2018/05/13(日) - 14:29
急峻な山を結構なスピードで登るケーブルカーを降りるとそこは霧の中。ジロの到着に合わせるように大粒の雨が降り、稲妻が走り、雷鳴が轟いた。カラパスがエクアドルの歴史を作ったモンテヴェルジネの戦いを振り返ります。
(ピンクの風船はすでにいっぱい割れたけど)ジェラテリアでジロを待つ photo:Kei Tsuji
ディスクブレーキを投入したアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール) photo:Kei Tsuji
野菜市の横にボーラ・ハンスグローエのチームバス photo:Kei Tsuji
セラミックスピードのプーリーはピンク色のジロ仕様 photo:Kei Tsuji
どこか弟キャラのエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
今年のジロ・デ・イタリアで、フィニッシュ地点が翌日のスタート地点というステージレースの本来あるべき姿を体現しているのは第7ステージ&第8ステージ、そして第11ステージ&第12ステージの2日間しかない。その他のステージは、フィニッシュ後かスタート前もしくはフィニッシュ後とスタート後に1〜3時間ほどの移動を挟む。移動距離が長ければ長いほどチームの資金力やサポート力に差が出る。
プライア・ア・マーレがジロによく登場するのは市長がロードレース好きということもあるらしい。このイタリア南部のカラブリア州、バリジカータ州、カンパニア州にかけての海沿いの町はどこも国外(主に北ヨーロッパ)からバカンス客が訪れる観光地であり、英語話者の比率が意外に高いのが特長だ。そして物価が安い。
ジロ前半戦を締めくくる2連続山頂フィニッシュで、しかも天候が下り坂なので選手たちの表情は引き締まる。レース序盤は青い海が見え、あまりに美しい風景に「Che spettacolo(なんてスペクタクルなんだ)」と呟きながら走る選手もいたが、目指す先には巨大な積乱雲が佇んでいた。
総合で好位置につけるトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
いろんなところが紫のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)のバイク photo:Kei Tsuji
逃げグループをリードするクーン・ボウマン(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsuji
23km地点で抜け出したクーン・ボウマン(オランダ、ロットNLユンボ)ら photo:Kei Tsuji
海沿いのアップダウンコースを走る photo:Kei Tsuji
カラブリア州からバジリカータ州、カンパニア州を走る photo:Kei Tsuji
アヴェリーノの町を見下ろす標高1,260mの山の上にあるキリスト教の聖地「サントゥアリオ・ディ・モンテヴェルジネ」。2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノがジロに登場するのは6回目で、2011年以来7年ぶりの登場となる。
新緑の樹々の間から石灰岩が顔を見せる山頂に向かって、いくつものスイッチバックを繰り返しながら標高を上げていく。切り立った崖もある急峻な山だが、180度のヘアピンコーナーが連続するおかげで登りの勾配は5〜6%ほどしかない。
ジロに有りがちな、山頂の駐車スペースが限定される影響で、チームスタッフや大会関係者の一部はフニコラーレ(ケーブルカー)で麓の町から山頂を目指した。標高500mのメルコリアーノの町から霧に包まれた標高1,260mの山頂まで、1926年に開通したフニコラーレが7分で結んでいる。まるでジェットコースターのような角度に下を見れず、ガタッと揺れて悲鳴をあげる関係者もちらほら。
2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノを目指すフニクラーレ(ケーブルカー) photo:Kei Tsuji
雨宿りしながらレースを待つ photo:Kei Tsuji
下に見えるスイッチバックでレースの位置を確認 photo:Kei Tsuji
チームスカイを先頭に2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノを登る photo:Kei Tsuji
映像には映っていなかったかもしれないが、ちょうど選手たちが2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノの登坂を開始したタイミングで分厚い雨雲が辺りを包み始め、すぐ近くで雷鳴が断続的に鳴った。稲妻の閃光から雷鳴まで3〜4秒しかかからないほどの近さなので思わず観客も身をかがめた。
2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノの登坂タイムレコードは、2007年にダニーロ・ディルーカとリカルド・リッコ、ダミアーノ・クネゴの3人が記録した31分20秒。この日ステージ優勝者リカルド・カラパス(エクアドル、モビスター)の登坂タイムは、雨でヘアピンコーナーを攻めることができないというコンディションも影響して32分10秒。コースレコードよりも50秒遅かった。
それでも平均スピードは28km/hを超えている。確実にスリップストリームが効くスピードであり、パワーで押し切るようなアタックは決まりにくい。集団はVAMが1,500m近い強烈なペースで登り続けた。マリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)の「比較的イージーなペースだった」というコメントは彼の好調ぶりを示している。
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が今大会2度目の落車に見舞われたが、その後の走りを見る限り影響は少ない様子。バイク交換ができず、フルームはハンドルが曲がったままフィニッシュまで走り続けた。初日と同じ右側を打ち付けているので、どうしても崩れてしまうバランスが後半戦にじわじわと影響するかもしれない。
チームスカイを先頭にスイッチバックをこなしていく photo:Kei Tsuji
水しぶきを上げながら走るメイン集団 photo:Kei Tsuji
降りしきる雨の中を走る photo:Kei Tsuji
チームメイトに守られて走るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
エクアドルは34カ国目のジロステージ優勝経験国になった。ちなみにマリアローザを着た国は28カ国ある。
エクアドルという言葉そのものがスペイン語で「赤道」を意味しているように、南米の赤道直下に位置する人口1,640万人の国だ。コロンビア人ジャーナリストによると、カラパスの出身地はコロンビア国境から数キロしか離れていない小さな町で、標高2,500m以上の環境で生まれ育った。ジュニア時代から国境を越えてコロンビアのチームでレースを走って頭角を現したという。モビスターでのプロ入りは2017年。同年ブエルタ・ア・エスパーニャを初めて走って36位。今年のジロ直前に行われたブエルタ・ア・アストゥリアスで総合優勝を飾っている。
ニコニコと笑顔を振りまく愛嬌があるが、クラウディオ・キャプッチに似たその顔はいざレースになると色がガラっと変わる。英語も通じずイタリア語も通じないためコミュニケーションがモビスターのプレスオフィサー頼りになるところはナイロ・キンタナ(コロンビア)と同じ。ちなみにエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)は流暢な英語とイタリア語でコミュニケーションができる。
カラパスはマリアビアンカ争いで一歩リードした。ヤングライダー賞2位につけていたベン・オコーナー(オーストラリア、ディメンションデータ)はフルームが落車した際に足止めをくらい、しかもチェーンを落としてしまったので28秒を失っている。
翌日はモンテヴェルジネよりもずっと難易度が高い1級山岳グランサッソ・ディタリア山頂フィニッシュ。標高2,135mに至る225kmステージを終えると今大会2回目の休息日が待っている。
雨雲に覆われた2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノを走る photo:Kei Tsuji
ボディーガードを伴って下山するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
マリアチクラミーノのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
最後尾でフィニッシュを目指すスヴェイン・タフト(カナダ、ミッチェルトン・スコット)とサム・ビューリー(ニュージーランド、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Mercogliano, Italy
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今年のジロ・デ・イタリアで、フィニッシュ地点が翌日のスタート地点というステージレースの本来あるべき姿を体現しているのは第7ステージ&第8ステージ、そして第11ステージ&第12ステージの2日間しかない。その他のステージは、フィニッシュ後かスタート前もしくはフィニッシュ後とスタート後に1〜3時間ほどの移動を挟む。移動距離が長ければ長いほどチームの資金力やサポート力に差が出る。
プライア・ア・マーレがジロによく登場するのは市長がロードレース好きということもあるらしい。このイタリア南部のカラブリア州、バリジカータ州、カンパニア州にかけての海沿いの町はどこも国外(主に北ヨーロッパ)からバカンス客が訪れる観光地であり、英語話者の比率が意外に高いのが特長だ。そして物価が安い。
ジロ前半戦を締めくくる2連続山頂フィニッシュで、しかも天候が下り坂なので選手たちの表情は引き締まる。レース序盤は青い海が見え、あまりに美しい風景に「Che spettacolo(なんてスペクタクルなんだ)」と呟きながら走る選手もいたが、目指す先には巨大な積乱雲が佇んでいた。
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新緑の樹々の間から石灰岩が顔を見せる山頂に向かって、いくつものスイッチバックを繰り返しながら標高を上げていく。切り立った崖もある急峻な山だが、180度のヘアピンコーナーが連続するおかげで登りの勾配は5〜6%ほどしかない。
ジロに有りがちな、山頂の駐車スペースが限定される影響で、チームスタッフや大会関係者の一部はフニコラーレ(ケーブルカー)で麓の町から山頂を目指した。標高500mのメルコリアーノの町から霧に包まれた標高1,260mの山頂まで、1926年に開通したフニコラーレが7分で結んでいる。まるでジェットコースターのような角度に下を見れず、ガタッと揺れて悲鳴をあげる関係者もちらほら。
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2級山岳モンテヴェルジネ・ディ・メルコリアーノの登坂タイムレコードは、2007年にダニーロ・ディルーカとリカルド・リッコ、ダミアーノ・クネゴの3人が記録した31分20秒。この日ステージ優勝者リカルド・カラパス(エクアドル、モビスター)の登坂タイムは、雨でヘアピンコーナーを攻めることができないというコンディションも影響して32分10秒。コースレコードよりも50秒遅かった。
それでも平均スピードは28km/hを超えている。確実にスリップストリームが効くスピードであり、パワーで押し切るようなアタックは決まりにくい。集団はVAMが1,500m近い強烈なペースで登り続けた。マリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)の「比較的イージーなペースだった」というコメントは彼の好調ぶりを示している。
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が今大会2度目の落車に見舞われたが、その後の走りを見る限り影響は少ない様子。バイク交換ができず、フルームはハンドルが曲がったままフィニッシュまで走り続けた。初日と同じ右側を打ち付けているので、どうしても崩れてしまうバランスが後半戦にじわじわと影響するかもしれない。
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ニコニコと笑顔を振りまく愛嬌があるが、クラウディオ・キャプッチに似たその顔はいざレースになると色がガラっと変わる。英語も通じずイタリア語も通じないためコミュニケーションがモビスターのプレスオフィサー頼りになるところはナイロ・キンタナ(コロンビア)と同じ。ちなみにエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)は流暢な英語とイタリア語でコミュニケーションができる。
カラパスはマリアビアンカ争いで一歩リードした。ヤングライダー賞2位につけていたベン・オコーナー(オーストラリア、ディメンションデータ)はフルームが落車した際に足止めをくらい、しかもチェーンを落としてしまったので28秒を失っている。
翌日はモンテヴェルジネよりもずっと難易度が高い1級山岳グランサッソ・ディタリア山頂フィニッシュ。標高2,135mに至る225kmステージを終えると今大会2回目の休息日が待っている。
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text&photo:Kei Tsuji in Mercogliano, Italy