迫り来る集団を振り切って、4人が最終ストレートでスプリントバトル。タイム差0秒の逃げ切り勝利を飾ったのは、バジェットフォークリフツに所属するアデレード出身のジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)だった。



ワイン畑を抜けるプロトンワイン畑を抜けるプロトン photo:Kei Tsuji
引退記念のカスタムカラーが施されたSLR01を使うカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)引退記念のカスタムカラーが施されたSLR01を使うカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsujiマキュアンのインタビューを受けるハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)マキュアンのインタビューを受けるハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング) photo:Kei Tsuji
チームスカイが牽引するメイン集団チームスカイが牽引するメイン集団 photo:Kei Tsuji


リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)らが集団先頭を固めるリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)らが集団先頭を固める photo:Kei Tsuji夏らしい太陽を分厚い雲が遮り、空から落ち始めた雨粒に眉をひそめながら選手たちがスタートの準備を整える。ワインの産地として世界的に知られるアデレード北部のバロッサバレーのタヌンダでツアー・ダウンアンダーが開幕した。

力強く逃げグループを牽引するルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)力強く逃げグループを牽引するルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji雨は選手やチームスタッフにとっては厄介な存在だが、地元市民にとっては恵みの雨。からっからに乾燥した丘陵地帯では自然発火によるブッシュファイヤー(山火事)が発生し、第1ステージの通過地域も1月2日〜9日にかけて大規模な火災に見舞われた。

幸い雨は本降りにならず、概ね曇り空の下でレースは展開。スタートしてまもなく、ボブリッジ、ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)、リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)、マキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)の4人が飛び出すと、メイン集団はあっさりと先行を許した。

延々とワイン畑が続く丘陵地帯を抜け、黒く焼け焦げた幹と茶色く枯れた葉の樹々の中を逃げグループが進む。チームスカイやジャイアント・アルペシン、BMCレーシングが先頭を固めるメイン集団とのタイム差は3分まで広がったものの、レース中盤に差し掛かる頃には1分を切った。



緩やかなアップダウンをこなすルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)緩やかなアップダウンをこなすルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji記念バイクに乗るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)記念バイクに乗るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji曇り空のアデレード北部を行く逃げグループ曇り空のアデレード北部を行く逃げグループ photo:Kei Tsuji
ブッシュファイヤーによって焼けた丘を行くブッシュファイヤーによって焼けた丘を行く photo:Kei Tsuji


ブッシュファイヤーによって焼けた丘を行くブッシュファイヤーによって焼けた丘を行く photo:Kei Tsuji残り28km地点に位置するこの日唯一のKOM(カテゴリー山岳)チェッカーヒル通過時点でタイム差は40秒。平坦な直線コースであれば十分に逃げを捕まえることが出来るタイム差だが、フィニッシュ地点キャンベルタウンに向かう高速ダウンヒルとワインディングが逃げに味方した。さらにオーストラリアを代表する2人のTTスペシャリストの存在が集団の計算を狂わせた。

最終ストレートで先行するジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)最終ストレートで先行するジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji残り10kmの時点でタイム差は22秒。スプリンターチームが隊列を組んだもののメイン集団のスピードは上がりきらない。一瞬の躊躇と牽制が失敗に繋がる際どい逃げ切りが決まり、4人の中でのアタックとスプリントが始まった。

ダウンアンダー初勝利を飾ったジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)ダウンアンダー初勝利を飾ったジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsujiベルコフのアタックは決まらず、タイミングを見計らったボブリッジが落ち着いて最終ストレートでスプリントを開始。トラックレースで培ったスプリント力は圧倒的だった。

アワーレコードに向けて調整中のジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)の脚アワーレコードに向けて調整中のジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)の脚 photo:Kei Tsuji何度も何度も拳を突き上げるボブリッジを先頭にヴェストラ、ダーブリッジ、ベルコフの順でフィニッシュ。マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)が「まだ21歳なのに素晴らしいスピードの持ち主。山も登れるので注目しておいて損はない」と太鼓判を押すニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、ランプレ・メリダ)がタイム差なしの集団先頭(5位)でフィニッシュしている。

「これまでのダウンアンダーではアグレッシブに走ることを心がけていたので、ステージ優勝に絡む走りが出来ていなかった。今こうしてステージ優勝を飾り、明日はリーダージャージを着てスタートする。もう言葉もないよ。何て言ったらいいのか分からない」。地元アデレードでステージ初優勝とリーダージャージ着用を果たしたボブリッジは言葉を詰まらせた。

ボブリッジは2009年ツアー・オブ・ジャパンの第4ステージ南信州第6ステージ伊豆で勝利。総合7位でレースを終え、翌年ガーミン・スリップストリームでプロデビューした。

ロードレースとトラックレースを両立するスピードマンとして活躍し、トラック世界選手権では団体追い抜きと個人追い抜きで合計3つの金メダルを獲得。2011年2月2日には個人追い抜きで4分10秒534のワールドレコードを樹立している。

2016年のリオ五輪トラックレースに集中するため、今季ベルキンからUCIコンチネンタルチームのバジェットフォークリフツに移籍。オーストラリア選手権タイムトライアルで3位に入っている。ツアー・ダウンアンダー終了後、2015年1月31日にメルボルンのヴェロドロームでアワーレコードに挑戦する予定だ。

ボブリッジがポイント賞と山岳賞、ダーブリッジがヤングライダー賞を獲得し、表彰台に登る選手が全員オーストラリア人という結果に。並みいるUCIワールドチームを抑えてUniSAオーストラリアがチーム総合成績トップに立っている。



総合首位で地元レースをスタートさせたジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)総合首位で地元レースをスタートさせたジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア) photo:Kei Tsuji


ツアー・ダウンアンダー2015第1ステージ結果
1位 ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)   2h59’44”
2位 リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)
3位 ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
4位 マキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)
5位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、ランプレ・メリダ)
6位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)
7位 フアンホセ・ロバト(スペイン、モビスター)
8位 ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
9位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)
10位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)

個人総合成績
1位 ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)   2h59’31”
2位 リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)               +04”
3位 ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)     +06”
4位 マキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)               +10”
5位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、ランプレ・メリダ)        +13”
6位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)
7位 フアンホセ・ロバト(スペイン、モビスター)
8位 ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)
9位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)
10位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)

ポイント賞
ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

山岳賞
ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

ヤングライダー賞
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

チーム総合成績
UniSAオーストラリア

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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