2015/10/31(土) - 09:56
ジャイアントが誇るオールラウンドロード「TCR」シリーズがフルモデルチェンジを果たした。ロードバイクに求められる様々な性能を高次元でバランスさせることを目標に刷新された新型より、驚異的なコストパフォーマンスを誇る自社製カーボンクリンチャーホイール搭載の「TCR ADVANCED PRO 1」をテストする。
ジャイアント不動のレーシングロードバイクであり、同社を世界の一流ブランドへと押し上げたのが「TCR」である。その誕生は1997年のことで、MTBの様にトップチューブが傾けられたフレーム設計は大きな話題となった。この「スローピングフレーム」には、当時多くの懐疑的な意見が寄せられたが、ジャイアントは高品質なものづくりと確かな走行性能に疑念を払拭。その後、数多のブランドが後に続いたことは周知の事実である。
初代で大きな成功を収めたTCRは、その後も絶え間なく進化を続けてきた。2002年モデルではハイエンドモデルにカーボン素材を導入。2009年には基本設計を一新する大幅なモデルチェンジを行い、現行モデルまで継続されているテクノロジーの基礎を確立。2012モデルとして誕生した先代は超大径ステアリングコラムを追加し、運動特性の更なる向上を実現。繰り返しアップデートを施し、TCRは常にその世代のベンチマークとして君臨し続けてきた。
同時にオンセ、T-モバイル、HTCハイロード、ラボバンク、ジャイアント・アルペシンなどその時代の強豪チームがTCRを愛用。デニス・メンショフ(ロシア、当時ラボバンク)によるジロ・デ・イタリア個人総合優勝や、マリアンヌ・フォス(オランダ、ラボバンク・リブ)によるロンドン五輪と2012年世界選手権の女子ロードレースのダブル優勝など、数々の勝利に貢献している。
そんな多くの輝かしい戦歴を経て4年ぶりのフルモデルチェンジを果たした「TCR」。新型の特徴は、開発コンセプト「TOTAL RACE BIKE」の基に、重量剛性比、ハンドリング性能、快適性という3つの性能をトータルで向上させ、高次元でバランスさせたこと。エアロロードのPROPELとエンデュランスモデルのDEFYに対して、オールラウンドモデルとしての立ち位置をより明確なものとした。
全体的に旧型モデルよりも細身になったフォルムは、例えばスプリントを想定してバイクを10°傾けた状態で剛性試験を行ったりと、実際の使用環境を想定した開発プロセスを経て生み出されたもの。大幅な軽量化を遂げた一方で、従来モデルと同水準の剛性レベルはキープし、重量剛性比の大幅な向上に成功。プロユースのハイエンド「ADVANCED SL」とは、素材やシートポストが異なるものの、今回インプレッションする「ADVANCED PRO」でも同様の性能アップを実現している。
ISPデザインではなく別体式とされたシートチューブ及びシートポストには、従来モデルで採用されていた翼断面の「Vector」と、DEFYやTCXに優れた衝撃吸収性をもたらしたD字断面の「D-Fuse」をミックスした「Variant」という新デザインを採用。臼式のシートクランプとあわせて、空力性能を維持しつつ、快適性を高めることに成功した。
従来モデルと比較して大幅にシェイプアップされたトップチューブ及びシートステーは断面形状が長方形から楕円形へと改られ、シートステーの付け根は双胴デザインから、中高構造の一体デザインに。加えて、ヘッドチューブの幅も狭めるなど無駄な部位を徹底的に削ぎ、結果としてフレーム単体で80g減の910gをマーク。
フレームと同様に大幅にシェイプアップされたフロントフォークも、剛性を維持しつつ25g軽量に。ジオメトリーにも手直しが加えられており、ヘッドチューブ長、シート及びヘッドのアングル、ハンガー下がりをサイズごとに調整し、ライディングフィールの最適化を図った。
素材には従来モデルと同じく、台湾のジャイアント本社工場にてハンドメイドされるT700グレードの「Advanced」カーボンを採用。フロントトライアングルを継ぎ目のない1つのピースとして成型し、二次行程でチェーンステーとシートステーと接合する構造も、新型「TCR ADVANCED PRO」の軽さに貢献している。
もちろん、ジャイアントがこれまでに培ってきたテクノロジー達は新型TCRにも。上側1-1/4インチ・下側1-1/2インチの超大径ヘッドチューブ「OVERDRIVE2」により、安定感高いハンドリングフィールを獲得。シェル幅を最大限に拡幅することができるBB86規格の「POWERCORE」ボトムブラケットや、ねじれに対して有利な長方形断面の「MEGADRIVE」ダウンチューブにより、優れた駆動効率を実現している。
今回の試乗車「TCR ADVANCED PRO 1」には、新型TCRの性能を更に引き出すべく開発されたジャイアント製新型クリンチャー/チューブレスホイール「SLR1」がアッセンブルされる。自社生産のリムには業界標準を大きく上回る245℃というガラス遷移温度を持つ高耐熱性レジンを採用し、ブレーキング性能と耐久性を追求。加えて昨今のトレンドに倣い幅広デザインとし、エアロ性能を高めている。
そして、リムと同じく重要な役割を果たしているのが「DBL:Dynamic Balanced Lacing」と名付けられたリア駆動側のスポーキングだ。SLR1が採用するの2:1スポーキングでは、スポークによって掛かる力の方向が異なることから、圧縮力を受けるスポークと引張力を受けるスポークで長さとスポークテンションを変更。これにより回転時のスポークテンションを均一化し、ワイドなフランジ幅とあわせて動剛性の向上を実現している。またリアハブの内部は定評あるDTスイス製ラチェットシステムを内蔵。前後ペアの重量は1,425gと、数あるフルカーボンクリンチャーの中でも軽量だ。
ホイールの他にも、特殊な微粒子を一般的なフォームの代替とすることで点接触を防止し、快適性を高めた新型サドル「CONTACT SL」など、ジャイアントオリジナルのパーツを多数アッセンブル。コンポーネントはシマノULTEGRAをフルセットで採用する。
テストライダーは歴代のTCRと共に国内トップクラスのレースを戦ってきた小室雅成(ウォークライド)と二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)の2名だ。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「高次元でバランスの取れたレーシングバイク これと言った欠点が見当たらない」
小室雅成(ウォークライド)
率直に良いバイクですね。ソフトな乗り味で振動吸収性が良く、特に癖がなくて、高次元でバランスが取れていると感じました。また、軽快感がありながらも直進安定性に優れ、かといってハンドリングが重いということもありません。レースで使いたいなと思わせてくれる1台です。これがミドルグレードというのは少し驚きですし、ハイエンドといわれても何の疑問もありません。ホイール単体も高性能です。
個人的には、これまでジャイアントサポートチームのライダーとして歴代のTCRを乗り継いできました。一時は剛性を追求してチューブ径が太くなり過ぎたこともありましたが、新型は全体的にスリムとなり、見た目にも走行性能的にもだいぶ洗練されてきた感があります。
中にはとても細いトップチューブに不安を覚える方もいるかもしれませんが、意図的に変形させようとハンドルを振っても、変によじれるということはありませんでした。恐らくは、ダウンチューブに剛性を持たせて、前三角としてバランスをとっているのでしょう。
ですから、急勾配の登りでフロントギアをアウターにしてダンシングで走ってみたところ、入力したパワーをロス無く推進力へと変換してくれました。レースで例えるらなば群馬CSCの心臓破りの坂などで、真価を発揮してくれることでしょう。一方で、緩斜面をハイケイデンスで走っても、すっとバイクが前に出てくれます。
加えて、長距離でもストレスを感じないほどの、ショック吸収性も備わっています。性能面では、これといった欠点が見当たらないですね。その分、上位モデルのADVANCED SLにも凄く期待が持てます。さすがは、長年トップカテゴリーのチームと共同開発を続けてきたブランドだなと思わされました。臼式のシートクランプを締めた時に、シートポストに跡がついてしまうのは唯一気になりましたが、ワイヤリングなど細部の造りの仕上げにもそつが無いですね。
そして、ホイールも良くできています。癖が無く、様々なコースやシチュエーションに対応してくれますね。雨天での制動についてはテストできなかったものの、ドライコンディションでの制動力は良好。ブレーキシューとの相性が良いのでしょう。チューブレスタイヤに対応する点も見逃せないポイントです。
カラーリングは好みが別れると思いますが、このパッケージングで350,000円であれば、多くの方が満足できることでしょう。これから登録レースを走ろうという方から入門モデルからグレードアップしたいという方まで幅広くおすすめできる1台です。
「軽さ際立つクライミングバイク ジャイアントらしい乗り味の1台」
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
一にも二にも、軽いというのが第一印象です。従来モデルから大幅な軽量化を果たしたとあり、ヒルクライムバイクとして高いレベルに仕上がっていますね。スローピング設計による重心の低さと車重が相まって、登りでのダンシングはとても軽快。斜度が増し、ダンシングを多用しなくてはならない様なシーンでは持ち前の軽さがより際立ってくることでしょう。
また緩斜面をシッティングでペースを保ちながら走るシーンでは、するするっとバイクが前に出てくれるため、どこまでも登っていける様な感覚があります。重力で後ろに引きづられる様な感覚はありません。平地については、加速にやや物足りなさを感じるものの、巡行性能は充分で、国内トップクラスのレースにも対応可能です。
従来モデルより細身になったフォークもできが良く、見た目とは裏腹に剛性感も充分。ブレーキングした際にフレーム全体がヨレる様なこともありませんし、コーナリングもスムーズにこなすことができました。
また、正しくジャイアントという乗り味も特徴ですね。かつて個人的に所有していた初代TCRに通じるライディングフィールがありました。基本的なコンセプトは良いものとして残し、スローピングのメリットを高めつつ、カーボンやチューブ形状の改良などによってデメリットを打ち消していますね。
先にも述べましたが、キツめのスローピングによる重心の低さと独特の剛性感は、バイクの振りの軽さに大きく貢献しています。一方、スローピングは各チューブが短くなるため、過剛性になりやすいのですが、新型となったTCR ADVANCED PROでは、そういったデメリットをしっかりとクリアできていますね。ガレた道ではの多少の突き上げを感じるのですが、素材と新設計となったシートピラーのおかげか、バイク自体がはねたり、疲労感に繋がるほどではありません。
そして、完成車価格350,000円でフルカーボンのクリンチャーホイール付属と、コストパフォーマンスが非常に高いですし、わざわざ決戦用を用意する必要ないと感じるほどホイール単体の完成度も高いです。完成車にはクリンチャータイヤがアッセンブルされていましたが、チューブレスタイヤが装着されているのではと勘違いさせられてしまうほど転がりが軽く、脚を止めてもスピードが落ちづらい。リム幅が広く空力的にも考えられており、リアのスポーキングも踏み込んだ際の軽さに繋がっています。ブレーキングも突っかかりなく滑らか。完成車で買わないと間違いなく損な1台です。
ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite、VARIANT Composite Seat Pillar
フォーク:Pro-Spec、Advanced-Grade Composite、Full Composite OverDrive 2 Column
コンポーネント:シマノ ULTEGRA
ホイール:ジャイアント SLR1
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
サイズ:425(XS)、445(S)、470(M)、500(ML)mm
重 量:7.0kg(470mm)
カラー:カーボン・シアン
価 格:350,000円(税別)
インプレライダーのプロフィール
小室雅成(ウォークライド)
1971年埼玉生まれ。中学生の時にTVで見たツール・ド・フランスに憧れ、高校生から自転車競技を始める。卒業と同時に渡仏しジュニアクラスで5勝。帰国後は国内に戻りトップ選手の仲間入りを果たす。ハードトレーニングが原因で一時引退するも、12年の休養期間を経て32歳で復活。42歳の際にJプロツアーいわきクリテリウムで優勝を飾って以降も現役を貫いている。国内プロトンでは最も経験豊かな選手の一人。ウォークライド所属。
小室雅成公式サイト
ウォークライド
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。
東京ヴェントス
Punto Ventos
ウェア協力:アソス
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
ジャイアント不動のレーシングロードバイクであり、同社を世界の一流ブランドへと押し上げたのが「TCR」である。その誕生は1997年のことで、MTBの様にトップチューブが傾けられたフレーム設計は大きな話題となった。この「スローピングフレーム」には、当時多くの懐疑的な意見が寄せられたが、ジャイアントは高品質なものづくりと確かな走行性能に疑念を払拭。その後、数多のブランドが後に続いたことは周知の事実である。
初代で大きな成功を収めたTCRは、その後も絶え間なく進化を続けてきた。2002年モデルではハイエンドモデルにカーボン素材を導入。2009年には基本設計を一新する大幅なモデルチェンジを行い、現行モデルまで継続されているテクノロジーの基礎を確立。2012モデルとして誕生した先代は超大径ステアリングコラムを追加し、運動特性の更なる向上を実現。繰り返しアップデートを施し、TCRは常にその世代のベンチマークとして君臨し続けてきた。
同時にオンセ、T-モバイル、HTCハイロード、ラボバンク、ジャイアント・アルペシンなどその時代の強豪チームがTCRを愛用。デニス・メンショフ(ロシア、当時ラボバンク)によるジロ・デ・イタリア個人総合優勝や、マリアンヌ・フォス(オランダ、ラボバンク・リブ)によるロンドン五輪と2012年世界選手権の女子ロードレースのダブル優勝など、数々の勝利に貢献している。
そんな多くの輝かしい戦歴を経て4年ぶりのフルモデルチェンジを果たした「TCR」。新型の特徴は、開発コンセプト「TOTAL RACE BIKE」の基に、重量剛性比、ハンドリング性能、快適性という3つの性能をトータルで向上させ、高次元でバランスさせたこと。エアロロードのPROPELとエンデュランスモデルのDEFYに対して、オールラウンドモデルとしての立ち位置をより明確なものとした。
全体的に旧型モデルよりも細身になったフォルムは、例えばスプリントを想定してバイクを10°傾けた状態で剛性試験を行ったりと、実際の使用環境を想定した開発プロセスを経て生み出されたもの。大幅な軽量化を遂げた一方で、従来モデルと同水準の剛性レベルはキープし、重量剛性比の大幅な向上に成功。プロユースのハイエンド「ADVANCED SL」とは、素材やシートポストが異なるものの、今回インプレッションする「ADVANCED PRO」でも同様の性能アップを実現している。
ISPデザインではなく別体式とされたシートチューブ及びシートポストには、従来モデルで採用されていた翼断面の「Vector」と、DEFYやTCXに優れた衝撃吸収性をもたらしたD字断面の「D-Fuse」をミックスした「Variant」という新デザインを採用。臼式のシートクランプとあわせて、空力性能を維持しつつ、快適性を高めることに成功した。
従来モデルと比較して大幅にシェイプアップされたトップチューブ及びシートステーは断面形状が長方形から楕円形へと改られ、シートステーの付け根は双胴デザインから、中高構造の一体デザインに。加えて、ヘッドチューブの幅も狭めるなど無駄な部位を徹底的に削ぎ、結果としてフレーム単体で80g減の910gをマーク。
フレームと同様に大幅にシェイプアップされたフロントフォークも、剛性を維持しつつ25g軽量に。ジオメトリーにも手直しが加えられており、ヘッドチューブ長、シート及びヘッドのアングル、ハンガー下がりをサイズごとに調整し、ライディングフィールの最適化を図った。
素材には従来モデルと同じく、台湾のジャイアント本社工場にてハンドメイドされるT700グレードの「Advanced」カーボンを採用。フロントトライアングルを継ぎ目のない1つのピースとして成型し、二次行程でチェーンステーとシートステーと接合する構造も、新型「TCR ADVANCED PRO」の軽さに貢献している。
もちろん、ジャイアントがこれまでに培ってきたテクノロジー達は新型TCRにも。上側1-1/4インチ・下側1-1/2インチの超大径ヘッドチューブ「OVERDRIVE2」により、安定感高いハンドリングフィールを獲得。シェル幅を最大限に拡幅することができるBB86規格の「POWERCORE」ボトムブラケットや、ねじれに対して有利な長方形断面の「MEGADRIVE」ダウンチューブにより、優れた駆動効率を実現している。
今回の試乗車「TCR ADVANCED PRO 1」には、新型TCRの性能を更に引き出すべく開発されたジャイアント製新型クリンチャー/チューブレスホイール「SLR1」がアッセンブルされる。自社生産のリムには業界標準を大きく上回る245℃というガラス遷移温度を持つ高耐熱性レジンを採用し、ブレーキング性能と耐久性を追求。加えて昨今のトレンドに倣い幅広デザインとし、エアロ性能を高めている。
そして、リムと同じく重要な役割を果たしているのが「DBL:Dynamic Balanced Lacing」と名付けられたリア駆動側のスポーキングだ。SLR1が採用するの2:1スポーキングでは、スポークによって掛かる力の方向が異なることから、圧縮力を受けるスポークと引張力を受けるスポークで長さとスポークテンションを変更。これにより回転時のスポークテンションを均一化し、ワイドなフランジ幅とあわせて動剛性の向上を実現している。またリアハブの内部は定評あるDTスイス製ラチェットシステムを内蔵。前後ペアの重量は1,425gと、数あるフルカーボンクリンチャーの中でも軽量だ。
ホイールの他にも、特殊な微粒子を一般的なフォームの代替とすることで点接触を防止し、快適性を高めた新型サドル「CONTACT SL」など、ジャイアントオリジナルのパーツを多数アッセンブル。コンポーネントはシマノULTEGRAをフルセットで採用する。
テストライダーは歴代のTCRと共に国内トップクラスのレースを戦ってきた小室雅成(ウォークライド)と二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)の2名だ。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「高次元でバランスの取れたレーシングバイク これと言った欠点が見当たらない」
小室雅成(ウォークライド)
率直に良いバイクですね。ソフトな乗り味で振動吸収性が良く、特に癖がなくて、高次元でバランスが取れていると感じました。また、軽快感がありながらも直進安定性に優れ、かといってハンドリングが重いということもありません。レースで使いたいなと思わせてくれる1台です。これがミドルグレードというのは少し驚きですし、ハイエンドといわれても何の疑問もありません。ホイール単体も高性能です。
個人的には、これまでジャイアントサポートチームのライダーとして歴代のTCRを乗り継いできました。一時は剛性を追求してチューブ径が太くなり過ぎたこともありましたが、新型は全体的にスリムとなり、見た目にも走行性能的にもだいぶ洗練されてきた感があります。
中にはとても細いトップチューブに不安を覚える方もいるかもしれませんが、意図的に変形させようとハンドルを振っても、変によじれるということはありませんでした。恐らくは、ダウンチューブに剛性を持たせて、前三角としてバランスをとっているのでしょう。
ですから、急勾配の登りでフロントギアをアウターにしてダンシングで走ってみたところ、入力したパワーをロス無く推進力へと変換してくれました。レースで例えるらなば群馬CSCの心臓破りの坂などで、真価を発揮してくれることでしょう。一方で、緩斜面をハイケイデンスで走っても、すっとバイクが前に出てくれます。
加えて、長距離でもストレスを感じないほどの、ショック吸収性も備わっています。性能面では、これといった欠点が見当たらないですね。その分、上位モデルのADVANCED SLにも凄く期待が持てます。さすがは、長年トップカテゴリーのチームと共同開発を続けてきたブランドだなと思わされました。臼式のシートクランプを締めた時に、シートポストに跡がついてしまうのは唯一気になりましたが、ワイヤリングなど細部の造りの仕上げにもそつが無いですね。
そして、ホイールも良くできています。癖が無く、様々なコースやシチュエーションに対応してくれますね。雨天での制動についてはテストできなかったものの、ドライコンディションでの制動力は良好。ブレーキシューとの相性が良いのでしょう。チューブレスタイヤに対応する点も見逃せないポイントです。
カラーリングは好みが別れると思いますが、このパッケージングで350,000円であれば、多くの方が満足できることでしょう。これから登録レースを走ろうという方から入門モデルからグレードアップしたいという方まで幅広くおすすめできる1台です。
「軽さ際立つクライミングバイク ジャイアントらしい乗り味の1台」
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
一にも二にも、軽いというのが第一印象です。従来モデルから大幅な軽量化を果たしたとあり、ヒルクライムバイクとして高いレベルに仕上がっていますね。スローピング設計による重心の低さと車重が相まって、登りでのダンシングはとても軽快。斜度が増し、ダンシングを多用しなくてはならない様なシーンでは持ち前の軽さがより際立ってくることでしょう。
また緩斜面をシッティングでペースを保ちながら走るシーンでは、するするっとバイクが前に出てくれるため、どこまでも登っていける様な感覚があります。重力で後ろに引きづられる様な感覚はありません。平地については、加速にやや物足りなさを感じるものの、巡行性能は充分で、国内トップクラスのレースにも対応可能です。
従来モデルより細身になったフォークもできが良く、見た目とは裏腹に剛性感も充分。ブレーキングした際にフレーム全体がヨレる様なこともありませんし、コーナリングもスムーズにこなすことができました。
また、正しくジャイアントという乗り味も特徴ですね。かつて個人的に所有していた初代TCRに通じるライディングフィールがありました。基本的なコンセプトは良いものとして残し、スローピングのメリットを高めつつ、カーボンやチューブ形状の改良などによってデメリットを打ち消していますね。
先にも述べましたが、キツめのスローピングによる重心の低さと独特の剛性感は、バイクの振りの軽さに大きく貢献しています。一方、スローピングは各チューブが短くなるため、過剛性になりやすいのですが、新型となったTCR ADVANCED PROでは、そういったデメリットをしっかりとクリアできていますね。ガレた道ではの多少の突き上げを感じるのですが、素材と新設計となったシートピラーのおかげか、バイク自体がはねたり、疲労感に繋がるほどではありません。
そして、完成車価格350,000円でフルカーボンのクリンチャーホイール付属と、コストパフォーマンスが非常に高いですし、わざわざ決戦用を用意する必要ないと感じるほどホイール単体の完成度も高いです。完成車にはクリンチャータイヤがアッセンブルされていましたが、チューブレスタイヤが装着されているのではと勘違いさせられてしまうほど転がりが軽く、脚を止めてもスピードが落ちづらい。リム幅が広く空力的にも考えられており、リアのスポーキングも踏み込んだ際の軽さに繋がっています。ブレーキングも突っかかりなく滑らか。完成車で買わないと間違いなく損な1台です。
ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite、VARIANT Composite Seat Pillar
フォーク:Pro-Spec、Advanced-Grade Composite、Full Composite OverDrive 2 Column
コンポーネント:シマノ ULTEGRA
ホイール:ジャイアント SLR1
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
サイズ:425(XS)、445(S)、470(M)、500(ML)mm
重 量:7.0kg(470mm)
カラー:カーボン・シアン
価 格:350,000円(税別)
インプレライダーのプロフィール
小室雅成(ウォークライド)
1971年埼玉生まれ。中学生の時にTVで見たツール・ド・フランスに憧れ、高校生から自転車競技を始める。卒業と同時に渡仏しジュニアクラスで5勝。帰国後は国内に戻りトップ選手の仲間入りを果たす。ハードトレーニングが原因で一時引退するも、12年の休養期間を経て32歳で復活。42歳の際にJプロツアーいわきクリテリウムで優勝を飾って以降も現役を貫いている。国内プロトンでは最も経験豊かな選手の一人。ウォークライド所属。
小室雅成公式サイト
ウォークライド
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。
東京ヴェントス
Punto Ventos
ウェア協力:アソス
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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