2017/05/26(金) - 15:01
東アルプス山脈に属する世界遺産ドロミテ(ドロミーティ)の山々をジロが走る。美しい峠道で加熱したデュムラン、キンタナ、ニーバリの三強によるマリアローザ争いはレース後も続いた。ジロ第18ステージの現地レポートをお届けします。
「ここには複雑な歴史があるのよ」と、ホテルのカウンターで日本人フォトグラファーの到着を遅くまで待っていたおばさまが片言のイタリア語で話すように、トレンティーノ=アルト・アディジェ州のボルツァーノ自治県はイタリアであってイタリアではない。オーストリアにまたがるティロルの一部で、公用語はドイツ語(62%)、イタリア語(23%)、ラディン語(4%)の3つ。標識や町の名前は3カ国語併記で、ほとんどの人が学校で習ったイタリア語を話せるものの、極めてドイツ系の文化が強い。フィニッテュ地点の町の名前もイタリア語ではオルティセイだが、ドイツ語でザンクトウルリヒ、ラディン語でウルティジョイと3つある。
もし自分がイタリアでサイクリングツアーを行うのであればトスカーナとドロミテをセレクトする。ドロミテはサイクリストにとって特別な存在であり、ポルドイ峠とガルデーナ峠にセッラ峠とカンポロンゴ峠を組み合わせたループが定番。もちろん東に足を伸ばしてジャウ峠やファルツァレーゴ峠、ヴァルパローラ峠を組み入れてもいい。ボルツァーノとコルティーナ・ダンペッツォの間に広がるドロミテの一帯は、ユネスコ世界遺産にも指定されており、どこを走っても風景にハズレがない。
もちろんレンタカーやレンタルモーターバイクでも結構。ドライブするだけでも最高に気持ちの良い峠が連なっている。自分はまだ経験ないものの冬場のスキーも雪質&ロケーションともに最高らしい。見上げると、そこにはいつも青い空に向かって争うように伸びている垂直の岩山がある。山なんて日本にも腐るほどあると言うなかれ、意識しないと言葉を発することを忘れてしまうこの圧倒的な迫力の山を一度見ておいて損はない。もしこのあたりでサイクリングを計画中でわからないことがあれば相談ください。
コースは137kmと短いのに、第18ステージのスタート時間が特別遅いわけではなかった。それもそのはず、登りと下りしかない獲得標高差4,000mのステージの平均スピードは35km/hほどまでしか上がらず、レース時間も4時間程度かかる。距離の短い山岳ステージはタイムリミットの基準となるステージ優勝時間も短くなるので、グルペット内の選手たちにとっては厄介な存在だ。しかもこの日は序盤から1級山岳ポルドイ峠が登場するので早々にグルペットができた。結果的にこの日のタイムリミットは42分8秒。61名という大きなグルペットが35分55秒遅れでフィニッシュし、165名がレースに残っている。
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)の勝利により、1大会のステージ優勝者の出身国が12カ国になった。オーストリア、ドイツ、コロンビア、スロベニア、スイス、オーストラリア、スペイン、オランダ、イタリア、フランス、アメリカと、一息では言い切れないほどの国が並ぶ。12カ国は歴代最多の数字であり、ジロの国際化を如実に物語っている。アメリカ人選手によるジロ山岳ステージ制覇は1988年のアンディ・ハンプステン以来29年ぶり。BMCレーシングはマリアローザ争いに絡めていないが、今大会ステージ2勝目。
総合にマリアローザ争いから脱落し、その後グランツールの総合争いを断念することを明らかにしていたヴァンガーデレンが息を吹き返した。このグランツールのステージ初優勝で自信を得たヴァンガーデレンは「山岳ステージでキンタナと肩を並べることは難しいかもしれないが、デュムランのような走りはできると思う。過去の教訓からバッドデーをなくすことができれば、まだまだ総合争いに絡むことができると思う」と、再び3週間のステージレースで総合上位を狙うモチベーションを得ている。
難易度5つ星ステージで再びスプリントに敗れて2位になったランダは、マリアアッズーラの首位を独走しているのが救いだ。ランダは山岳賞2位LLサンチェスと81ポイント差で、同3位フライレと85ポイント差。仮に残る3ステージのすべてのカテゴリー山岳を先頭通過すれば130ポイント獲得可能だが、現実的にLLサンチェスやフライレによる逆転は難しいと予想される。総合エースがリタイアし、山岳賞に目標をスイッチするチームスカイの作戦は昨年のデジャブだ。
キンタナとニーバリのマークに徹したデュムランは、総合4位以下の選手たちを追うことはしなかった。その証拠に、1級山岳ポンティヴェスの頂上からフィニッシュラインまでの4km区間の平均出力は342W(7分35秒間)。勝負のかかった終盤にしては低い値を示している。キンタナに至ってはデュムランのスリップストリームに入っただけなので平均出力272W(7分35秒間)しか出していない。デュムランを振り切るのは不可能と踏んで、翌日と翌々日のために力を温存したとも言える。
メディアが煽っている感もあるが、総合トップスリーの争いはレース外にも及んでおり、ギスギスしている。デュムランが「キンタナとニーバリは優勝ではなく僕を蹴落とすことだけに走っていた。そんな走りに徹している彼らが総合表彰台の座を失えばハッピーだ」と批判すると、キンタナは「自分たちは自分たちの作戦に沿って走っているだけ」、ニーバリは「ジロ総合優勝の難しさはよく知っている。調子に乗ってしまうのはわかるけど、デュムランは口を慎むべき」と反論する。レース後の舌戦はあまり聞いていて気持ちの良いものではない。
そんなギトギトのマリアローザ争いよりも見ていてすっきり楽しいのがマリアビアンカ争い。イェーツがユンゲルスから首位を奪うとともに、後ろからフォルモロが追い上げている。イェーツ、ユンゲルス、フォルモロの総合タイム差は1分以内で、総合でも9位、10位、11位。マリアビアンカ争いと総合トップ10争いが同時に繰り広げられていて、互いに切磋琢磨することで徐々にその順位が上がっている。
ジロは残り3ステージ。2つの山岳ステージと1つの個人タイムトライアルを残すのみとなった。翌日は1級山岳ピアンカヴァッロ(全長15.4km/平均7.3%/最大14%)の山頂フィニッシュ。アシスト体制を崩しているサンウェブに対し、再びモビスターとバーレーン・メリダが巻き返しを図ることは間違いない。
text&photo:Kei Tsuji in Ortisei, Italy
「ここには複雑な歴史があるのよ」と、ホテルのカウンターで日本人フォトグラファーの到着を遅くまで待っていたおばさまが片言のイタリア語で話すように、トレンティーノ=アルト・アディジェ州のボルツァーノ自治県はイタリアであってイタリアではない。オーストリアにまたがるティロルの一部で、公用語はドイツ語(62%)、イタリア語(23%)、ラディン語(4%)の3つ。標識や町の名前は3カ国語併記で、ほとんどの人が学校で習ったイタリア語を話せるものの、極めてドイツ系の文化が強い。フィニッテュ地点の町の名前もイタリア語ではオルティセイだが、ドイツ語でザンクトウルリヒ、ラディン語でウルティジョイと3つある。
もし自分がイタリアでサイクリングツアーを行うのであればトスカーナとドロミテをセレクトする。ドロミテはサイクリストにとって特別な存在であり、ポルドイ峠とガルデーナ峠にセッラ峠とカンポロンゴ峠を組み合わせたループが定番。もちろん東に足を伸ばしてジャウ峠やファルツァレーゴ峠、ヴァルパローラ峠を組み入れてもいい。ボルツァーノとコルティーナ・ダンペッツォの間に広がるドロミテの一帯は、ユネスコ世界遺産にも指定されており、どこを走っても風景にハズレがない。
もちろんレンタカーやレンタルモーターバイクでも結構。ドライブするだけでも最高に気持ちの良い峠が連なっている。自分はまだ経験ないものの冬場のスキーも雪質&ロケーションともに最高らしい。見上げると、そこにはいつも青い空に向かって争うように伸びている垂直の岩山がある。山なんて日本にも腐るほどあると言うなかれ、意識しないと言葉を発することを忘れてしまうこの圧倒的な迫力の山を一度見ておいて損はない。もしこのあたりでサイクリングを計画中でわからないことがあれば相談ください。
コースは137kmと短いのに、第18ステージのスタート時間が特別遅いわけではなかった。それもそのはず、登りと下りしかない獲得標高差4,000mのステージの平均スピードは35km/hほどまでしか上がらず、レース時間も4時間程度かかる。距離の短い山岳ステージはタイムリミットの基準となるステージ優勝時間も短くなるので、グルペット内の選手たちにとっては厄介な存在だ。しかもこの日は序盤から1級山岳ポルドイ峠が登場するので早々にグルペットができた。結果的にこの日のタイムリミットは42分8秒。61名という大きなグルペットが35分55秒遅れでフィニッシュし、165名がレースに残っている。
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)の勝利により、1大会のステージ優勝者の出身国が12カ国になった。オーストリア、ドイツ、コロンビア、スロベニア、スイス、オーストラリア、スペイン、オランダ、イタリア、フランス、アメリカと、一息では言い切れないほどの国が並ぶ。12カ国は歴代最多の数字であり、ジロの国際化を如実に物語っている。アメリカ人選手によるジロ山岳ステージ制覇は1988年のアンディ・ハンプステン以来29年ぶり。BMCレーシングはマリアローザ争いに絡めていないが、今大会ステージ2勝目。
総合にマリアローザ争いから脱落し、その後グランツールの総合争いを断念することを明らかにしていたヴァンガーデレンが息を吹き返した。このグランツールのステージ初優勝で自信を得たヴァンガーデレンは「山岳ステージでキンタナと肩を並べることは難しいかもしれないが、デュムランのような走りはできると思う。過去の教訓からバッドデーをなくすことができれば、まだまだ総合争いに絡むことができると思う」と、再び3週間のステージレースで総合上位を狙うモチベーションを得ている。
難易度5つ星ステージで再びスプリントに敗れて2位になったランダは、マリアアッズーラの首位を独走しているのが救いだ。ランダは山岳賞2位LLサンチェスと81ポイント差で、同3位フライレと85ポイント差。仮に残る3ステージのすべてのカテゴリー山岳を先頭通過すれば130ポイント獲得可能だが、現実的にLLサンチェスやフライレによる逆転は難しいと予想される。総合エースがリタイアし、山岳賞に目標をスイッチするチームスカイの作戦は昨年のデジャブだ。
キンタナとニーバリのマークに徹したデュムランは、総合4位以下の選手たちを追うことはしなかった。その証拠に、1級山岳ポンティヴェスの頂上からフィニッシュラインまでの4km区間の平均出力は342W(7分35秒間)。勝負のかかった終盤にしては低い値を示している。キンタナに至ってはデュムランのスリップストリームに入っただけなので平均出力272W(7分35秒間)しか出していない。デュムランを振り切るのは不可能と踏んで、翌日と翌々日のために力を温存したとも言える。
メディアが煽っている感もあるが、総合トップスリーの争いはレース外にも及んでおり、ギスギスしている。デュムランが「キンタナとニーバリは優勝ではなく僕を蹴落とすことだけに走っていた。そんな走りに徹している彼らが総合表彰台の座を失えばハッピーだ」と批判すると、キンタナは「自分たちは自分たちの作戦に沿って走っているだけ」、ニーバリは「ジロ総合優勝の難しさはよく知っている。調子に乗ってしまうのはわかるけど、デュムランは口を慎むべき」と反論する。レース後の舌戦はあまり聞いていて気持ちの良いものではない。
そんなギトギトのマリアローザ争いよりも見ていてすっきり楽しいのがマリアビアンカ争い。イェーツがユンゲルスから首位を奪うとともに、後ろからフォルモロが追い上げている。イェーツ、ユンゲルス、フォルモロの総合タイム差は1分以内で、総合でも9位、10位、11位。マリアビアンカ争いと総合トップ10争いが同時に繰り広げられていて、互いに切磋琢磨することで徐々にその順位が上がっている。
ジロは残り3ステージ。2つの山岳ステージと1つの個人タイムトライアルを残すのみとなった。翌日は1級山岳ピアンカヴァッロ(全長15.4km/平均7.3%/最大14%)の山頂フィニッシュ。アシスト体制を崩しているサンウェブに対し、再びモビスターとバーレーン・メリダが巻き返しを図ることは間違いない。
text&photo:Kei Tsuji in Ortisei, Italy
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