2019/05/27(月) - 17:20
大型スクリーンに映し出されたニバリのアタックに沸くコモのフィニッシュ地点。マドンナ・デル・ギザッロ教会を訪れるなど『イル・ロンバルディア』を彷彿とさせるコースで、2度の優勝者が輝きを見せた。ジロ・デ・イタリア2週目を締めくくる第15ステージを振り返ります。
第15ステージの朝を迎えた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ツールと比べてジロは選手との距離がずっと近い photo:Kei Tsuji
イヴレアをスタート後、しばらくアタック合戦が続く photo:Kei Tsuji
逃げるマティア・カッタネオ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)とダリオ・カタルド(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
モビスターを先頭にゆったりと進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
「人」の字の形をしたコモ湖を見下ろす山の上に、サイクリストの聖地として知られるマドンナ・デル・ギザッロ教会がある。教会に至る登りは1905年に初開催されたイル・ロンバルディアの名物坂であり、ジロも度々訪れている。2級山岳に設定されたマドンナ・デル・ギザッロの登り(北側)は登坂距離8.6kmで平均勾配5.6%。実際には平坦区間や下り区間を含むためずっと10%の勾配が続く感じ。この北イタリア湖水地方の峠は、山がせり立っている影響で、どれも勾配がきつい。
スイッチバックをこなしてようやく見えてくる教会自体は17世紀に完成したもの。地元の神父の提案を受けて、1949年にローマ教皇が同教会の聖母マリアを「サイクリストの守護聖人」として宣言したのが聖地化の始まり。教会の中には往年の名選手のバイクやジャージの他、自転車事故で亡くなったサイクリストたちの写真が所狭しと並んでいる。
すぐ横には真新しい博物館も併設されており、大都市ミラノからアクセスも悪くない(バスでも行ける)土地柄、世界中からサイクリストが訪れる。気づけばイタリア中部〜南部を走る前半ステージでほとんど見られなかった海外のサイクリストが沿道に溢れている。
フランスのボルドー近郊にあるノートルダム・デ・シクリストや、スペインのバスク地方にあるヌエストラセニョーラ・デ・ドルレタも同様にサイクリストの聖地として崇められているが、知名度や立地、その佇まいの点でマドンナ・デル・ギザッロ教会が頭一つ抜け出ている。比べることではないのだけど。
美しい湖水風景が広がるコモ湖周辺 photo:LaPresse
コモ湖を見下ろす山の上にあるマドンナ・デル・ギザッロ教会 photo:Kei Tsuji
サイクリストの聖地、マドンナ・デル・ギザッロ教会 photo:Kei Tsuji
マドンナ・デル・ギザッロ教会の内部に展示されたファウスト・コッピのバイクやジャージ photo:Kei Tsuji
マドンナ・デル・ギザッロ教会の前にバルタリとコッピの銅像が並ぶ photo:Kei Tsuji
マドンナ・デル・ギザッロ教会横にあるミュージアム photo:Kei Tsuji
開幕時には圧倒的だと思われたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)の強さが、大会2週目の終盤に差し掛かって急にほころび始めた。ログリッチェは第14ステージでリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)にマリアローザ候補の中での暫定首位を明け渡すとともに、個人タイムトライアルのステージ2勝で稼いだ貯金を失い続けている。
この日、マリアローザから40秒遅れでコモの街にフィニッシュしたログリッチェのバイクには「171」ではなく「177」のゼッケンプレートが付いていた。これは2018年ジャパンカップ2位のアントワン・トールク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)のバイク。残り20kmを切ってから発生したメカトラ(フロント変速の不具合)でログリッチェがバイク交換を要求した時に、タイミング悪くチームカーの監督が沿道に止まってトイレストップしていたため対応できず、トールクのバイクを借りてログリッチェが再スタートした。
身長177cmのログリッチェと身長178cmのトールク(童顔で小さく見えるけど背は高い)。サドルの高さなどは似通っているが、それでも自分のバイクじゃなければ100%の力は出せないのは明らか。3級山岳チヴィリオの登りではタイムロスを15秒に抑えたが、下りでの落車で合計40秒を失った。
スキージャンプ出身なので下りのスピードに定評があり、ツール・ド・フランスで下りアタックを成功させてステージ優勝しているログリッチェらしくない落車。もっと大きなタイムを失ってもおかしくはなかった。落車で大怪我を負う可能性も大いにあった。元世界チャンピオンのマウリツィオ・フォンドリエスト氏が「ログリッチェは上手く状況を切り抜けたと思う。チームメイトのバイクで落車してしまうのは仕方ない。2度のストップで40秒遅れは悪くない」と、落ち着いた対応を評価している。
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)の登りアタックに観客が沸き、下りで再び加速すると大歓声が上がる。翌日のガゼッタ紙はルイス・ハミルトンが勝利したF1モナコGPよりも大きくニバリの下りアタックを報じた。タイトルは「NIBALI SHOW」。イタリア人選手の中で唯一総合トップ10に入っているニバリが背負う期待とプレッシャーは想像に絶する。そんなニバリ帝国の中で、ログリッチェはどうしてもアウェー感が拭えない。
逃げる2人に大声援を送る photo:Kei Tsuji
マドンナ・デル・ギザッロ教会の前を通過するリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター) photo:Kei Tsuji
喜びを爆発させるダリオ・カタルド(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
積極的な走りで会場を沸かせたヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji
頬から流血したプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)がチームバスに向かう photo:Kei Tsuji
落車により左肩を痛めた状態でフィニッシュしたジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ、EFエデュケーションファースト) photo:Kei Tsuji
車で30分ほどの距離のルガーノから駆けつけたアルベルト・コンタドール photo:Kei Tsuji
ジロは2回目の休息日を経て勝負の最終週に突入する。再びここまでの走行距離と獲得標高差を振り返っておくと、距離が2,587.8km/3,546.8km=73%、28,550m/46,050m=62%(第16ステージ短縮を反映した数字)。つまりヴェローナまでの残り距離が27%で、残りの獲得標高差が38%。閉幕まで1,000kmを切っている。
休息日明けの第16ステージはモルティローロ峠を含むクイーンステージ。『チーマコッピ』ガヴィア峠が省略されても主催者は第16ステージが最難関山岳ステージであると念を押している。ガヴィア峠の省略により『チーマコッピ』の称号は第20ステージ前半に登場する標高2,047mの1級山岳マンゲン峠に。標高だけを見ると第13ステージの登場した標高2,247mの1級山岳チェレソーレ・レアーレが今大会最高だが、今さら『チーマコッピ』に指定することはできないので止むを得ない措置だ。
休息日は朝から雨模様。第16ステージも雨降りの予報が出ている。
スプマンテを一口飲むダリオ・カタルド(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
スプマンテを開ける手つきも慣れてきたリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター) photo:Kei Tsuji
コモの空になびくエクアドル国旗 photo:Kei Tsuji
アスタナ犬 photo:Kei Tsuji
イタリア国旗とスクアーロ(鮫=ニバリ) photo:Kei Tsuji
ユーロスポーツのインタビューに応じる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
最終週に向かう初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Bergamo, Italy
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「人」の字の形をしたコモ湖を見下ろす山の上に、サイクリストの聖地として知られるマドンナ・デル・ギザッロ教会がある。教会に至る登りは1905年に初開催されたイル・ロンバルディアの名物坂であり、ジロも度々訪れている。2級山岳に設定されたマドンナ・デル・ギザッロの登り(北側)は登坂距離8.6kmで平均勾配5.6%。実際には平坦区間や下り区間を含むためずっと10%の勾配が続く感じ。この北イタリア湖水地方の峠は、山がせり立っている影響で、どれも勾配がきつい。
スイッチバックをこなしてようやく見えてくる教会自体は17世紀に完成したもの。地元の神父の提案を受けて、1949年にローマ教皇が同教会の聖母マリアを「サイクリストの守護聖人」として宣言したのが聖地化の始まり。教会の中には往年の名選手のバイクやジャージの他、自転車事故で亡くなったサイクリストたちの写真が所狭しと並んでいる。
すぐ横には真新しい博物館も併設されており、大都市ミラノからアクセスも悪くない(バスでも行ける)土地柄、世界中からサイクリストが訪れる。気づけばイタリア中部〜南部を走る前半ステージでほとんど見られなかった海外のサイクリストが沿道に溢れている。
フランスのボルドー近郊にあるノートルダム・デ・シクリストや、スペインのバスク地方にあるヌエストラセニョーラ・デ・ドルレタも同様にサイクリストの聖地として崇められているが、知名度や立地、その佇まいの点でマドンナ・デル・ギザッロ教会が頭一つ抜け出ている。比べることではないのだけど。
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この日、マリアローザから40秒遅れでコモの街にフィニッシュしたログリッチェのバイクには「171」ではなく「177」のゼッケンプレートが付いていた。これは2018年ジャパンカップ2位のアントワン・トールク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)のバイク。残り20kmを切ってから発生したメカトラ(フロント変速の不具合)でログリッチェがバイク交換を要求した時に、タイミング悪くチームカーの監督が沿道に止まってトイレストップしていたため対応できず、トールクのバイクを借りてログリッチェが再スタートした。
身長177cmのログリッチェと身長178cmのトールク(童顔で小さく見えるけど背は高い)。サドルの高さなどは似通っているが、それでも自分のバイクじゃなければ100%の力は出せないのは明らか。3級山岳チヴィリオの登りではタイムロスを15秒に抑えたが、下りでの落車で合計40秒を失った。
スキージャンプ出身なので下りのスピードに定評があり、ツール・ド・フランスで下りアタックを成功させてステージ優勝しているログリッチェらしくない落車。もっと大きなタイムを失ってもおかしくはなかった。落車で大怪我を負う可能性も大いにあった。元世界チャンピオンのマウリツィオ・フォンドリエスト氏が「ログリッチェは上手く状況を切り抜けたと思う。チームメイトのバイクで落車してしまうのは仕方ない。2度のストップで40秒遅れは悪くない」と、落ち着いた対応を評価している。
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)の登りアタックに観客が沸き、下りで再び加速すると大歓声が上がる。翌日のガゼッタ紙はルイス・ハミルトンが勝利したF1モナコGPよりも大きくニバリの下りアタックを報じた。タイトルは「NIBALI SHOW」。イタリア人選手の中で唯一総合トップ10に入っているニバリが背負う期待とプレッシャーは想像に絶する。そんなニバリ帝国の中で、ログリッチェはどうしてもアウェー感が拭えない。
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ジロは2回目の休息日を経て勝負の最終週に突入する。再びここまでの走行距離と獲得標高差を振り返っておくと、距離が2,587.8km/3,546.8km=73%、28,550m/46,050m=62%(第16ステージ短縮を反映した数字)。つまりヴェローナまでの残り距離が27%で、残りの獲得標高差が38%。閉幕まで1,000kmを切っている。
休息日明けの第16ステージはモルティローロ峠を含むクイーンステージ。『チーマコッピ』ガヴィア峠が省略されても主催者は第16ステージが最難関山岳ステージであると念を押している。ガヴィア峠の省略により『チーマコッピ』の称号は第20ステージ前半に登場する標高2,047mの1級山岳マンゲン峠に。標高だけを見ると第13ステージの登場した標高2,247mの1級山岳チェレソーレ・レアーレが今大会最高だが、今さら『チーマコッピ』に指定することはできないので止むを得ない措置だ。
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text&photo:Kei Tsuji in Bergamo, Italy
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