2018/05/25(金) - 14:11
賑やかなミラノ近郊を抜け、標高1,607mのアルプススキーリゾートに向かったジロ一行。まさかのイェーツの失速でマリアローザの行方が一気に不透明になった。ジロ第18ステージの模様を現地からお届けします。
地元の観客が詰めかけたチームバス駐車場 photo:Kei Tsuji
イタリア人にとってマルコ・パンターニは偉大な存在 photo:Kei Tsuji
プレスや招待客の登録はこのトレーラーが目印 photo:Kei Tsuji
スタート地点でイタリア国歌を奏でる photo:Kei Tsuji
観客を縫うように出走サインに向かう photo:Kei Tsuji
大都市ミラノから20kmほどのアッビアーテグラッソのスタート地点には大勢のサイクリストが集まった。ロードバイクからマウンテンバイク、シクロクロスバイク、シティバイク、ピストバイクまで多種多様なバイクがスタート地点に集まってくる。様々な、思い思いのポジションで自転車を楽しむサイクリストたちが現状のマリアローザ争いについて持論を展開している。
移動販売車で売られている今年のジロ公式グッズの定番は、Tシャツ、帽子、笛の3点セット。その中の笛は、もはや問題として提起してもいいレベル。子供たちがくわえたピンクの笛があちこちでピーピーピーピー鳴っている。狼少年の話ではないけど、区別がつきにくいため警察や警備員が吹く注意喚起のための笛があまり機能していない。
チームバス駐車場からスタート地点の出走サイン台まで、選手たちは観客をかき分けて進まなければならなかった。前述の通り警備員が笛を吹いてもあまり効果がない。観客たちはお目当の選手を見つけては突進し、セルフィーを撮ったりサインをねだったりしている。突然横から肩を組まれてバランスを崩したトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)は怒り心頭で出走サインに向かっていた。
腕にタトゥーが入った屈強なボディーガードのファビアンの力を持ってしても、クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)も進路を阻まれた。フルームと無理やりセルフィーを撮ろうとする観客が接触してあわや転倒というシーンも。それでもファビアンは「観客の勢いは酷かったけど、7月の良い準備運動になった。ツールはもっと酷いから」と余裕の表情で笑っていた。
公式グッズのTシャツを着て、笛を吹く photo:Kei Tsuji
ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)の登場に興奮する photo:Kei Tsuji
観客を縫って出走サインに向かうマリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
セルフィーおじさんに囲まれるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
特別賞ジャージもなければ表彰式もないので目立たないが、逃げに乗ったダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)は中間スプリント賞と総合敢闘賞(コンバティヴィタ賞)で首位に立っている。逃げ賞(フーガ賞)はチームメイトのマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)が首位。この日の逃げは12名という大所帯だったので「10名以下の逃げの積算距離」で争われる逃げ賞の対象外だった。
アンドローニジョカトリ・シデルメクを率いるジャンニ・サヴィオ監督と言えば、ツアー・オブ・カリフォルニアで総合優勝を飾ったエガン・ベルナル(コロンビア、チームスカイ)を発掘し、コロンビアからヨーロッパに連れてきた名将。チームスカイが21歳のベルナルをツール・ド・フランスに出場させる意向であると聞いたサヴィオ監督は「まだベルナルはツールに出るべきではない。早すぎる」と警鐘を鳴らしている。
カウンターアタックを仕掛けるヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト・ドラパック)ら photo:Kei Tsuji
集団内で走るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
チームバス駐車場がある残り2km地点にキャラバン隊が到着 photo:Kei Tsuji
スキーリゾート地のプラートネヴォーゾ photo:Kei Tsuji
アルプスの山々を望むプラートネヴォーゾ photo:Kei Tsuji
パヴェル・トンコフが勝った1996年とステファノ・ガルゼッリが勝った2000年に続くジロ3回目の登場となった1級山岳プラートネヴォーゾ。1960年代に開発された標高1,600m以上のスキーリゾート地で、同じ時期に作られたと思われるホテル群が斜面にへばり付いている。
アクセスの良さを売りにしなければならないため、大抵の場合スキーリゾート地に向かう登りは勾配が緩く、決まって道幅がしっかりととられている。つまりアルプス3連戦の3つの1級山岳フィニッシュの中で最も難易度が低い。第19ステージと第20ステージと比べると、獲得標高差が半分にも満たないそんな第18ステージで、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が28秒ものを失った。トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)がそれまで56秒あった総合タイム差をばっさりと半分に削り取った形。
第18ステージを終えて総合1位と2位の差が28秒という数字は、2009年のデニス・メンショフとダニーロ・ディルーカのタイム差26秒に続く史上2番目の小ささだ。
表彰台のリハーサルをするポディウムガール photo:Kei Tsuji
チームにステージ2連勝をもたらしたマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
惜しくもチームの初勝利を逃したルーベン・プラサ(スペイン、イスラエルサイクリングアカデミー) photo:Kei Tsuji
ステージ3位に入ったマティア・カッタネオ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク) photo:Kei Tsuji
イェーツとの総合タイム差を28秒まで詰めたトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
デュムランらから28秒失ったサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
獲得ボーナスタイムを見てみると、イェーツは42秒、デュムランは10秒。つまるところ、ここまでの山岳ステージで圧倒的な走りを見せていたイェーツより、個人TTでリードしたデュムランのほうが4秒早く3058.4kmを走っていることになる。逆に言えば、もちろんそんな簡単なものではないと断った上で、もしボーナスタイムが設定されていなければデュムランが4秒差でマリアローザを着ている。
もっと厳しいステージではもっと大きなタイム差がつくのではと想像してしまうが、イェーツは「明日と明後日のコースはもっと自分向き」と自信を見せている。誰もがフレッシュな状態での高出力登坂勝負は自分向きではなかったとイェーツは説明する。同時にデュムランも「今日のコースは自分向きだった」と認めており、残る2ステージで単純にもっと大きなタイム差がつくわけではなさそう。
アルプス3連戦をイタリア料理に例えるならば、まだアンティパスト(前菜)が終わっただけ。次のプリモピアット(前菜と主菜の間に出る料理)は、今大会の最高地点の未舗装路フィネストレ峠と1級山岳バルドネッキアが組み合わされたボリューム満点の一品。イェーツとデュムランの一騎打ちではなく、約3分後方に控えたポッツォヴィーヴォとフルームの存在も不気味。まだマリアローザの行方はわからないという常套句がぴったり当てはまる。
フィニッシュ後すぐ記者に囲まれるトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
慣れない手つきでスプマンテを開けるマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
鼻をこすりながら表彰台に上がるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
慎重に階段を降りるサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Prato Nevoso, Italy
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移動販売車で売られている今年のジロ公式グッズの定番は、Tシャツ、帽子、笛の3点セット。その中の笛は、もはや問題として提起してもいいレベル。子供たちがくわえたピンクの笛があちこちでピーピーピーピー鳴っている。狼少年の話ではないけど、区別がつきにくいため警察や警備員が吹く注意喚起のための笛があまり機能していない。
チームバス駐車場からスタート地点の出走サイン台まで、選手たちは観客をかき分けて進まなければならなかった。前述の通り警備員が笛を吹いてもあまり効果がない。観客たちはお目当の選手を見つけては突進し、セルフィーを撮ったりサインをねだったりしている。突然横から肩を組まれてバランスを崩したトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)は怒り心頭で出走サインに向かっていた。
腕にタトゥーが入った屈強なボディーガードのファビアンの力を持ってしても、クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)も進路を阻まれた。フルームと無理やりセルフィーを撮ろうとする観客が接触してあわや転倒というシーンも。それでもファビアンは「観客の勢いは酷かったけど、7月の良い準備運動になった。ツールはもっと酷いから」と余裕の表情で笑っていた。
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アンドローニジョカトリ・シデルメクを率いるジャンニ・サヴィオ監督と言えば、ツアー・オブ・カリフォルニアで総合優勝を飾ったエガン・ベルナル(コロンビア、チームスカイ)を発掘し、コロンビアからヨーロッパに連れてきた名将。チームスカイが21歳のベルナルをツール・ド・フランスに出場させる意向であると聞いたサヴィオ監督は「まだベルナルはツールに出るべきではない。早すぎる」と警鐘を鳴らしている。
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アクセスの良さを売りにしなければならないため、大抵の場合スキーリゾート地に向かう登りは勾配が緩く、決まって道幅がしっかりととられている。つまりアルプス3連戦の3つの1級山岳フィニッシュの中で最も難易度が低い。第19ステージと第20ステージと比べると、獲得標高差が半分にも満たないそんな第18ステージで、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が28秒ものを失った。トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)がそれまで56秒あった総合タイム差をばっさりと半分に削り取った形。
第18ステージを終えて総合1位と2位の差が28秒という数字は、2009年のデニス・メンショフとダニーロ・ディルーカのタイム差26秒に続く史上2番目の小ささだ。
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獲得ボーナスタイムを見てみると、イェーツは42秒、デュムランは10秒。つまるところ、ここまでの山岳ステージで圧倒的な走りを見せていたイェーツより、個人TTでリードしたデュムランのほうが4秒早く3058.4kmを走っていることになる。逆に言えば、もちろんそんな簡単なものではないと断った上で、もしボーナスタイムが設定されていなければデュムランが4秒差でマリアローザを着ている。
もっと厳しいステージではもっと大きなタイム差がつくのではと想像してしまうが、イェーツは「明日と明後日のコースはもっと自分向き」と自信を見せている。誰もがフレッシュな状態での高出力登坂勝負は自分向きではなかったとイェーツは説明する。同時にデュムランも「今日のコースは自分向きだった」と認めており、残る2ステージで単純にもっと大きなタイム差がつくわけではなさそう。
アルプス3連戦をイタリア料理に例えるならば、まだアンティパスト(前菜)が終わっただけ。次のプリモピアット(前菜と主菜の間に出る料理)は、今大会の最高地点の未舗装路フィネストレ峠と1級山岳バルドネッキアが組み合わされたボリューム満点の一品。イェーツとデュムランの一騎打ちではなく、約3分後方に控えたポッツォヴィーヴォとフルームの存在も不気味。まだマリアローザの行方はわからないという常套句がぴったり当てはまる。
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text&photo:Kei Tsuji in Prato Nevoso, Italy
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