2015/07/21(火) - 09:45
世の中にカーボンホイールは数多あれど、アルミスポークとカーボンリムを組み合わせたモデルはついぞ存在しなかった。そのぽっかり空いたポジションに、フルクラムが送りこんできた意欲作が今回紹介するRACING ZERO CARBONだ。前代未聞のユニークな構造をもつ意欲作を編集部で徹底インプレッション。
今回紹介するフルクラム RACING ZERO CARBONは、これまで同社のアルミリムホイールのなかでも頂点に君臨してきた人気作、RACING ZEROのリムをカーボンへと変更した新型クリンチャーホイール。数多くのサイクリストの足元を支えてきた高性能アルミホイールの高い信頼性を受け継ぎつつ、さらなる高みへとその性能を昇華させることを目的として開発された。
ユニディレクショナルカーボンを使ったフルカーボンリムのハイトは前後共に30mmとされ、フロント23mm、リア27mmのアルミモデルからすこしボリュームアップ。リム幅も拡幅されており、24.5mmと近年主流のワイドリムへと進化を遂げた。これらの設計により、アルミリムと遜色ない剛性を確保しつつ、エアロダイナミクスの向上と軽量化を図っている。また、ブレーキ面は3kカーボンを採用し、高い対摩耗性と長期にわたる耐久性を実現した。
この専用のカーボンリムを組み上げるのは、RACING ZEROと同じ極太のアルミスポーク。優れた反応性とパワー伝達効率を持つアルミスポークと軽量なカーボンリムを組み合わせるという、これまでのどのホイールブランドも試みなかった構成こそがこのホイールのユニークな所以である。
堅牢なアルミスポークの実力を更に引き出してくれるのが、後輪に採用される2to1と呼ばれるスポークパターン。フリーボディーによるオフセットのために起こるドライブ側と反ドライブ側のスポークテンションの差を是正するために、ドライブ側を反ドライブ側の2倍のスポークで組むというもの。2to1の採用により、左右のスポークテンションのバランスが整えられ、反応性や耐久性が向上している。
また、MoMagシステムとフルクラムが呼ぶ、ニップルを磁石によってバルブホールからスポークホールへと誘導する技術によってリム外周のスポーク穴を廃した堅牢な構造であることも特徴の一つ。リムテープが要らないので軽量になるという他にも、パンクリスク軽減といったメリットをもたらしてくれる。
ホイールの心臓部ともなるハブはRACING ZEROと共通の新設計品。フロントハブは胴部分が小型化され、より軽量に。リアハブはフリーボディーが従来のスチール製からプラズマ電解酸化処理を施したアルミへと変更され、こちらも重量削減に寄与している。共にカーボンボディにアルミ製フランジを組み合わせた構造で、リアハブのドライブ側フランジはオーバーサイズ化され剛性向上に貢献している。
フルクラムの次なる方向性を打ち出す期待の新作、RACING ZERO CARBON。その実力はどれほどのものなのか、インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション 「一言で表すならば、超がつくほどの優等生」
長い間、カーボンホイールにアルミスポークモデルが無いことを疑問に思っていた。RACING ZEROをはじめとしたアルミスポークホイールのユーザーであれば、特有の切れ味鋭い反応性や、強い横Gのかかるコーナーでもビクともしない剛性感の魅力をカーボンホイールでも味わいたいという気持ちは持ったことがあるだろう。
一部のハイエンドホイールに採用される、カーボンスポークモデルはそういった感覚を実現してくれているものもあるが、いかんせん価格が高いし、扱いにも気を配る必要がある。しびれるような加速感が味わいたい人にとって、軽量なカーボンリムのアルミスポークモデルというのは、夢のような存在であったともいえる。
そんなユーザーの夢をフルクラムが聞き届けたのがRACING ZERO CARBON。しかし、これまでに無かった組み合わせというものは、何かしらの理由があるものなのではないか?という疑問もまた必然的に生まれてくる。それは製造上の理由なのか、性能上の理由なのか。
ただ、どちらであっても、このように実際のプロダクトとして目の前に出てきた以上、それらの問題はクリアされていると見るべきなのだろう。しかも、ぽっと出の新興メーカーではなく、主要ホイールブランドの一つであるフルクラムが満を持してリリースしているのだ。乗ってみれば、おのずと答えは出るはずだ。そう考え、インプレライドに繰り出した。
今回は、距離140km獲得標高2,000mのロングライドや富士ヒルクライムでテストを行った。登りから下りまで、ありとあらゆるシチュエーションで徹底的に乗りこみ、RACING ZERO CARBONの性能を思う存分に堪能した。その中で見えてきたRACING ZERO CARBONの性能を一言で表すならば超がつくほどの優等生。登り、下り、平地巡航、ブレーキング、快適性……。どの教科もトップレベルでこなす秀才型のホイールだ。
ノーマルモデルのRACING ZEROから想像出来るような剛性感と、カーボンリムの採用によって更なる軽量化を果たしたことによる暴力的な加速性能を想像していたら、意外にしっとりとした踏み出しで少し肩すかしを食らった気分になる。しかし、けしてパワーをロスしているというわけではなく、踏み込むのに合わせてスルスルとリニアに加速していく。
実際、スチールスポークホイールの様な「タメる感覚」はほとんどない。ペダルを踏んでから、ホイールが回り、バイクが進む、それぞれの動作のタイムラグの無い感覚は、まるでピストバイクのようなダイレクトな踏み心地。それでいて、ゴツゴツとした突き上げも無く、荒れた路面でも跳ねることなくスムーズに進んでいくのは、太めのタイヤに最適化された幅広のカーボンリムのおかげだろう。
今回のテストで組み合わせたタイヤは、シュワルベ ONEの25c。エアボリュームを稼げる太めのタイヤと組み合わせることによって、従来のRACING ZEROのウィークポイントであった快適性も確保されている。もちろんタイヤ自体の効果も大きいが、カーボンリムによる振動吸収効果も相応にあるのだろうと感じられた。
ダイレクトな踏み心地と高い快適性という、相反する性能を高次元でバランスしているため、路面が荒れがちな峠道でのヒルクライムではかなり大きなアドバンテージをライダーにもたらしてくれるだろう。そして、もう一つRACING ZERO CARBONを語る上で外せない美点が、ブレーキング性能だ。
ここ最近のカーボンホイールはどれもブレーキング性能が上がっており、アルミリムとそん色のない制動力を発揮するモデルも数多く出てきている。しかしその中でも、群を抜いて優れた制動力をこのホイールは持っている。エグザリットをはじめとしたPEO処理系のアルミホイールを除くと、現在市場にあるホイールのなかでRACING ZERO CARBONより優れた制動力を持つホイールを挙げることは難しい。
ブレーキに関して付け加えると、富士ヒルクライムの下りにて、連続してブレーキをかけながら下るような、カーボンクリンチャーがもっとも苦手とするシチュエーションにおいても、トラブルは全く起きなかった。このことからも、高い耐熱性と耐久性を持つことが窺える。
優れたブレーキ性能と、アルミスポークホイール特有の剛性感、ワイドリムと太めのタイヤによるグリップ力によって、下りのコーナーリングも余裕を持ってクリアできる。まるで自分が突然うまくなったかのような感覚を味あわせてくれるはずだ。
ミドルハイトのリムでもあるため、ある程度の空力性能も持っている。オリジナルモデルであるRACING ZEROに比べると、高速域でのもうひと伸びする感覚がある一方、横風に対しても強いので、ハンドリングに気を使うことも少ない。
ここまでべた褒めしてきたが、ただ一つ難点を挙げるとしたら、欠点らしい欠点が見当たらないこと。超軽量クライミングホイールでもなければ、風を切り裂くスーパーディープでもないこのホイールは、それらのホイールの持つ苦手なシチュエーションが無い代わりに、得意とするシチュエーションでは一歩、いや1/4歩くらい敵わない。そういった、はっきりと走るフィールドのイメージがあり、そこに特化したホイールを欲している人にとっては、全方位に優等生なこのホイールはあまり魅力的で無いかもしれない。
とはいえ、大多数のサイクリストは山も走れば、河川敷の平地も走るし、山がちなこの国においては長い距離を走ればめまぐるしく環境は変わるもの。リニアな加速感を高い快適性で包み込み、登りも下りも平坦も、レースでもツーリングでもこれ一本あれば事足りる。RACING ZERO CARBONはそう自信を持ってお勧めできる、ハイエンドバーサタイルホイールだ。一度履いてしまえば、手持ちのホイールを押し入れに入れることになってしまいそうなことだけが、問題といえば問題かもしれない。
フルクラム RACING ZERO CARBON(クリンチャー)
リム素材:ユニディレクショナルカーボン、ブレーキ面3Kカーボン
リムハイト:30mm
スポーク:ストレートプル エアロタイプ アルミ製
スポーキング:F16本/R左7本-右14本(Two-to-One)
ハブ:カーボン製ボディ、アルミ製フランジ、USBベアリング
カセット:シマノ用(プラズマ電解酸化処理FWボディ)、カンパ用
ニップル:アルミ製
実測重量:F582g/R771g
価 格:260,000円(税抜)
impression&text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO, Yuya.Yamamoto
今回紹介するフルクラム RACING ZERO CARBONは、これまで同社のアルミリムホイールのなかでも頂点に君臨してきた人気作、RACING ZEROのリムをカーボンへと変更した新型クリンチャーホイール。数多くのサイクリストの足元を支えてきた高性能アルミホイールの高い信頼性を受け継ぎつつ、さらなる高みへとその性能を昇華させることを目的として開発された。
ユニディレクショナルカーボンを使ったフルカーボンリムのハイトは前後共に30mmとされ、フロント23mm、リア27mmのアルミモデルからすこしボリュームアップ。リム幅も拡幅されており、24.5mmと近年主流のワイドリムへと進化を遂げた。これらの設計により、アルミリムと遜色ない剛性を確保しつつ、エアロダイナミクスの向上と軽量化を図っている。また、ブレーキ面は3kカーボンを採用し、高い対摩耗性と長期にわたる耐久性を実現した。
この専用のカーボンリムを組み上げるのは、RACING ZEROと同じ極太のアルミスポーク。優れた反応性とパワー伝達効率を持つアルミスポークと軽量なカーボンリムを組み合わせるという、これまでのどのホイールブランドも試みなかった構成こそがこのホイールのユニークな所以である。
堅牢なアルミスポークの実力を更に引き出してくれるのが、後輪に採用される2to1と呼ばれるスポークパターン。フリーボディーによるオフセットのために起こるドライブ側と反ドライブ側のスポークテンションの差を是正するために、ドライブ側を反ドライブ側の2倍のスポークで組むというもの。2to1の採用により、左右のスポークテンションのバランスが整えられ、反応性や耐久性が向上している。
また、MoMagシステムとフルクラムが呼ぶ、ニップルを磁石によってバルブホールからスポークホールへと誘導する技術によってリム外周のスポーク穴を廃した堅牢な構造であることも特徴の一つ。リムテープが要らないので軽量になるという他にも、パンクリスク軽減といったメリットをもたらしてくれる。
ホイールの心臓部ともなるハブはRACING ZEROと共通の新設計品。フロントハブは胴部分が小型化され、より軽量に。リアハブはフリーボディーが従来のスチール製からプラズマ電解酸化処理を施したアルミへと変更され、こちらも重量削減に寄与している。共にカーボンボディにアルミ製フランジを組み合わせた構造で、リアハブのドライブ側フランジはオーバーサイズ化され剛性向上に貢献している。
フルクラムの次なる方向性を打ち出す期待の新作、RACING ZERO CARBON。その実力はどれほどのものなのか、インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション 「一言で表すならば、超がつくほどの優等生」
長い間、カーボンホイールにアルミスポークモデルが無いことを疑問に思っていた。RACING ZEROをはじめとしたアルミスポークホイールのユーザーであれば、特有の切れ味鋭い反応性や、強い横Gのかかるコーナーでもビクともしない剛性感の魅力をカーボンホイールでも味わいたいという気持ちは持ったことがあるだろう。
一部のハイエンドホイールに採用される、カーボンスポークモデルはそういった感覚を実現してくれているものもあるが、いかんせん価格が高いし、扱いにも気を配る必要がある。しびれるような加速感が味わいたい人にとって、軽量なカーボンリムのアルミスポークモデルというのは、夢のような存在であったともいえる。
そんなユーザーの夢をフルクラムが聞き届けたのがRACING ZERO CARBON。しかし、これまでに無かった組み合わせというものは、何かしらの理由があるものなのではないか?という疑問もまた必然的に生まれてくる。それは製造上の理由なのか、性能上の理由なのか。
ただ、どちらであっても、このように実際のプロダクトとして目の前に出てきた以上、それらの問題はクリアされていると見るべきなのだろう。しかも、ぽっと出の新興メーカーではなく、主要ホイールブランドの一つであるフルクラムが満を持してリリースしているのだ。乗ってみれば、おのずと答えは出るはずだ。そう考え、インプレライドに繰り出した。
今回は、距離140km獲得標高2,000mのロングライドや富士ヒルクライムでテストを行った。登りから下りまで、ありとあらゆるシチュエーションで徹底的に乗りこみ、RACING ZERO CARBONの性能を思う存分に堪能した。その中で見えてきたRACING ZERO CARBONの性能を一言で表すならば超がつくほどの優等生。登り、下り、平地巡航、ブレーキング、快適性……。どの教科もトップレベルでこなす秀才型のホイールだ。
ノーマルモデルのRACING ZEROから想像出来るような剛性感と、カーボンリムの採用によって更なる軽量化を果たしたことによる暴力的な加速性能を想像していたら、意外にしっとりとした踏み出しで少し肩すかしを食らった気分になる。しかし、けしてパワーをロスしているというわけではなく、踏み込むのに合わせてスルスルとリニアに加速していく。
実際、スチールスポークホイールの様な「タメる感覚」はほとんどない。ペダルを踏んでから、ホイールが回り、バイクが進む、それぞれの動作のタイムラグの無い感覚は、まるでピストバイクのようなダイレクトな踏み心地。それでいて、ゴツゴツとした突き上げも無く、荒れた路面でも跳ねることなくスムーズに進んでいくのは、太めのタイヤに最適化された幅広のカーボンリムのおかげだろう。
今回のテストで組み合わせたタイヤは、シュワルベ ONEの25c。エアボリュームを稼げる太めのタイヤと組み合わせることによって、従来のRACING ZEROのウィークポイントであった快適性も確保されている。もちろんタイヤ自体の効果も大きいが、カーボンリムによる振動吸収効果も相応にあるのだろうと感じられた。
ダイレクトな踏み心地と高い快適性という、相反する性能を高次元でバランスしているため、路面が荒れがちな峠道でのヒルクライムではかなり大きなアドバンテージをライダーにもたらしてくれるだろう。そして、もう一つRACING ZERO CARBONを語る上で外せない美点が、ブレーキング性能だ。
ここ最近のカーボンホイールはどれもブレーキング性能が上がっており、アルミリムとそん色のない制動力を発揮するモデルも数多く出てきている。しかしその中でも、群を抜いて優れた制動力をこのホイールは持っている。エグザリットをはじめとしたPEO処理系のアルミホイールを除くと、現在市場にあるホイールのなかでRACING ZERO CARBONより優れた制動力を持つホイールを挙げることは難しい。
ブレーキに関して付け加えると、富士ヒルクライムの下りにて、連続してブレーキをかけながら下るような、カーボンクリンチャーがもっとも苦手とするシチュエーションにおいても、トラブルは全く起きなかった。このことからも、高い耐熱性と耐久性を持つことが窺える。
優れたブレーキ性能と、アルミスポークホイール特有の剛性感、ワイドリムと太めのタイヤによるグリップ力によって、下りのコーナーリングも余裕を持ってクリアできる。まるで自分が突然うまくなったかのような感覚を味あわせてくれるはずだ。
ミドルハイトのリムでもあるため、ある程度の空力性能も持っている。オリジナルモデルであるRACING ZEROに比べると、高速域でのもうひと伸びする感覚がある一方、横風に対しても強いので、ハンドリングに気を使うことも少ない。
ここまでべた褒めしてきたが、ただ一つ難点を挙げるとしたら、欠点らしい欠点が見当たらないこと。超軽量クライミングホイールでもなければ、風を切り裂くスーパーディープでもないこのホイールは、それらのホイールの持つ苦手なシチュエーションが無い代わりに、得意とするシチュエーションでは一歩、いや1/4歩くらい敵わない。そういった、はっきりと走るフィールドのイメージがあり、そこに特化したホイールを欲している人にとっては、全方位に優等生なこのホイールはあまり魅力的で無いかもしれない。
とはいえ、大多数のサイクリストは山も走れば、河川敷の平地も走るし、山がちなこの国においては長い距離を走ればめまぐるしく環境は変わるもの。リニアな加速感を高い快適性で包み込み、登りも下りも平坦も、レースでもツーリングでもこれ一本あれば事足りる。RACING ZERO CARBONはそう自信を持ってお勧めできる、ハイエンドバーサタイルホイールだ。一度履いてしまえば、手持ちのホイールを押し入れに入れることになってしまいそうなことだけが、問題といえば問題かもしれない。
フルクラム RACING ZERO CARBON(クリンチャー)
リム素材:ユニディレクショナルカーボン、ブレーキ面3Kカーボン
リムハイト:30mm
スポーク:ストレートプル エアロタイプ アルミ製
スポーキング:F16本/R左7本-右14本(Two-to-One)
ハブ:カーボン製ボディ、アルミ製フランジ、USBベアリング
カセット:シマノ用(プラズマ電解酸化処理FWボディ)、カンパ用
ニップル:アルミ製
実測重量:F582g/R771g
価 格:260,000円(税抜)
impression&text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANO, Yuya.Yamamoto
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