欧州ナンバーワンシェアを獲得し、急成長を遂げているイギリスのマックオフ。ブランドヒストリーや、フィロソフィー、チームイネオスへの供給を通じて得たものを本社のマネージャーが語る。



イギリスより来日したジェームス・クランクさんイギリスより来日したジェームス・クランクさん
パンクバンドのようなロゴ、ショッキングピンクのコーポレートカラー、エキセントリックなデザインのアイキャッチ。ロードレースのような遊びの無いストイックさというよりは、エクストリームなダウンヒルや、ストリートなピストバイクが似合う雰囲気を醸すマックオフ。このブランドについて知っている方はどれくらいいるだろうか。

オフロード系のライダーやモーターサイクルを趣味とする方はご存知かもしれない。一方、ここ数年はチームイネオスへの供給を通してロードレースシーンでも存在感を強めているため、ロードレースしか興味が無いという方でもブランド名を知っている方も増えてきていると思う。

とはいえ、実際にどのような来歴を持つブランドなのかまでご存知の方は多くはないだろう。かくいう筆者自身、ブランド名と上述したようなぼんやりとした印象を持っていただけだ。ちょっと不良っぽいけど、実は優等生(チームイネオス)ともうまくやっていける実力を持ったブランドなのだろう、というような。

セールスマネージャーのジェームス・クランク氏より、ブランドの歴史、フィロソフィー、そして目指すところについて伺うことができた。ヨーロッパNo.1のケミカルブランドへと驚異的な成長を遂げたその軌跡を彼の言葉を交えつつ追っていこう。

ブランドのファーストプロダクトであり、今もなお主力のクリーナーブランドのファーストプロダクトであり、今もなお主力のクリーナー
現在ヨーロッパで人気急上昇中のマックオフ。その歴史の源流は1991年まで遡る。この年に誕生したのはCNC加工による自転車パーツブランドのX-LITE。当初からケミカルを扱っていたわけではなく、ステムやハンドルバーなどのハイエンドコンポーネントのマニュファクチャラーとして生まれたのだという。1994年にX-LITEの主力製品であるアナダイズド加工されたコンポーネントのための洗浄剤を開発し、スタートしたのがマックオフだ。

「この時に開発したのがBike washという製品で、今も最も売れているものです」とジェームスさんが紹介してくれたのが、マックオフのアイコン的存在であるピンク色のバイク洗浄剤。自転車屋さんでもつい目を向けてしまうあの蛍光色のケミカルは、20年以上も同じネーミングで売り続けられるビッグロングセラーアイテムであった。このBike washを軸にマックオフは、2001年にモーターサイクル分野にも参入。2005年にチェーンルブを開発し、成長を続けているのだ。

そして、「ロードバイク市場において最も重要なタイミングは…」と前置きしてジェームスさんが語ったのは、2014年にスタートしたチームイネオス(当時スカイ)へのサポートについてだった。これを機にプロフェッショナルのフィードバックを受けたロードバイク向けの開発が進み始めたという。

チームイネオスと共同開発を行ったチェーンルブはドライもウェットもこなせるというチームイネオスと共同開発を行ったチェーンルブはドライもウェットもこなせるという
サポート開始の翌年にはチームイネオスのためにHydrodynamicというチェーンルブを作り出し、あらゆるレースでの活躍をケミカルという面から支え続けている。drivetrain cleanerもチームイネオスの要望から生まれた製品で、他のパーツの塗装や樹脂、皮膚を攻撃しない優しさを持たせる事で、メカニックが洗車を行いやすくしているという。

その他にもマックオフは、2015年ブラドリー・ウィギンズによるアワーレコード更新、2016年のリオ五輪イギリス・トラックチームによる13以上ものメダル獲得にも貢献。1cm、1mmでも長い距離、コンマ1秒でも速く走るために1ワットでも優れた駆動効率を求めるシチュエーションで、イギリス勢はマックオフを選んできた。

過酷な使用状況に晒されるプロレースシーンでの実績を見れば、マックオフが信頼に足るブランドだということがわかるはず。イケイケなアイキャッチを前面に出す裏側では、徹底的に性能にこだわる研究開発を行なっているのだ。

チームイネオスとの共同開発を行った際のムービー(英語)


その様子がHydrodynamicの開発に関するストーリーを映したムービーから垣間見る事ができる。自社のテストラボで何通りもの試作品を抵抗試験にかけるのは勿論、マックオフではピナレロの自転車を3Dスキャンにかけ、そのデータをもとに最も効率の良いルブを研究していたほどチームイネオスのパフォーマンスアップに尽くしていた。

「ウィギンズのアワーレコードではチェーンルブをマックオフで受け持ち、僕らが”プロフェッサー”と呼んでいるサイエンティストが記録達成に大きく貢献しました」とジェームズさん。「我々にとってその経験は非常に有益なものとなり、その後のプロダクト開発の大きな助けとなったんです」

プロフェッサーがまず行なったのは、何百本もの脱脂したチェーンを抵抗計測機にかけ、優れた数値を出した個体をピックアップすること。さらにマックオフのオイルを塗布して行った再試験で良い結果を残したものを実戦に投入したのだとか。

「ブランドのフィロソフィーはクリエイティブであることと、ファンブランドであることです」「ブランドのフィロソフィーはクリエイティブであることと、ファンブランドであることです」 photo:Satoshi Kawai
そのようなサポートの内容を聞いていると、マックオフは単なるサプライヤーの枠を越えて、チームの一員としてコミットメントしているのだと実感する。真摯にチームと向き合い、一体となることによってしか得ることのできないフィードバックが製品開発にも活かされていることは間違いない。もちろんMTBでもプロからデータを収集しており、同じように製品に反映されているという。

「エンジニアは3人、会社のオーナー自身がチームとして2人を率いて製品を開発しています」とジェームズさん。原料に関して言えば、マックオフはそれぞれのスペシャリストであるメーカーに任せており、製品のアイデアを元に狙った性能を出すために必要な素材とサプライヤーをピックアップして理想のプロダクトを作り出している。iPhoneやMacでお馴染みのアップルのようなイメージだろうか。

洗浄用というカテゴリーに絞っても、メインプロダクトとなるBike washだけではなく、インドアサイクリング用の除菌剤やフレーム&パーツ用対汗プロテクション剤、E-BIKE用洗剤ラインアップ、身体用除菌ウォーターなど多岐に渡る製品を用意できているのもマックオフならでは。このようにフットワーク軽く開発できているのも、エンジニアのアイデアを具現化できる体制となっているからだろう。

セラミックが配合されているルブ。ボトルにかかっているライトをルブに当てると青く光るため、塗り忘れを防ぐことができるセラミックが配合されているルブ。ボトルにかかっているライトをルブに当てると青く光るため、塗り忘れを防ぐことができる チェーン専用のクリーナーもチームイネオスとの共同開発で生まれたチェーン専用のクリーナーもチームイネオスとの共同開発で生まれた

E-BIKE用のクリーナーは水がなくても綺麗にすることができるE-BIKE用のクリーナーは水がなくても綺麗にすることができる
生産もこれまでは自社ファクトリーで行なってきており、近年の急成長にあわせて馴染みのあるファクトリーとの協業も行なっている。ジェームスさんによるとフォーミュレーション(製剤)はほぼほぼメイドインUKだという。

ここまではマックオフの歴史、実績とその背景にある開発体制についてご紹介してきた。良い製品を生み出すために妥協なしに開発に取り組む真摯な面を持つのもマックオフであり、アイキャッチやパンキッシュなロゴからのハジけたイメージもマックオフの大事な要素。

「マックオフはライフスタイルブランドでもあり、カスタマーの皆さんの自転車生活と共に歩んでいくブランドだと感じてもらえたら嬉しいですね」とジェームスさん。ショッキングピンクの見た目や、製品全てに甘い香りづけを行なっているところなどは、マックオフのお茶目でユニークなポイント。

マックオフはヨーロッパで急成長している注目のブランドだマックオフはヨーロッパで急成長している注目のブランドだ
そのイケイケな雰囲気はSNSで感じられるところだろう。この1年半でSNSのフォロワー数は爆発的に増加しているともジェームスさんは言う。ブランドがユーザーを楽しませてくれるようとしていると、なんとなく親しみを感じてしまうのは、私だけではないだろう。

一方でSNSに投稿されるコンテンツは、雰囲気こそストリートカルチャーを感じさせるが、内容自体は短い時間でどのような製品であるかも分かりやすい紹介動画や、時間をかけて使い方を紹介するハウツー動画など考え抜かれて作り込まれている。アイキャッチーな動画を見れば使用するシーンをイメージしやすく、どんなユーザーにフィットするのかがなんとなく理解できるようになっている。そこがマックオフらしさなのだろう。

ジェームスさんが教えてくれたブランドのフィロソフィーは「クリエイティブなブランドでありつつ、ユーザーをワクワクさせるファンブランドであること」。ファンブランドというイメージはこれまでどおりだけれども、ジェームスさんのプレゼンでクリエイティブな側面に気がつくことができた。真摯に開発を行うマックオフ、そして彼らがサポートするチームイネオスらの活躍に期待がかかる。

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