも、どうやら世界的な潮流でもあるようなので、それを汲んでいければいいと思っています」(前日の談話より)。
グラベルカテゴリーにエントリーした参加者選手はスタート位置が分けられることはなく、MTBクラスの選手たちと混走でスタート。100kmクラスは松原スポーツ公園から先導車にリードされる形でのニュートラル走行、舗装路を数キロ走った地点からダートの林道へ入ると、レースが始まった。コースは5月の春大会とは逆回りに設定され、CP1まででいきなり1500mアップの山岳が始まる。
例年なら下っていたこの急勾配は、かなり勾配の厳しい上り坂となってグラベルクラスの選手たちの脚を奪った。MTBでもローギアで回して登る激坂は、標準的なグラベルバイクのギア比では足りないケースが多い。ましてフロントシングル仕様では。押して登る参加者も続出。
そしてこの日の気温は30度を超えるまで上昇する厳しい暑さとなった。コースは前週までの雨で砂が流れ、大きな石が露出するガレの醜い状況。サスペンション無しやタイヤの細めなグラベルバイクにはかなり負荷が高かったようだ。コース上ではパンクに見舞われたグラベルクラスの選手たちが数多く止まり、修理する姿が多く見受けられた。
100kmクラスの上位争いは岡理裕(バイシクルわたなべ浜松)が終始後続を大きく引き離して独走する走りを見せ、5:40:15のタイムで優勝した。岡は春大会のMTB100kmクラスで4位になっている選手。
岡は言う。「序盤は120kmMTBの先頭集団に着いていこうと思ったんですが、下りで離されましたね。パンクは1回しましたが、そこからは登りで頑張るようにして、下りで安全マージンをみて飛ばさないようにしました。後半は脚も腰も痛いし大変でした。チャレンジという意味ではいいんですが、今回の路面はガレすぎでグラベルバイクで走るコースじゃないですね。MTBの人も苦労しているぐらいでしたから。フロントサスペンションがあってよかった。MTBクラスだとトップのレベルが高すぎて入賞はできても勝つことができないんです。だから勝つためにグラベルクラスを選びました」。
2位の片岡誉(轍屋)は、「追いつくことができず、岡選手の力は圧倒的でした」と話す。また、片岡は走りながらの苦労を次のように話す。
「前輪からシーラントが盛大に噴出するスローパンクに見舞われましたが、6mmの穴でも塞がるというパナレーサーのシーラントを信じて空気の補充だけすると本当に復活し、チューブを入れること無く助かりました。だんだんと路面の振動がボディーブローのように腰にきて、中盤辺りに腰痛が限界を迎えました。それでも振動を和らげるためにリム打ち覚悟でタイヤの空気圧を1.8barまで下げて下りました。後半、後輪もスローパンクしましたが、またしてもco2ボンベで回復。終盤はバイクの抑えが効かなくなり落車もしました。まさにセルフリカバリーアドベンチャーでした」。
グラベル42kmクラスでは、かつてMTBクロスカントリーのマスターズチャンピオンも経験している山本朋貴(ストラーダバイシクルズ)が藤井修(きゅうべえ)を振り切って独走勝利。山本は下りで落車し、パンクもしたがそのまま走り、逃げ切ったという。「リアサス付きの新製品グラベルバイク、キャノンデールTOPSTONEが良かった。でもフロントにもサスが欲しいところでしたね」と話す。
2位の藤井修は関西シクロクロスのマスターズCM1クラスで表彰台の常連選手。CXレースに使っているカンティブレーキ仕様のシクロクロスバイクをタイヤを太くして参戦。当然ノーサスだ。「下りはハンドルにしがみついて耐えていましたが、振動で目の焦点が合わなくなるほどでした。ボトルは2回ぐらいしか取れませんでした(笑)」と話す。
MTB100kmの優勝タイムが例年より50分近くも遅かったことから分かるように、今年のコースは登りも下りも例年より厳しいという声が多かった。グラベルクラス100kmは38人出走中、完走は21人と完走率55パーセント。42kmは27人中、24人が完走した。
以前もグラベルバイクで走った経験がある、100kmで2位の片岡は言う。「台風の影響か、いつも以上の路面のガレ具合でした。前回も勝手にグラベルバイクで走った時は下ハンを握らなくても下れたけど、今回はしっかり下ハンで抑えないと吹っ飛びそうで、前傾姿勢のダメージで首が回らなくなりました。ドロップハンドルならワイドでドロップ量の少ないグラベルハンドルが有効ですね」。
厳しすぎたコース。グラベルと言っても地域や天候により路面状況は変わる
自身もグラベルクラス100kmにエントリーしたアドバイザーの北澤肯さん(オルタナティブバイク)は言う。「春大会は路面が整っていてグラベルバイクでも問題なく走れましたが、今大会は醜いガレ具合でした。最初の登りも厳しくて長かった。春のコンディションだとそうでもなかったんだけど...」。
MTB120kmで優勝した宮津旭(PAX PROJECT)は、王滝村の職員としてコースの管理も行う立場にある。レース後に今年のコースの状況について聞いてみた。
宮津「今年はとくにガレていましたね。ひどく降った雨水が流れず路面に残ったことで尖った石などが露出する結果になったようです。補修も追いつかないですね。今回のコース状況はMTBの私もキツかったぐらいですから、グラベルの方には厳しかったと思います」。
ー グラベルクラスのコースを別に設定することはできないのだろうか?
宮津「SDA王滝のコースは林道を何箇所かつなげて一周がとれるようにしているんです。グラベル向きのコースを別に設定するなら、その林道の一部分を選んで往復するなどすれば周回は可能かもしれませんね」。
大会主催者であるパワースポーツの滝川次郎代表は次のように話す。
「アメリカでは砂地の締まった路面を走っているそうですが、日本の林道ってそういう路面ではないわけですから、日本なりの林道の走り方で良いのかな、とも思います。タイヤの選択ひとつとっても『王滝仕様』など、各自が研究してそれぞれのグラベルに適したものを見つけるのも楽しみではないかと思います。今回はあくまで初めての大会なので、そうしたレースの仕様や規定自体も変化して行けば良いのかな、と思っています。まずは第1回としてやってみることでした」。
ー コースを別に設定することは?
「もう少し緩く、ということですよね。できなくはないとは思いますが、今回のレースを踏まえた上でまた考えていければと思います。皆の意見を聞きながら」。
日本のグラベルイベントとしては先駆けの大会となったSDA王滝のグラベルクラス。コースの荒れ具合は関係者の予想以上だったようで、挑戦者にも厳しい結果になってしまった。しかし困難に挑戦する面白さは味あわせてくれた。同時に、コース状況によってバイクの設定をカスタマイズして挑むという、機材スポーツならではの楽しさも。
「来年は果たしてあるのか?」という少しネガティブな声も聞かれたが、王滝以降も国内では初開催ですでに超人気状態のグラインデューロやラファ・スーパークロス野辺山のグラベルツーリングなど、楽しみなグラベルイベントが続いていく。困難は予想されるが、環境や状況に応じて判断して対応していくのもまたグラベルライドの楽しさだろう。ちなみに、グラインデューロのコース設定者に取材したところ、太めのタイヤのグラベルバイクで走るのが速く・有利なコース設定になっているとのことだ(豆情報として)。
続編ではグラベルクラス参加者たちのバイクにフィーチャーします。
毎年5月と9月の2回に渡って開催されるSDA王滝。全行程にわたって続く厳しい林道のアップダウンとガレたダブルトラックは非常に難易度が高い。その同じコースを舞台に、この秋大会で初めてグラベルクラスが新設された。走るコースはMTBクラスと同じ。グラベルクラスの参加者数は100㎞が38名、42㎞が27名で合計65名。
グラベルクラス初開催に至った経緯を、パワースポーツ代表の滝川次郎さんは次のように話す。
「アメリカでグラベルレースが盛り上がっているというのを聞いていて、気にはなっていたんですが、春大会の後に山中真選手(GT)から「ぜひグラベルクラスの新設を」と提案がありました。そこでアメリカのグラベル事情に詳しい北澤肯さん(オルタナティブバイク)に相談し、各方面にアドバイスを受けつつ開催にこぎつけました。『面白そうだ。じゃぁやってみよう』というノリで始まりました。で、初めてなのに65人もエントリーがあった。『まぁまぁ反響があるんだな』と驚きましたよ。先のユーロバイクでのバイクやグッズの流行をみてきた人の話でも、どうやら世界的な潮流でもあるようなので、それを汲んでいければいいと思っています」(前日の談話より)。
グラベルカテゴリーにエントリーした参加者選手はスタート位置が分けられることはなく、MTBクラスの選手たちと混走でスタート。100kmクラスは松原スポーツ公園から先導車にリードされる形でのニュートラル走行、舗装路を数キロ走った地点からダートの林道へ入ると、レースが始まった。コースは5月の春大会とは逆回りに設定され、CP1まででいきなり1500mアップの山岳が始まる。
例年なら下っていたこの急勾配は、かなり勾配の厳しい上り坂となってグラベルクラスの選手たちの脚を奪った。MTBでもローギアで回して登る激坂は、標準的なグラベルバイクのギア比では足りないケースが多い。ましてフロントシングル仕様では。押して登る参加者も続出。
そしてこの日の気温は30度を超えるまで上昇する厳しい暑さとなった。コースは前週までの雨で砂が流れ、大きな石が露出するガレの醜い状況。サスペンション無しやタイヤの細めなグラベルバイクにはかなり負荷が高かったようだ。コース上ではパンクに見舞われたグラベルクラスの選手たちが数多く止まり、修理する姿が多く見受けられた。
100kmクラスの上位争いは岡理裕(バイシクルわたなべ浜松)が終始後続を大きく引き離して独走する走りを見せ、5:40:15のタイムで優勝した。岡は春大会のMTB100kmクラスで4位になっている選手。
岡は言う。「序盤は120kmMTBの先頭集団に着いていこうと思ったんですが、下りで離されましたね。パンクは1回しましたが、そこからは登りで頑張るようにして、下りで安全マージンをみて飛ばさないようにしました。後半は脚も腰も痛いし大変でした。チャレンジという意味ではいいんですが、今回の路面はガレすぎでグラベルバイクで走るコースじゃないですね。MTBの人も苦労しているぐらいでしたから。フロントサスペンションがあってよかった。MTBクラスだとトップのレベルが高すぎて入賞はできても勝つことができないんです。だから勝つためにグラベルクラスを選びました」。
2位の片岡誉(轍屋)は、「追いつくことができず、岡選手の力は圧倒的でした」と話す。また、片岡は走りながらの苦労を次のように話す。
「前輪からシーラントが盛大に噴出するスローパンクに見舞われましたが、6mmの穴でも塞がるというパナレーサーのシーラントを信じて空気の補充だけすると本当に復活し、チューブを入れること無く助かりました。だんだんと路面の振動がボディーブローのように腰にきて、中盤辺りに腰痛が限界を迎えました。それでも振動を和らげるためにリム打ち覚悟でタイヤの空気圧を1.8barまで下げて下りました。後半、後輪もスローパンクしましたが、またしてもco2ボンベで回復。終盤はバイクの抑えが効かなくなり落車もしました。まさにセルフリカバリーアドベンチャーでした」。
グラベル42kmクラスでは、かつてMTBクロスカントリーのマスターズチャンピオンも経験している山本朋貴(ストラーダバイシクルズ)が藤井修(きゅうべえ)を振り切って独走勝利。山本は下りで落車し、パンクもしたがそのまま走り、逃げ切ったという。「リアサス付きの新製品グラベルバイク、キャノンデールTOPSTONEが良かった。でもフロントにもサスが欲しいところでしたね」と話す。
2位の藤井修は関西シクロクロスのマスターズCM1クラスで表彰台の常連選手。CXレースに使っているカンティブレーキ仕様のシクロクロスバイクをタイヤを太くして参戦。当然ノーサスだ。「下りはハンドルにしがみついて耐えていましたが、振動で目の焦点が合わなくなるほどでした。ボトルは2回ぐらいしか取れませんでした(笑)」と話す。
MTB100kmの優勝タイムが例年より50分近くも遅かったことから分かるように、今年のコースは登りも下りも例年より厳しいという声が多かった。グラベルクラス100kmは38人出走中、完走は21人と完走率55パーセント。42kmは27人中、24人が完走した。
以前もグラベルバイクで走った経験がある、100kmで2位の片岡は言う。「台風の影響か、いつも以上の路面のガレ具合でした。前回も勝手にグラベルバイクで走った時は下ハンを握らなくても下れたけど、今回はしっかり下ハンで抑えないと吹っ飛びそうで、前傾姿勢のダメージで首が回らなくなりました。ドロップハンドルならワイドでドロップ量の少ないグラベルハンドルが有効ですね」。
厳しすぎたコース。グラベルと言っても地域や天候により路面状況は変わる
自身もグラベルクラス100kmにエントリーしたアドバイザーの北澤肯さん(オルタナティブバイク)は言う。「春大会は路面が整っていてグラベルバイクでも問題なく走れましたが、今大会は醜いガレ具合でした。最初の登りも厳しくて長かった。春のコンディションだとそうでもなかったんだけど...」。
MTB120kmで優勝した宮津旭(PAX PROJECT)は、王滝村の職員としてコースの管理も行う立場にある。レース後に今年のコースの状況について聞いてみた。
宮津「今年はとくにガレていましたね。ひどく降った雨水が流れず路面に残ったことで尖った石などが露出する結果になったようです。補修も追いつかないですね。今回のコース状況はMTBの私もキツかったぐらいですから、グラベルの方には厳しかったと思います」。
ー グラベルクラスのコースを別に設定することはできないのだろうか?
宮津「SDA王滝のコースは林道を何箇所かつなげて一周がとれるようにしているんです。グラベル向きのコースを別に設定するなら、その林道の一部分を選んで往復するなどすれば周回は可能かもしれませんね」。
大会主催者であるパワースポーツの滝川次郎代表は次のように話す。
「アメリカでは砂地の締まった路面を走っているそうですが、日本の林道ってそういう路面ではないわけですから、日本なりの林道の走り方で良いのかな、とも思います。タイヤの選択ひとつとっても『王滝仕様』など、各自が研究してそれぞれのグラベルに適したものを見つけるのも楽しみではないかと思います。今回はあくまで初めての大会なので、そうしたレースの仕様や規定自体も変化して行けば良いのかな、と思っています。まずは第1回としてやってみることでした」。
ー コースを別に設定することは?
「もう少し緩く、ということですよね。できなくはないとは思いますが、今回のレースを踏まえた上でまた考えていければと思います。皆の意見を聞きながら」。
日本のグラベルイベントとしては先駆けの大会となったSDA王滝のグラベルクラス。コースの荒れ具合は関係者の予想以上だったようで、挑戦者にも厳しい結果になってしまった。しかし困難に挑戦する面白さは味あわせてくれた。同時に、コース状況によってバイクの設定をカスタマイズして挑むという、機材スポーツならではの楽しさも。
「来年は果たしてあるのか?」という少しネガティブな声も聞かれたが、王滝以降も国内では初開催ですでに超人気状態のグラインデューロやラファ・スーパークロス野辺山のグラベルツーリングなど、楽しみなグラベルイベントが続いていく。困難は予想されるが、環境や状況に応じて判断して対応していくのもまたグラベルライドの楽しさだろう。ちなみに、グラインデューロのコース設定者に取材したところ、太めのタイヤのグラベルバイクで走るのが速く・有利なコース設定になっているとのことだ(豆情報として)。
続編ではグラベルクラス参加者たちのバイクにフィーチャーします。
2019セルフディスカバリーアドベンチャー王滝・秋 グラベルバイク100km
1位 | 岡 理裕 | 5:40:15 |
2位 | 片岡 誉 | 6:02:21 |
3位 | 田河 慎也 | 6:15:18 |
4位 | 香月 大道 | 6:35:10 |
5位 | 吉元 健太郎 | 7:01:15 |
6位 | 大岩 充 | 7:23:31 |
7位 | 渡辺 崇晶 | 7:47:43 |
8位 | 忠鉢 信一 | 7:58:18 |
9位 | 鵜飼 洋 | 8:03:27 |
10位 | 丸山 兼児 |
グラベルバイク42km
1位 | 山本 朋貴 | 2:15:25 |
2位 | 藤井 修 | 2:20:37 |
3位 | 鵜飼 一彦 | 2:27:40 |
4位 | 細川 公志 | 2:28:06 |
5位 | 斉藤 千尋 | 2:33:57 |
6位 | 富澤 克彦 | 2:40:00 |
7位 | 村上 学 | 2:56:22 |
8位 | 小清水 照満 | 2:57:56 |
9位 | 大野 晃市 | 3:03:40 |
10位 | 船木 和智晋 | 3:08:16 |
text:Makoto.AYANO
photo:Akihiko.Harimoto
photo:Akihiko.Harimoto
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