2級山岳で縮小したメイン集団から、タイミングを見計らって鉄人がアタック。ブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージの残り5kmを独走したアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)が、鮮やかな逃げ切りで自身初のステージ優勝を手にした。



曇り空のオーシャンロードを行く曇り空のオーシャンロードを行く photo:Tim de Waele


ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第19ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2014第19ステージ image:Unipublicポルトガル国境に面したサルバテーラ・デ・ミーニョから内陸を走り、昨年第2ステージのフィニッシュ地点が置かれた2級山岳モンテ・ダ・グローバを逆側から登る。海風が吹き付けるオーシャンロードを北上し、リアス式の湾をグルリと回ってフィニッシュに向かう。

逃げグループを率いるワウテル・ポエルス(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)逃げグループを率いるワウテル・ポエルス(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Tim de Waele勝負の鍵を握るのは残り15km地点に位置する2級山岳モンテファロだ。5km足らずで高低差400mを駆け上がる急勾配の登りでピュアスプリンターたちが勝負に残るか否かにステージ優勝の行方は懸かっている。その答えは「デゲンコルブやマシューズは残る」だったが、スプリントに持ち込めるかどうかはまた別問題だった。

沿道から黄色い声援が飛ぶ沿道から黄色い声援が飛ぶ photo:Unipublicレース序盤にハンセンを含む4名の逃げが形成されたが、メイン集団からGOサインを得ることが出来ずに吸収。続いて25km地点でピム・リヒハルト(オランダ、ロット・ベリソル)、ワウテル・ポエルス(オランダ、オメガファーマ・クイックステップ)、ローラン・マンジェル(フランス、FDJ.fr)の3名が飛び出すとようやくメイン集団はペースを弱めた。

脚の揃った3名が先頭でローテーションを組んだものの、この日はメイン集団が隙を与えなかった。オリカ・グリーンエッジとジャイアント・シマノの連合軍が集団先頭に陣取り、エスケープトリオとのタイム差を3分に押さえ込む。

レース後半に入っても状況は変わらず、総合狙いのティンコフ・サクソやチームスカイがポジショニングのため前に上がると更にメイン集団のペースは上がる。階段を転げ落ちるようにタイム差は縮まり、2級山岳モンテファロ突入寸前の残り21km地点で逃げは吸収された。

登りに入ってざわつくメイン集団から急勾配区間でアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)がアタック。元U23世界チャンピオンは軽いペダリングでメイン集団を引き離しにかかる。メイン集団の先頭ではチームスカイが隊列(ケノー、シウトソウ、ダイグナン、フルーム)を組み、淡々とハイペースで登りを進んだ。



ジャイアント・シマノがメイン集団をコントロールするジャイアント・シマノがメイン集団をコントロールする photo:Unipublic登りで飛び出したアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)登りで飛び出したアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ) photo:Tim de Waele
集団前方で登りをこなすポイント賞ジャージのジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)集団前方で登りをこなすポイント賞ジャージのジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ) photo:Tim de Waele


メイン集団をリードするフィリップ・ダイグナン(アイルランド、チームスカイ)メイン集団をリードするフィリップ・ダイグナン(アイルランド、チームスカイ) photo:Unipublicメイン集団から飛び出す選手が現れないまま、ポイント賞ジャージのジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)が集団内にポジションを守ったまま、そして先頭ルトセンコが10秒ほどのリードを守ったまま2級山岳モンテファロの登坂が終了する。

危険なダウンヒルをこなすアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)危険なダウンヒルをこなすアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Unipublic再びオーシャンロードに向かうテクニカルな下りで総合7位サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)がアタックするシーンも見られたが、ダウンヒルスペシャリストの力をもってしても先頭ルトセンコには届かず。この危険な下りでマイヨロホのすぐ前を走るダリオ・カタルド(イタリア、チームスカイ)が激しく落車するなど、メイン集団は緊張感に包まれた(カタルドは13分35秒遅れのステージ155位でフィニッシュ)。

残り5kmから独走に持ち込んだアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)残り5kmから独走に持ち込んだアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:Tim de Waele先頭ルトセンコは20秒リードでフィニッシュまでの平坦路に差し掛かったが、ジャイアント・シマノの捨て身の牽引によってリードは削られる。ほぼリードアウト要員を使い果たすジャイアント・シマノの勢いによって先頭ルトセンコは残り5kmで吸収。そこから始まる緩い登りで鉄人が動いた。

独走でフィニッシュするアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)独走でフィニッシュするアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:Unipublicスプリンターチームの統率力が弱まった状態でハンセンがアタック。慌てて追撃人員を確認するスプリンターチームを尻目に、幅狭ハンドルのハンセンが一気にリードを稼ぎ出す。上手く追撃体制を築けないメイン集団を10秒引き離し、ハンセンが残り1kmアーチを駆け抜けた。

後方から迫り来る55名の集団を振り切って、ダブルVサインのハンセンが独走フィニッシュ。2013年ジロ・デ・イタリアに続く自身2度目のグランツール勝利を得意の逃げで果たした。

「スプリンターチームのアシスト力が弱まっていることを察してアタックした。独走に持ち込めば、きっとリードアウトマンたちに捕まることはないと思っていたよ。予定より早いアタックだったけど、大丈夫だと自分に言い聞かせて逃げた。そうしてこのサプライズを手にすることが出来たんだ」と、6度目のブエルタで初優勝を飾ったハンセンは語る。

ハンセンは2011年ブエルタから毎年欠かさず全てのグランツールに出場しており、現在10連続グランツール出場&完走中。ジロとブエルタでステージ優勝を果たした今、残すはツールでのステージ優勝のみとなった。

ハンセンのダブルVサインの5秒後、メイン集団はデゲンコルブを先頭にフィニッシュした。デゲンコルブはステージ優勝を逃したものの、ポイント賞争いにおける貴重な20ポイントを獲得。デゲンコルブは閉幕まで2ステージを残してポイント賞ジャージ獲得をほぼ確実なものに(仮にバルベルデが第20ステージで優勝し、第21ステージで3位に入れば逆転は可能)。

第19ステージを終えて総合1位アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)と総合2位クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の総合タイム差は1分19秒のまま。絶対的王者を欠く接戦のブエルタはいよいよ佳境に差し掛かる。翌日は超級山岳アンカレス峠の山頂フィニッシュだ。

選手コメントはレース公式リリースより。



喜びを爆発させるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)喜びを爆発させるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル) photo:Unipublic



ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第19ステージ結果
1位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)
2位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
3位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)
4位 ヤニック・マルティネス(フランス、ユーロップカー)
5位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
6位 ジョフレ・スープ(フランス、FDJ.fr)
7位 ポール・マルテンス(ドイツ、ベルキン)
8位 ヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレックファクトリーレーシング)
9位 ロメン・アルディ(フランス、コフィディス)
10位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、キャノンデール)
4h21'58"
+05"









マイヨロホ(個人総合成績)
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
5位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
6位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)
7位 サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)
8位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・シマノ)
9位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)
10位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、キャノンデール)
76h00'40"
+1'19"
+1'32"
+2'29"
+3'15"
+6'52"
+6'59"
+9'12"
+9'44"
+9'45"


マイヨプントス(ポイント賞)
1位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)
169pts
130pts
120pts


マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、カハルーラル)
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)
58pts
30pts
24pts


マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
7pts
7pts
14pts


チーム総合成績
1位 カチューシャ
2位 モビスター
3位 ティンコフ・サクソ
228h01'00"
+26'32"
+32'55"


ステージ敢闘賞
ピム・リヒハルト(オランダ、ロット・ベリソル)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele

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