2018/08/13(月) - 11:10
CJ(クップ・ドゥ・ジャポン)白馬大会が8月12日に行われ、男子エリートXCOは山本幸平(DREAM SEEKER RACING TEAM)が優勝。女子エリートXCOは小林可奈子(MTBクラブ安曇野)が優勝した。しかし男女レースともに、これら結果だけからは見えない現実があった。東京2020オリンピックを2年後に控え、日本MTBシーンは動き始めている。
山本幸平は、独走ゴールですらスプリントでもがいた
4.5kmのコースを6周する男子エリートXCO、スタート直後から言葉通りに他の選手を置き去りにする、日本でのレースでは『いつも通り』の走りを見せた山本のゴールシーンは、いつも通りではなかった。
2位の恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)に3分19秒の差をつけ最終ストレートに姿を見せた山本は、ゴールに向かい全開でもがき始めた。後ろには誰も見えず、スプリントする必要は全くないのに山本は、一秒でも速くゴールラインをくぐるため、一人でスプリントした。ゴール後に肩で息をする山本、息が整ったあとに理由を聞くと「そういうものです」と事無げに言った。
今日の白馬大会と同日程で、カナダ・ケベック州モンサンタンヌでワールドカップXCOが行われている。2018シーズンのCJシリーズを優勝している平林安里(スペシャライズドレーシング・ジャパン)と前田公平(弱虫ペダル)の2選手はこの大会に参加するため白馬大会を欠場。一方で、海外レースを中心に活動する山本は、今日を日本・白馬で戦うことを選んだ。
「このあとの出場予定のW杯フランスと、続くスイスでの世界選手権の出場を考えると、日本でトレーニングを積み、万全の大勢で挑むほうが経験上よいと判断しました」(山本)
レースは山本に次ぐ2位以下が争われる展開となった。まず2位を引いたのが沢田時(チーム ブリヂストン サイクリング)だったが、3周を前に後方へと落ちる。「スタートダッシュをかけたのですが、途中で自分のリミットを超えたのか、後ろに下がってしまいました」(沢田)。変わってチームメイトの平野星矢(チーム ブリヂストン サイクリング)が2位となるも、3周目を終える前に恩田が平野を抜いて2位に浮上した。しかし恩田はそのまま、山本に追いつくことはなかった。
恩田は語る。「本来なら幸平に勝負を挑むべきでしたが、今、自分は国内ランキングのトップで、この大会をどうしても落としたくなく、自分としては全く納得は行っていませんが、2位狙いをしたレースでした」。
恩田は今シーズンを通すとまだ2位が最高の結果。「僕の立ち位置としては、勝たない限り次の扉は開かないと思っています。もうそんなに若くないですし、今ある幸平との差を一気に詰めて、自分で扉を開かないといけない。そして僕だけではありませんが、もう時間は、ない」。
恩田の言う時間とは、東京2020オリンピックまでの時間だ。山本ひとりがダントツで強いという状況は、母国開催となる日本MTBシーンの実力の底上げという意味では、目的はまだ達成できていない。
「今日は暑さもあり、途中でペースが少し落ちたのですが、後半はまたペースを上げられました。最後まで走り切るため、全力でゴールまで向かいました」という横綱相撲をとった山本に追いつくにはどうすればいいのだろう。
「僕も日本に留まっていたら、他の選手と同じ状況だったかもしれない。海外のレースに出て、慣れ、友だちを作り、そしてその中で揉まれていったからこそ始めて、今の僕がある。僕が言えるのは、それだけです」(山本)
「女子エリートには絶対に負けない」と女子ジュニアは言う
女子レースは、エリート、ユース(14~16才)、ジュニア(17~18才)全カテゴリーが同時に出走となった。全出走人数が多くないということもあるが、さらなる理由がある。
先の全日本選手権では女子の出走順は、ジュニア、ユース、そしてエリートの順となっていた。通常、タイムの速いクラスが先に出走する。遅い選手が先に詰まることがないためだ。つまり、全日本選手権という舞台で運営側はすでに、女子エリートよりも女子ジュニアの方が速いという現実を認めてしまっていたのである。
そしてこのレースも実際にそうなった。全クラス混走、エリートとジュニアは同じ距離の女子レースで、スタート直後からトップを走ったのは、女子ジュニアクラスの川口うらら(Sonic-Racing/SRAM)だった。次に続いたのは小林あかり(MTBクラブ安曇野)、そして松本璃奈(TEAM SCOTT)のジュニア2名。レース前半のトップ3はすべてジュニア選手となった。その後にエリートの小林可奈子が、そして佐藤寿美(drawer THE RACING)が続いた。
レースはその後、「3周目に脚が回り始めた」という小林あかりが川口を追い上げたものの、川口はさらなる加速で小林あかりを振り切り、1分32秒差でジュニアクラス優勝。ジュニア2位の小林あかりの次にゴールしたのは、小林あかりの母である小林可奈子。エリートクラスでは優勝だ。ジュニア3位の松本を最終周で抜いたものの、小林あかりとは3分近くでの差のゴールだった。
「このコースは、ロードレースのようなコースなので足を回すことだけ考えて」と小林可奈子。「でも前がいたので。うららさん、小林あかり、そして璃奈さんのジュニア3人に引っ張ってもらった。。。いけないことなんでしょうけれど、私はもう少し、娘(あかり)が自分と同じカテゴリーになるまで、このエリートカテゴリーで戦いたいと思っています」
一方、小林あかりは「自分では、世界に出るつもりで練習し、走っています。日本で走るうちは、エリートクラスの選手には絶対負けないという気持ちです」という。
そして力強い走りで優勝した川口だが、「自分のベストの走りが戻ってきていない」とする。
「今年の5月まで日本のレースでは負けたことがなかったのですが、5月の終わりに富士見のCJ大会で4位になって、その結果がかなり大きなダメージとなって、そして続く全日本選手権でも3位になってしまいました。今年に入って『心と体が噛み合わなくなっていった』と感じることが多く、自分でもどうしていいのかわからなくなってしまっていましたが、そして今もその段階なんですが、今日勝てたのは、9月の世界選手権の前に、トップで走るイメージを取り戻せたので、そういった面ではいい方向に持っていけたかと思います」(川口)
エリートクラス全員に後塵を拝させたことに対しては、「私は日本の選手よりも海外の選手を視野に入れています。今年の目標は、まだ世界選派遣選手は決定していませんが、世界選手権でどれだけ上位を獲得できるか、です。日本でのクラスがどうこう、というのは、あまり気にしてはいないです」と川口は語った。
2018年シーズン後半へと持ち越される問い
このように、今回の白馬大会では、これまでの国内シリーズ戦とは少し異なる様相が見えてきた。
現在海外を走る平林と前田、山本のいない国内レースで確かな強さを見せたふたりは、W杯を経験し、どのような強さを身につけるのか。UCIポイントを獲得すべく、2018シーズンは国外レースに積極的に参戦してきたチーム ブリヂストン サイクリングの平野と沢田は、山本の言う海外レースでの経験を着実に自身の実にしていけるか。国内ランキングトップを着実に獲るという選択をした恩田は、国内での活動で山本との差を詰められるか。そしてその山本は、海外の主戦場で自身の立ち位置をどのように印象づけていくのか。名実ともに日本トップである川口、小林あかりのジュニア女子は、世界と日本を近づける糸口となるのか。
日本のMTBレースシーンは、2020年に向けて時代を変え進化を続ける。2018シーズンの後半、そして世界選手権でライダーたちは、上の問いにどのような答えを出すのだろう。
山本幸平は、独走ゴールですらスプリントでもがいた
4.5kmのコースを6周する男子エリートXCO、スタート直後から言葉通りに他の選手を置き去りにする、日本でのレースでは『いつも通り』の走りを見せた山本のゴールシーンは、いつも通りではなかった。
2位の恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM)に3分19秒の差をつけ最終ストレートに姿を見せた山本は、ゴールに向かい全開でもがき始めた。後ろには誰も見えず、スプリントする必要は全くないのに山本は、一秒でも速くゴールラインをくぐるため、一人でスプリントした。ゴール後に肩で息をする山本、息が整ったあとに理由を聞くと「そういうものです」と事無げに言った。
今日の白馬大会と同日程で、カナダ・ケベック州モンサンタンヌでワールドカップXCOが行われている。2018シーズンのCJシリーズを優勝している平林安里(スペシャライズドレーシング・ジャパン)と前田公平(弱虫ペダル)の2選手はこの大会に参加するため白馬大会を欠場。一方で、海外レースを中心に活動する山本は、今日を日本・白馬で戦うことを選んだ。
「このあとの出場予定のW杯フランスと、続くスイスでの世界選手権の出場を考えると、日本でトレーニングを積み、万全の大勢で挑むほうが経験上よいと判断しました」(山本)
レースは山本に次ぐ2位以下が争われる展開となった。まず2位を引いたのが沢田時(チーム ブリヂストン サイクリング)だったが、3周を前に後方へと落ちる。「スタートダッシュをかけたのですが、途中で自分のリミットを超えたのか、後ろに下がってしまいました」(沢田)。変わってチームメイトの平野星矢(チーム ブリヂストン サイクリング)が2位となるも、3周目を終える前に恩田が平野を抜いて2位に浮上した。しかし恩田はそのまま、山本に追いつくことはなかった。
恩田は語る。「本来なら幸平に勝負を挑むべきでしたが、今、自分は国内ランキングのトップで、この大会をどうしても落としたくなく、自分としては全く納得は行っていませんが、2位狙いをしたレースでした」。
恩田は今シーズンを通すとまだ2位が最高の結果。「僕の立ち位置としては、勝たない限り次の扉は開かないと思っています。もうそんなに若くないですし、今ある幸平との差を一気に詰めて、自分で扉を開かないといけない。そして僕だけではありませんが、もう時間は、ない」。
恩田の言う時間とは、東京2020オリンピックまでの時間だ。山本ひとりがダントツで強いという状況は、母国開催となる日本MTBシーンの実力の底上げという意味では、目的はまだ達成できていない。
「今日は暑さもあり、途中でペースが少し落ちたのですが、後半はまたペースを上げられました。最後まで走り切るため、全力でゴールまで向かいました」という横綱相撲をとった山本に追いつくにはどうすればいいのだろう。
「僕も日本に留まっていたら、他の選手と同じ状況だったかもしれない。海外のレースに出て、慣れ、友だちを作り、そしてその中で揉まれていったからこそ始めて、今の僕がある。僕が言えるのは、それだけです」(山本)
「女子エリートには絶対に負けない」と女子ジュニアは言う
女子レースは、エリート、ユース(14~16才)、ジュニア(17~18才)全カテゴリーが同時に出走となった。全出走人数が多くないということもあるが、さらなる理由がある。
先の全日本選手権では女子の出走順は、ジュニア、ユース、そしてエリートの順となっていた。通常、タイムの速いクラスが先に出走する。遅い選手が先に詰まることがないためだ。つまり、全日本選手権という舞台で運営側はすでに、女子エリートよりも女子ジュニアの方が速いという現実を認めてしまっていたのである。
そしてこのレースも実際にそうなった。全クラス混走、エリートとジュニアは同じ距離の女子レースで、スタート直後からトップを走ったのは、女子ジュニアクラスの川口うらら(Sonic-Racing/SRAM)だった。次に続いたのは小林あかり(MTBクラブ安曇野)、そして松本璃奈(TEAM SCOTT)のジュニア2名。レース前半のトップ3はすべてジュニア選手となった。その後にエリートの小林可奈子が、そして佐藤寿美(drawer THE RACING)が続いた。
レースはその後、「3周目に脚が回り始めた」という小林あかりが川口を追い上げたものの、川口はさらなる加速で小林あかりを振り切り、1分32秒差でジュニアクラス優勝。ジュニア2位の小林あかりの次にゴールしたのは、小林あかりの母である小林可奈子。エリートクラスでは優勝だ。ジュニア3位の松本を最終周で抜いたものの、小林あかりとは3分近くでの差のゴールだった。
「このコースは、ロードレースのようなコースなので足を回すことだけ考えて」と小林可奈子。「でも前がいたので。うららさん、小林あかり、そして璃奈さんのジュニア3人に引っ張ってもらった。。。いけないことなんでしょうけれど、私はもう少し、娘(あかり)が自分と同じカテゴリーになるまで、このエリートカテゴリーで戦いたいと思っています」
一方、小林あかりは「自分では、世界に出るつもりで練習し、走っています。日本で走るうちは、エリートクラスの選手には絶対負けないという気持ちです」という。
そして力強い走りで優勝した川口だが、「自分のベストの走りが戻ってきていない」とする。
「今年の5月まで日本のレースでは負けたことがなかったのですが、5月の終わりに富士見のCJ大会で4位になって、その結果がかなり大きなダメージとなって、そして続く全日本選手権でも3位になってしまいました。今年に入って『心と体が噛み合わなくなっていった』と感じることが多く、自分でもどうしていいのかわからなくなってしまっていましたが、そして今もその段階なんですが、今日勝てたのは、9月の世界選手権の前に、トップで走るイメージを取り戻せたので、そういった面ではいい方向に持っていけたかと思います」(川口)
エリートクラス全員に後塵を拝させたことに対しては、「私は日本の選手よりも海外の選手を視野に入れています。今年の目標は、まだ世界選派遣選手は決定していませんが、世界選手権でどれだけ上位を獲得できるか、です。日本でのクラスがどうこう、というのは、あまり気にしてはいないです」と川口は語った。
2018年シーズン後半へと持ち越される問い
このように、今回の白馬大会では、これまでの国内シリーズ戦とは少し異なる様相が見えてきた。
現在海外を走る平林と前田、山本のいない国内レースで確かな強さを見せたふたりは、W杯を経験し、どのような強さを身につけるのか。UCIポイントを獲得すべく、2018シーズンは国外レースに積極的に参戦してきたチーム ブリヂストン サイクリングの平野と沢田は、山本の言う海外レースでの経験を着実に自身の実にしていけるか。国内ランキングトップを着実に獲るという選択をした恩田は、国内での活動で山本との差を詰められるか。そしてその山本は、海外の主戦場で自身の立ち位置をどのように印象づけていくのか。名実ともに日本トップである川口、小林あかりのジュニア女子は、世界と日本を近づける糸口となるのか。
日本のMTBレースシーンは、2020年に向けて時代を変え進化を続ける。2018シーズンの後半、そして世界選手権でライダーたちは、上の問いにどのような答えを出すのだろう。
男子エリートXCO
1位 | 山本幸平(Dream Seeker Racing Team) | 1:20:06.37 |
2位 | 恩田祐一(MIYATA-MERIDA BIKING TEAM) | +3:19.50 |
3位 | 沢田時(チーム ブリヂストン サイクリング) | +4:45.06 |
女子エリートXCO
1位 | 小林可奈子(MTBクラブ安曇野) | 1:10:42.80 |
2位 | 佐藤寿美(drawer THE RACING) | +4:18.88 |
3位 | 橋口陽子(TEAM 轍屋) | +6:27.08 |
女子ジュニアXCO
1位 | 川口うらら(Sonic-Racing/SRAM) | 1:06:24.29 |
2位 | 小林あか里(MTBクラブ安曇野) | +1:32.79 |
3位 | 松本璃奈(TEAM SCOTT) | +5:39.46 |
text&phoro:Koichiro Nakamura
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