2019/05/24(金) - 15:08
もう全体の57%の距離を走っているというのに、まだ全体の36%しか登っていない。開幕から2週間近く走り続けたジロ・デ・イタリアがようやくアルプスの入り口に到着。マリアローザ争いが本格的に動き始めたジロ第12ステージを振り返ります。
ピネローロのスタート地点 photo:Kei Tsuji
マリアチクラミーノのスペシャルバイクはパワーメーター充電中 photo:Kei Tsuji
おはようございます初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
マリアローザを着て登場したヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
スタートを待つ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ポプラの襲撃。初夏のイタリアは白いポプラ(イタリア語でピオッポ)の綿毛に覆われる。吹き溜まりには綿毛が積もり積もっている。休息日以降しばらく好天続きで気温が25度まで上がったため、ポプラの綿毛が青い空に舞っている。綿毛が様々な花粉やホコリを運ぶため、アレルギー症状の出る人が多い。状況によっては雪のように写真に写りこむ。この綿毛が問題化しているためイタリア国内ではポプラの植樹は減少傾向にあるが、それでもコース沿道には立派なポプラが整然と並んでいる場合が多い。
長年アシストとして活躍したオールラウンダーのチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)が喜びあふれる勝利を飾った。身長170cmと小柄ながら、平坦ステージではスプリンターのためにトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)らとともに長時間メイン集団を牽引する姿が印象的な選手。2010年にネットアップ(現ボーラ・ハンスグローエ)でプロ入りしてから、UCIコンチネンタルチームからUCIプロコンチネンタルチーム、UCIワールドチームへと昇格するチームに留まり続けた。シュリンガーとシュヴァルツマンとともにチームの最古参メンバーだ。
これまでも逃げの展開から上位に絡むこともあったが、プロレースでの初勝利が地元イタリア最大レースでのステージ優勝とあって、その喜び方には熱がこもった。3時間41分49秒に及んだレースのベネデッティの平均スピードは42.7km/hで、最高スピードは1級山岳の下りでマークした96.5km/h。平均出力は255WでNP(標準化パワー)は290Wだった(体重63kg)。
カウンターアタックを仕掛けるヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
メイン集団の先頭ではアタックがかかり続ける photo:Kei Tsuji
ジロ・デ・イタリアの到着を今か今かと待つワンワン photo:Kei Tsuji
石畳坂サンマウリツィオ(プリンチピ・ダカヤ通り)に差し掛かる逃げグループ photo:Kei Tsuji
石畳坂サンマウリツィオをこなす初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
最終的な総合優勝候補ではないことを自覚しているUAEチームエミレーツは実にうまく振る舞った。マリアローザチームでありながら総合で大きく遅れていないヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)を逃げに送り込むという作戦。単純にヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)で勝負すればプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)にマリアローザを奪われてしまうという判断から、ポランツェで勝負に出た。
結果、コンティからポランツェにマリアローザを移すことに成功。仮にコンティで順当に勝負していれば、ログリッチェに44秒差でマリアローザを奪われていた。スロベニア人(ログリッチェ)が5日間、イタリア人(コンティ)が6日間着用したマリアローザがスロベニア人(ポランツェ)の手に。過去に総合11位という成績を残しているポランツェが翌日以降の本格山岳でマリアローザ候補たちと対峙することになる。
この日は、腸骨動脈内線維症により数ヶ月の戦線離脱を余儀なくされているチームリーダーのファビオ・アル(イタリア)がチームを訪問。繰り上げではあるがフェルナンド・ガビリア(コロンビア)のステージ1勝と合わせて、UAEチームエミレーツは大成功のジロを過ごしている。
2回目の石畳坂サンマウリツィオでアタックするジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、トレック・セガフレード)とエロス・カペッキ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
2回目の石畳坂サンマウリツィオでアタックするジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、トレック・セガフレード)とエロス・カペッキ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
飛び出したブランビッラとカペッキを追うチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)ら photo:Kei Tsuji
バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)を先頭に進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
前日の第11ステージの現地レポートの中でも書いたが、第12ステージはファウスト・コッピの勇敢なる独走勝利から70年を記念したステージ。コースの内容は異なるが、クネオからピネローロという行程はコッピが192kmを独走したステージと同じ。表彰式にはコッピの息子ファウスティーノ・コッピとマリーナ・コッピが登壇した。2人とも白黒写真でよく見るコッピとよく似ている。
かつてヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)を総合優勝に導き、現在はミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)を指揮するジュゼッペ・マルティネッリ監督が「ヴィンチェンツォは最高の状態に近い。しかしスーパーログリッチェは飛ぶように走っている。ヴィンチェンツォが勝つためには、一か八かのリスクを背負って勝負しないといけない」とガゼッタ紙のインタビュー記事で語る通り、ログリッチェvsその他大勢という様相を呈している今年のマリアローザ争い。
山岳でもTTでも最強ぶりを見せているログリッチェだが、山岳アシストのローレンス・デプルス(ベルギー)がリタイアしたことも影響し、1級山岳で孤立した。より重要な第13ステージと第14ステージのためにアシストを温存したとも考えられるが、チーム力不足がこれからの山岳ステージでの課題。早めにライバルたちが総攻撃を仕掛け、ログリッチェ自ら追走しなければならないような状況に陥ることも考えられるので、まだまだマリアローザの行方はどうなるかわからない。
21分遅れのグルペット内で走る初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ファウスト・コッピの息子、ファウスティーノ・コッピから記念フレームを受け取るチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
スーパーチームの表彰でステージに上がった初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
「1級山岳で形成されたグルペットに入ってフィニッシュを目指しました。もう少し軽いギアがあったほうがよかったかも知れませんが、全力を出すような登りでもなかったので、グルペット内で走る分には大丈夫でした。今日は登りが一つしかありませんでしたが、問題は明日と明後日ですね」。グルペット内で山岳ステージを終えた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)は、スーパーチームの表彰台に上がった。
そう、あくまでも第12ステージはジロらしい山岳の序の口の序の口。地理的にもアルプスの入り口に立ったに過ぎない。何しろまだ5つの山頂フィニッシュと、26カ所のカテゴリー山岳(そのうち1級以上が8カ所)が残されている。もう全体の57%の距離(2,028,8km/3,578.8km)を走っているというのに、まだ全体の36%の獲得標高差(17,050m/46,950m)しか登っていない。つまりまだ合計30,000m近い登りがたっぷり残されている。
山岳突入とともに天候は悪化する見通し(ポプラの綿毛は消えるが)。ニバリが「ここからはリカバリー勝負になってくる。最後までコンディションを保ち、集中し続けた選手が勝つんだ」と語る通り、マリアローザを狙う選手たちにとっても、完走を目指す選手たちにとっても、サバイバルレースが始まる。
text&photo:Kei Tsuji in Pinerolo, Italy
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ポプラの襲撃。初夏のイタリアは白いポプラ(イタリア語でピオッポ)の綿毛に覆われる。吹き溜まりには綿毛が積もり積もっている。休息日以降しばらく好天続きで気温が25度まで上がったため、ポプラの綿毛が青い空に舞っている。綿毛が様々な花粉やホコリを運ぶため、アレルギー症状の出る人が多い。状況によっては雪のように写真に写りこむ。この綿毛が問題化しているためイタリア国内ではポプラの植樹は減少傾向にあるが、それでもコース沿道には立派なポプラが整然と並んでいる場合が多い。
長年アシストとして活躍したオールラウンダーのチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)が喜びあふれる勝利を飾った。身長170cmと小柄ながら、平坦ステージではスプリンターのためにトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)らとともに長時間メイン集団を牽引する姿が印象的な選手。2010年にネットアップ(現ボーラ・ハンスグローエ)でプロ入りしてから、UCIコンチネンタルチームからUCIプロコンチネンタルチーム、UCIワールドチームへと昇格するチームに留まり続けた。シュリンガーとシュヴァルツマンとともにチームの最古参メンバーだ。
これまでも逃げの展開から上位に絡むこともあったが、プロレースでの初勝利が地元イタリア最大レースでのステージ優勝とあって、その喜び方には熱がこもった。3時間41分49秒に及んだレースのベネデッティの平均スピードは42.7km/hで、最高スピードは1級山岳の下りでマークした96.5km/h。平均出力は255WでNP(標準化パワー)は290Wだった(体重63kg)。
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この日は、腸骨動脈内線維症により数ヶ月の戦線離脱を余儀なくされているチームリーダーのファビオ・アル(イタリア)がチームを訪問。繰り上げではあるがフェルナンド・ガビリア(コロンビア)のステージ1勝と合わせて、UAEチームエミレーツは大成功のジロを過ごしている。
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山岳でもTTでも最強ぶりを見せているログリッチェだが、山岳アシストのローレンス・デプルス(ベルギー)がリタイアしたことも影響し、1級山岳で孤立した。より重要な第13ステージと第14ステージのためにアシストを温存したとも考えられるが、チーム力不足がこれからの山岳ステージでの課題。早めにライバルたちが総攻撃を仕掛け、ログリッチェ自ら追走しなければならないような状況に陥ることも考えられるので、まだまだマリアローザの行方はどうなるかわからない。
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そう、あくまでも第12ステージはジロらしい山岳の序の口の序の口。地理的にもアルプスの入り口に立ったに過ぎない。何しろまだ5つの山頂フィニッシュと、26カ所のカテゴリー山岳(そのうち1級以上が8カ所)が残されている。もう全体の57%の距離(2,028,8km/3,578.8km)を走っているというのに、まだ全体の36%の獲得標高差(17,050m/46,950m)しか登っていない。つまりまだ合計30,000m近い登りがたっぷり残されている。
山岳突入とともに天候は悪化する見通し(ポプラの綿毛は消えるが)。ニバリが「ここからはリカバリー勝負になってくる。最後までコンディションを保ち、集中し続けた選手が勝つんだ」と語る通り、マリアローザを狙う選手たちにとっても、完走を目指す選手たちにとっても、サバイバルレースが始まる。
text&photo:Kei Tsuji in Pinerolo, Italy
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