長い1週目を終えて実質的に後半戦に突入したツール。美しい村や城が点在するドルドーニュ地方で再びスプリンターたちが火花を散らしたが、一人だけ「別の惑星」のスピードだった。ツール第10ステージを振り返ります。



バーレーン・メリダのバスから出てきた新城幸也(バーレーン・メリダ)バーレーン・メリダのバスから出てきた新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨヴェールの副賞ぬいぐるみがならぶクイックステップフロアーズのバスマイヨヴェールの副賞ぬいぐるみがならぶクイックステップフロアーズのバス photo:Kei Tsuji / TDWsport
新鋭クライマーとして注目されるギヨーム・マルタン(フランス、ワンティ・グループゴベール)新鋭クライマーとして注目されるギヨーム・マルタン(フランス、ワンティ・グループゴベール) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ペリグーの街をスタートするプロトンペリグーの街をスタートするプロトン photo:Kei Tsuji / TDWsport
休息日にフランス東部から西部まで500km以上の大移動を挟んだため、ツール前半を終えて帰宅した取材陣も多く、逆にツール後半だけ帯同する取材陣が入れ替わりで合流した。スイス国境に近いジュラ山脈を走っていた第9ステージと比べると、建物の形や色を含めた街の様子や生えている草木の種類、岩や土の色が変わったため、何か別のレースが始まったような印象もある。

後半戦突入と同時に観客も多国籍化した。やはりツールの沿道が賑やかになるのは2〜3週目に登場するピレネーやアルプスだ。キャンピングカーの数も徐々に増え、沿道から聞こえてくるフランス語の比率が徐々に下がる。7月も中旬に入り、バカンスシーズンの到来を感じる。

ツールの休息日と第10ステージを迎えたのは1000以上の城が点在すると言われるドルドーニュ県。城に限らず、一帯にはドルドーニュ渓谷に沿って煉瓦色の美しい村が点在しており、第10ステージのコースはそんな村を結ぶように作られた。レース中盤に通過したドンムとベイナックの村は「フランスの最も美しい村(Les plus beaux villages de France)」に指定されている。なお「最も」と言いながらも、指定されている村はフランス全土に155ある。ドルドーニュ県には10村あり、これはアヴェロン県と並んでフランス最多。

ツールを歓迎するドルドーニュ観光局が用意した公式ロゴは、黄色、緑色、赤玉、白色の4色に塗られた牛や山羊、馬のデザイン。それもそのはず、第10ステージはラスコー洞窟まで数キロの位置も通過した。そう、教科書で習ったあの洞窟壁画で世界的に有名なラスコーです。20,000年前にクロマニョン人によって描かれた壁画が残る本物の洞窟は現在保護のため閉鎖されているが、レプリカの洞窟であるラスコー2は一般に公開されている。

ツールを迎えるドルドーニュの公式ロゴは4賞ジャージ色の壁画ツールを迎えるドルドーニュの公式ロゴは4賞ジャージ色の壁画 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ひまわり畑とマイヨジョーヌのクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ひまわり畑とマイヨジョーヌのクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele / TDWsport
観客の中で一人だけ時代が違う観客の中で一人だけ時代が違う photo:Kei Tsuji / TDWsport
ドルドーニュ県らしいレンガ造りの村を通過するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ドルドーニュ県らしいレンガ造りの村を通過するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
すれ違うガチョウとプロトンすれ違うガチョウとプロトン photo:Tim de Waele / TDWsport
歓声を受けて逃げるヨアン・オフルド(フランス、ワンティ・グループゴベール)とエリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ)歓声を受けて逃げるヨアン・オフルド(フランス、ワンティ・グループゴベール)とエリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
逃げに乗ったエリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ)は1995年7月1日生まれの22歳。2015年にトレーニー(研修生)としてエフデジに合流した後、同年ツール・ド・ラヴニールでステージ優勝。2016年7月にこの日と同じドルドーニュ県で行われたツール・ド・ドルドーニュ(エリートナショナルレース)でステージ2勝を飾り、その活躍が目に止まってか同年8月でフォルトゥネオでプロ入りした。ちなみにチームスカイのニコラ・ポルタル監督はツール・ド・ドルドーニュで2001年に山岳賞を獲得。同年アージェードゥーゼールにトレーニーとして合流して翌年プロ契約している。

ステージ敢闘賞はそんな出場選手中最年少のジェスベールの手にわたった。逃げのパートナーであるオフルドは第2ステージで敢闘賞を獲得済み。ジェスベールは「あっという間だった!最年少というコンプレックスはないよ。初めてのツールで初めて逃げに乗り、初めて表彰台に上った。物怖じしないタイプだと思っていたけど、表彰台の裏でフルームやキッテルと挨拶してドキドキした。また表彰台に上りたい」と初々しいコメントを残している。

集団後方でゆったりと走る新城幸也(バーレーン・メリダ)集団後方でゆったりと走る新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
喜びで目を塞ぐマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)喜びで目を塞ぐマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
フィニッシュ後にローラー台でダウンするヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チームスカイ)フィニッシュ後にローラー台でダウンするヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨジョーヌに透けて見えるフルームの文字マイヨジョーヌに透けて見えるフルームの文字 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ステージ敢闘賞を獲得したエリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ)ステージ敢闘賞を獲得したエリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・オスカロ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ベルジュラックは2014年ツールでラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、当時ガーミン・シャープ)がスプリンターたちを7秒差で振り切って独走勝利を飾った場所。現在バーレーン・メリダに所属するナヴァルダスカスは胃腸炎でジロ・デ・イタリアを欠場し、その後検査で見つかった不整脈の影響でレースに出場できない状況が続いている。

ベルジュラックに向かってポジション争いが繰り広げられた集団内では、残り7km地点でナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)が隣を走るクイックステップフロアーズの選手にパンチをお見舞いするシーンがヘリからの空撮で抜かれた。ブアニは残り1km通過後にわざと進路を変えてファビオ・サバティーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)を邪魔する姿も。ブアニには200スイスフランの罰金と総合成績1分のタイムペナルティが与えられている(ステージ6位の成績はキープ)。総合1時間28分20秒遅れから1時間29分20秒遅れになったところで何も変わらないので実質的に単なる罰金で済んでいる。

第1ステージの優勝者(トーマス)も第3ステージの優勝者(サガン)も、そして第4ステージの優勝者(デマール)ももういない。10ステージまでを終えてスプリント5戦4勝のマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)の存在が際立つ。

2位のジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)に「力勝負で彼に勝てる選手はいない。彼だけ別の惑星にいる」と表現され、11位に終わったアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)に「自分の悪いパフォーマンスを恥ずかしく感じる」と言わせたキッテル。そのスプリント中のトップスピードは69.66km/h(向かい風)。3位のディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)はキッテルより速い70.02km/hをマークしているが、スプリント開始のポジションが悪すぎた。

キッテルも決して好位置からのスプリントとは言えなかったが、自分が最も爆発的なパワーを維持できる時間を見定めて、タイミングを最後まで待ってから加速している。ステージ4勝は2013年と2014年に続く3度目。ステージ通算13勝目で、ツァベルやチポッリーニ、マキュアンら通算12勝組を引き離す。翌日もまたキッテルの日となるのか。ピレネーの玄関口ポーにフィニッシュする第11ステージは再びスプリンター向きだ。

text&photo:Kei Tsuji in Bergerac, France

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