「春のクラシック」最終戦で再び炸裂したクイックステップフロアーズのチーム力。残り19km地点から独走に持ち込んだボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)が第104回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ王者に輝いた。


「コート・ド・サンロシュ」を上る選手たち「コート・ド・サンロシュ」を上る選手たち

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018 photo:A.S.O.11カ所の上りを含む258.5kmコースで行われた第104回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。春のクラシックシーズンを締めくくる126年目のレースは、朝10時10分、リエージュのサンランベール広場をスタートした。

南からの風により、バストーニュまで南下する往路が概ね向かい風で、リエージュまで北上する袋が概ね追い風というコンディション。最高気温が24度まで上がる暑さと、レース序盤にかけて通り雨が降るほどの湿度の高さが、終盤のパフォーマンスに影響を与えることになる。

9km地点で逃げを開始したのはロイック・ヴリーヘン(ベルギー、BMCレーシング)や、1年前にも逃げていたこの日が27歳の誕生日のアンソニー・ペレス(フランス、コフィディス)ら8名。最大で6分まで広がったタイム差は、折り返し地点に近い「コート・ド・サンロシュ(全長1.0km/平均11.2%)」に差し掛かる頃には4分30秒に。メイン集団では主にUAEチームエミレーツとロット・スーダル、モビスターが牽引役を担った。

ベルギー東部のワロン地域に広がる丘陵〜山岳地帯を縫うように走り、獲得標高差が4,000mを超えるほどのコースで、メイン集団は(追い風も手伝って)後半にかけてスピードを上げていく。80kmを切ってから連続した「コート・ド・ラ・フェルメリベール(全長1.2km/平均12.1%)」や「コル・ドゥ・ロジエ(全長4.4km/平均5.9%)」、「コル・ドゥ・マキサール(全長2.5km/平均5%)」で逃げグループととメイン集団はともに人数を減らす。街中のタイトコーナーや上り坂を好位置でクリアするためのポジション争いを繰り広げながら、メイン集団は逃げグループとのタイム差を詰めていった。

「コート・ド・ラ・ルドゥット(全長2.0km/平均8.9%)」で逃げグループは崩壊し、ジェローム・バウニーズ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)が独走を開始する。1分30秒後方のメイン集団は、この「PHIL」や「ジルベール」の路上ペイントが描かれた坂で、地元出身者フィリップ・ジルベール擁するクイックステップフロアーズがペースを作った。

リエージュの街をスタート後、郊外に出てから正式なスタートが切られるリエージュの街をスタート後、郊外に出てから正式なスタートが切られる 9km地点で逃げのためのアタックを仕掛けるロイック・ヴリーヘン(ベルギー、BMCレーシング)ら9km地点で逃げのためのアタックを仕掛けるロイック・ヴリーヘン(ベルギー、BMCレーシング)ら
最大6分のリードで逃げた8名の逃げグループ最大6分のリードで逃げた8名の逃げグループ
UAEチームエミレーツがマーティンのために集団を牽引するUAEチームエミレーツがマーティンのために集団を牽引する
フィニッシュまで36kmを残した最大勾配17%の「ラ・ルドゥット」でメイン集団から動く選手は現れなかった。上り後の吹きっ晒し横風区間で集団が縦一列棒状に伸びるシーンも見られたが完全には破壊されず。メイン集団は先頭を逃げるバウニーズを残り22km地点で吸収し、バーレーン・メリダが指揮する形で「コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(全長1.3km/平均11%)」へと入っていく。

例年勝負に向けた動きが生まれるこの「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」で最初に動いたのはジルベール。しかし2011年の優勝者ジルベールのアタックにキレはなく、セルジオルイス・エナオ(コロンビア、チームスカイ)やボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)、マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が追い抜いていく。

急激にレースが活性化した「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」で約20名に絞られた集団内に、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)の姿はなかった。ここで優勝争いから脱落したニバリは「バッドデーだった。ロッシュ・オ・フォーコンの前の時点で今日は100%ではないと分かった。1年前に亡くなった偉大なる親友ミケーレ・スカルポーニに勝利を捧げたいと思っていただけに残念だ」と語っている。なお、公開されているSTRAVAログによると、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)はこの11%の坂を平均スピード21.1km/hで登坂。1年前より約7秒早いタイムを記録している。

「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」でセレクションをかけ、そのまま先頭を走り続けたユンゲルスが上り頂上通過後に加速した。下りを利用して飛び出し、フィニッシュまでおよそ19kmを残して独走を開始したユンゲルス。ロードで4回、個人TTで4回ルクセンブルクチャンピオンに輝いているユンゲルスの背中を追って、ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)やダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチームエミレーツ)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)らが断続的にカウンターアタックを仕掛けたが決まらない。牽制が入り、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)が抑え役としてカウンターアタックを封じ込め続けたため、ユンゲルスのリードは広がり続けた。

水曜日のラ・フレーシュ・ワロンヌを制したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)水曜日のラ・フレーシュ・ワロンヌを制したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)
「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」を先頭でクリアするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」を先頭でクリアするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア、アスタナ)の献身的な牽引も虚しく、タイム差が50秒にまで広がった状態で最後の「コート・ド・サンニコラ(全長1.2km/平均8.6%)」がスタート。フィニッシュまで5.5kmを残した大会最後の難所で、ラ・フレーシュ・ワロンヌ3位のイエール・ヴァネンデル(ベルギー、ロット・スーダル)が強力なアタック。追いすがるアラフィリップを含め、ライバルたちを置き去りにしたヴァネンデルが、「サンニコラ」で先頭ユンゲルスとのタイム差を20秒にまで詰めることに成功した。

先頭ではユンゲルスが粘った。「サンニコラ」で一気に差を詰めたヴァネンデルはその後の下り&平坦区間で逆にタイムを失ってしまう。そして、すでに距離にして250km以上、獲得標高差にして4,000m以上を走っている選手たちに最後の試練を与えるフィニッシュ地点アンスに向かう5%前後の上り坂が始まる。

30秒後方の集団から抜け出したウッズとロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)が2番手ヴァネンデルを捉えたが、先頭ユンゲルスの背中が見えてこない。TTスペシャリストとして安定した独走力を発揮したユンゲルスが、追いすがるウッズとバルデに37秒差、そして抑え役として働き続けたアラフィリップ先頭の集団に39秒差をつけて逃げ切った。

独走で「コート・ド・サンニコラ」を駆け上がるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)独走で「コート・ド・サンニコラ」を駆け上がるボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)
独走でフィニッシュするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)独走でフィニッシュするボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)

1954年のマルセル・アンツァー、2009年のアンディ・シュレクに続く、史上3人目のルクセンブルク人リエージュ覇者が誕生した。

「ラ・ルドゥットでチームはハードな展開に持ち込み、フィリップ(ジルベール)とラ・ロッシュ・オ・フォーコンで仕掛けた。頂上通過後に後続との距離が開いたのでルーラーとしての才能を活かすべく独走に持ち込んだ。これは世界で最も美しいワンデーレースであり、ルクセンブルクにも近く、家族やファンの前で勝利したことは一生忘れることがないだろう。この感覚を飲み込むにはあと数日かかりそうだ」と、ウッズとバルデとともに表彰台の真ん中に立ったユンゲルスは語る。ユンゲルスにとってこれが初のモニュメント制覇。過去2年間ジロ・デ・イタリアでヤングライダー賞(2016年総合6位、2017年総合8位)に輝いている25歳は今年ツール・ド・フランスに出場する予定だ。

「ウルフパック(狼の群れ)」を名乗るクイックステップフロアーズはこれがシーズン27勝目。UCIワールドツアーのベルギーレースだけを見ても、レコードバンク・E3ハーレルベーケ(テルプストラ)、ドワーズ・ドール・フラーンデレン(ランパールト)、ロンド・ファン・フラーンデレン(テルプストラ)、ラ・フレーシュ・ワロンヌ(アラフィリップ)と、輝かしい成績を春のキャンペーンで残してきた。「クイックステップフロアーズは家族のようなもの。互いを信頼して、それぞれ自分の役割をこなし、チームとして勝つために走っている。その結果が出たんだ」とユンゲルス。マペイの伝統を引き継ぐベルギーチームは、2003年に現体制になってから初のリエージュ制覇(マペイ時代にはパオロ・ベッティーニが勝利している)。チームとしては17つ目のモニュメントのタイトルを獲得した。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018結果
text:Kei Tsuji