2019/01/19(土) - 15:45
残り10km地点でリーダージャージのベヴィンが落車する波乱と、集団スプリントを制したユアンが頭突きによって降格扱いになる波乱。風が混乱を生み出したサントス・ツアー・ダウンアンダー第5ステージで、20歳のジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)が金星を飾った。
鼠色の雲から雨粒が落ちた前日とは打って変わって、アデレードに広がったのは抜けるような青い空。市内からトラムで30分の距離に位置するビーチタウンのグレネルグでサントス・ツアー・ダウンアンダー第5ステージのスタートが切られた。
夏の太陽が容赦なく照りつけたが、南から吹く風は涼しく気温も30度に達しない。4,000人の一般サイクリストがプロ選手と同じコースを走る『チャレンジツアー』が朝早くから開催された影響でスタートとフィニッシュはいつもより遅め。
今大会最長の149.5kmコースは、ざっくり言うと南下する前半が向かい風で、北上する後半が追い風。アデレードの市街地を離れて高速道路『サザンエクスプレスウェイ』に入るところでアクチュアルスタートが切られると、この日唯一のKOMセリックスヒルに向かって山岳賞ジャージを着るジェーソン・リー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)がチームメイトのアイデン・トーヴェイ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とクレメン・シェヴリエ(フランス、アージェードゥーゼール)を引き連れて南風に挑み始めた。
総合には関係しない逃げではあるが、大会連覇を狙うミッチェルトン・スコットがボーナスタイム獲得作戦を遂行したため最大3分まで広がったタイム差は瞬く間に縮小した。狙い通りKOMセリックスヒルを先頭通過したリーらは、その3km先に位置する第1スプリント(47.2km地点)を前にメイン集団に吸収されてしまう。
ミッチェルトン・スコットにリードアウトされた総合2位ダリル・インピー(南アフリカ)がしっかりと第1スプリントを先頭通過(ボーナスタイム3秒獲得)したため、2番手通過の総合1位パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、CCCチーム)との総合タイム差は7秒から6秒に縮小する。その後もミッチェルトン・スコットがアタックを封じ込めたため、集団は一つのまま第2スプリント(73.9km地点)に差し掛かり、ここは逆にベヴィンがインピーを下して先頭通過。結果的に、2つのスプリントで合計5秒のボーナスタイムを獲得した総合1位と総合2位のタイム差は変わらず。同時に『登れるスプリンター』の総合トップ2がクライマーたちをさらに突き放す結果となった。
一旦レースが落ち着くと、トーヴェイが今度はマチュー・ラダニュ(フランス、グルパマFDJ)とともに逃げを打ち、メイン集団とのタイム差を3分30秒まで引き離すことに成功する。しかし観光地ヴィクターハーバーを抜けて徐々にコースの進路が北に向くと状況は一変。追い風に乗って高速巡航したメイン集団はすぐに逃げデュオを引き戻した。
残り35km地点からフィニッシュラインまでは概ね追い風で、右後ろから風を受けながらプロトンは平野を駆け抜けた。残り32km地点でユンボ・ヴィズマが隊列を組んで先頭に上がると集団は縦一列棒状となったが、決定的な動きにはならない。続くボーラ・ハンスグローエとチームスカイの攻撃は中切れを生み出したが、結果的にこのペースアップも集団の崩壊には繋がらなかった。
チームメイトを引き連れる新城幸也(バーレーン・メリダ)も先頭に上がりながらナーバスな状態で進んだメイン集団の中で、ちょうどフィニッシュまで10kmを切ったところで落車が発生する。最初に転倒したのは、他でもないリーダージャージのベヴィンだった。
負傷しながらもバイクにまたがって再スタートしたベヴィン。マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)によると、ベヴィン落車の一報を受けたミッチェルトン・スコットとインピーがメイン集団の先頭に立ってペースダウンを呼びかけた。『総合リーダーが落車等で遅れた場合は待つ』というロードレースの紳士協定により、スプリンターチームは位置どりを続けながらも少し減速。チームメイトと車列に連れられる形で、残り3km地点でベヴィンは集団復帰を果たしている。
集団スプリントに向けて最終的に主導権を握ったのはドゥクーニンク・クイックステップ。真っ赤なナショナルチャンピオンジャージを着るミケル・モルコフ(デンマーク)とファビオ・サバティーニ(イタリア)、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)の順で残り1kmアーチと、その後の直角コーナー2つをクリアする。向かい風が吹く最終ストレートに突入すると、ヴィヴィアーニの番手につけていたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の後ろからカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)が真っ先に加速を開始した。
サバティーニに発射されたヴィヴィアーニとユアン、ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)が先頭に立ち、その間を縫ってポジションを上げたサガンも絡むスプリント。先頭でハンドルを投げ込んだ『ポケットロケット』ユアンがガッツポーズ。しかし位置どりのタイミングでフィリプセンに数発の頭突きをしていたとしてUCIコミッセールはユアンの降格を決めた。ユアンは同タイムの集団最後尾に降格扱いとなった他に、500スイスフランの罰金と15ポイントの減点、30秒のペナルティを受けている。
ユアンの降格により、ステージ優勝の栄冠は2番手でフィニッシュしたフィリプセンの手に。「今日はすごく調子が良かった。世界最速スプリンターの一人であるカレブ(ユアン)とサガンの番手を争うことになり、彼が降格になってしまったことは少し不公平にも思う。自分にとってのUCIワールドツアー初勝利は意外な形でやってきたけど満足している。とにかくサポートしてくれたチームメイト全員に感謝だ」と若いベルジャンスプリンターは語る。フィリプセンは今季ハーゲンバーマン・アクションからUAEチームエミレーツに移籍し、UCIワールドチームでUCIワールドツアーレースデビューを飾ったばかりの20歳(1998年3月2日生まれ)。このダウンアンダーでは第1ステージ6位、第2ステージ5位という成績を残していた。
ローハン・デニス(オーストラリア)らの位置どりに徹した新城が「ギアが足りなかった」という通り、終盤の最高スピードは80km/hオーバー。ベヴィンの集団復帰を待つためにスピードを落としたにも関わらず、残り20km地点からフィニッシュ地点まで平均スピード53.4km/hで駆け抜けている。
出し切った表情でフィニッシュした新城は「残り5kmの登りでポジションを下げながらもそこからまた前に上がって、ローハン(デニス)を連れて先頭まで上がりました。残り1.5kmの左コーナーを抜けるところまで彼を連れて行って、自分はそこで『もう無理』と言って下がった」と語る。バーレーン・メリダのデニスとドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)はともに総合トップから26秒遅れのポジションにつけている。
落車したベヴィンはタイムを失うことなくステージ43位でフィニッシュ。総合首位を守ったものの、肋骨のあたりを押さえながら救急車に向かったベヴィンは表彰式に出ることなく病院へと搬送された。怪我の状態や翌日のスタート可否の情報はまだ発表されていない。
鼠色の雲から雨粒が落ちた前日とは打って変わって、アデレードに広がったのは抜けるような青い空。市内からトラムで30分の距離に位置するビーチタウンのグレネルグでサントス・ツアー・ダウンアンダー第5ステージのスタートが切られた。
夏の太陽が容赦なく照りつけたが、南から吹く風は涼しく気温も30度に達しない。4,000人の一般サイクリストがプロ選手と同じコースを走る『チャレンジツアー』が朝早くから開催された影響でスタートとフィニッシュはいつもより遅め。
今大会最長の149.5kmコースは、ざっくり言うと南下する前半が向かい風で、北上する後半が追い風。アデレードの市街地を離れて高速道路『サザンエクスプレスウェイ』に入るところでアクチュアルスタートが切られると、この日唯一のKOMセリックスヒルに向かって山岳賞ジャージを着るジェーソン・リー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)がチームメイトのアイデン・トーヴェイ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とクレメン・シェヴリエ(フランス、アージェードゥーゼール)を引き連れて南風に挑み始めた。
総合には関係しない逃げではあるが、大会連覇を狙うミッチェルトン・スコットがボーナスタイム獲得作戦を遂行したため最大3分まで広がったタイム差は瞬く間に縮小した。狙い通りKOMセリックスヒルを先頭通過したリーらは、その3km先に位置する第1スプリント(47.2km地点)を前にメイン集団に吸収されてしまう。
ミッチェルトン・スコットにリードアウトされた総合2位ダリル・インピー(南アフリカ)がしっかりと第1スプリントを先頭通過(ボーナスタイム3秒獲得)したため、2番手通過の総合1位パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、CCCチーム)との総合タイム差は7秒から6秒に縮小する。その後もミッチェルトン・スコットがアタックを封じ込めたため、集団は一つのまま第2スプリント(73.9km地点)に差し掛かり、ここは逆にベヴィンがインピーを下して先頭通過。結果的に、2つのスプリントで合計5秒のボーナスタイムを獲得した総合1位と総合2位のタイム差は変わらず。同時に『登れるスプリンター』の総合トップ2がクライマーたちをさらに突き放す結果となった。
一旦レースが落ち着くと、トーヴェイが今度はマチュー・ラダニュ(フランス、グルパマFDJ)とともに逃げを打ち、メイン集団とのタイム差を3分30秒まで引き離すことに成功する。しかし観光地ヴィクターハーバーを抜けて徐々にコースの進路が北に向くと状況は一変。追い風に乗って高速巡航したメイン集団はすぐに逃げデュオを引き戻した。
残り35km地点からフィニッシュラインまでは概ね追い風で、右後ろから風を受けながらプロトンは平野を駆け抜けた。残り32km地点でユンボ・ヴィズマが隊列を組んで先頭に上がると集団は縦一列棒状となったが、決定的な動きにはならない。続くボーラ・ハンスグローエとチームスカイの攻撃は中切れを生み出したが、結果的にこのペースアップも集団の崩壊には繋がらなかった。
チームメイトを引き連れる新城幸也(バーレーン・メリダ)も先頭に上がりながらナーバスな状態で進んだメイン集団の中で、ちょうどフィニッシュまで10kmを切ったところで落車が発生する。最初に転倒したのは、他でもないリーダージャージのベヴィンだった。
負傷しながらもバイクにまたがって再スタートしたベヴィン。マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)によると、ベヴィン落車の一報を受けたミッチェルトン・スコットとインピーがメイン集団の先頭に立ってペースダウンを呼びかけた。『総合リーダーが落車等で遅れた場合は待つ』というロードレースの紳士協定により、スプリンターチームは位置どりを続けながらも少し減速。チームメイトと車列に連れられる形で、残り3km地点でベヴィンは集団復帰を果たしている。
集団スプリントに向けて最終的に主導権を握ったのはドゥクーニンク・クイックステップ。真っ赤なナショナルチャンピオンジャージを着るミケル・モルコフ(デンマーク)とファビオ・サバティーニ(イタリア)、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)の順で残り1kmアーチと、その後の直角コーナー2つをクリアする。向かい風が吹く最終ストレートに突入すると、ヴィヴィアーニの番手につけていたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の後ろからカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)が真っ先に加速を開始した。
サバティーニに発射されたヴィヴィアーニとユアン、ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)が先頭に立ち、その間を縫ってポジションを上げたサガンも絡むスプリント。先頭でハンドルを投げ込んだ『ポケットロケット』ユアンがガッツポーズ。しかし位置どりのタイミングでフィリプセンに数発の頭突きをしていたとしてUCIコミッセールはユアンの降格を決めた。ユアンは同タイムの集団最後尾に降格扱いとなった他に、500スイスフランの罰金と15ポイントの減点、30秒のペナルティを受けている。
ユアンの降格により、ステージ優勝の栄冠は2番手でフィニッシュしたフィリプセンの手に。「今日はすごく調子が良かった。世界最速スプリンターの一人であるカレブ(ユアン)とサガンの番手を争うことになり、彼が降格になってしまったことは少し不公平にも思う。自分にとってのUCIワールドツアー初勝利は意外な形でやってきたけど満足している。とにかくサポートしてくれたチームメイト全員に感謝だ」と若いベルジャンスプリンターは語る。フィリプセンは今季ハーゲンバーマン・アクションからUAEチームエミレーツに移籍し、UCIワールドチームでUCIワールドツアーレースデビューを飾ったばかりの20歳(1998年3月2日生まれ)。このダウンアンダーでは第1ステージ6位、第2ステージ5位という成績を残していた。
ローハン・デニス(オーストラリア)らの位置どりに徹した新城が「ギアが足りなかった」という通り、終盤の最高スピードは80km/hオーバー。ベヴィンの集団復帰を待つためにスピードを落としたにも関わらず、残り20km地点からフィニッシュ地点まで平均スピード53.4km/hで駆け抜けている。
出し切った表情でフィニッシュした新城は「残り5kmの登りでポジションを下げながらもそこからまた前に上がって、ローハン(デニス)を連れて先頭まで上がりました。残り1.5kmの左コーナーを抜けるところまで彼を連れて行って、自分はそこで『もう無理』と言って下がった」と語る。バーレーン・メリダのデニスとドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)はともに総合トップから26秒遅れのポジションにつけている。
落車したベヴィンはタイムを失うことなくステージ43位でフィニッシュ。総合首位を守ったものの、肋骨のあたりを押さえながら救急車に向かったベヴィンは表彰式に出ることなく病院へと搬送された。怪我の状態や翌日のスタート可否の情報はまだ発表されていない。
サントス・ツアー・ダウンアンダー2019第5ステージ結果
1位 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) | 3:37:00 |
2位 | ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) | |
3位 | ダニー・ファンポッペル(オランダ、ユンボ・ヴィズマ) | |
4位 | イェンス・デブシェール(ベルギー、カチューシャ・アルペシン) | |
5位 | エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) | |
6位 | フィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・メリダ) | |
7位 | セース・ボル(オランダ、サンウェブ) | |
8位 | ライアン・ギボンズ(南アフリカ、ディメンションデータ) | |
9位 | ワウト・プールス(オランダ、チームスカイ) | |
10位 | ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、アスタナ) | |
72位 | 新城幸也(日本、バーレーン・メリダ) |
個人総合成績
1位 | パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、CCCチーム) | 17:00:25 |
2位 | ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) | 0:00:07 |
3位 | ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ) | 0:00:16 |
4位 | ライアン・ギボンズ(南アフリカ、ディメンションデータ) | 0:00:26 |
5位 | ヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
6位 | ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、カチューシャ・アルペシン) | |
7位 | ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィズマ) | |
8位 | クリス・ハミルトン(オーストラリア、サンウェブ) | |
9位 | ワウト・プールス(オランダ、チームスカイ) | |
10位 | マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト) |
ポイント賞
1位 | パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、CCCチーム) | 56pts |
2位 | ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) | 50pts |
3位 | エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 45pts |
山岳賞
1位 | ジェーソン・リー(オーストラリア、UniSAオーストラリア) | 30pts |
2位 | ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィズマ) | 16pts |
3位 | マヌエーレ・ボアーロ(イタリア、アスタナ) | 14pts |
ヤングライダー賞
1位 | ライアン・ギボンズ(南アフリカ、ディメンションデータ) | 17:00:51 |
2位 | ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、カチューシャ・アルペシン) | |
3位 | クリス・ハミルトン(オーストラリア、サンウェブ) |
チーム総合成績
1位 | UAEチームエミレーツ | 51:02:33 |
2位 | ミッチェルトン・スコット | 0:00:28 |
3位 | バーレーン・メリダ |
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
Amazon.co.jp