トレックワールドのために一時帰国した別府史之(トレック・セガフレード)にインタビュー。過密スケジュールをこなした今シーズン、2位に終わった全日本選手権、若手に対しての思い、そして長年トップチームに籍を置く、プロとしての自分自身をフミが語った。



トレックワールドのために一時帰国した別府史之(トレック・セガフレード)。スケジュールの合間を縫って話を聞いたトレックワールドのために一時帰国した別府史之(トレック・セガフレード)。スケジュールの合間を縫って話を聞いた photo:Shojiro.Nakabayashi
今シーズン、ドバイツアーとアブダビツアーで、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)やアルベルト・コンタドール(スペイン)のアシスト役を担い、アルデンヌクラシック、アジア選手権、ツール・ド・ロマンディ、そしてクリテリウム・ドーフィネと、ほぼ休みなくレースをこなしてきた別府史之(トレック・セガフレード)が一時帰国した。

京都・国際会館にて3日間開催された展示会「トレックワールド」前日に帰国し、トークショーや撮影などをこなして最終日にフランスへと戻る過密スケジュール。会場に展示されたシグネチャーモデルのMadone9を背景に話を聞いた。



― 2017年、ここまでのシーズンを振り返っていかがでしたか?

中東での開幕戦からほぼずっとレースをこなしてきました。その中の大一番はやはり全日本選手権ですね。残念ながら2位に終わりましたが、事前から集中してレースに臨んだレースでした。

展示会スケジュールの空き時間には会場周辺をライドしたという展示会スケジュールの空き時間には会場周辺をライドしたという photo:Shojiro.Nakabayashi
― 全日本選手権のレースでは、序盤の登りで苦しそうな表情も見て取れました。

そうですね。キツかった。チームメイトなしで一人で走るとなると、序盤から積極的に動く必要がありました。途中ぐっと気温が上がった時に頭がクラッとしてしまった。そこで遅れを取ってしまったんです。そのあと気温が下がって、また脚が動きだして、集団を追走して追いついたのですが、そこで脚を使ってしまったのが痛かった。畑中選手が逃げてから集団に戻って1対11になったのですが、いくらなんでも追いつくだろうと思っていたけれど、組織的に追う体制が取れなかった。終盤、3人(別府、入部正太朗、西村大輝)で飛び出したものの落車をしてしまい、追いつくかもしれないという希望を失ってしまった。

― 全日本では「若手に対して自分の走りを見せたい」と語っていたのが印象的でした。

(その部分を)分かってくれたかな、と思いますね。これがプライド、プロの走りだぞ、と。海外で戦うには、常にこういう心構えでないといけないんです。例えば機材やコンディショニングなど、最近の若い選手は結果に対してああだこうだと言い訳が多くなってきていると感じています。

でもレースってそういうものじゃない。前で展開して走ることが必要なんです。あと全日本では選手として単独だったけれど、メカもマッサーも監督も、そしてファンの皆さんもいてくれた。そういうサポートがある中では結果を出さなくてはいけないし、それって若い選手たちがあまり意識していないことだと思うんですよね。もっと自分自身の走りに責任を持つ必要があるんです。

「全日本選手権はキツかった」写真は先頭集団を追走中のシーン「全日本選手権はキツかった」写真は先頭集団を追走中のシーン Photo:Satoru Katoゴール後にファンサービスする別府史之(トレック・セガフレード)ゴール後にファンサービスする別府史之(トレック・セガフレード) Photo:Satoru Kato


もちろんワールドツアーチームに所属している自分としては勝たなくてはならなかった。そういう立場の違いってものは実際にあるんです。勝てればより強いメッセージになったと思いますが、若い選手たちが気付いてくれたことも多かったんじゃないでしょうか。

それと、良い走りをしたなと思った選手に対しては一人一人メッセージを送ったんです。”また見てるから。力強い走りをしてね。頑張ってね。”と。地元レースだったブリヂストンアンカーの石橋学選手や湊選手、西村選手、入部選手などはすごく良い走りをしていました。特に僕が前回出場した3年前の全日本選手権と比べて、入部選手はずっと走りの質が良くなった。成長が嬉しかったですね。

もちろんレースだから駆け引きがあるのですが、正直に言えば、国内のレベルで駆け引きしてる場合じゃなくて、積極的に攻める走りをしなくちゃならない。「負けちゃったから、次頑張ろう」じゃなくて、良いなら良いなりに、悪いなら悪いなりに周りが評価してあげる必要があるんですね。そうすればモチベーションも湧くし、だからこそ僕も頑張った選手に対して一言言いたかったんです。

― 2005年にディスカバリーチャンネル入りして以来、スキル・シマノ、レディオシャック、オリカ・グリーンエッジ、そしてトレック・セガフレードと一貫してトップチームに所属してきました。長年プロトンに籍を置くために必要なことは何ですか?

「キャリアが長いのは、プロとしての生き方も気にしているからだと思います」「キャリアが長いのは、プロとしての生き方も気にしているからだと思います」 photo:Shojiro.Nakabayashi怪我をしない、落車をしない、仕事をしっかりできるといった身体的なポテンシャルがあることかな。そして、当然のこととして、私生活上でチームに迷惑を掛けないことなど、一人の大人として当たり前のことができること。プロトンの中にはヤンチャと言うか、行儀が悪くて辞めさせられる選手も少なくないのです。僕のキャリアが長いのは、プロとしての生き方も気にしているからだと思います。

それから生活拠点がヨーロッパにあることも大きいですよね。自分の場合はビザの取得なども含めて、海外生活習慣に関しても何ら問題がない。ヨーロッパ以外から短期で来る選手は生活習慣にも慣れないし、ビザもない。そういう状態だと不安定だし、結果的に何か問題が出てしまう。自分はフランス拠点でどこでもやっていけるし、言葉もできる。そうするとチームからも「彼は大丈夫」となって、信頼を得ることができるんです。

だからヨーロッパでプロになる上では、アマチュアであってもそういうことを全てこなしていく必要があるし、アマチュアというのはそういうことに慣れていく期間でもあるんです。今は西村選手がトレーニーとしてNIPPOヴィーニファンティーニに在籍していますが、たくさんのことを喋って、いろんなことを吸収してほしいなと思いますね。

強くなりたいなら自分で体験しないと分からないし、そういうチャンスは控えめにして待っていてもダメ。自ら掴み取っていかないと前には進めません。

― 別府選手にとって、自転車の楽しみとは?

僕はもともと、自転車が好きだったというか、人と競い合って駆け引きすることが好きだったんですよ。気持ちで負けたくないし、プライドもある。

でも、ワールドチームという大きな組織内で責を担う上では、自分自身を殺していかなければならないことがほとんど。例えば逃げに乗ったら楽しいけれど、スプリントでも山岳でも、エースがいる場合はそれすら難しい。だから今シーズン楽しかったレースは、自分のレースができたアジア選手権と全日本選手権だけ。プロになる上ではそう言った難しい部分も正直あるのですが、それも乗り越えないといけません。

― 先日、海外メディアに2020年まで走るという記事が掲載されましたね。

走る、じゃなくて、走りたい、というニュアンスの方が正しいでしょうか。今まで13年間プロをやってて、あと2シーズン走ると年齢の半分をヨーロッパで過ごすことになるんです。できたら東京オリンピックで引退できたらいいのかなとは思いますが、まだ先の話です。でも、自国開催の東京オリンピックを狙わない理由はないですよね。

シグネチャーモデルのMadone 9と共に。このバイクで今年のジャパンカップを走る予定だというシグネチャーモデルのMadone 9と共に。このバイクで今年のジャパンカップを走る予定だという photo:Shojiro.Nakabayashi
― ありがとうございました。最後に今シーズンこれからの予定を教えて下さい。

今後はサイクラシックス・ハンブルグ、GPプルエー、まだ未定ではあるものの世界選手権、そしてジャパンカップですね。ジャパンカップは新しいスペシャル塗装の自転車の国内レース披露も兼ねるので、3連覇を目指したいと思っています。バイクはまだレースで乗ってはいないもののも、チームの皆も「スッゲーカッコイイじゃん」と言ってくれるし、ヨーロッパでの反応も良かった。日本でもSNS上で評判が良かったし、レースで使うのが楽しみですね。

text:So.Isobe
photo:Shojiro.Nakabayashi

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