2009/11/11(水) - 19:04
おきなわ市民200km2007年覇者、2008年2位の高岡亮寛。優勝候補筆頭と呼ばれ、最高のコンディションで臨みながら武井亨介(FORZA・フォルツァ!)に破れ2位に。緊迫の駆け引きの中、ライバルたちは何を考えながら走っていたのか。
最高のコンディションで
ツールドおきなわはシーズン最後にして最高のレース。例年夏以降エンジンがかかってくる私は、乗鞍をヒルクライム挑戦の集大成として、その後はロードレースに絞って練習。
今年はジャパンカップにもおきなわと同じくらい重きを置いていたが、昨年に続き結果を出せず。落車で身体を痛めたので、おきなわまでの2週間はコンディションを100%の状態に持っていくことに専念。
それが功を奏したか、金曜日の沖縄入り・試走時点でコンディションは完璧に仕上がっていると感じた。
ある程度自分の能力の(現環境での)限界近くまで鍛えると、そこから+5%を達成するのは極めて難しい。一方実力はあってもコンディショニングに失敗すれば-30%はたまた-50%のパフォーマンスに落ちるのはいとも簡単だ。
そういう意味で、少なくとも優勝を狙う土俵には上がれると確信。つまらぬアクシデントだけは起さぬように・巻き込まれぬようにと願いつつレースの日を迎える。
例年とは異なる展開
例年は容認される人数・メンバーによる逃げができた後、メイン集団は落ち着いてサイクリングペースになって普久川ダム以降の上りからの勝負に備える、という展開になる。
しかし今年は違って、本部の半島の時点で決まった逃げは、木祖村2days総合優勝のリー・ロジャース(エスペランス・スタージュ)と輪島のBR1で優勝のアドリエン・カラタユー(フランス)を含む3名。
集団がサイクリングペースになっては危険という共通認識があってか、ペースが落ちない。これは確実に歴代最高タイムのレースになる予感。
サイクリングペースにならずともダム上りの入り口で3名との差は4分以上まで開いたので、やっぱりこの逃げは強い。しかし4分という差は事前に考えていた許容範囲。逃げが序盤からで人数が1-3人ならば2度目のダム上り前で4分なら絶対に追いつけると考えていた。
1回目普久川ダム~まさかの大休憩
いよいよ上りに入りペースが上がる。優勝した一昨年はとにかく限界ギリギリでついていった。昨年は少しだけ余裕があった。今年はかなり余裕。誰がどんなスピードで行っても対応できる、という余裕を持って上れた。
ペースは落ちないが、頂上で逃げと3.5分。思ったより詰まっていないなぁ、という感想。
やはり同様に考える選手が多いのか、1回目のダムが終わってからもペースが落ちない。むしろ一休みのタイミングをついて追走グループを形成しようという動きもあり、集団は活発で速い。私も有力選手を見ながらその動きに同調してみる。全然きつくなく調子はすこぶる良い。
例年よりも集団は小さいようだ。30-40名ほど? 追走の小集団というほどではない。
私はコンディションがいい一方、速いレースになっているので他の選手にとってはきつい展開になっているに違いない。
奥の上りで少し飛び出す形になり後ろを見ながら逃げるが、昨年のように集団が横に広がりお見合いという感じでは全然なく明らかに泳がされている。それを確認したので脚と息を整えながら集団に吸収されるのを待って走っていると・・・
オフィシャルによりレースストップ?!?!?!
チャンピオンレースが国際レースであること。公道を使用させてもらっている以上警察との交通規制に関する厳しい取り決めがあること、チャンピオンレース/市民レースのペースが想定の範囲外(遅い/速い)だったこと。などの事情がきちんと説明されないままに、20-30分のストップを強いられた。
再現不可能と思われるほどに身体を仕上げたし、夏のような天候だし、最高の機材を投入したし、、、1年間の最大の目標としてきたレースに最高の集中力で臨んでいたところ、レースが中断されてしまい、呆然。
再スタートした後にまた同様のテンションに持っていき勝負できるとは到底思えない。本レースに懸けていただけに、このハプニングには参った。これが一年の集大成の結果か...と、シーズンが終わったと思った。
レース再開
大休憩の後、逃げていた3名が先行スタート。4分後に大集団がスタート。
1回目のダムの上り以降で集団がある程度絞られていたので、実際”大集団”とひとくくりに言っても休憩前にはだいぶ差がついていたらしい。そういう意味で公平性はなくなっている。私はこのサバイバルレースで一旦遅れた選手が勝負に絡んでくる事はないので、あまり気にしていないが、ダム~奥の展開にがんばって乗っていた選手にとっては結果的にかなり損をした事になるんだろう。
とりあえず走り出す。
文句・やり場のない怒りで頭の中は一杯で混乱していたが、とりあえず再スタートが切られた。
ということは、この中の誰かが一番でゴールラインを越えて”優勝”の栄誉を勝ち取る。
それを文句並べるだけで、または『休憩でヤル気がなくなった』と言いながら眺めるのは寂しくないか? これは一年の締めくくりだぞ。それでいいのか? そんな自問自答をしながら走り出す。
なんとなく集団前を走る。
シマノドリンキングの白石真吾君が目立ってハイペースを作ろうとする。彼のチームメイト1名、セオの鵜沢君、ファンライドのハシケン、Max Speedの森本さんなども同調。私も入る。あとチームメートの武田さんも。
大集団の先頭を8~10名前後でローテーション。
イナーメ・アイランド信濃山形チームの立ち上げ当初から在籍の武田さんはシクロクロス・トラック・MTB・ロード何でもやる経験豊富なベテラン選手。クリテリウムが一番得意なので、おきなわのようなアップダウン激しいコースはそんなに得意じゃない。
本人の順位を考えたら苦手な山岳を前に脚を温存しつつポジションキープしたいところだが、山に入る前の平地でローテーションに入り、ガンガンにハイペースを作ってくれる。
優勝を狙ってきた私の為に前との差を詰めようと努力してくれている。無言で。
『俺が引くからな!』とか『お前勝てよ!』なんて言葉を交わさなくても、また私から『勝ちたいから、差を詰めたいから協力して!』なんてお願いしなくても(再スタート後はそんな気分ではなかったが)、チームとしてはっきりと意志を持った動きでレースを走ってくれている事がすごく嬉しかった。
そして4分あった差が海岸線を走っただけでダムの上り口の時点で2分40秒に詰まる。これは確実に逃げは吸収される。
3名が逃げ切らない限り、もしくは一度休憩前に遅れた選手が優勝を争わない限り、平等の条件での勝負になる。
やるしかない。チームメートの走りが着火剤となった。
勝負区間
前との差が平地で予想以上に詰まった事もあり、また一度下がったテンションを上げるには少し時間が必要なのか、2回目のダムの上りは遅い。15分ほどの上りで1回目よりも1分以上遅かった。
普久河ダム頂上を先頭付近で通過。逃げはいよいよ射程圏内。まだ集団は絞れていないが、これからの距離とコースを考えると焦りはない。
チームメートにも伝えていた通り、高江への上りから本格的な勝負の開始だ。
下からペースを上げていく。抜け出すのが目的ではなくて勝負の人数を絞るのが目的。一つの上りの半分も行かないくらいで6名に絞られる。ペースを落とさず勝負を決めに行く。
一度先頭交代を促してみたら、FORZAの武井さんがペースを維持してくれる。彼もこのメンバーで決めるという意志でペースを維持してくれる。
上り終わりまできっちりと踏み続けて、6名が完全に抜け出した。ちょうどよい人数だ。武井さん、森本さん、松木さん(SILBEST)、エルドラド小野寺さん、竹芝レーシング清宮さんと、私。
その後ローテーションを回してみても、意志が統一されていてペースは落ちない。
武井さんが一度少し飛び出すが、5名で落ち着いてローテーション回して事なきを得る。武井さんが調子よさそうだ。乗鞍2連覇中の森本さんも非常に安定した走りで強い。
道中逃げていたリー・ロジャースとアドリエン・カラタユーを順次吸収。
ほとんどアタックがかかることもなく6名で進む。市民レースにしては珍しく、極めて無駄のないローテーションでスムーズに進む。後続との差は1~2分?
レース後談だが、好調そうに見えた森本さんだが、後続との差が45秒になった時、これは捕まるかもと思い積極的に引いていたらしい。
私はいいメンバーの逃げでまだまだペースアップできる余裕があるし、仮に捕まってもこの後のコースのきつさを考えると高江でのペースアップ以上のアタックでもう一度勝負することができるので、焦りはなかった。なので比較的呑気に余裕を持って走っていた。武井さんもローテーションは快調に回す。
上りで一度チェーン落ちがあったからか? エルドラドの小野寺さんがいつの間にか遅れる。
代わりに逃げていたカラタユー選手がローテの後ろについて、5名+1名という構成で進む。
・・・余裕を持って走っていたつもりが、平地で脚を攣りかける。ポジションに一考の余地があるのか。平地~上りに入るところが一番辛い。上りでダンシングに切り替えてしまえば大丈夫。なのでだましだまし慎重に走る。
ずっと上りが続いてくれれば...ヒルクライムでは泣かず飛ばずの私だが、不思議とロードレースの上りは得意だ。
最後の補給がある坂は1km弱で、勾配は緩く均一で、カーブもない。
ここで様子を見るべく・また源河前に脚を削るべくペースアップ。私は一発で決めるよりも度重なるペースアップで振り落とす方が得意だから。
かなり余裕を持ってペースアップできたが、ここで竹芝レーシングの清宮さんとカラタユー選手が脱落。勝負は4人に絞られていよいよ源河へ。
ゴールへ
ここが最大の勝負どころであることは誰の目にも明らか。まずは誰が脚を残していて、誰が仕掛けてくるのか様子を見る。
クライマー系の森本さんが引くが全くペースが上がらない。どうやら脚が残ってはいないようだ。
続いてSILBEST松木さんが引くがこちらもペースは上がらない。誰も脚が残っていないならここをまったりと通過してゴール勝負を選ぶ道はない。自分で仕掛けるのみ。
ただ脚の揃った3人対1人ではゴールまでの海岸線で非常に分が悪いので、1人ずつ脱落してもらわなければならない。そう思い先頭でじわっとペースを上げる。以外にもまず森本さんが脱落。
しばらくそのペースで踏んでみる。後ろ2名がなかなか離れない。ただ二人とも限界に近いのは感じるので、決してペースを落とさないで踏み続ける。
こっちもキツくなるが、後ろがきつそうなのも息遣いではっきりと分かる。ここは我慢比べ。優勝を味わいたいのならこのギリギリの限界状態での我慢比べに勝たなければいけない。
キツくなってペースが落ちそうなところで踏ん張り、頂上まで失速しない限りにおいて全力を振り絞り、ペースを少しずつ上げる。
そしてついに単独になった!
しかし...極限での全開走行のなか、逐一後ろを確認していたわけではないが、後続2名がほぼ同時に離れてしまった。。これは大変分が悪い。ゴールまで18km弱のほぼ平地を1対2での追いかけっこをすることになる。
そうならないように決してアタックせずに、あくまでもじわっとしたペースアップで単独になる事を目指したが、お互いの力が拮抗していたのと、ライバルがロードレースを実に戦略的に考えて勝負していたので私の展開には持ち込めなかった。
結局負けはしたが、それは市民レースとは言え比較的高い次元のロードレースだったという事でもあると思う。簡単には勝たせてもらえない。
残った2名が上りで離れたとはいえ強かったので、頂上での差は10~15秒くらい?しかつかなかった。それでもここは逃げるしかないので全力で行く。
下り途中にある上り返しで後ろを見たら二人が迫っている。勢い的に考えて私一人で逃げ切れる脚はもうない。昨年とは違い逃げを諦めて合流して3名でゴールを目指すことに。
海岸線に出る。武井さんが強い。
私はこの時点で完全に脚を攣ってしまった。もう座って強くぺダリングができない。
武井さんの速いペースに正直ついていくのが精いっぱいなのは、ローテーションしていて絶対にばれてしまうな、と思ったほど。あそこでアタックされたら終わっていたかもしれない。それでもアタックされずにすんだのは、皆限界だったからか。もしくは武井さんはゴールまで持ち込めば勝てるという自信があったからだろう。
なんとか千切れないように、ごまかしごまかし一応ローテーションして進む。
橋のちょっとした上りはもう完全に終わっていて、体重移動のダンシングでギリギリやり過ごすのみ。
その後じわーっと上る最後の上りはまだマシで、上るぺダリングに切り替えてしまえばまだ走れる。
ジャスコ手前の最後のちょっとした丘で、ダメもとのアタック。
瞬発力が全くないので、ゴールスプリントするにしてもお互い限界の状態でもがきあう方がまだ可能性がある。
そこでも差はつかず、いよいよ最後の直線へ。
190kmのきついコースを戦い抜いた3名でゴールライン通過の順位を巡ってローテーション回しつつも、牽制をする。
緊張感あふれる最高に楽しい時間。ロードレースって最高だ。
ラスト1km切っていよいよローテも回らなくなり、ゴールスプリントに備える。
駆け出しの勝負では恐らく負けるし、190km走った後では、脚も一度は攣っているので、ロングスプリントもできないので、2番手から勝負するしかない。
ポジショニングはうまく松木さんの後を取れた。後ろは武井さん。
300m切ってもまだいかない。踏み出しで差をつけられない分失速したら完全にアウトなので、トップスピードに乗せてそれを維持できるだけの距離から仕掛けなければならない。それも3番手よりも早くに。
ラスト200mの手前くらいで右から仕掛ける。
松木さんはうまくパスできた。しかしさらに右から武井さんが来た。
ゴールまでの距離が短いので抜かれてスリップストリームに入って追いすがるのが精いっぱいで、武井さんの雄たけびを聞きながら2年連続のがっくりゴール。
完敗。
一緒に戦った仲間を讃え合うという事で、また勝者の余裕で、武井さんは私を持ち上げてくれたが、レースを決める動きの中、道中ローテーションの走り、源河での対処、ゴールスプリントに持ち込む展開力などなど、考えると完敗だった。
武井さんの喜びっぷりは半端じゃなく、このレースに対する意気込みのすごさが伝わってきたが、すごくよく理解できる。
私も一年間の練習の集大成と位置付けていて、このレースに賭ける気持ちの強さでは負けないと思うから。だからこそ一度は大休憩で『もうムリ』と思ったにも関わらず、ゴールに向けてまた踏みなおせた。
今回の1位・2位は、このレースに賭ける意気込みの1位・2位だったんじゃないか、と勝手に思っている。
来年のこの日まで、あと52週間
「市民レースの甲子園」って呼びたいほど、ツールドおきなわは私の中で格別なレース。
家族・練習仲間・チームメート・サプライヤーさん、他大勢の方々の協力で、大変内容の充実したレースで、私の自転車暦での一年を締めくくる事ができた。
2位という結果は仕方ない。レース当日の私を上回るパフォーマンスの選手が1人いたというだけ。だから仕方ない。
もう一度同じコンディション同じレースを走りなおしても、多分武井さんには勝てない。そう思うくらい武井さんは強かったし、自分に足りないモノを感じた。
仕方がないとは言え、1番ではなくて大変悔しいから、あと52週間、再びこの最高の舞台でタイトルを奪還する為にがんばる。
使用機材
フレーム: グラファイトデザイン METEOR SPEED 550mm
ホイール: Lightweight Standard G3 (F16/R20)
タイヤ: Continental Competition Pro Ltd. 22C 空気圧7.3Bar
サドル: Bontrager Inform RXL Sサイズ
コンポ: シマノデュラエースDi2 / SRM Wireless クランク172.5mm
ギア: 53-39/12-23 10S
ボトルケージ: OGK RC-6
ハンドル: Easton SLX 440
ステム: PRO Vibe OS 110
ヘルメット: OGKモストロ
レースウェア: WAVE ONE製 イナーメ・チームジャージ
グローブ/アームカバー: 2XU
シューズ: Specialized S-Works ロードシューズ(2010)
text:高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)
最高のコンディションで
ツールドおきなわはシーズン最後にして最高のレース。例年夏以降エンジンがかかってくる私は、乗鞍をヒルクライム挑戦の集大成として、その後はロードレースに絞って練習。
今年はジャパンカップにもおきなわと同じくらい重きを置いていたが、昨年に続き結果を出せず。落車で身体を痛めたので、おきなわまでの2週間はコンディションを100%の状態に持っていくことに専念。
それが功を奏したか、金曜日の沖縄入り・試走時点でコンディションは完璧に仕上がっていると感じた。
ある程度自分の能力の(現環境での)限界近くまで鍛えると、そこから+5%を達成するのは極めて難しい。一方実力はあってもコンディショニングに失敗すれば-30%はたまた-50%のパフォーマンスに落ちるのはいとも簡単だ。
そういう意味で、少なくとも優勝を狙う土俵には上がれると確信。つまらぬアクシデントだけは起さぬように・巻き込まれぬようにと願いつつレースの日を迎える。
例年とは異なる展開
例年は容認される人数・メンバーによる逃げができた後、メイン集団は落ち着いてサイクリングペースになって普久川ダム以降の上りからの勝負に備える、という展開になる。
しかし今年は違って、本部の半島の時点で決まった逃げは、木祖村2days総合優勝のリー・ロジャース(エスペランス・スタージュ)と輪島のBR1で優勝のアドリエン・カラタユー(フランス)を含む3名。
集団がサイクリングペースになっては危険という共通認識があってか、ペースが落ちない。これは確実に歴代最高タイムのレースになる予感。
サイクリングペースにならずともダム上りの入り口で3名との差は4分以上まで開いたので、やっぱりこの逃げは強い。しかし4分という差は事前に考えていた許容範囲。逃げが序盤からで人数が1-3人ならば2度目のダム上り前で4分なら絶対に追いつけると考えていた。
1回目普久川ダム~まさかの大休憩
いよいよ上りに入りペースが上がる。優勝した一昨年はとにかく限界ギリギリでついていった。昨年は少しだけ余裕があった。今年はかなり余裕。誰がどんなスピードで行っても対応できる、という余裕を持って上れた。
ペースは落ちないが、頂上で逃げと3.5分。思ったより詰まっていないなぁ、という感想。
やはり同様に考える選手が多いのか、1回目のダムが終わってからもペースが落ちない。むしろ一休みのタイミングをついて追走グループを形成しようという動きもあり、集団は活発で速い。私も有力選手を見ながらその動きに同調してみる。全然きつくなく調子はすこぶる良い。
例年よりも集団は小さいようだ。30-40名ほど? 追走の小集団というほどではない。
私はコンディションがいい一方、速いレースになっているので他の選手にとってはきつい展開になっているに違いない。
奥の上りで少し飛び出す形になり後ろを見ながら逃げるが、昨年のように集団が横に広がりお見合いという感じでは全然なく明らかに泳がされている。それを確認したので脚と息を整えながら集団に吸収されるのを待って走っていると・・・
オフィシャルによりレースストップ?!?!?!
チャンピオンレースが国際レースであること。公道を使用させてもらっている以上警察との交通規制に関する厳しい取り決めがあること、チャンピオンレース/市民レースのペースが想定の範囲外(遅い/速い)だったこと。などの事情がきちんと説明されないままに、20-30分のストップを強いられた。
再現不可能と思われるほどに身体を仕上げたし、夏のような天候だし、最高の機材を投入したし、、、1年間の最大の目標としてきたレースに最高の集中力で臨んでいたところ、レースが中断されてしまい、呆然。
再スタートした後にまた同様のテンションに持っていき勝負できるとは到底思えない。本レースに懸けていただけに、このハプニングには参った。これが一年の集大成の結果か...と、シーズンが終わったと思った。
レース再開
大休憩の後、逃げていた3名が先行スタート。4分後に大集団がスタート。
1回目のダムの上り以降で集団がある程度絞られていたので、実際”大集団”とひとくくりに言っても休憩前にはだいぶ差がついていたらしい。そういう意味で公平性はなくなっている。私はこのサバイバルレースで一旦遅れた選手が勝負に絡んでくる事はないので、あまり気にしていないが、ダム~奥の展開にがんばって乗っていた選手にとっては結果的にかなり損をした事になるんだろう。
とりあえず走り出す。
文句・やり場のない怒りで頭の中は一杯で混乱していたが、とりあえず再スタートが切られた。
ということは、この中の誰かが一番でゴールラインを越えて”優勝”の栄誉を勝ち取る。
それを文句並べるだけで、または『休憩でヤル気がなくなった』と言いながら眺めるのは寂しくないか? これは一年の締めくくりだぞ。それでいいのか? そんな自問自答をしながら走り出す。
なんとなく集団前を走る。
シマノドリンキングの白石真吾君が目立ってハイペースを作ろうとする。彼のチームメイト1名、セオの鵜沢君、ファンライドのハシケン、Max Speedの森本さんなども同調。私も入る。あとチームメートの武田さんも。
大集団の先頭を8~10名前後でローテーション。
イナーメ・アイランド信濃山形チームの立ち上げ当初から在籍の武田さんはシクロクロス・トラック・MTB・ロード何でもやる経験豊富なベテラン選手。クリテリウムが一番得意なので、おきなわのようなアップダウン激しいコースはそんなに得意じゃない。
本人の順位を考えたら苦手な山岳を前に脚を温存しつつポジションキープしたいところだが、山に入る前の平地でローテーションに入り、ガンガンにハイペースを作ってくれる。
優勝を狙ってきた私の為に前との差を詰めようと努力してくれている。無言で。
『俺が引くからな!』とか『お前勝てよ!』なんて言葉を交わさなくても、また私から『勝ちたいから、差を詰めたいから協力して!』なんてお願いしなくても(再スタート後はそんな気分ではなかったが)、チームとしてはっきりと意志を持った動きでレースを走ってくれている事がすごく嬉しかった。
そして4分あった差が海岸線を走っただけでダムの上り口の時点で2分40秒に詰まる。これは確実に逃げは吸収される。
3名が逃げ切らない限り、もしくは一度休憩前に遅れた選手が優勝を争わない限り、平等の条件での勝負になる。
やるしかない。チームメートの走りが着火剤となった。
勝負区間
前との差が平地で予想以上に詰まった事もあり、また一度下がったテンションを上げるには少し時間が必要なのか、2回目のダムの上りは遅い。15分ほどの上りで1回目よりも1分以上遅かった。
普久河ダム頂上を先頭付近で通過。逃げはいよいよ射程圏内。まだ集団は絞れていないが、これからの距離とコースを考えると焦りはない。
チームメートにも伝えていた通り、高江への上りから本格的な勝負の開始だ。
下からペースを上げていく。抜け出すのが目的ではなくて勝負の人数を絞るのが目的。一つの上りの半分も行かないくらいで6名に絞られる。ペースを落とさず勝負を決めに行く。
一度先頭交代を促してみたら、FORZAの武井さんがペースを維持してくれる。彼もこのメンバーで決めるという意志でペースを維持してくれる。
上り終わりまできっちりと踏み続けて、6名が完全に抜け出した。ちょうどよい人数だ。武井さん、森本さん、松木さん(SILBEST)、エルドラド小野寺さん、竹芝レーシング清宮さんと、私。
その後ローテーションを回してみても、意志が統一されていてペースは落ちない。
武井さんが一度少し飛び出すが、5名で落ち着いてローテーション回して事なきを得る。武井さんが調子よさそうだ。乗鞍2連覇中の森本さんも非常に安定した走りで強い。
道中逃げていたリー・ロジャースとアドリエン・カラタユーを順次吸収。
ほとんどアタックがかかることもなく6名で進む。市民レースにしては珍しく、極めて無駄のないローテーションでスムーズに進む。後続との差は1~2分?
レース後談だが、好調そうに見えた森本さんだが、後続との差が45秒になった時、これは捕まるかもと思い積極的に引いていたらしい。
私はいいメンバーの逃げでまだまだペースアップできる余裕があるし、仮に捕まってもこの後のコースのきつさを考えると高江でのペースアップ以上のアタックでもう一度勝負することができるので、焦りはなかった。なので比較的呑気に余裕を持って走っていた。武井さんもローテーションは快調に回す。
上りで一度チェーン落ちがあったからか? エルドラドの小野寺さんがいつの間にか遅れる。
代わりに逃げていたカラタユー選手がローテの後ろについて、5名+1名という構成で進む。
・・・余裕を持って走っていたつもりが、平地で脚を攣りかける。ポジションに一考の余地があるのか。平地~上りに入るところが一番辛い。上りでダンシングに切り替えてしまえば大丈夫。なのでだましだまし慎重に走る。
ずっと上りが続いてくれれば...ヒルクライムでは泣かず飛ばずの私だが、不思議とロードレースの上りは得意だ。
最後の補給がある坂は1km弱で、勾配は緩く均一で、カーブもない。
ここで様子を見るべく・また源河前に脚を削るべくペースアップ。私は一発で決めるよりも度重なるペースアップで振り落とす方が得意だから。
かなり余裕を持ってペースアップできたが、ここで竹芝レーシングの清宮さんとカラタユー選手が脱落。勝負は4人に絞られていよいよ源河へ。
ゴールへ
ここが最大の勝負どころであることは誰の目にも明らか。まずは誰が脚を残していて、誰が仕掛けてくるのか様子を見る。
クライマー系の森本さんが引くが全くペースが上がらない。どうやら脚が残ってはいないようだ。
続いてSILBEST松木さんが引くがこちらもペースは上がらない。誰も脚が残っていないならここをまったりと通過してゴール勝負を選ぶ道はない。自分で仕掛けるのみ。
ただ脚の揃った3人対1人ではゴールまでの海岸線で非常に分が悪いので、1人ずつ脱落してもらわなければならない。そう思い先頭でじわっとペースを上げる。以外にもまず森本さんが脱落。
しばらくそのペースで踏んでみる。後ろ2名がなかなか離れない。ただ二人とも限界に近いのは感じるので、決してペースを落とさないで踏み続ける。
こっちもキツくなるが、後ろがきつそうなのも息遣いではっきりと分かる。ここは我慢比べ。優勝を味わいたいのならこのギリギリの限界状態での我慢比べに勝たなければいけない。
キツくなってペースが落ちそうなところで踏ん張り、頂上まで失速しない限りにおいて全力を振り絞り、ペースを少しずつ上げる。
そしてついに単独になった!
しかし...極限での全開走行のなか、逐一後ろを確認していたわけではないが、後続2名がほぼ同時に離れてしまった。。これは大変分が悪い。ゴールまで18km弱のほぼ平地を1対2での追いかけっこをすることになる。
そうならないように決してアタックせずに、あくまでもじわっとしたペースアップで単独になる事を目指したが、お互いの力が拮抗していたのと、ライバルがロードレースを実に戦略的に考えて勝負していたので私の展開には持ち込めなかった。
結局負けはしたが、それは市民レースとは言え比較的高い次元のロードレースだったという事でもあると思う。簡単には勝たせてもらえない。
残った2名が上りで離れたとはいえ強かったので、頂上での差は10~15秒くらい?しかつかなかった。それでもここは逃げるしかないので全力で行く。
下り途中にある上り返しで後ろを見たら二人が迫っている。勢い的に考えて私一人で逃げ切れる脚はもうない。昨年とは違い逃げを諦めて合流して3名でゴールを目指すことに。
海岸線に出る。武井さんが強い。
私はこの時点で完全に脚を攣ってしまった。もう座って強くぺダリングができない。
武井さんの速いペースに正直ついていくのが精いっぱいなのは、ローテーションしていて絶対にばれてしまうな、と思ったほど。あそこでアタックされたら終わっていたかもしれない。それでもアタックされずにすんだのは、皆限界だったからか。もしくは武井さんはゴールまで持ち込めば勝てるという自信があったからだろう。
なんとか千切れないように、ごまかしごまかし一応ローテーションして進む。
橋のちょっとした上りはもう完全に終わっていて、体重移動のダンシングでギリギリやり過ごすのみ。
その後じわーっと上る最後の上りはまだマシで、上るぺダリングに切り替えてしまえばまだ走れる。
ジャスコ手前の最後のちょっとした丘で、ダメもとのアタック。
瞬発力が全くないので、ゴールスプリントするにしてもお互い限界の状態でもがきあう方がまだ可能性がある。
そこでも差はつかず、いよいよ最後の直線へ。
190kmのきついコースを戦い抜いた3名でゴールライン通過の順位を巡ってローテーション回しつつも、牽制をする。
緊張感あふれる最高に楽しい時間。ロードレースって最高だ。
ラスト1km切っていよいよローテも回らなくなり、ゴールスプリントに備える。
駆け出しの勝負では恐らく負けるし、190km走った後では、脚も一度は攣っているので、ロングスプリントもできないので、2番手から勝負するしかない。
ポジショニングはうまく松木さんの後を取れた。後ろは武井さん。
300m切ってもまだいかない。踏み出しで差をつけられない分失速したら完全にアウトなので、トップスピードに乗せてそれを維持できるだけの距離から仕掛けなければならない。それも3番手よりも早くに。
ラスト200mの手前くらいで右から仕掛ける。
松木さんはうまくパスできた。しかしさらに右から武井さんが来た。
ゴールまでの距離が短いので抜かれてスリップストリームに入って追いすがるのが精いっぱいで、武井さんの雄たけびを聞きながら2年連続のがっくりゴール。
完敗。
一緒に戦った仲間を讃え合うという事で、また勝者の余裕で、武井さんは私を持ち上げてくれたが、レースを決める動きの中、道中ローテーションの走り、源河での対処、ゴールスプリントに持ち込む展開力などなど、考えると完敗だった。
武井さんの喜びっぷりは半端じゃなく、このレースに対する意気込みのすごさが伝わってきたが、すごくよく理解できる。
私も一年間の練習の集大成と位置付けていて、このレースに賭ける気持ちの強さでは負けないと思うから。だからこそ一度は大休憩で『もうムリ』と思ったにも関わらず、ゴールに向けてまた踏みなおせた。
今回の1位・2位は、このレースに賭ける意気込みの1位・2位だったんじゃないか、と勝手に思っている。
来年のこの日まで、あと52週間
「市民レースの甲子園」って呼びたいほど、ツールドおきなわは私の中で格別なレース。
家族・練習仲間・チームメート・サプライヤーさん、他大勢の方々の協力で、大変内容の充実したレースで、私の自転車暦での一年を締めくくる事ができた。
2位という結果は仕方ない。レース当日の私を上回るパフォーマンスの選手が1人いたというだけ。だから仕方ない。
もう一度同じコンディション同じレースを走りなおしても、多分武井さんには勝てない。そう思うくらい武井さんは強かったし、自分に足りないモノを感じた。
仕方がないとは言え、1番ではなくて大変悔しいから、あと52週間、再びこの最高の舞台でタイトルを奪還する為にがんばる。
使用機材
フレーム: グラファイトデザイン METEOR SPEED 550mm
ホイール: Lightweight Standard G3 (F16/R20)
タイヤ: Continental Competition Pro Ltd. 22C 空気圧7.3Bar
サドル: Bontrager Inform RXL Sサイズ
コンポ: シマノデュラエースDi2 / SRM Wireless クランク172.5mm
ギア: 53-39/12-23 10S
ボトルケージ: OGK RC-6
ハンドル: Easton SLX 440
ステム: PRO Vibe OS 110
ヘルメット: OGKモストロ
レースウェア: WAVE ONE製 イナーメ・チームジャージ
グローブ/アームカバー: 2XU
シューズ: Specialized S-Works ロードシューズ(2010)
text:高岡亮寛(イナーメ・アイランド信濃山形)
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