2017/05/10(水) - 15:18
休息日を挟んでシチリア島に舞台を移したジロ・デ・イタリア。大会最初の山頂フィニッシュが登場したが、エトナ火山でマリアローザ候補たちによる活発な攻撃は観測されなかった。
ここ数年のナイロ・キンタナ(モビスター)やエステバン・チャベス(オリカ・スコット)らの活躍により、コロンビアでは自転車人気が急上昇しているらしい。これまでは山岳ステージばかりが注目されていたが、平坦ステージでもフェルナンド・ガビリア(クイックステップフロアーズ)が活躍するようになったため、必然的にジロ全体の注目度が上がっているとコロンビアのジャーナリストは言う。また、イタリア在住のコロンビア人も2万人以上いる。そのためコース沿道で振られる旗はイタリア国旗に次いでコロンビア国旗が多い。
コロンビア国内のジロ視聴率も大幅に上昇しているらしく、第1ステージは視聴率11%で、第2ステージは視聴率12%。そしてガビリアが勝利した第3ステージの視聴率は14.4%。これはコロンビア国内だけで206万人がジロを見ていることになる。前年比65%増というから驚きの数字だ。ジロに帯同しているメディアの数もイタリアに次いで多いが、なぜかコロンビアのフォトグラファーはほとんどいない。
エトナ火山はヨーロッパ最大の活火山として知られている。1669年の大噴火では麓の町カターニアで10,000人を超える死者が出ている。現在も活動中で噴煙も観測されるが、近年はそれほど危険な噴火は発生しておらず、直径140kmの広大な山麓には多くの町が点在。フィニッシュラインが引かれた標高1,892mの「五合目」リフージオ・サピエンツァは「避難所(リフージオ)」という名前がついているものの実際は観光地で、土産屋やレストランが立ち並び、山頂に向かって観光用ゴンドラが伸びている。空気は澄んでいるが、巻き上げられた火山灰の影響でどこか埃っぽい。
逃げに乗ったパヴェル・ブラット(ロシア、ガスプロム・ルスヴェロ)は、元TT世界チャンピオンのヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チームスカイ)と同様に、よくジャーナリストたちが「背中に乗せたコップの水をこぼさずに走ることができるタイプ」と表現する上半身が微動だにしない選手。かつてカチューシャやティンコフに所属していたため、ガスプロム・ルスヴェロの中で唯一とも言える英語スピーカーであり、同チームのリーダー的存在だ。
そんなブラットとともに逃げたヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が、勇敢にもエトナ山を単独で登りきった。ポランツェは2015年大会最初の山頂フィニッシュである第5ステージ2級山岳アベトーネでも逃げグループの中から抜け出して勝利している。スロベニア人によるステージ優勝は史上4回目。中東チームの中ではどちらかというとバーレーン・メリダに注目が集まりがちだが、UAEチームエミレーツが先にグランツール初勝利を飾って見せた。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)のアタックにエトナの山肌が歓声に包まれたが、「自分が動けば誰が反応するかを探りたかった」というニーバリは後方の動きを確認してペースを弱めた。結果的にイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)を除いて、牽制続きで大きな動きは起こらず。ガゼッタ紙は「マリアローザ争いがエトナ山で噴火する」という表現を使ったが、噴火活動は微弱だった。
「誰もが強い風を気にしていたし、誰もが全力を出すことを嫌がっていた」と、ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)は状況を説明する。トーマスの残り3kmの平均出力386Wで、ペースが上がった最後の1分間の平均出力は558W。最大出力1079Wを出してステージ3位とボーナスタイムを獲得している。
刺激的なマリアローザ争いを期待するファンの目には、エトナでの比較的平穏な戦いはつまらないものに映ったかもしれない。でもそれには賛否両論がある。2011年大会の第9ステージにエトナが登場した際、ライバルを突き放したアルベルト・コンタドール(スペイン)がステージ優勝を飾るとともにマリアローザを獲得。コンタドールはミラノで閉幕を迎えるまで2週間にわたってまったくライバルを寄せつけない走りでマリアローザを着続けた(その後タイトルは剥奪されたが)。逆に今回はまだ10名以上の選手がマリアローザ争いの壇上に残っており、まだ総合争いはオープンな状態。大会4日目のエトナは総合争いを占うにはタイミングが早すぎた。
開幕4ステージで4人(ペストルベルガー→グライペル→ガビリア→ユンゲルス)がマリアローザを着るのは史上7回目。直近では2011年にピノッティ→カヴェンディッシュ→ミラー→ウェーニングがマリアローザを着まわしている。毎日マリアローザの持ち主を変える記録としては1958年に6人という記録があるが、よほどの大逃げが決まらない限り、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)が第9ステージの1級山岳ブロックハウス山頂フィニッシュまでマリアローザを着続ける可能性が高い。ユンゲルスがチームメイトからマリアローザを引き継ぐのは2年連続。ユンゲルスは2016年ジロを総合6位で終えており、このまま総合上位をキープすれば表彰台が見えてくる。
この日、エトナに向かって位置取りする集団の中ではイザコザが発生した。ハビエル・モレノ(スペイン、バーレーン・メリダ)がディエゴ・ローザ(イタリア、チームスカイ)を手で沿道に押し出すシーンが国際映像に流れ、はじき出されたローザは落車してあわや観客と接触。ローザは怪我を免れたものの、バイク交換を強いられている。
UCIコミッセールはモレノが故意に他の選手に危害を加えたと判断し、レース後に200スイスフランと失格処分を与えることを決めた。バーレーン・メリダはコミッセールの判断を支持しており、「緊迫した状況で起こったことだが、ハビエルの行為は容認できない。被害にあった関係者に謝罪したい」という声明をチームのコープランド代表は出している。モレノも「彼を落車させようといった意思はなかった。彼とチームスカイ、そして自分のチームメイトやスポンサーにも謝罪したい」とコメント。翌日に地元メッシーナに凱旋するニーバリは思わぬ形で山岳アシストを1人失うことになった。
text&photo:Kei Tsuji in Monte Etna, Italy
ここ数年のナイロ・キンタナ(モビスター)やエステバン・チャベス(オリカ・スコット)らの活躍により、コロンビアでは自転車人気が急上昇しているらしい。これまでは山岳ステージばかりが注目されていたが、平坦ステージでもフェルナンド・ガビリア(クイックステップフロアーズ)が活躍するようになったため、必然的にジロ全体の注目度が上がっているとコロンビアのジャーナリストは言う。また、イタリア在住のコロンビア人も2万人以上いる。そのためコース沿道で振られる旗はイタリア国旗に次いでコロンビア国旗が多い。
コロンビア国内のジロ視聴率も大幅に上昇しているらしく、第1ステージは視聴率11%で、第2ステージは視聴率12%。そしてガビリアが勝利した第3ステージの視聴率は14.4%。これはコロンビア国内だけで206万人がジロを見ていることになる。前年比65%増というから驚きの数字だ。ジロに帯同しているメディアの数もイタリアに次いで多いが、なぜかコロンビアのフォトグラファーはほとんどいない。
エトナ火山はヨーロッパ最大の活火山として知られている。1669年の大噴火では麓の町カターニアで10,000人を超える死者が出ている。現在も活動中で噴煙も観測されるが、近年はそれほど危険な噴火は発生しておらず、直径140kmの広大な山麓には多くの町が点在。フィニッシュラインが引かれた標高1,892mの「五合目」リフージオ・サピエンツァは「避難所(リフージオ)」という名前がついているものの実際は観光地で、土産屋やレストランが立ち並び、山頂に向かって観光用ゴンドラが伸びている。空気は澄んでいるが、巻き上げられた火山灰の影響でどこか埃っぽい。
逃げに乗ったパヴェル・ブラット(ロシア、ガスプロム・ルスヴェロ)は、元TT世界チャンピオンのヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チームスカイ)と同様に、よくジャーナリストたちが「背中に乗せたコップの水をこぼさずに走ることができるタイプ」と表現する上半身が微動だにしない選手。かつてカチューシャやティンコフに所属していたため、ガスプロム・ルスヴェロの中で唯一とも言える英語スピーカーであり、同チームのリーダー的存在だ。
そんなブラットとともに逃げたヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が、勇敢にもエトナ山を単独で登りきった。ポランツェは2015年大会最初の山頂フィニッシュである第5ステージ2級山岳アベトーネでも逃げグループの中から抜け出して勝利している。スロベニア人によるステージ優勝は史上4回目。中東チームの中ではどちらかというとバーレーン・メリダに注目が集まりがちだが、UAEチームエミレーツが先にグランツール初勝利を飾って見せた。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)のアタックにエトナの山肌が歓声に包まれたが、「自分が動けば誰が反応するかを探りたかった」というニーバリは後方の動きを確認してペースを弱めた。結果的にイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)を除いて、牽制続きで大きな動きは起こらず。ガゼッタ紙は「マリアローザ争いがエトナ山で噴火する」という表現を使ったが、噴火活動は微弱だった。
「誰もが強い風を気にしていたし、誰もが全力を出すことを嫌がっていた」と、ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)は状況を説明する。トーマスの残り3kmの平均出力386Wで、ペースが上がった最後の1分間の平均出力は558W。最大出力1079Wを出してステージ3位とボーナスタイムを獲得している。
刺激的なマリアローザ争いを期待するファンの目には、エトナでの比較的平穏な戦いはつまらないものに映ったかもしれない。でもそれには賛否両論がある。2011年大会の第9ステージにエトナが登場した際、ライバルを突き放したアルベルト・コンタドール(スペイン)がステージ優勝を飾るとともにマリアローザを獲得。コンタドールはミラノで閉幕を迎えるまで2週間にわたってまったくライバルを寄せつけない走りでマリアローザを着続けた(その後タイトルは剥奪されたが)。逆に今回はまだ10名以上の選手がマリアローザ争いの壇上に残っており、まだ総合争いはオープンな状態。大会4日目のエトナは総合争いを占うにはタイミングが早すぎた。
開幕4ステージで4人(ペストルベルガー→グライペル→ガビリア→ユンゲルス)がマリアローザを着るのは史上7回目。直近では2011年にピノッティ→カヴェンディッシュ→ミラー→ウェーニングがマリアローザを着まわしている。毎日マリアローザの持ち主を変える記録としては1958年に6人という記録があるが、よほどの大逃げが決まらない限り、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)が第9ステージの1級山岳ブロックハウス山頂フィニッシュまでマリアローザを着続ける可能性が高い。ユンゲルスがチームメイトからマリアローザを引き継ぐのは2年連続。ユンゲルスは2016年ジロを総合6位で終えており、このまま総合上位をキープすれば表彰台が見えてくる。
この日、エトナに向かって位置取りする集団の中ではイザコザが発生した。ハビエル・モレノ(スペイン、バーレーン・メリダ)がディエゴ・ローザ(イタリア、チームスカイ)を手で沿道に押し出すシーンが国際映像に流れ、はじき出されたローザは落車してあわや観客と接触。ローザは怪我を免れたものの、バイク交換を強いられている。
UCIコミッセールはモレノが故意に他の選手に危害を加えたと判断し、レース後に200スイスフランと失格処分を与えることを決めた。バーレーン・メリダはコミッセールの判断を支持しており、「緊迫した状況で起こったことだが、ハビエルの行為は容認できない。被害にあった関係者に謝罪したい」という声明をチームのコープランド代表は出している。モレノも「彼を落車させようといった意思はなかった。彼とチームスカイ、そして自分のチームメイトやスポンサーにも謝罪したい」とコメント。翌日に地元メッシーナに凱旋するニーバリは思わぬ形で山岳アシストを1人失うことになった。
text&photo:Kei Tsuji in Monte Etna, Italy
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