激戦区のツール・ド・おきなわ市民レース100kmアンダー39の部で優勝した齋藤和輝さん(多摩ポタ)によるレポート。昨年に続き挑戦したクラスで念願の優勝を果たした。仲間たちと一緒に闘ったことが結果を呼び寄せた。



シーズン中、毎週水曜に実施される「あさめし練」の練習風景シーズン中、毎週水曜に実施される「あさめし練」の練習風景 どちらも自分よりはるか格上の選手に揉まれる練習会なので毎回辛かったが、日に日に地脚がついてくるのがわかった。苦手だったスプリントもコツをつかみ、パンチ力がついた。さらにハムスタースピンのトレーニングで筋膜リリースや臀筋の強化に意識して取り組んだ。

そして迎えた今シーズンだったが、落車や怪我に泣かされた。春先には左膝を5針縫う怪我、夏には右肘を亀裂骨折。そしておきなわ1ヶ月前にはメインバイクのフレームにクラックが入り、セカンドバイクでおきなわを走ることに。体もバイクも万全な状態ではなかった。

さらに、初出場ながらいくつものヒルクライムレースで優勝している超強力なクライマーの宿谷さんが参戦すると知ってからは「入賞するのが関の山では」なんて弱気にもなった。宿谷さんとはあさめし練で何度も走っていたが,一度も勝てたことがなく力の差は歴然としていた。

それでも、「何が起きるか分からないのが分からないのがロードレース」と言い聞かせ、ツール・ド・おきなわを迎えた。

自分は他チームのメンバーと金曜午前に現地入りして、昼から那覇〜南部周辺を軽く流して体を沖縄に慣れさせる。夜にはかくさんも合流し、土曜に名護へ移動。受付前に車でコースを回って、勝負ポイントの確認に行った。特に羽地の下りは入念に。そして名護に戻り、受付を終えてオクマリゾートへ移動。炭水化物を中心に食事をとる。そして早々に就寝してレース当日を迎えた。

市民レース100kmアンダー39のメイン集団 多くの人数が残る市民レース100kmアンダー39のメイン集団 多くの人数が残る photo:Makoto.AYANO
オクマからスタート地点までバスで移動したが,昨夜あまり寝れなかったせいか、2回目のおきなわで緊張感が薄れているせいか、熟睡。スタート地点に着いてからは、アップしたりのんびりしてスタートを待つ。補給食はゼリー2つとジェル1つ、メイタン2RUN1つ。本当はゼリー1つでも良かったけど、勝負ポイントの羽地までは強度は高くないので退屈しないように。

そしていよいよスタート時刻が迫り、整列を始める。スタート1分前、横に並んでいたかくさんに「ありがとう」と一言だけ言って握手を交わす。かくさんには多摩ポタのチームに入ってから、様々な面で助けてもらい、今回も自分のアシストとして出場してもらっていた。自分の成長や不調、怪我も全てをずっと見守り続けてもらい、この日を迎えられたことに感謝した一言だった。

市民レース100km アンダー39 抜けだした3人が先頭で普久川ダムを越える。中央が齋藤和輝さん(多摩ポタ)市民レース100km アンダー39 抜けだした3人が先頭で普久川ダムを越える。中央が齋藤和輝さん(多摩ポタ) photo:Makoto.AYANO
市民レース100kmアンダー39  集団内で走るチームメイトの「かくさん」市民レース100kmアンダー39 集団内で走るチームメイトの「かくさん」 photo:Makoto.AYANOレースが始まった。最初はローリングでゆっくり登る。ローリング解除してもゆっくり。ゆっくりすぎて集団は大きく横いっぱいに広がり、密集状態から抜け出せない状況が続く。でも体は動いてるみたいでなんとか前に出て海岸線のトンネルも前目で安全にクリアした。

東海岸のアップダウンを行く市民100kmアンダー39 のメイン集団東海岸のアップダウンを行く市民100kmアンダー39 のメイン集団 photo:Makoto.AYANO次は普久川の登り。宿谷さんを筆頭とした先頭集団10名ほどが登っていく。自分はマイペースで登り、第2集団の先頭あたり。頂上まで残り2kmくらいのところでちょっとペースアップし、頂上手前で先頭集団にドッキング。下りでは他のカテゴリの選手が割り込んできたり、嫌な雰囲気を感じたので、少し離れて安全に下る。

途中、先頭集団と若干のタイムギャップがあったものの、下りの途中で先頭復帰。そして下りの終わりごろには元ブリヂストンアンカーの選手、清水都貴さんを先頭に第2集団も合流。そして学校坂に。この頃から140kmのカテゴリで千切れた選手が混ざり始める。ここの登りは大して長くなく、後ろにいる方がストレスになるので積極的に前に出て登る。

しかし、登り終わって後からかくさんに「必死に追いついたところなのに俺を千切る気か」とたしなめられる。どうやら危うく自分のアシストを消すところだったらしい...。

市民100kmアンダー39のメイン集団。元アンカーの清水都貴さんと走る齋藤和輝さん(多摩ポタ)とチームメイト市民100kmアンダー39のメイン集団。元アンカーの清水都貴さんと走る齋藤和輝さん(多摩ポタ)とチームメイト photo:Makoto.AYANO
ここで振り返ると集団は去年よりもずいぶんと絞られていて20〜30人程になっていた。それから先はしばらく目立った動きもなく淡々と進む。

市民100kmアンダー39 集団から飛び出した宿谷英男(tamaki bear bell)市民100kmアンダー39 集団から飛び出した宿谷英男(tamaki bear bell) photo:Makoto.AYANO動きがあったのは給水所。宿谷さんがじりじりとペースアップして集団から離れていく。ガツンとしたアタックではないので後ろにつくも集団は続いてこない。ここがターニングポイントだった。一緒に逃げるか、後ろの集団と行くか。

海岸線を行く市民100kmアンダー39のメイン集団海岸線を行く市民100kmアンダー39のメイン集団 photo:Makoto.AYANOいくつかのパターンを想定したが、「集団と行く」ことを選択した。宿谷さんはマークすべき最大の強敵だったが、この地点からは逃げは難しいと考えた。仮に2人で逃げに成功した場合でも、力の差があるため確実にこちらが不利になる。それよりも後ろの集団、チームメイトと追った方が良いと判断。

しかし、慶佐次の登りに入るとタイムギャップが20秒とバイクから聞かされる。もうそんなに差がついたのかと焦り、ペースアップを図る。するとこれがセレクションになり、かくさんを含めて10人ほどに集団が絞られる。ローテーションの弊害となる千切れた市民140kmの選手もいなくなり、良い感じの追走集団が形成される。

しかし、よい感じにローテーションを回しているのに、それでも差は開く一方で、バイクからは38秒差との情報が入る。ここで心が折れた。一番の勝負ポイントとなる羽地に入る前にこの差は絶望的だ。羽地に入ったらクライマーの宿谷さんはさらに差を広げるだろう。羽地までに追いついていなければ勝負にすらならない。逃げに乗らなかった選択は間違いだったのか。

そう考えていると「羽地までは俺が牽く」とかくさんが前に出てくれる。自分は「この差をひっくり返して羽地でいく自信がない」と弱音を吐く。しかし、かくさんは「みんな辛いところだから諦めるな、頑張ろう」と励ましてくれ、そのまま牽きつづけてくれた。

そして勝負ポイントの羽地ダムの麓に。と、ここでやっと宿谷さんを捉えた!あの差を縮めて本当に追いついてくれた。この日一番の驚きだった。一度は気持ちが切れてしまったが、かくさんが繋いでくれた。

羽地ダム登りで4人が抜けだした市民100km アンダー39 羽地ダム登りで4人が抜けだした市民100km アンダー39 photo:Makoto.AYANO
そして羽地の登りに入った途端に集団から数名がアタックを開始する。脚は重かったが、「この勝負の瞬間のためにここまできたんだ」と言い聞かせてアタックに乗る。

ここで自分とLife Rideの岩田さん、バイクタウンの中地さん、RING YOUの国富さんの4人に絞られる。トンネルを抜けて次の登りで岩田さんとさらに2人で抜け出す。羽地の最後の登りで後ろを振り返ると中地さんが粘っている。この後の平坦を考えると3人で逃げた方が得策だ。

羽地ダム頂上付近を岩田靖往(Life Ride)と齋藤 和輝(タマポタ)が2人で逃げる羽地ダム頂上付近を岩田靖往(Life Ride)と齋藤 和輝(タマポタ)が2人で逃げる photo:Makoto.AYANO岩田靖往(Life Ride)と齋藤 和輝(タマポタ)に追いつく中地義一(バイクタウン)岩田靖往(Life Ride)と齋藤 和輝(タマポタ)に追いつく中地義一(バイクタウン) photo:Makoto.AYANO


少しゆるめて合流し、「3人で行くぞ!」と声を張り上げて自分を含め士気を鼓舞する。
下りも踏む。コーナー中でもペダルを擦っても構わず踏み続ける。そして最後の平坦に出る。
ここでバイクから30秒差と告げられる。「行けるぞ!」と声を掛けるも、この平坦は向かい風で逃げには厳しい状況。それでも3人で回して逃げ続ける。

途中15秒差まで縮んだが、残り2kmの頃にはまた30秒差にひらく。この平坦が本当にキツかった。脚が攣りそうだった。残り1km、下ハンに切り替えてスプリントの準備を始める。ゴールが近づくにつれて協調体制から次第に牽制が始まっていく。

3人が横一線のスプリント 勝利を目指してペダルを踏み込む!3人が横一線のスプリント 勝利を目指してペダルを踏み込む! photo:Makoto.AYANO
ゴール前になると自分の中でスイッチが入る。
今までの辛さが一時的に薄くなり、集中していくのが分かる。
残り300mとなり、中地さん、自分、岩田さんの番手。
この位置は理想的。
岩田さんは体つきから登りの方が得意そうだろう。
あとは中地さんをマークできていればスプリントは自分に分がある。
少人数スプリントは今まで何度も何度も練習会で経験してきた。

この番手を嫌ってか中地さんが道いっぱいに蛇行を始める。でも逃がさない。ぴったりと後ろにつく。そして残り100mを切るくらいで、後ろにいた岩田さんが車列から外れてスプリントを始める。と同時に中地さんもスプリントを始める。もう完全に自分の射程圏内だった。

自分もスプリンタースイッチに指をかけて加速していく。大腿四頭筋が攣らないように、慎重に。力を入れて攣らないことを確信したら、全開でもがく。横にいる2人は伸びてこない。自分だけ1車身近く抜ける。そのまま、ゴールラインを越えた!

市民レース100km アンダー39 齋藤 和輝(タマポタ)が優勝市民レース100km アンダー39 齋藤 和輝(タマポタ)が優勝 photo:Hideaki TAKAGI
勝ったんだ!右手を上げて雄たけびを上げる。

でもなぜか勝った実感が湧かない。勝ち慣れていないからなのか、自分が勝ったことが信じられない。
今シーズンは入賞しても2位しかとっていなかった。そもそもレースで1位なんて小さなクリテで一度だけしかなかった。それをシーズン最後に今年最大の目標としていたレースで優勝できるなんて、すぐには信じられなかった。

市民レース100km アンダー39表彰式 齋藤 和輝(タマポタ)が優勝市民レース100km アンダー39表彰式 齋藤 和輝(タマポタ)が優勝 photo:Makoto.AYANOそして、ゴール後はかくさんを待った。
「何位だった!?」開口一番に聞かれた。指を1本立てて「勝った」と伝えた。
「良くやった!!」と力一杯抱きしめられた。この時、自分が優勝したことをやっと実感できた。

今年は度重なる怪我やメインバイクの破損など、想定外のことばかり起こった。それでも自分が勝てたのは色々な要素が重なり、その巡りあわせの結果だと思う。その要素にはおきなわに向けて練習を積み重ねてきたこともあるし、レースの展開に上手く乗れたこともあると思う。その中でも自分が勝てた一番の要因は,このレースを一緒に走った「仲間」がいてくれたことだと思う。他の選手との違いはそこだった。

おきなわの翌週の週末、多摩ポタの仲間たちと祝勝会で盛り上がったおきなわの翌週の週末、多摩ポタの仲間たちと祝勝会で盛り上がった 自分の目標に協力してくれたチームメイトや、こんな自分をずっと応援してくれた人、練習仲間がいたからここまで走れた。この場を借りて感謝を申し上げます。

多摩ポタではポタリング以外でもレーシングメンバー向けにテーマをもった練習会を実施し、レース会場では熱い声援を送ってくて選手を励ましてくれる温かいチームです。こんなチームで走りたい、強くなりたい方、多摩ポタではレースメンバーを随時募集しています。興味のある方はFacebookで多摩ポタのページにお問い合わせください。

【走行データ】
走行時間:3時間5分
走行距離:107km
出力:NP244W、最大775W

【使用機材】
フレーム:CANNONDALE SuperSix Hi-MOD(2011年モデル)
コンポ:SHIMANO ULTEGRA 6870 Di2
ホイール:Fulcrum Racing Speed XLR
タイヤ:Continental Competition

市民レース100km アンダー39 リザルト
1位 齋藤 和輝(多摩ポタ)3:06:04.182
2位 岩田 靖往
3位 中地 義一
4位 左迫間 昭一
5位 加藤 達也
6位 国富 直樹
7位 宿谷 英男
8位 斉藤 義明
9位 大城 宗純
10位 香川 博

市民レース全クラスフォトギャラリー(CW FaceBook)

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