キンタナの落車とデュムランのスポーツマンシップ、カンゲルトの落車リタイア、そしてユンゲルスの活躍。史上11番目に速い平均スピードを記録した第3休息日前の第15ステージの現地レポート。


マリアローザのトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)にタッチマリアローザのトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)にタッチ
ピンクのTシャツがよく似合うピンクのTシャツがよく似合う
この日の帽子・オブ・ザ・デイ(ガゼッタ製)この日の帽子・オブ・ザ・デイ(ガゼッタ製)
右手首を痛めたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)右手首を痛めたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)
第14ステージで落車したアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)は痛めた右手首をテーピングで固定し、ハンドルを握る部分にパッドを入れてスタートにやってきた。すっきりしない表情で「折れてないけど、痛む」と言う。ブレーキなんて握れないんじゃないかと思うような状態だが、しっかりと最前列でスタートしていった。そして難なく最後から3つめのグループでフィニッシュしている。

終盤に大小3つの登りがあるステージは、高速道路で先回りするのも苦労するほど、ハイスピードで展開し続けた。逃げ向きのレイアウトであること、まだステージ優勝を飾っていないチームが13チーム(バーレーン、アージェードゥーゼール、アスタナ、バルディアーニ、キャノンデール、CCC、エフデジ、ガスプロム、カチューシャ、ロットNL、スカイ、トレック、ウィリエール)と多いこと、そして翌日が休息日であることが影響して、納得がいくメンバーの逃げが形成されるまで集団は追い続けた。

ピエモンテ州からロンバルディア州に続く平野を東に向かう選手たちの背後には、標高4,634mのモンテローザをはじめとするアルプス山脈の山々が青空に向かって伸びていた。スイスとの国境に位置するモンテローザは、標高4,810mのモンブランに次いでアルプス第2の標高を誇る。この日も気温は30度近くまで上昇する陽気で、この時期にしては例年よりも山々を覆う雪が少ない印象。標高のある峠が連続する大会最終週も比較的温暖で好天の予報が出ており、今のところコース変更などの心配はなさそうだ。

標高4,634mのモンテローザを背にハイスピードで進む標高4,634mのモンテローザを背にハイスピードで進む
マリアローザを着て第15ステージを走るトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)マリアローザを着て第15ステージを走るトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)
フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)を含む逃げグループフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)を含む逃げグループ
集めたカードを選定する集めたカードを選定する
2級山岳ミラコロ・サンサルヴァトーレと3級山岳セルヴィーノを越え、丘の上のベルガモアルタ(旧市街)を経てベルガモ中心部にフィニッシュするレイアウトはイル・ロンバルディアとほぼ同じ(フィニッシュのレイアウトが少し違う)。そんな中級山岳ステージで、選手たちは46.486km/hという史上11番目(TTを除く)の平均スピードをたたき出した。ちなみに史上最速は2012年大会第18ステージで、平均スピードは驚きの49.429km/h。

スピードが速いことも影響してか、終盤は落車が連続した。残り10kmを切ってから中央分離帯の標識と衝突した総合7位タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)の落車リタイアは、不運続きのアスタナにとって痛手以外のなにものでもない。病院に搬送されたカンゲルトの診断結果は左腕の上腕骨骨折と、右肩の脱臼ならびに骨折。翌日に手術を受けるが、全治まで6〜7ヶ月かかるため2017年シーズン中の復帰は不可能と見られている。

下りでキンタナが落車した際にデュムランが集団の先頭に立ってペースダウンを促したことは、イタリア国内におけるデュムランの評価をグッと上げた。そのおかげでキンタナはタイムを失わずに集団に復帰し、逆にステージ2位のボーナスタイム6秒を獲得している。ブロックハウスで軒並み落車したチームスカイ勢を待たなかったモビスターとは対照的に、イタリアメディアはデュムランの行為をスポーツマンシップと讃えている。

なお、キンタナの落車の際のモビスターのチームカーの動きに対して選手たちから批判が集まっている。下りコーナーで、チームカーが本来止まるべき右側ではなく左側(イタリアは右側通行)に止まったため、あわや後続の選手たちが衝突してさらなる被害が出るところだった。この停車を指しているのかは定かではないが、モビスターのホセルイス・アリエッタ監督は「ルールに反する機材修理」として50スイスフランの罰金を受けている。

ベルガモ・アルタの旧市街に入るプロトンベルガモ・アルタの旧市街に入るプロトン
最後まで粘ったピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)最後まで粘ったピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)
フランコ・ペリツォッティ(イタリア、バーレーン・メリダ)やステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)を先頭に石畳の登りを進むフランコ・ペリツォッティ(イタリア、バーレーン・メリダ)やステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)を先頭に石畳の登りを進む
ベルガモ・アルタの登りをこなすトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)やイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)ベルガモ・アルタの登りをこなすトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)やイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)
観客が集まったベルガモ・アルタの登りをこなすグルペット観客が集まったベルガモ・アルタの登りをこなすグルペット
「安全に走りきることを優先したのでスプリントには絡まなかった」というステージ7位のデュムランのトップスピードが73.1km/h(27秒間548W、最大904W)なので、ステージ優勝を飾ったボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)はそれ以上のスピードでフィニッシュしている。

ユンゲルスは身長189cmという大柄な選手だが、幅40cmという比較的狭いハンドルの愛用者。TT系オールラウンダーとしての資質は本人も認めているところで「自分はウィギンズやデュムランと同じ脚質。でも自分にはもっと経験と成長が必要」と謙遜するが、グランツールでリーダージャージを争う日はそう遠くないかもしれない。

ルクセンブルクは人口57万人(イタリアの約1%)の小国だが、1950年代に活躍したジロ・デ・イタリア2回総合優勝&ツール・ド・フランス総合優勝のシャルリー・ゴールを筆頭に、近年ではキム・キルシェンやシュレク兄弟らの活躍が目立つ。ちなみに引退したシュレク兄弟の弟アンディはルクセンブルクで自転車店を経営する傍ら、ツール・ド・フランス主催者ASOのアンバサダーとして世界各国のイベントに出向いている。兄フランクはマヴィックのアンバサダー的な役職についており、つい先日「シュレクグランフォンド」を開催したばかり。初開催ながらUCIグランフォンドのワールドシリーズに組み込まれ、約1800人の参加者を集めたという。ルクセンブルクからやってきたフォトグラファーのセルジュ・ワルビグ曰く、シュレク兄弟はともに「引退後もうまくやっている」とのこと。

ユンゲルスはシャルリー・ゴールに次ぐ2人目のルクセンブルク人ステージ優勝者となった。クイックステップフロアーズは今大会5勝目でシーズン29勝目。他の追随を許していない。ユンゲルスはまだ24歳で、今大会ここまでの15ステージのうち8ステージがマリアビアンカ対象の若い選手が勝利している。

蛇口から出てくる水道水が冷たく、アルプスの近さを肌で感じるベルガモでジロは最後の休息日を迎える。休息日明けの第16ステージはステルヴィオを実質的に2回登るタッポーネ(クイーンステージ)だ。

グルペット内で登りをこなすフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)グルペット内で登りをこなすフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)

text&photo:Kei Tsuji in Bergamo, Italy

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