2019/07/01(月) - 12:53
入部正太朗(シマノレーシング)の勝利で幕を閉じた全日本選手権ロードレース エリート男子。勝負を分けた動きとなった3人の逃げ、そして中盤からレースを牽引したシマノレーシングのチーム戦略とは? 自身の勝利以来の栄冠を味わう野寺監督選手の談話と、レースに破れた選手たちのコメント集。
シマノレーシング監督 野寺秀徳(2008年全日本チャンピオン)
― レース直後にシマノレーシングのチームメイトたちに話を聞いてみると、今日は入部選手を絶対エースとして走ったと話してくれました。どういうチームオーダーだったのでしょうか?
野寺 全日本は選手たちにとってまさに本番。エースである選手にとっては、ここで勝てることを証明しなければならない大会です。シマノレーシングでそれができる可能性があるのは、今までの活動の中では入部だと僕は思っていましたし、チームメイトもそう思っていたはずです。
レースが始まってみればコンディションが悪い選手が数人居ました。全日本に向けてのトレーニングは全員がギリギリのところでやってきていて、本番でコンディションを落とす選手がいるのは当然だと思っています。走れなくなる紙一重のギリギリまで研ぎ澄ますことができた人間だけが勝つことができます。
他のメンバーにも勝つチャンスはレース展開次第であるものですが、しかしそれは一人のエースをサポートしきった時に自分にチャンスが巡ってくるかもしれないというのが前提です。もし入部が潰れたら、その時に自分が勝ちに行くことは考えなければいけない。
今日は皆が予想以上に入部をサポートするために動いた。前夜のミーティングでは、「入部を守るために細心の注意を払え」「雑になるな」と話をしてきて、入部には「チームメイトを使うときには迷わず使え」「自分がこの時だと思うタイミングあるなら迷わず動け」と話していました。
今日のシマノレーシングのチームとしての動きは、僕も正直早すぎるかな?と思ったけど、彼ら自身で考えてそうしたようです。中盤までを見ていて、これほどまでにチームがうまく機能したことは今までなかった。これで勝てたら最高だ、と思っていました。でも、入部の調子がどうかは最後まで誰もわからない。
レースがかかりはじめた残り40km。入部が新城選手の動きに乗った時、「これはもしかするといけるかも」と思いました。そして横塚選手を含めた3人になったとき、入部の走りを見て「これはもうかなりの高確率で勝てる」と思っていました。
ただ、僕も新城選手の調子のいいときのスプリント力を知っています。横塚選手(チーム右京)がJプロツアー矢板片岡ロードで勝った爆発的なスプリント力は、入部選手も「あの伸びには勝てない」と知っていました。そして今日は新城選手の強さが際立っていた。
しかし入部選手は自分が勝つための動きに徹した。その「勝つための気持ち」がもし雑になったら、新城選手の強さに飲まれて一緒に先頭交代に加わって、勝ちを逃すということになったと思う。入部は今日、鉄の意志をもってやり遂げたんだと思います。チームワークとしても完璧だった。
やはり日本選手権は特別なレースです。僕が勝った年も強い選手が数人居たけれど、今年の選手層は勝てる可能性がある選手がもっと多く居ます。そのなかで入部も孤高の強さを持った選手ではないので、勝つことは容易ではないことです。ここまで長かったけれど、成果が出て本当によかった。
― 入部選手の人となりや選手としての人間像などは、野寺監督はどのように捉えていますか?
野寺 入部をシマノレーシングに誘ったときは、彼はまだトラックレースの選手でロードはあまり走れなかったんです。しかしポイントレースのチャンピオンになったこともあり、素質は十分持っていると思っていました。加入当初は畑中勇介などが居て、なかなか居場所を見つけにくかったと思いますが、今は彼中心のシマノレーシングです。
入部は精神的に強いだけじゃなく、常にギリギリまで努力することを惜しまない選手です。一歩踏み出して、自分の強さを磨くことを惜しまない人。日本チャンピオンは人並み外れた努力をした人だけが勝ち取れるものということを知っています。彼はとくに近年、その努力をしてきたので、勝つなら入部だと思っていました。
彼はどんなに苦しくても、辛いことにも向き合える選手です。そしてチームを牽引する力がある選手に育ってくれたと思います。
シマノレーシングのキャプテン 木村圭佑
今日は入部さんがエースということで走りました。それは今までの実績と今の調子、練習の内容すべてが他の選手からは飛び抜けていたから決めたことです。
序盤はシマノレーシングで集団をコントロールして、危険回避のために集団を引いて走りました。黒枝と中井の2人が仕事を終えた後は、僕、湊、入部の3人が展開に応じて立ち回る形でした。湊も僕らに不利になる逃げにすべて対応してくれたし、入部さん自身も行くべきところは躊躇なく攻撃に行ったし、本当に強かったと思います。チームワークは本当にうまくいきました。嬉しいです。
序盤から動いてレースをつくり、ラスト2周で失速した別府史之(トレック・セガフレード)
やることはすべてやりました。何も言うことはないです。
優勝の入部選手は強かった。おめでとう。
いつも見守ってくれるファンのみなさんや家族、そして今日までレースに集中させてくれたチームに最大限の感謝を。ありがとう。悔しさは次の好走に。走ることはまだやめられそうにないです。
キーとなる逃げをつくるも19位 に終わった小石祐馬(チーム右京)
終わってみれば焦っちゃったかな、と思います。ラスト3周はすごいいいメンバー(小石、新城、小林海)で抜け出し、タイム差も開いたのに、でも追いつかれるんです。マークの仕合をしているだけで、みんな脚を使っているから、そこからは誰も行けないんです。こんなのレースじゃない、と言いたい。でも、これもレースなんです。動きを早まってしまいました。悔しい。ただ、悔しいです...。
12位に終わった山本元喜(キナンサイクリングチーム/2018年全日本チャンピオン)
力負けですね。かなり絞って危険な動きはすべてチェックして乗るようにしていたんですが、最後の新城さん、入部さん、横塚さんの3人の上りの動きには反応できたのに差を詰め切れずに遅れてしまった。それが全てですね。その後も少しでも順位を上げようと、やれることはすべてやったんですが...。悔しいけどこれが今の限界でした。
中盤に単独で逃げ続けた徳田優(チームブリヂストンサイクリング)
例年、逃げができて最後まで行ってしまうパターンがあったので、そういうグループができるきっかけになって、窪木さんや石橋さんなどBSで勝てる選手が合流してきてくれたら、と思っていました。ひとりになって泳がされた感はありましたが、行くしか無かったし、前を逃げることでチームメイトが集団内で少しでも長い時間、楽ができるなら良いと思っていました。距離もあったので逃げ切れるとは考えていませんでした。
チームブリヂストンサイクリングはパンチあるアタックができる選手、スプリントになれば勝ちが狙える選手が何人も居るので、そういう展開に持ち込みたかったですね。
16位に終わった窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)
脚があるように見えた増田選手とブリッツェンを警戒していて、それで出遅れてしまいましたね。牽制が入ってしまい、新城選手のあの動きに乗り遅れてしまった。皆が足を隠していて行かないので、自分も出し抜きたかった。最終便で行こうと思っていたのに、結局見合ってしまって出遅れてしまいました。あのラスト3周の動きに行かれちゃいました。あれが最終便だったんです。
強さを見せるも21位 紺野元汰(ツール・ド・おきなわ2018市民210km優勝者)
今日は完走できればいいと思っていて、最終局面の勝負どころでレースができたことに満足です。ラスト1周まで9位前後の位置にいて、(15位以内の)UCIポイントを取らないかヒヤヒヤでした(※)が、21位でゴール。9位前後の時はブリッツェンの増田選手と2名で回していたので増田選手には少しご迷惑をかけてしまったかな。とりあえずニセコクラシックの準備は整いました。あとはグランフォンド世界選に向けて調子を100%に持って行くだけです。
(※目標としているグランフォンド世界選手権はUCIポイント保持者は出場できない規定があるため)
text:Makoto.AYANO
シマノレーシング監督 野寺秀徳(2008年全日本チャンピオン)
― レース直後にシマノレーシングのチームメイトたちに話を聞いてみると、今日は入部選手を絶対エースとして走ったと話してくれました。どういうチームオーダーだったのでしょうか?
野寺 全日本は選手たちにとってまさに本番。エースである選手にとっては、ここで勝てることを証明しなければならない大会です。シマノレーシングでそれができる可能性があるのは、今までの活動の中では入部だと僕は思っていましたし、チームメイトもそう思っていたはずです。
レースが始まってみればコンディションが悪い選手が数人居ました。全日本に向けてのトレーニングは全員がギリギリのところでやってきていて、本番でコンディションを落とす選手がいるのは当然だと思っています。走れなくなる紙一重のギリギリまで研ぎ澄ますことができた人間だけが勝つことができます。
他のメンバーにも勝つチャンスはレース展開次第であるものですが、しかしそれは一人のエースをサポートしきった時に自分にチャンスが巡ってくるかもしれないというのが前提です。もし入部が潰れたら、その時に自分が勝ちに行くことは考えなければいけない。
今日は皆が予想以上に入部をサポートするために動いた。前夜のミーティングでは、「入部を守るために細心の注意を払え」「雑になるな」と話をしてきて、入部には「チームメイトを使うときには迷わず使え」「自分がこの時だと思うタイミングあるなら迷わず動け」と話していました。
今日のシマノレーシングのチームとしての動きは、僕も正直早すぎるかな?と思ったけど、彼ら自身で考えてそうしたようです。中盤までを見ていて、これほどまでにチームがうまく機能したことは今までなかった。これで勝てたら最高だ、と思っていました。でも、入部の調子がどうかは最後まで誰もわからない。
レースがかかりはじめた残り40km。入部が新城選手の動きに乗った時、「これはもしかするといけるかも」と思いました。そして横塚選手を含めた3人になったとき、入部の走りを見て「これはもうかなりの高確率で勝てる」と思っていました。
ただ、僕も新城選手の調子のいいときのスプリント力を知っています。横塚選手(チーム右京)がJプロツアー矢板片岡ロードで勝った爆発的なスプリント力は、入部選手も「あの伸びには勝てない」と知っていました。そして今日は新城選手の強さが際立っていた。
しかし入部選手は自分が勝つための動きに徹した。その「勝つための気持ち」がもし雑になったら、新城選手の強さに飲まれて一緒に先頭交代に加わって、勝ちを逃すということになったと思う。入部は今日、鉄の意志をもってやり遂げたんだと思います。チームワークとしても完璧だった。
やはり日本選手権は特別なレースです。僕が勝った年も強い選手が数人居たけれど、今年の選手層は勝てる可能性がある選手がもっと多く居ます。そのなかで入部も孤高の強さを持った選手ではないので、勝つことは容易ではないことです。ここまで長かったけれど、成果が出て本当によかった。
― 入部選手の人となりや選手としての人間像などは、野寺監督はどのように捉えていますか?
野寺 入部をシマノレーシングに誘ったときは、彼はまだトラックレースの選手でロードはあまり走れなかったんです。しかしポイントレースのチャンピオンになったこともあり、素質は十分持っていると思っていました。加入当初は畑中勇介などが居て、なかなか居場所を見つけにくかったと思いますが、今は彼中心のシマノレーシングです。
入部は精神的に強いだけじゃなく、常にギリギリまで努力することを惜しまない選手です。一歩踏み出して、自分の強さを磨くことを惜しまない人。日本チャンピオンは人並み外れた努力をした人だけが勝ち取れるものということを知っています。彼はとくに近年、その努力をしてきたので、勝つなら入部だと思っていました。
彼はどんなに苦しくても、辛いことにも向き合える選手です。そしてチームを牽引する力がある選手に育ってくれたと思います。
シマノレーシングのキャプテン 木村圭佑
今日は入部さんがエースということで走りました。それは今までの実績と今の調子、練習の内容すべてが他の選手からは飛び抜けていたから決めたことです。
序盤はシマノレーシングで集団をコントロールして、危険回避のために集団を引いて走りました。黒枝と中井の2人が仕事を終えた後は、僕、湊、入部の3人が展開に応じて立ち回る形でした。湊も僕らに不利になる逃げにすべて対応してくれたし、入部さん自身も行くべきところは躊躇なく攻撃に行ったし、本当に強かったと思います。チームワークは本当にうまくいきました。嬉しいです。
序盤から動いてレースをつくり、ラスト2周で失速した別府史之(トレック・セガフレード)
やることはすべてやりました。何も言うことはないです。
優勝の入部選手は強かった。おめでとう。
いつも見守ってくれるファンのみなさんや家族、そして今日までレースに集中させてくれたチームに最大限の感謝を。ありがとう。悔しさは次の好走に。走ることはまだやめられそうにないです。
キーとなる逃げをつくるも19位 に終わった小石祐馬(チーム右京)
終わってみれば焦っちゃったかな、と思います。ラスト3周はすごいいいメンバー(小石、新城、小林海)で抜け出し、タイム差も開いたのに、でも追いつかれるんです。マークの仕合をしているだけで、みんな脚を使っているから、そこからは誰も行けないんです。こんなのレースじゃない、と言いたい。でも、これもレースなんです。動きを早まってしまいました。悔しい。ただ、悔しいです...。
12位に終わった山本元喜(キナンサイクリングチーム/2018年全日本チャンピオン)
力負けですね。かなり絞って危険な動きはすべてチェックして乗るようにしていたんですが、最後の新城さん、入部さん、横塚さんの3人の上りの動きには反応できたのに差を詰め切れずに遅れてしまった。それが全てですね。その後も少しでも順位を上げようと、やれることはすべてやったんですが...。悔しいけどこれが今の限界でした。
中盤に単独で逃げ続けた徳田優(チームブリヂストンサイクリング)
例年、逃げができて最後まで行ってしまうパターンがあったので、そういうグループができるきっかけになって、窪木さんや石橋さんなどBSで勝てる選手が合流してきてくれたら、と思っていました。ひとりになって泳がされた感はありましたが、行くしか無かったし、前を逃げることでチームメイトが集団内で少しでも長い時間、楽ができるなら良いと思っていました。距離もあったので逃げ切れるとは考えていませんでした。
チームブリヂストンサイクリングはパンチあるアタックができる選手、スプリントになれば勝ちが狙える選手が何人も居るので、そういう展開に持ち込みたかったですね。
16位に終わった窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)
脚があるように見えた増田選手とブリッツェンを警戒していて、それで出遅れてしまいましたね。牽制が入ってしまい、新城選手のあの動きに乗り遅れてしまった。皆が足を隠していて行かないので、自分も出し抜きたかった。最終便で行こうと思っていたのに、結局見合ってしまって出遅れてしまいました。あのラスト3周の動きに行かれちゃいました。あれが最終便だったんです。
強さを見せるも21位 紺野元汰(ツール・ド・おきなわ2018市民210km優勝者)
今日は完走できればいいと思っていて、最終局面の勝負どころでレースができたことに満足です。ラスト1周まで9位前後の位置にいて、(15位以内の)UCIポイントを取らないかヒヤヒヤでした(※)が、21位でゴール。9位前後の時はブリッツェンの増田選手と2名で回していたので増田選手には少しご迷惑をかけてしまったかな。とりあえずニセコクラシックの準備は整いました。あとはグランフォンド世界選に向けて調子を100%に持って行くだけです。
(※目標としているグランフォンド世界選手権はUCIポイント保持者は出場できない規定があるため)
text:Makoto.AYANO
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