2010/04/26(月) - 09:48
2010年4月25日、ベルギー・ワロン地域で開催された第96回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIヒストリカル)で、終盤に飛び出したアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)との一騎打ちを制したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が優勝。自身2度目のモニュメント制覇を達成した。
終盤にかけて加熱した上りアタック合戦
急勾配で知られるサンロシュの坂を上る選手たち photo:A.S.O.春のクラシックシーズンを締めくくるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。無数の上りを含むコースの難易度は非常に高く、クライミング能力とスプリント力に秀でたオールラウンダー向き。今年はグランツールを見据える強豪が一堂に会した。
レース名の通りスタート地点はリエージュ。曇り空の下、198名の選手たちがスタートを切った。レース前半の主役は、逃げを試みる選手たち。この日はニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)やドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ)ら8名が逃げ、最大8分のリードを得た。
先頭グループを形成したマキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)ら8名 photo:A.S.O.BMCレーシングチームがメイン集団をコントロールして、逃げグループとのタイム差を縮めつつある中、最初に動きを見せたのがサクソバンク。ゴールまで100kmを残した「コート・ド・ワンヌ」でイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)が飛び出し、単独で先頭グループを追撃した。
しかし、ケースデパーニュが集団コントロールを担ったことで、フォイクトは1時間に及ぶの追走の末、結果的に先頭グループに追いつくことの無いまま集団に引き戻される。
残り21km地点 コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで飛び出したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が、先行していたタンキンクをパス photo:A.S.O.ここからカウンターアタックの応酬が繰り広げられたが、スピードの上がった集団は全てのアタックを吸収。それまで逃げていた選手も、ゴールまで38kmを残して全て吸収された。
集団はゴール35km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット」で再び活性化。生家が近いフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の「PHIL」ペイントが施されたこの上りでヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が動いた。
残り15km地点 先頭グループを形成するアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) photo:Cor Vosしかしバレードらのアタックは決定力を欠き、カウンターで飛び出したブラム・タンキンク(オランダ、ラボバンク)が独走。セルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)の追走は届かず、タンキンクが独走のままゴール20km手前の「コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」に突入した。
このフォーコンで本命が動いた。昨年同じ場所で独走に持ち込んだアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)がアタックを仕掛けると、ジルベールが合流。遅れてアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)も加わり、強力な3名のグループが出来上がった。
残り15km地点 追走グループを形成するフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:A.S.O.フォーコン通過後の下り区間で、後続グループが追いついて先頭は10名ほどに。ここからヴィノクロフがカウンターアタックで飛び出すと、コロブネフだけが合流。同じロシア語圏出身の2人のアレクサンドルが、協力して後続を引き離した。
ダブルアレクサンドルの後方では、ジルベールのアタックにアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が反応するカタチで3名の追走グループが形成。優勝候補3名が束になって先頭を追ったが、そのタイム差は縮まらない。
ラスト500mの上りでアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)を引き離すアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:A.S.O.この日最後の難所である「コート・ド・サンニコラ」でヴィノクロフが執拗にアタックを仕掛けたが、コロブネフが食らいつく。約30秒後方では、ジルベールがサンニコラでアタックを成功させ、単独で先頭2名を追走。
しかし先頭2名とジルベールのタイム差は、ゴールまで5kmを残して20秒。この差は最後まで縮まらず、結局ジルベールはバルベルデとエヴァンスらとともにゴールに向かうことに。
先頭の2人は協力しながらゴールに至る約2kmの上りに突入し、互いの動きに警戒しながらラスト1km。ジワリと上るこの緩斜面を利用して、ヴィノクロフがラスト500mでアタック。コロブネフは堪らず千切れ、最終コーナーを先頭で立ち上がったヴィノクロフがそのまま独走でゴールに飛び込んだ。
ジルベール、バルベルデ、エヴァンスの後続グループは3位争いのスプリントを繰り広げ、バルベルデが接近戦を制して3位に。ジルベールは4位、フレーシュ・ワロンヌに続く連勝を狙ったエヴァンスは5位に終わった。
2005年に続く2度目のリエージュ制覇
コロブネフを置き去りにし、独走でゴールに飛び込むアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor VosヴィノクロフはTモバイル時代の2005年にこのリエージュで初勝利。当時はゴール50km手前の「コート・ド・ヴェキー」でフォイクトと飛び出し、最終ストレートでのスプリントで勝利を手にした。
2007年のツール・ド・フランス期間中に発覚した血液ドーピングで、2年間の出場停止処分を受けたヴィノクロフ。一時は現役引退を発表したが、2009年に前言を撤回してアスタナでレースに復帰。直前のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝を飾り、勢いそのままにリエージュに乗り込んだ。
3位狙いのスプリントはアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)に軍配 photo:Cor Vos「アルベルト(コンタドール)を始め、チームメイトたちに感謝したい。彼らのサポートが無ければ今日の勝利は有り得なかった。終盤にチームメイトが傍にいるだけで、格段に有利な展開に持ち込むことが出来た。今日はアルベルトがシュレクをマーク。そのおかげで自分のカウンターアタックが成功したんだ」。
現役復帰後初のビッグレース勝利に感無量のヴィノクロフだが、ロードレース界を揺るがすドーピングスキャンダルを巻き起こした張本人だけに、ゴール地点ではブーイングも。
アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)に祝福されるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor Vosしかしヴィノクロフは主張する。「僕はクリーンなんだ。ドーピング無しでも、努力によって勝てるということを若い選手たちに示したかった。(ドーピングによる)出場停止期間の2年間はもう過去の話。これはハードなトレーニングの成果なんだ」。
トレンティーノとリエージュで連勝を飾ったヴィノクロフは、当然ジロ・デ・イタリアでも優勝候補だ。そして、ヴィノクロフはツール・ド・フランス出場にも期待を寄せる。「ツールに出場して、アルベルトをサポートしたい。ツールの後はロード世界選手権タイムトライアルを狙うよ」。36歳のヴィノクロフの士気は高い。
表彰台、左から3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、優勝アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、2位アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) photo:A.S.O.2007年と2009年のロード世界選手権で2位に入っているコロブネフは、再びビッグレースで2位に。「ただヴィノクロフが強かった。サンニコラで彼がアタックしたとき、すでに僕はリミットギリギリだったんだ。負けたけど、ヴィノやバルベルデと表彰台に登ることが出来て良かったよ」。その走りには満足している様子だ。
地元ベルギーの期待を背負ったジルベールは失意の4位。「自分自身の調子は良かった。フォーコンでアタックしたアンディ・シュレクに問題なく付いていったけど、他の選手が追いつくと事態は急変。他のチームが2〜3人を揃えていたのに対し、僕は一人。連発するアタックに単独で反応しなければならなかったんだ。表彰台は逃したけど、2位も3位も4位も大して変わらない。やっぱり優勝だけが価値がある」。アルデンヌで上位入賞を繰り返したジルベールは、UCIワールドランキングでトップに立った。
選手コメントは現地取材中のグレゴー・ブラウンより。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010結果
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) 6h37'48"
2位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) +06"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) +1'04"
4位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) +1'07"
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)
8位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
9位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
10位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
11位 トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム) +1'18"
12位 サイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)
13位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)
14位 ブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)
15位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)
16位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
17位 ファビアン・ウェーグマン(ドイツ、チームミルラム)
18位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
19位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
20位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O.
終盤にかけて加熱した上りアタック合戦
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レース名の通りスタート地点はリエージュ。曇り空の下、198名の選手たちがスタートを切った。レース前半の主役は、逃げを試みる選手たち。この日はニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)やドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ)ら8名が逃げ、最大8分のリードを得た。
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しかし、ケースデパーニュが集団コントロールを担ったことで、フォイクトは1時間に及ぶの追走の末、結果的に先頭グループに追いつくことの無いまま集団に引き戻される。
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集団はゴール35km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット」で再び活性化。生家が近いフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の「PHIL」ペイントが施されたこの上りでヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が動いた。
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ダブルアレクサンドルの後方では、ジルベールのアタックにアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が反応するカタチで3名の追走グループが形成。優勝候補3名が束になって先頭を追ったが、そのタイム差は縮まらない。
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しかし先頭2名とジルベールのタイム差は、ゴールまで5kmを残して20秒。この差は最後まで縮まらず、結局ジルベールはバルベルデとエヴァンスらとともにゴールに向かうことに。
先頭の2人は協力しながらゴールに至る約2kmの上りに突入し、互いの動きに警戒しながらラスト1km。ジワリと上るこの緩斜面を利用して、ヴィノクロフがラスト500mでアタック。コロブネフは堪らず千切れ、最終コーナーを先頭で立ち上がったヴィノクロフがそのまま独走でゴールに飛び込んだ。
ジルベール、バルベルデ、エヴァンスの後続グループは3位争いのスプリントを繰り広げ、バルベルデが接近戦を制して3位に。ジルベールは4位、フレーシュ・ワロンヌに続く連勝を狙ったエヴァンスは5位に終わった。
2005年に続く2度目のリエージュ制覇
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地元ベルギーの期待を背負ったジルベールは失意の4位。「自分自身の調子は良かった。フォーコンでアタックしたアンディ・シュレクに問題なく付いていったけど、他の選手が追いつくと事態は急変。他のチームが2〜3人を揃えていたのに対し、僕は一人。連発するアタックに単独で反応しなければならなかったんだ。表彰台は逃したけど、2位も3位も4位も大して変わらない。やっぱり優勝だけが価値がある」。アルデンヌで上位入賞を繰り返したジルベールは、UCIワールドランキングでトップに立った。
選手コメントは現地取材中のグレゴー・ブラウンより。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010結果
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) 6h37'48"
2位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) +06"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) +1'04"
4位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) +1'07"
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)
8位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
9位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
10位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
11位 トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム) +1'18"
12位 サイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)
13位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)
14位 ブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)
15位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)
16位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
17位 ファビアン・ウェーグマン(ドイツ、チームミルラム)
18位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
19位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
20位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O.
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