3月8日、パリ〜ニースの第1ステージがフランス中部の平野部を貫く平坦コースで行なわれ、終盤に形成された17名の小集団スプリントでグレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)が勝利を収めた。

この日はパリ郊外のサン・タルヌー・アン・イヴリンをスタート後、フランス中部に広がる広大な平野部をひたすら南下する。コントルに至る201kmのコースに大きな起伏はなく、もちろんカテゴリー山岳も無い。レースの鍵を握ったのは、前日から吹き止まぬ風だ。

風が強い地域だけに風力発電が多い風が強い地域だけに風力発電が多い photo:Cor Vos

スタート直後から逃げ続けたロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)とアルバート・ティマー(オランダ、スキル・シマノ)スタート直後から逃げ続けたロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)とアルバート・ティマー(オランダ、スキル・シマノ) photo:Cor Vosレースは地元のロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)とアルバート・ティマー(オランダ、スキル・シマノ)のアタックで幕開け。ともにツール・ド・フランス出場を目指すオランダのプロコンチネンタルチームに所属する選手。

北から南に向かって吹き付ける強風は、追い風となって選手たちの背中を押した。48km/hオーバーのハイペースを刻んだフェイユとティマーは32km地点で6分20秒のリード。しかしメイン集団は風の影響でペースが落ち着かず、ゴールまで52kmを残して早くも逃げを吸収してしまう。

レース序盤、チームメイトに守られて走るラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)レース序盤、チームメイトに守られて走るラース・ボーム(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vos集団分裂や集団落車のリスクを回避するため、総合有力勢が前方に陣取ってペースを刻むメイン集団。コースが東に方向転換し、横風区間に入ると、レースは徐々に慌ただしさを増した。

ラスト43km地点でアタックを仕掛けたのはフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とトム・フィーラース(オランダ、スキル・シマノ)。同時に集団内で大きな落車が発生し、サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)らが巻き込まれた。

ゴール43km手前から逃げたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とトム・フィーラース(オランダ、スキル・シマノ)ゴール43km手前から逃げたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とトム・フィーラース(オランダ、スキル・シマノ) photo:Cor Vos相次ぐ落車び影響で、ジルベールとフィーラースのリードは最大1分まで拡大。リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)やダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)も落車したが、問題なく集団に復帰している。

やがてゴールまで20kmを切ると、横風に伴うペースアップによってメイン集団では中切れが発生し、数十名が脱落して約100名に。ハイペースで進行するメイン集団は、ラスト16kmでジルベールとフィーラースを吸収した。

ここから攻撃に出たのがケースデパーニュ勢だ。横風区間で隊列を組んでペースを上げたLLサンチェス、バルベルデ、ガルシアアコスタ、グティエレスの4名は、スルスルとメイン集団から抜け出しに成功。これにはリーダージャージのラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)を含む13名が追いついた。先頭グループを形成したのは以下の選手たち。

LLサンチェス、バルベルデ、ガルシアアコスタ、グティエレス(ケースデパーニュ)、イワノフ&コロブネフ(カチューシャ)、ギャラン&ルモワンヌ(ソール・ソジャサン)、フォイクト(サクソバンク)、クロイツィゲル(リクイガス)、マルティン(HTCコロンビア)、ボーム(ラボバンク)、ロッシュ(アージェードゥーゼル)、ミラー(ガーミン)、ヘンダーソン(チームスカイ)、ボーレ(ランプレ)、マルカート(ヴァカンソレイユ)

ペースアップを図るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)にボームらが食らいつくペースアップを図るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)にボームらが食らいつく photo:Cor Vosメイン集団はアスタナやレディオシャックが牽引したが、脚の揃った先頭17名とのタイム差は広がるばかり。ゴールまで5kmを残してタイム差は30秒まで広がり、17名の逃げ切りは確定的に。

スピードが上がり切ったラスト3kmで、アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ・テストチーム)が落車。単独で猛烈な追い上げを見せたコンタドールは何とか集団に復帰し、タイムロスを免れた。

先頭グループに加わったイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)やニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)先頭グループに加わったイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)やニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) photo:Cor Vosラスト1kmのアーチを潜ると先頭グループではステージ優勝を懸けた闘いが始まり、ロシアチャンピオンのセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)が先陣を切ってアタック。しかしこれは決まらず、トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)がラスト500mからロングスパートを仕掛けた。

マルティンは得意の独走で数十メートルのリードを得たが、向かい風の影響で徐々に失速。後方からスプリント体勢に入ったグレガ・ボーレ(スロベニア、ランプレ)とヘンダーソンがバトルを繰り広げ、ヘンダーソンが僅かに先着した。

ボーレとの接戦を制したグレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)ボーレとの接戦を制したグレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ) photo:Cor Vos2004年にトラック世界選手権スクラッチで世界チャンピオンに輝いているヘンダーソンが、そのスピードを活かして勝利。昨年ヘンダーソンはブエルタ・ア・エスパーニャ第3ステージでグランツール初勝利を飾っている。

今年からチームスカイに所属する33歳のベテランは「ペースを上げたケースデパーニュ勢にイエロージャージが続いたとき、自分も行くしかないと思った。最後は選手たちが風で疲れ切っていたから。まるでスローモーションのようなスプリントだったよ。チームメイトが周りにいなかったけど、イェーツ監督が『ランプレの若者(ボーレ)が速い』と教えてくれたので、彼の後ろに付いたんだ」と勝因を語る。

小集団でのスプリントを制したグレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)小集団でのスプリントを制したグレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ) photo:Cor VosヘンダーソンはこれがUCIレースにおける今シーズン1勝目。ツアー・ダウンアンダー前哨戦のキャンサー・カウンシル・ヘルプライン・クラシック(UCI非公認)でも優勝を飾っており、実質的にはこれが今シーズン2勝目となる。

「初戦のダウンアンダー・クラシックで僕が飾った勝利も象徴的だったけど、このパリ〜ニースでの勝利は夢のよう。この結果は、クオリティーの高いチームマネジメントの成果だと思う」。チームスカイとしては、これが今シーズン6勝目。結成1年目にも関わらず、出場するほぼ全てのレースで存在感ある走りを見せている。

大集団は17秒遅れでゴールしたため、逃げ切った選手たちは順当に総合順位を上げた。デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)がライプハイマーやコンタドールを抜いて総合3位に浮上。奇襲作戦の首謀者であるケースデパーニュのLLサンチェスは総合4位に。

勝負が決まるタイミングを見極め、決定的な先頭グループに入ったボームはリーダージャージ堅守した。ボームは2つの中間スプリントポイントで3位通過を果たしており、合計2秒のボーナスタイムを得ている。依然として総合時間賞、ポイント賞、山岳賞、新人賞でトップだ。

「タフでナーバスなステージだったけど、結果的に何も問題なかった。チームはレースをコントロール出来ていたし、バルベルデらがアタックした時も遅れることなく合流出来た。オランダでは今日のような横風が吹くクラシックレースが多い。だから(オランダの)ラボバンクはどうやって走るべきかを心得ている」。ボームは可能な限りリーダージャージを着続けたい考えだ。

選手コメントはレース公式サイトより。

パリ〜ニース2010第1ステージ結果
1位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)  4h22'17"
2位 グレガ・ボーレ(スロベニア、ランプレ)
3位 ジェレミー・ギャラン(フランス、ソール・ソジャサン)
4位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)
6位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
7位 イェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)
8位 マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ)
9位 トニ・マルティン(ドイツ、チームHTC・コロンビア)
10位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)

個人総合成績
1位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)            4h33'11"
2位 イェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)           +05"
3位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)   +13"
4位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)      +14"
5位 ロマン・クロイツィゲル(スロバキア、リクイガス)         +15"
6位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、チームスカイ)    +20"
7位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)      +25"
8位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
9位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス)             +29"
10位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)

ポイント賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

山岳賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

新人賞
ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
ケースデパーニュ

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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