2017/05/27(土) - 15:44
ジロが天上界(ドロミテ)から下界(平野)に降りてきた。今大会5つめの山頂フィニッシュを終えてもなお総合上位は接戦。もうはっきり言って誰が勝つのかわからない。第19ステージの現地レポートをお届けします。
水不足を心配してしまうほど今年のジロは雨が降っていない。しかも今のところ最終日まで雨が降る予報も出ていない。雨に降られたステージは1日あったかないかで、しかもぱらついただけで雨とは言えないような雨だった。ここまで1度もレインジャケットを出していないしカメラのレインカバーの出番もない。しかもめちゃくちゃ暑いと言うような日もなく、選手たちにとっては快適な日々が続いている。こんなに乾燥したジロは少なくとも過去10年間で初めて。
オーストリアとの国境の町サンカンディド(ドイツ語名イニヒェン)がジロを迎えた。ここが今大会の最北端であり、振り返ると南イタリアのプーリア州とは同じ国とは思えないような景色が異なる。トレンティーノ=アルト・アディジェ州からフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州に移動する第19ステージはスロベニアの近くも通る。
スロベニアと言えば近年プロトンの中で勢力を伸ばしている国だ。人口200万人ちょっとの国だが、UCIワールドチームには合計12名の選手たちが所属しており、今年のジロにはそのうち6人が出場している。ヤン・ポランツェ(UAEチームエミレーツ)は今大会でステージ優勝を飾っているし、TTスペシャリストとして台頭しているプリモシュ・ログリッチェ(ロットNLユンボ)もスロベニア出身。また、スロベニア人のチームスタッフも目を見張るほど多く、ソワニエとして多くのチームで活躍中だ。ヨーロッパ諸国の中ではあまり日本に馴染みのない国だが、ロードレースにおいては一大勢力となっている。スタッフの数で言うとバスク人も本当に多い。
日本人はと言うと、今大会フルで帯同しているフォトグラファーは砂田弓弦さん(yuzurusunada.com)と飯島美和さん(CorVos)と自分(TDWsport/シクロワイアード)の3名で、選手が出場していない国としては多いほう。チームスタッフとしてはチームスカイのマサさんこと宮島正典マッサーも帯同しているが、連日ホテル先回り係を担当されているので会場で顔をあわせることがないのがとても寂しい。
昨日お伝えした総合トップ3の舌戦は第19ステージの朝に和解した。出走サイン台横のインタビューブースでトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が笑顔で握手。そこでどんな会話が交わされたのかは明らかになっていないが、ニーバリのジェスチャーは「メディアはいつも派手に書き上げる」と言いたげにも見えた。デュムランはイタリア語をほとんど話せないため両者の会話は英語だ。
ジロも終盤に入ってリラックスしている選手も増えているが逆にピリピリしている選手も多く、この日はエウジェニオ・アラファーチ(イタリア、トレック・セガフレード)が割り込んできたローリー・スザーランド(スペイン、モビスター)に腹を立ててボトルを投げつけるシーンが国際映像に映し出された。失格処分が与えられるのではないかとプレスセンターではささやかれたが、アラファーチは200スイスフランの罰金と1分のタイムペナルティで済んでいる。
この日のコミュニケには、他にも、バイクのナンバープレートと背中のゼッケンが不明瞭だった3選手に100スイスフラン、チームカーに掴まった3選手に50スイスフラン、コミッセールの指示に従わなかったモビスターのアリエッタ監督とバーレーン・メリダのヴォルピ監督に200スイスフランなどの罰金が並ぶ。ちなみに罰則が少ないチームに与えられるジロ独自のフェアプレー賞のトップはディメンションデータで、最下位は失格者(モレーノ)を出してしまったバーレーン・メリダ。
罰則と言えば、ヤングライダー賞争いを繰り広げているボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)は第18ステージでチームカーを風除けに使ったとしてポイント賞の5ポイント減点と50スイスフランの罰金、そして10秒のタイムペナルティを受けている。現在ユンゲルスはアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)から28秒遅れのヤングライダー賞2位。最終個人タイムトライアルで挽回するとみられているが、この10秒ロスが尾をひくかもしれない。
不運続きのチームスカイに待ち焦がれていたステージ優勝が最終日の前々日にようやくやってきた。ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)の表彰を一目見ようと、チームスタッフだけでなくチオーニ監督やブライルスフォードGMまで表彰台の前に集結。スプマンテを開ける姿に、皆で両手を挙げて喜んでいた。2年連続総合エースを失ったチームスカイが、2年連続後半の山岳ステージで優勝。昨年はミケル・ニエベ(スペイン)が第13ステージで優勝し、最終的にマリアアッズーラを獲得している。偶然か必然か、ニエベの勝利もランダの勝利もフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のステージだ。
ランダは最後の1級山岳ピアンカヴァッロの最も勾配のあるタイミングでアタックした際、386Wを3分26秒間にわたって出力している(体重60kg)。ついで数字を並べると、ライバルたちに先行を許したトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)は、最後の7分24秒間にわたって407Wを出力(体重71kg)。単純に比較はできないが、第14ステージの1級山岳オローパでキンタナを追走した時は2分31秒間にわたって468Wを出している。
最後に、印象的なのがニーバリの勢いだ。この日はライバルたちを振り切ることができず、逆にピノからタイムを失う結果になったものの、ニーバリの逆転をイタリア人たちは夢見ている。何しろニーバリにはジロのラスト3日間で全てをひっくり返した前例がある。昨年のジロ、第18ステージを終えた時点で4分43秒遅れの総合4位につけていたニーバリは、イタリア国内のバッシングとも言える強い風当たりをはねのけ、第19ステージで優勝して総合2位にジャンプアップ。さらに第20ステージでアタックを成功させて総合首位に立ち、マリアローザを着て最終日を迎えている。
最終日の平坦な個人タイムトライアルに不安を抱えるマリアローザのキンタナに対し、総合2位/38秒遅れのデュムラン、総合3位/43秒遅れのニーバリ、総合4位/53秒遅れのピノはTTが得意。現在の1分以内の差であれば、総合2位〜4位の3名は最終日に逆転を十分に狙うことができる。つまりキンタナがマリアローザを最後まで守りぬくためには、第20ステージで自ら仕掛けてライバルからリードを奪う必要がある。現状を踏まえてニーバリは「これは数秒差でマリアローザが決まるパターン」と接戦を予想する。デュムランについては、主催者が用意するマリアローザのスキンスーツではなく、オフシーズンから開発やフィッティングに時間をかけてきたチームのスキンスーツを着たほうが速く走れるとの声もある。
第20ステージのフィニッシュは1級山岳の15km先に置かれているのが肝で、単純なヒルクライム能力では勝負が決まらない。台本を書いた人がいるのなら探し出して、美味しいワインでも飲みながら一晩語り尽くしたいほどマリアローザ争いが面白い。ここまでの接戦はそう見れるもんじゃない。
text&photo:Kei Tsuji in Piancavallo, Italy
水不足を心配してしまうほど今年のジロは雨が降っていない。しかも今のところ最終日まで雨が降る予報も出ていない。雨に降られたステージは1日あったかないかで、しかもぱらついただけで雨とは言えないような雨だった。ここまで1度もレインジャケットを出していないしカメラのレインカバーの出番もない。しかもめちゃくちゃ暑いと言うような日もなく、選手たちにとっては快適な日々が続いている。こんなに乾燥したジロは少なくとも過去10年間で初めて。
オーストリアとの国境の町サンカンディド(ドイツ語名イニヒェン)がジロを迎えた。ここが今大会の最北端であり、振り返ると南イタリアのプーリア州とは同じ国とは思えないような景色が異なる。トレンティーノ=アルト・アディジェ州からフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州に移動する第19ステージはスロベニアの近くも通る。
スロベニアと言えば近年プロトンの中で勢力を伸ばしている国だ。人口200万人ちょっとの国だが、UCIワールドチームには合計12名の選手たちが所属しており、今年のジロにはそのうち6人が出場している。ヤン・ポランツェ(UAEチームエミレーツ)は今大会でステージ優勝を飾っているし、TTスペシャリストとして台頭しているプリモシュ・ログリッチェ(ロットNLユンボ)もスロベニア出身。また、スロベニア人のチームスタッフも目を見張るほど多く、ソワニエとして多くのチームで活躍中だ。ヨーロッパ諸国の中ではあまり日本に馴染みのない国だが、ロードレースにおいては一大勢力となっている。スタッフの数で言うとバスク人も本当に多い。
日本人はと言うと、今大会フルで帯同しているフォトグラファーは砂田弓弦さん(yuzurusunada.com)と飯島美和さん(CorVos)と自分(TDWsport/シクロワイアード)の3名で、選手が出場していない国としては多いほう。チームスタッフとしてはチームスカイのマサさんこと宮島正典マッサーも帯同しているが、連日ホテル先回り係を担当されているので会場で顔をあわせることがないのがとても寂しい。
昨日お伝えした総合トップ3の舌戦は第19ステージの朝に和解した。出走サイン台横のインタビューブースでトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が笑顔で握手。そこでどんな会話が交わされたのかは明らかになっていないが、ニーバリのジェスチャーは「メディアはいつも派手に書き上げる」と言いたげにも見えた。デュムランはイタリア語をほとんど話せないため両者の会話は英語だ。
ジロも終盤に入ってリラックスしている選手も増えているが逆にピリピリしている選手も多く、この日はエウジェニオ・アラファーチ(イタリア、トレック・セガフレード)が割り込んできたローリー・スザーランド(スペイン、モビスター)に腹を立ててボトルを投げつけるシーンが国際映像に映し出された。失格処分が与えられるのではないかとプレスセンターではささやかれたが、アラファーチは200スイスフランの罰金と1分のタイムペナルティで済んでいる。
この日のコミュニケには、他にも、バイクのナンバープレートと背中のゼッケンが不明瞭だった3選手に100スイスフラン、チームカーに掴まった3選手に50スイスフラン、コミッセールの指示に従わなかったモビスターのアリエッタ監督とバーレーン・メリダのヴォルピ監督に200スイスフランなどの罰金が並ぶ。ちなみに罰則が少ないチームに与えられるジロ独自のフェアプレー賞のトップはディメンションデータで、最下位は失格者(モレーノ)を出してしまったバーレーン・メリダ。
罰則と言えば、ヤングライダー賞争いを繰り広げているボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)は第18ステージでチームカーを風除けに使ったとしてポイント賞の5ポイント減点と50スイスフランの罰金、そして10秒のタイムペナルティを受けている。現在ユンゲルスはアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)から28秒遅れのヤングライダー賞2位。最終個人タイムトライアルで挽回するとみられているが、この10秒ロスが尾をひくかもしれない。
不運続きのチームスカイに待ち焦がれていたステージ優勝が最終日の前々日にようやくやってきた。ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)の表彰を一目見ようと、チームスタッフだけでなくチオーニ監督やブライルスフォードGMまで表彰台の前に集結。スプマンテを開ける姿に、皆で両手を挙げて喜んでいた。2年連続総合エースを失ったチームスカイが、2年連続後半の山岳ステージで優勝。昨年はミケル・ニエベ(スペイン)が第13ステージで優勝し、最終的にマリアアッズーラを獲得している。偶然か必然か、ニエベの勝利もランダの勝利もフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のステージだ。
ランダは最後の1級山岳ピアンカヴァッロの最も勾配のあるタイミングでアタックした際、386Wを3分26秒間にわたって出力している(体重60kg)。ついで数字を並べると、ライバルたちに先行を許したトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)は、最後の7分24秒間にわたって407Wを出力(体重71kg)。単純に比較はできないが、第14ステージの1級山岳オローパでキンタナを追走した時は2分31秒間にわたって468Wを出している。
最後に、印象的なのがニーバリの勢いだ。この日はライバルたちを振り切ることができず、逆にピノからタイムを失う結果になったものの、ニーバリの逆転をイタリア人たちは夢見ている。何しろニーバリにはジロのラスト3日間で全てをひっくり返した前例がある。昨年のジロ、第18ステージを終えた時点で4分43秒遅れの総合4位につけていたニーバリは、イタリア国内のバッシングとも言える強い風当たりをはねのけ、第19ステージで優勝して総合2位にジャンプアップ。さらに第20ステージでアタックを成功させて総合首位に立ち、マリアローザを着て最終日を迎えている。
最終日の平坦な個人タイムトライアルに不安を抱えるマリアローザのキンタナに対し、総合2位/38秒遅れのデュムラン、総合3位/43秒遅れのニーバリ、総合4位/53秒遅れのピノはTTが得意。現在の1分以内の差であれば、総合2位〜4位の3名は最終日に逆転を十分に狙うことができる。つまりキンタナがマリアローザを最後まで守りぬくためには、第20ステージで自ら仕掛けてライバルからリードを奪う必要がある。現状を踏まえてニーバリは「これは数秒差でマリアローザが決まるパターン」と接戦を予想する。デュムランについては、主催者が用意するマリアローザのスキンスーツではなく、オフシーズンから開発やフィッティングに時間をかけてきたチームのスキンスーツを着たほうが速く走れるとの声もある。
第20ステージのフィニッシュは1級山岳の15km先に置かれているのが肝で、単純なヒルクライム能力では勝負が決まらない。台本を書いた人がいるのなら探し出して、美味しいワインでも飲みながら一晩語り尽くしたいほどマリアローザ争いが面白い。ここまでの接戦はそう見れるもんじゃない。
text&photo:Kei Tsuji in Piancavallo, Italy
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